悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第二十八話

「……」

 

 真っ黒な肉体に、悪魔のような角と尻尾を生やした人型の怪物――便宜上『悪魔』と呼ぶか。

 感情らしい感情は見て取れないが、俺が敵であることはしっかりと理解しているらしく、じっとこちらを見上げていた。

 

 俺の黄金の瞳と昏い闇の視線が交差する。

 

「……」

「……」

 

 しばらく無言の時が続いていると、不意に悪魔がゆっくりと身体を沈め……

 

「レーヴァ」

「む、なんだ主?」

「そこから離れて、フィーナを守っていろ」

 

 その言葉と同時に、悪魔が凄まじい勢いで上空へと飛び上がって来る。

 俺のように浮遊魔術を使っているわけではなく、純粋な身体能力に任せた動き。

 

「……ふん」

 

 まるで轟雷のような音が空に響く。

 俺のマジックバリアと悪魔がぶつかり合った音だ。

 

「アアァー……」

 

 地面に落ちていく悪魔は、のっぺらぼうたちと同じく感情らしいものはないように、じっとこちらを見てくるだけ。

 生物として重要な機能がそもそも備わっていないのだろう

 

「クヴァールの残滓か……虫唾が走る」

 

 ふとマジックバリアを見ると小さな罅が入っており、その周囲には黒い粘膜のようなものがウネウネと動いていた。

 罅からこちらに侵入してこようとするそれを燃やし、改めて地面で再び飛び上がろうとする悪魔を見る。

 

 悪魔は再び俺に迫ろうと、地面で膝を曲げて力を蓄えていた。

 

 一撃で罅を入れられた感じからすると、次は耐えられないかもしれない。

 

 「だが、それなら近づかせなければいいだけの話だ――『ミーティア』」

 

 俺は無数の魔力球を生み出すと、悪魔に向けて飛ばしていく。

              

 ミーティアは無属性の魔力球を流星群のように降り注ぐだけの魔術。

 

 普通の魔術師であれば大した威力を持てないものだが、俺が使うとまるで戦場に降り注ぐ爆撃のような理不尽な威力を発揮する。

 

 原作でもシオンが最も得意とした魔術の一つであり、物語中盤で初めて主人公たちと相対した際には、たった一撃で全滅させてしまうほど。

 もちろんそれは負けイベントとして描かれたが、ここは物語ではなく現実世界。

 

 ゲームでさえ全体攻撃として凶悪な威力を発揮したそれを、俺は地面にいるたった一体の敵に向けて集中砲火させていく。

 

「しかし、逃げ足の速いことだ」

 

 飛び上がることを諦めた悪魔は、必死に地面を走り回りながら俺のミーティアを避けていく。

 

 要塞ごとすべてを破壊してしまえば話は早いのだが、残念ながらそれが出来ない理由があった。

 

「こんなことならば、先にエルフたちを探して逃がせば良かったか?」

 

 下手に逃がしてしまえば、錯乱したクヴァール教団の者に殺されてしまうかもしれない。

 そう思って全滅させてからゆっくり解放するつもりだったが、ここにきてそれが裏目に出てしまった。

 

 まるで地面を這うように疾走する悪魔の動きは俊敏で、これだけ距離があると容易に避けられてしまうのだ。

 

 悪魔は元々いた要塞から場所を変え、少し離れたところにある森の中へと入っていった。

 

 上空からでは木々に邪魔をされて見えないため、これ以上は魔力の無駄だろうと一度手を止める。

 

「アアアー!」

「まったく、油断も隙も無い」

 

 こちらが攻撃を止めた瞬間、森から黒い悪魔が飛び出してきた。

 まるで獣のような動きだが、想定はしていたのですぐに魔力球で撃ち落としてやる。

 

 一発、二発、三発と堕ちながら穿たれるそれらは、普通の魔物であれば即死に繋がる威力。

 だがしかし、この悪魔の耐久力が高いのか、それとも別の要因か、まるでダメージを負った様子は見受けられないまま再び森に姿を消していく。

 

「どうやら学習能力がゼロというわけではないのか」

 

 再び森の中から飛んでくる物体。しかしそれは悪魔ではなく、森に生えている大木だった。

 

 もちろん、どれほど勢いがあろうが木ごときが俺のマジックバリアを貫けるはずがない。

 だが次々と飛ばされてくるそれらは、ぶつかる度に粉々になって粉塵が空を舞う。

 

 そして――そこに紛れて飛んでくる悪魔。

 

「ちっ――」

 

 木々とは違い、凄まじい衝撃が走る。 

 一度目よりもより強烈な威力となって飛んできた悪魔は、まるでヤモリのように障壁に張り付いてきた。

 

 そしてそのまま拳を振り上げ――。

 

「アー! アー! アー!」

「鬱陶しい」

 

 何度も何度も叩きつけてくる悪魔を振り落とそうと、風刃を放ち胴体と下半身を真っ二つにする。

 

「アー!」

「なんだと……?」

 

 普通の生き物なら生きていられるはずのない状態。

 だというのに、悪魔はまるで気にした様子もなく壊れた玩具のように同じ行動を繰り返してきた。

 

「ちっ!」

 

 ガンガンとハンマーを叩きつけるような音が空中で響き、次第にマジックバリアの罅が大きくなってくる。

 これ以上は不味いと、突風を生み出して大きく吹き飛ばしたのだが――吹き飛んだのは上半身だけ。

 

「まるでB級ホラーを見ているような気分だな」

 

 下半身は落ちないようにしがみついたままだ。

 

 俺がマジックバリアを解除すると、そのまま落ちていく黒い下半身。

 シュールな光景だが、もし前世で同じものを見たら一生トラウマになっていたに違いない。

 

 とはいえ、これでもう動けないだろうから、あとはここから一方的に嬲れば――。

 

「……なんという不気味な光景だ」

 

 俺がそう言わざるを得ないほど、あまりにも気持ち悪い光景がそこにあった。

 黒い下半身は地面に落ちると、綺麗に着地してそのまま上半身の下へと駆け出していったのだ。

 

 まるでアニメなどでたまに見る、人体模型が走っているような姿。

 リアルでそれを見ると、とても気持ち悪い光景だ。

 

 さらにそれだけではなく、下半身は地面に転がる上半身の下へ辿り着くと、そのままダイブするように飛びつく。

 

 そしてまた粘土同士をがぶつかり合う様にぐちゃりと音が鳴り、そして再び同じ形になった悪魔は俺を見上げてきた。

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