悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第二話

 元々御者を除けば冒険者のマーカスと二人きりの馬車旅。

 

 それはそれでゆっくりした時間を楽しむことが出来たのだが、今はそこに新たな同行者であるフィーナが加わった。

 

 彼女はとある事情のために一人で旅を続けていたが、商人とともに帝都に向かう途中で先ほどの盗賊に襲われたと言う。

 

「災難だったな」

「はい……リオン様たちに助けて頂けなければ、私は二度と日の当たる場所に戻ることは出来なかったと思います」

「まあ結局俺はなにもせず、リオン一人で全滅させちまったがな!」

 

 快活に笑うマーカスと違い、俺は正直引き攣った顔を表に出さないようにすることで精一杯だった。

 

 というのも、顔を見ただけでは気づかなかったが、このフィーナと名乗る少女のことを俺は知っていたからだ。

 

 ――なんで天秤の女神アストライアの化身がこんなところにいるんだよ⁉

 

 俺が転生した『幻想のアルカディア』というゲームの背景には、古き神々の戦争がある。

 

 この世界が出来た当初から生きていた古き神々を旧神と呼び、彼らは己の存在をあらゆる生命の最上位と位置づけ、世界を支配した。

 

 そんな傲慢な神々に反乱を起こしたのが人間であり、そして彼らに力を貸す神々――現神たちだ。

 

 現神たちは旧神たちを相手に人々とともに戦い、そして勝利して次の世界の支配者となる。

 そして神と人が交わう新しい世を作ろうとした。

 

 しかし旧神たちは裏切った神々を許さず、最後の力を振り絞って現神たちが地上にいられないようにしてしまう。

 

 結果、神々は地上からすべて姿を消して人間たちの戦争による支配の歴史が始まりかけ――それを憂いた現神たちが人間を依り代として現界することで人々を導いた。

 

 フィーナは現神の一柱『天秤の女神アストライア』の依り代として原作主人公たちとともに旅をし、最終的に俺を滅ぼす存在だったりする。

 

「よりによって最初に会う原作キャラが彼女とはな……」

 

 俺は思わず現実逃避をするように窓の外を見る。

 

 アストライアの力を得たフィーナはゲームにおいて圧倒的な性能を宿し、楽に攻略したいなら「主人公のカイルを外しても彼女は外すな」と言われるくらいの壊れっぷり。

 

 基本的にはスポットでのみ参戦するだけのイベントキャラなのだが、ある条件を満たすと正式に仲間になり使用出来るようになる。

 

 ただしその条件が非常に厳しく、攻略サイトを見ながらでないと仲間に出来ないいわゆる『二週目以降のお楽しみキャラ』とも言えるのだが……。

 

「どうされましたか?」

「いや……」

 

 クリッとした瞳に優し気な風貌は、とても神々の力を得て猛威を振るう存在には見えない。

 実際、今の彼女はまだ己の本当の力を知らないのだろう。

 

 もし知っていれば、あんな盗賊たちなどに後れを取るはずがないのだから……。

 

「それでフィーナ、貴様はなんの目的で帝都に向かっていたのだ?」

 

 今は帝都とは逆方向。元々俺とマーカスが向かっていた交易都市ガラティアに向かっている途中だ。

 

 俺個人としては一度ガラティアに向かうのを止めて彼女を帝都に送り届けても良かったのだが、彼女が頑として断った。

 

 まあ確かにマーカスも、それに馬車の御者にしても目的地から逆方向に進むわけにはいかないだろう。

 

 帝都よりも交易都市ガラティアの方がかなり近かったこともあって、フィーナは逆戻りとなるのだが、彼女に不満はないようだ。

 

「はい、実は先日起きた流星群に対して神託が下りまして……」

「なんだと?」

「どうされましたか?」

 

 俺が彼女の言葉に驚き、質問しようと思っていたら隣に座っていたマーカスが先に口を開いた。

 

「神託って言えば聖教会の聖女だけが受けられるやつだろ? なんだフィーナ嬢ちゃん、お前聖女だったのか?」

「あ……」

 

 創生の女神エステアを筆頭とした現神を信仰する聖教会。

 その聖女と言えば教会の象徴として、一国の王族にも匹敵する権力を有している。

 

 だからこそマーカスが驚いているのはわかるのだが、俺としてはなぜ神託から『流星群』などという言葉が出てくるのかがわからなかった。

 

 あれは俺がテンション上がり過ぎてやってしまっただけで、『本来の歴史』ではなかった行動なのだが……。

 

「……」

「あの、いちおうお忍びの旅なので内緒にして頂けたら、その……」

「それは問題ないが、流星群がいったい――」

「なんで聖女様が護衛もなく一人で旅してんだ⁉」

 

 俺の質問はマーカスによって遮られ、フィーナには届かない。

 とはいえ、たしかに彼の疑問はわからないではなかった。

 

「その……神託では一人で旅して、流星群を起こした者を見極めよともありまして……」

「おお、なるほど。教会じゃ神託は絶対だって言うもんな」

「……」

 

 待て、なぜそんな神託で彼女が北にやって来る?

 

 本来ならこの時期の彼女は神託で『世界を救う運命の騎士』を求めて南に向かう途中だったはずだろう?

 

「あの流星群は自然現象だろう?」

 

 俺が内心で顔を引き攣らせながら、恐る恐る尋ねると彼女は躊躇うことなく首を横に振った。

 

「いえ、あの流星群は凄まじく強大な魔力によって引き起こされた『神にも匹敵する力を持った魔術の仕業』だと神託ではありました」

「あれがか……マジかよ」

「……」

「それほどの力を扱う者を見極めること。それが私に与えられた神託になります」

 

 これは、どう判断するべきか。

 

 神に対抗できるのは神だけ。

 

 破壊神クヴァールは神々の中でも最上位に位置する強力な存在で、普通の人間では勝ち目はない。

 

 倒すためには主人公たちも現神の力を手に入れる必要があり、ゲームにおける旅の後半は強力な神々の歴史を紐解いてその力を得ていくことにあった。

 

 そしてである。すでに破壊神クヴァールの復活を阻止した今、俺は世界最強の魔術師であり、もはやこの世界に脅威はない。

 

 ――現神という存在を除いて。

 

 現神は俺という存在を知り、そして脅威度を図ろうとしている。

 

 せっかくあらゆる不幸フラグを叩き折ったというのに、ここにきて新しいフラグなどいらないのだ。

 

 よって俺が選ぶ選択肢は一つだけ。

 

「そうか……私たちはこのまま南に進み、グラド山脈へと向かうから助けてやれない」

「だな。それに神託にも一人でって言うなら、俺らが護衛についてやるわけにいかねぇし」

「そのお言葉だけで十分で――」

 

 俺たちが彼女について帝都まで付いて行けないことを伝えると、彼女は微笑み、不意に言葉を切った。

 

 そして瞳の焦点が合わなくなると、そのままどこかここではない場所を見ているような雰囲気になり――。

 

「これはまさか……神託だと?」

「え? アストライア様、つまりこの方が……?」

 

 おいアストライア。なにこのタイミングで出てきてるんだ? やめろ、嫌な予感しかしない――。

 

「神託が下りました」

「そうか。しかし神託はあまり人に言わず、心に秘めた方が――」

「リオン様。我が神は貴方に付いて行くように、とのことです」

 

 真っすぐに、空色の瞳で俺を見る少女は聖女という名に恥じない姿だった。

 

 こんな彼女を見て、駄目だと言える雰囲気ではなく、しかしそれでも危険だと思った俺は――。

 

「そうか。神託なら仕方ないな……」

 

 この少女と敵対したとき、俺は死ぬ可能性が頭に過ってただ頷くのであった。

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