悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第二十二話

 フィーナとアリアたちから離れ、俺はこちらを見ているシル婆の元へ向かうと、彼女は微笑みを見せてくる。

 

「これで満足か?」

「ええ。本当にありがとうねリオン君。まさかあそこまでやってくれるとは思わなかったわ」

「別に、貴様のためにやったわけではない」

 

 たしかに彼女にはエルフたちを助けて欲しいと頼まれていた。

 

 だが別に、この老婆に義理などないので無視しても良かったのだ。

 やって来たのがクヴァール教団だったので丁度良かっただけで、本当は適当に追い払う程度で終わらせるつもりだった。

 

「ふふふ、まあそういうことにしておきましょうか」

「こちらを見透かしたような笑い方は止めろ。不愉快だ」

 

 俺が睨むとシル婆はより笑みを濃くする。

 暖簾に腕押しというか、まったく食えない婆だ。

 

「そんなことより貴様、礼の話は覚えているだろうな」

「もちろんよ。私の子どもたちを助けてくれたんだから、出来る限りのお礼はさせてもらうわね。でも、その前に……」

 

 これまで笑っていた表情から一転、シル婆は真剣な瞳となる。

 

「出来れば、これまで攫われた子どもたちも救って欲しいのだけれど」

「おい――」

 

 俺は殺気を込めてシル婆を睨む。

 今度は先ほどまでのじゃれ合いとは違い、本気の睨みだ。

 

「貴様、舐めているのか? 私は試されるのが嫌いだ。もっと言うと、約束を破る者を許す気はないぞ?」

「……もちろん、それに見合ったお礼はさせてもらうわ。それに別に里を守ってくれたお礼も別でする。だけどそれだけじゃ、この里の子たちが本当の意味で笑えないから……」

 

 しばらくの間、俺はシル婆を睨み続ける。

 先日襲い掛かってきたクヴァール教団の黒狼程度であれば、戦意を喪失して気絶してしまうだろうそれを受けて、それでも彼女は顔色一つ変えない。

 

 それは決して彼女が黒狼たちよりもずっとレベルの高い存在だから、というだけではない。

 己の信念を盾に、心を強く在り続けてきたからこその強さ。

 

「ふん……話してみろ」

「ありがとう」

 

 俺が殺気を止めたことでホッとした様子を見せながら、シル婆はそっと視線をアリアに向けた。

 

「彼女たちみたいに攫われたエルフたちは多いわ。前はただ人間に攫われて、奴隷として売られるだけだったけど……」

「最近は違うと?」

「ええ。どうやらなにか目的があるようで、一ヵ所に集められているらしいの」

 

 確信を持った話し方に、これは……。

 

「貴様、それがどこかも分かっているな?」

「ええ。私には、エルフの子どもたちがいる場所がわかるから」

 

 それは、どう考えても一介のエルフが持てる力ではない。

 まあそもそも、シル婆の正体がエルフだなどと、最初から欠片も思っていないが。

 

「そこを襲撃して、残りのエルフたちを助ければいいのだな?」

「もちろんそれが難しいのは分かっているわ。昨夜襲ってきた連中の本拠地である以上、その数はずっと多いはず」

 

 場所がわかっていても、助けに行けないのはそれが理由だろう。

 

 たしかにエルフたちの戦闘能力は高いが、クヴァール教団の根城を襲撃するには人数も、そして絶対的な力を持つ者も足りない。

 

 仮にこの情報を知って襲撃をかければ、返り討ちに合って全員が捕まってしまうだけだ。

 

 だからこそ俺に頼んでいるのだろうが……この老婆、やはり俺のことを舐めていると思う。

 

「貴様……昨夜の様子を見ていたな?」

「そんなに睨まなくてもいいじゃない。貴方のことが心配だったのだもの」

「心配など無意味なことくらいわかっていただろう。しかし……この私に気付かれずにか」

 

 イザークと名乗ったクヴァール教団の大司教。やつが隠れていたことにも気付いた俺だが、シル婆の気配は全く気付かなかった。

 

 本当に、こいつは何者だ?

 少なくとも敵対する気はないらしいのと、なにかしらの誓約を受けているようだが……。

 

「森で私のわからないことはないわ」

「だったらその力でエルフたちを助ければいい」

「昨日も言ったでしょ? それは『ルール違反』なの」

「そうか……」

 

 それだけの力と誓約を受ける存在など、この世界では限られている。

 それこそ古に神々の時代に存在していた――。

 

「だから、私の正体を考えるのは禁止だってば」

「……まあいい。さっさとエルフたちが捕まっている場所を教えろ」

「助けに行ってくれるの?」

「ふん……今の私は冒険者だからな」

「どういうこと……?」

 

 どういうこともなにもない。

 この世界の冒険者は与えられたクエストを達成させていくものだ。

 

 草むしりや動物の散歩を続け、その功績を認められた俺は今や、Fランクから脱却してEランクの冒険者となっていた。

 

つまり、Fランクでは受けられないクエストの受注も出来るというわけだ。

 

クヴァール教団の本拠地を襲撃?

その依頼は、Eランクのクエスト扱いで十分。

 

「く、くくく……あの害虫どもが慌てる姿が目に浮かぶというものだ」

「ずいぶんと気合が入ってるわね」

「当たり前だ。与えられたクエストは完璧にこなす。それが冒険者のやることだからな」

 

 何度も言うが、今の俺はもうFランクではない。

 世間的には見習いから脱却し、一端の冒険者を名乗っていい頃合いだ。

 

「報酬はたっぷり弾んでもらうぞ?」

「もちろん。あ、その前に昨日の分の報酬を渡さないとだけど……私のキスでいいかしら?」

「地獄に落とされたいなら好きにしろ」

「その言い方は女性に失礼じゃないかしら?」

 

 冗談に付き合ってやっただけでも感謝して欲しい。

 

「まあそうね。それじゃあこれでどう?」

 

 シル婆が軽く指を振るう。

 普通ならなにをしているのかわからないことだろうが、魔力の揺らぎを感じ取れる俺はそのあまりに純度の高い魔力に驚いた。

 

 その魔力はまるで踊るように俺の周囲に漂い、そして吸収されるように消えていく。

 

「これは……貴様……」

「ふふふ。そうね、世界樹の祝福、とでも言っておきましょうか」

 

 端から見ればなにも変わらないし、実際に変化が起きたわけではない。

 だがしかし、目に見えるものがすべてではないことを俺は知っていた。

 

「あと、これもね」

「む……」

 

 さらに指を振るうと、今度は柔らかな風が俺の周囲を渦巻く。

 それらは意思があるように踊り、そして自然の脳裏にある光景が浮かんできた。

 

「ここか……」

「ええ。お願い」

 

 見覚えのない場所だが、どこにあるのか詳細にわかる。

 俺の知識にはない魔術に、思わず感心してしまった。

 

「珍しいものを見させてもらったな。ひとまず、これで満足しておいてやろう」

「ふふ、ありがとう。もちろん、他のエルフたちを助けてくれたら、もっと凄いのあげるから」

 

 そう微笑みながら、シル婆の姿が不意に消える。

 

 昨日の俺のように気配を消したのではなく、本当にその場から完全に消えていた。

 

「あ、リオン様!」

「もうリオン君、どこ行ってたのさ!」

 

 それと同時に二人がやって来る。

 どうやら彼女たちには俺やシル婆の姿が見えていなかったらしい。

 

「……ふん、やはり食えない老婆だ」

 

 この世界のことは前世の知識でなんでも知っているつもりだったが、どうやら甘かったらしい。

 まだまだ未知の力、知識があると思うと、少しだけこれから先の未来が楽しくなってきた。

 

「まあまずは、害虫駆除とクエスト達成をしなければな」

「どうされました?」

 

 俺の態度が気になったのか、フィーナが不思議そうな顔をする。

 そういえば、今は彼女ともパーティーを組んでいるところだ。

 

 特にリーダーなどは定めていない以上、勝手にクエストを受けてしまったのは良くなかった気がする。

 

「フィーナ、もし私が攫われたエルフを助けると言ったら、どうする?」

「それはもちろん、付いて行きますよ」

「そうか」

 

 エルフと人間の溝は大きい。それこそ敵対する種族同士と言ってもいいだろう。

 普通なら人間の味方として、エルフを助けるなんて選択肢は出てこない。

 

 それでも迷いなく言い切る彼女だからこそ、天秤の女神も傍についたのかもしれないな。

 

「なら、いくとしようか。囚われたエルフたちを救出しに」

「はい! どこまでもお供します!」

「リオン君。フィーナ……二人とも、本当に?」

 

 俺たちの言葉に驚き、動揺した様子のアリア。

 彼女からすれば、信じられない思いなのだろう。

 

「ああ、お前の仲間たちは全員、私が連れて帰ってきてやろう」

「アリアさん、待っててくださいね」

「二人とも……うん! 僕、待ってるね!」

 

 そうして俺たちは、まだ寝ているであろうレーヴァを叩き起こして、エルフの里を後にする。

 

 目的地は、クヴァール教団の帝国における本拠地。

 

 今度こそ、俺とやつらの因縁をすべて断ち切って自由になってやる。

 

 そう心に決めながら――。

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