悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第二十三話

 俺は帝都オキニスを出てから今まで、基本的には徒歩か馬車を移動手段としていた。

 

 目的地に向かうだけであれば飛行魔術で移動する方が早いが、それでは趣がないというもの。

 

 せっかく生まかわった憧れのファンタジー世界なのだ。

 ゆっくりと堪能するため、あえて不便な移動方法を取って世界を見て回ろうと思っていたのだが――。

 

「こ、これは凄いですね……」

『はーはっはっは! 我の凄さを身に沁みたかフィーナよ!』

「高くて、景色がどんどん変わって、凄いです!」

「あんまり私から離れるなよ。吹き飛ぶぞ」

「は、はい!」

 

 俺は古代龍の姿に戻ったレーヴァの背に立ち、空を移動していた。

 

 帝国は大陸で最も広い領土をもつ国であるが、この広大な空から見た世界と比べれば、なんとも小さなものか。

 

 こんなものに拘って権力を得ようとする者たちは憐れだなと思いながら、俺は移動で発生する暴風を防ぐようにフィーナの前に立つ。

 

「しかしまさか、まだ帝国内部にクヴァール教団の拠点があるとはな」

 

 原作でシオンをクヴァールへと堕としたオウディ大司教。

 やつの計略をすべて叩き潰し、その背後にいた教団や実働部隊を壊した。

 

 パトロンとなっていた帝国貴族たちは地獄へと叩き落とし、もう教団になにかをする力などないと思っていたが、そんなことはなかったらしい。

 

「ちっ、私の思っていた以上にやつらの闇は深かったということか」

 

 俺はずっと、オウディ大司教が教団のトップだと思っていた。

 しかし先日のイザークの件でそれが違うことに気付く。

 

 所詮オウディも実行部隊の人間でしかなく、組織としてのトップは別に存在するのだ。

 

「『幻想のアルカディア』では語られたことがすべてではないと、分かっていたつもりだったのだが……」

「怖い顔をされていますが、どうされたのですか?」

「いや、なんでもない」

『なんでもないなら、我の背中でそんな濃厚な殺気を出すのは止めてくれ!』

 

 レーヴァの悲鳴を無視しながら、再び思考の海へと沈める。

 

 ゲームでは大司教オウディが主導となって動き続け、破壊神クヴァールが復活を果たすことになった。

 

 結果的に現神と契約した主人公たちが命がけでクヴァール教団、そしてクヴァール本体と戦い、そして勝利する。

 

 その際にオウディは死亡。教団も壊滅し、平和な世の中になるハッピーエンドとなるわけだが……。

 

「あのオウディが『帝国方面の指揮を執るだけ』の存在だったとはな」

 

 あれだけ俺の人生を狂わせようとし、まるで人間の闇を凝縮したような醜悪な男がその程度の存在だったことに、少しだけ思うことがあった。

 

「だがまあ、もはやこの世にいない者のことを考えても仕方がないか……」

 

 この世に生まれたことを後悔するほどの絶望に落としてやったのだから、もう二度と会うことはない。

 もうこれ以上やつのことを考えるのは無意味だろう。

 

 それよりもシル婆に教えられた拠点の方だ。

 

「叩き潰しても叩き潰しても、蛆虫のように湧いてくるやつらだ」

 

 脳裏に直接刻まれたその場所は、帝国でも中心となる貴族の一角が運営する領地。

 

 俺は帝国貴族を一人として信用して来なかったが、その中では比較的マシな方だと認識していた男。

 だったのだが、どうやらそれは間違っていたらしい。

 

「クヴァール教を信仰する者はすべて敵だと宣言してやったというのに……愚か者め」

 

 俺のクヴァール嫌いは有名で、誰もがその名を口にすることすら躊躇われるような状態。

 それでなお、こうして匿うために動いているのだから、帝国への反逆と取ってもいいだろう。

 

 今は帝位を弟に譲っているので、最終的なジャッジはやつに任せなければならない。

 

 しかしこの案件に関して俺が容赦をする気がないことも理解しているだろうから、先に叩き潰しても問題ないだろう。

 

 しばらくして、シル婆の魔力が導く土地に入ったことに気付いた。

 大地を見ると、遠く離れたところに山の中に築かれた要塞のような場所。

 

 そこは、少なくとも俺の指示で作ったものでもなければ、出させていたはずの地図にも載っていない場所。

 

「あそこだな……」

 

 レーヴァの背中を軽く踏んで合図をしてやると、彼女は驚いたように尻尾をピンと立てる。

 

 やや文句がありそうな気配が漂ってきたが、それでも文句を言わないのは俺との力関係を理解しているからだろう。

 

「あ、リオン様。レーヴァさんを虐めたら駄目ですよ」

『もっと言ってやれ!』

「別に虐めてなどいない。ただ降りろと合図をしてやっただけだ」

「あ、それなら仕方ないですね」

『おいフィーナ、騙されるな! そんなの言葉で伝えればいいだけなのだぞ⁉」

 

 味方が増えたおかげか、レーヴァが調子に乗っているのでもう一度足を踏み込んでやる。

 

『ピェ⁉』

「レーヴァ、黙って降りろ」

『わ、分かったから踏み込むのをやめるのだ!』

 

 涙声になりながら、レーヴァは一気に加速してその要塞に近づいていく。

 

 ただ殲滅するだけでよければ上空から魔術を放てばいいのだが、今回の目的はエルフたちを救出すること。

 

 そこをはき違えてはならないと、自分に言い聞かせる。

 

「まあ、結局殲滅することには変わらないがな」

 

 上空から地面に向かうレーヴァの背中から、俺は魔力球を作り出すと、そのまま要塞の壁を打ち抜いていく。

 

 大地では突然の襲撃に慌てふためく兵士たち。

 魔力はもちろん、見たこともないほど凶悪なドラゴンが落ちてくることに絶望した姿も見える。

 

「くくく……さあ、恐れるがいい。我が地に這いずる人非ざる蛆虫どもは、一人残らず潰してやる!」 

 

 涙を流し生きる気力を無くした兵士たちを見下しながら、俺は笑みを浮かべてそう宣言するのであった。

 

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