悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第二十五話

 要塞の奥からどんどん出てくるクヴァール教団の者たち。

 いったいどれほど湧いてくるのだと感心しながら、一人残らず打ち抜いていく。

 

 そうしてゆっくり歩いていると、まるで俺のことを待ち受けるように仁王立ちする男がいた。

 

「貴様かぁ! 我が教団の仲間たちを次々と襲い掛かっている侵入者というのは!」

「おお、グレイロック司教!」

「みんな、司教が来てくれたぞ! これで大丈夫だ!」

「ぬおおおお! 見よ、我の斧捌き!」

 

 二メートルはありそうな大きな身体。両手に持った重量のある斧を自由自在に操る姿は、並みの戦士では不可能なほどに早い。

 

 周囲の教団員たちの反応から、相当信頼を得ているのだろう。

 

 実際、クヴァール教団の司教ともなれば、ゲーム後半で出てくるボスクラスの力を持っている。

 たった一人でパーティーメンバーと戦うのだから、その強さは本物だろう。

 

「お願いします司教! あの蛮族に、我らが神の力を見せつけてやってください!」

「任せておけぇ! 我こそは北方侵攻軍における武の象徴! グレイロック司教であ――」

「邪魔だ」

「る――ひぎぇ」

 

 とはいえ、俺の敵になるレベルではない。

 眉間に一発魔力球を放ってやると、グレイロックと名乗る男はそのまま仰向けで地面に倒れ込んだ。

 

「え……?」

 

 周囲で男を担ぎ上げて騒いでいたクヴァール教団の男たちが、突然の事態に黙り込む。

 

「し、司教……? 冗談ですよね?」

「し、ししし、死んでるぞ? グレイロック司教が、死んでいる⁉」

「そんな⁉ 大魔獣すら一人で屠る人だぞ! こんなの冗談に決まって――あ……」

 

 そんな悲痛の叫び声は、最後まで続かない。

 一人、また一人と地面にパタパタと倒れ、もう二度と喚くことも出来ない死体へと変わっていた。

 

「まあこんなものか」

 

 そうして死体が並ぶ通路を真っすぐ進む。

 

 俺が通ってきた道には、同じようにクヴァール教団の死体がずらりと並んでいた。

 

「リオン様……」

「どうしたフィーナ。辛ければついて来なくてもいいぞ」

「……いえ。最期まで見届けさせて頂きます」

 

 その言葉の意味がどういうものか、俺にはわからなかった。

 

 少なくとも今回、彼女はこの戦いに参加する理由もなければ、背負う理由もない。

 それでも見届けると言うのであれば、そこにはきっとなにかしらの意味があるのだろう。

 

「……まったく、面倒なことだ」

「え?」

「なんでもない。このまま奥まで進むぞ」

 

 俺は前に進みながら、背中から感じる『なにか』に付きまとわれている感覚に苛立ちを感じていた。

 

 正直、このまま進んでクヴァール教団を始末することよりも、後ろに立つフィーナの存在の方がずっと気になって仕方がない。

 

 この『なにか』のことを、俺は忘れているような気がするのだ。

 

「……」

「リオン様?」

「フィーナ、正直に答えろ」

「はい?」

 

 やはり、このままではいけないと直感に従い、俺は彼女と向き合う。

 

 出会ったときから変わらず美しい蒼銀色の髪を腰まで流し、白い法衣を来て無垢な瞳の彼女は決して汚してはならない聖域のような存在。

 

 その中に秘めた強い心はゲームでも主人公たちを導き、そして最期にはその命を燃やしてラスボスであるクヴァールを滅ぼす少女。

 

 そんな彼女が、この惨劇を見てなにも感じないなどということがあるだろうか?

 

「今のお前は――」

 

 問い詰めようとした瞬間、背後から凄まじい魔力が吹き荒れた。

 

「ちぃ!」

「きゃっ⁉」

 

 俺は咄嗟にフィーナの前に立ち、彼女を庇うようにして抱きしめる。

 ほぼ同時に、闇色をした光線が俺たちを巻き込んで要塞の壁をぶち抜き、そのまま天を貫いた。

 

 大量の埃が崩れた要塞の廊下を舞い、俺は視界が悪い中でフィーナが無事なことを確認する。

 

「怪我はないか?」

「は、はい……ですがあの力は……?」

「くくく、はーはっはっは! どうだ侵入者ぁ! これが、破壊神クヴァール様のお力だぁ!」

 

 埃のせいで辺り一帯は見えないが、その先から聞こえてくるのは、しゃがれた老人の声。

 

 どうやらそいつは俺たちが死んだと思っているのか、それとも神の力の一端に触れたからか、気分良く笑っていた。

 

「素晴らしい! 素晴らしいぞぉぉぉ! 腕一本、本来の力の数十分の一に過ぎないはずだというのにこれほどとは……やはり我らはなにも間違っていなかった! 破壊神クヴァールこそ真の神! 現神のようなまがい物たちとは違うのだ!」

「耳障りな声だ」

「ぬ、小癪!」

 

 視界が悪くてもあれだけ声を上げればどこにいるのかなど一目瞭然。

 俺は他の教団員にしたように魔力球を放つが、どうやら防がれたらしい。

 

 俺は軽く風の魔術で辺りの埃を吹き飛ばしてやると、そこにはまるで骸骨のように痩せこけた老人が立っていた。

 

 黒いローブのせいでわかり辛いが、首にかけている黄金の時計はクヴァール教団の幹部だけが身に着けられる物。

 そしてそれは、オウディやイザークたちが持っていた物よりも装飾が施され、より上位の存在であることがわかる。

 

 老人はこちらを睨みながら、油断なく大きな杖を向けてきた。

 その立ち振る舞い一つで戦闘経験が豊富であることがよくわかる。

 

「貴様がこの要塞のトップか?」

「いかにも。侵入者がどのような者かと思えば、貴様のような若造だったとは」

「そちらは蛆虫の大将らしい、汚らしい格好をしているな」

「ふん……最近のガキは口が悪い。年長者を敬うということも知らない者ばかりだ」

 

 挑発には乗らない、ということだろう。

 先ほどまでクヴァールの力に興奮して高笑いをしていた割には中々に冷静だ。

 

「いったいなんの目的で我らを襲う?」

「目的? そんなものは決まっている。クヴァール教団のゴミどもはすべて皆殺しだ」

「り、リオン様。いちおう目的は別にちゃんとあるから……」

 

 エルフの救出のことを言っているのだろうが、それはもはや二の次というもの。

 

 まず第一はクヴァール教団の殲滅。

 そうしなければ、俺はゆっくりこの世界を楽しめないからな。

 

「光の教団の狂信者か……? いや、そちらの女はともかく貴様はどこか違うな」

「気にするな。どうせすぐこの世から消える貴様には関係のない話でしかない」

「ふん……若くして高みに上った者はすぐに世界の中心が己だと勘違いする。イザークも才能はあったがどこか周囲を見下し、超えられない壁に気付いたときに絶望することだろうが……」

 

 俺が魔力球を飛ばす。

 しかしそれは老人から放たれた同じような物で迎撃された。

 

「なるほど……これまでとは一味違うらしい」

「老人の話は最後まで聞くものだ」

「聞く価値のあるものであれば、最後まで聞くとも」

 

 数十の魔力球と風の刃を交えた魔術を連続して飛ばしていく。

 しかしそれは老人の杖から生み出された炎の壁に飲み込まれた。

 

「甘いわぁ!」

「甘いのはそちらだ」

 

 業火の後ろで安心しているのだろうが、その程度の炎は俺すれば蝋燭のようなもの。

 少し風を強く吹き荒せば、そこらに転がっている瓦礫と一緒に炎は吹き飛んでいく。

 

「なにぃ⁉」

「死ね」

 

 手薄になった老人の首目掛けて改めて風の刃を飛ばす。

 不可視のそれは確実にその首を斬り飛ばすと思ったが、どうやら俺が思っている以上に実力を持っているらしく防がれてしまう。

 

「マジックバリアか。やるではないか」

「信じられん。貴様……化物の化身かなにかか?」

 

 老人は呆然とした様子で俺を見る。

 今のやりとりで、俺との実力差を実感したらしい。

 

 まあ化物の化身というのもあながち間違えではないな。

 憎たらしいことに、破壊神の器であるのは間違いない事実ゆえに。

 

「さて……次もその首、繋がっていられると思うなよ」

「くっ! 調子に乗るなよ若造が! 貴様がどれほど才ある存在であっても、絶対に超えられない壁というものを見せてやろう!」

 

 その瞬間、老人は杖の先端に付けられていた黒く枯れた腕をこちらに向ける。

 

「これが、破壊神クヴァールの力だぁぁぁぁぁ!」

 

 集約される黒い魔力は、人間の放てるレベルをはるかに超越した力。

 

 さきほど要塞を吹き飛ばしたその力が、こちらに真っすぐ目掛けて飛んできて、俺を飲み込んだ。

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