悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第二十九話

 改めて見ると、悪魔はどこまでも無機質な存在だった。

 

 そもそもどうして今自分がここにいるのかすら分かっていないのではないかという雰囲気すらある。

 

「まあ、それを私が気にしてやる必要などはないが……」

 

 しかしあの再生力はかなり厄介だ。

 普通、ああいう再生する魔物は一回ごとに魔力を大幅に失われてしまうものなのだが、見たところ減っている様子はなさそうだ。

 

 この要塞にいた人間たちは魔術師として優秀だった。

 それらをすべて喰らいきったからなのか、それとも別の要因なのか、なんにせよ厄介なことには代わりがない。

 

「せめて魔力に任せて吹き飛ばせれば……」

 

 もっとも、それをしてしまえば救出に来たエルフたちが全員死んでしまうので、本末転倒もいい所。

 

 さてどうしたものか、と考えているうちに悪魔が再び俺を睨み付けてくる。

 

 空中にいる俺への攻撃手段は飛んで近づいて来るだけ、そう思っていた矢先にやつの腕が伸びてきた。

 

 黒い鞭のようにしなりながら迫るそれを防ぐためにマジックバリアを展開するのだが――。

 

「なんだと?」

 

 一撃でバリアが破壊され、消えてしまう。

 

 そのまま俺の身体を打ち砕こうと近づいて来たそれを躱すが、そのまま要塞に振り落とされたため破壊音が周囲に広がった。

 

 まさかマジックバリアが壊されるとは思わなかったので反応が遅れてしまい、大惨事となってしまう。

 

 もしこのまま同じことが続けば、要塞内で捕まっているエルフたちが全員死んでしまうかもしれない。

 

「仕方あるまい」

 

 再び自分の腕を伸ばそうとしている悪魔がこれ以上被害を広げないように、俺は奴に向かって降りていく。

 

 そうして地面で相対する俺と悪魔。

 

 自分の手が届く範囲に来たからだろう。やつは腕を縮めると一気に駆け出してきた。

 

 凄まじいスピードだ。並の人間であれば間違いなく反応できない動き。

 

「そもそも、この私が魔術しか使えない魔術師などと思うなよ」

 

 まるで獣のように飛び掛かってきた悪魔の拳を避けると、そのまま顎らしき場所を蹴り上げる。

 そして大地から浮いた一瞬、踏ん張りの聞かない敵を目掛けて一気に拳を打ち抜いた。

 

「アァァァァァァァァァ⁉」

 

 森の木々を何本も折りながら消えていく悪魔を見ながら、俺はゆっくりと歩く。

 

「む?」

 

 拳を見れば、黒い粘体が付いていた。

 それが俺の魔力を奪っていることに気付き、バリアのときと同じくすぐに燃やす。

 

「なるほど……不死身の正体はこれか」

 

 エルフの森を襲ったクヴァール教団は精霊喰いにより精霊たちの力を奪って、本来強いはずのエルフたちを無力化して誘拐していた。

 

 それと近しい現象がこれだ。

 生きているだけで周囲一帯の魔力を奪うあれは、魔力喰いとも言える存在。

 

「精霊喰いの特性を奪った、ということだろう」

 

 悪魔が生まれたとき、辺り一帯の人間の魂が犠牲になった。

 だが実際は、あの要塞で死んだ生物の魂の特性を奪ったとするならば、先ほどの現象も理解出来る。

 

「となると、時間はかけてられんということだな」

 

 俺のマジックバリアを打ち抜いたのが魔力喰いの特性だったとしても、そのあと要塞を破壊したあの威力は本物だ。

 

 周辺一帯に溢れている魔力を喰らい、己の力に変換しているようで、時間が経てば経つほどやつは強くなっていく。

 

「アー!」

「ちっ!」

 

 先ほど以上に黒くに濁った魔力を込めた腕が横薙ぎ、森の木々など障害にならないように迫ってくる。

 

 下手にマジックバリアで受ければ奴に魔力を与えるだけになるため躱すのだが、悪魔は両腕を使って次々と攻撃を繰り出してきた。

 

 もはや俺と悪魔の間にあったはずの大木はすべて倒れてしまい、森の原形を留めていない状態だ。

 

「調子に乗るなよ」

 

 魔力は奪えても、炎によるダメージが残ることは先ほどの粘体で確認済みだ。

 振り回される黒い腕を燃やし、一瞬だけ止まった隙を逃さない。

 

 悪魔との距離を詰めた俺は拳を突き出す。

 それを反応してガードする悪魔だが、次々と放っていく俺の拳に追い付いていないのか、徐々に遅れが見られ始めた。

 

「アー! アー!」

「叫んだところで、根本的な実力差は覆らん!」

 

 ガードを超えて悪魔の顔面に俺の拳がヒットする。

 本能的か、すぐさま反撃をしてきた悪魔だが――それをしてしまえばもう俺の攻撃を防ぐことは不可能。

 

「せめてガードをしながら隙をみて逃げ出すべきだったな」

 

 殴る殴る殴る殴る殴る。

 こうなればもはや俺の独壇場だ。

 

「ア、ア、ア、ア、ア⁉」

 

 一方的に打ちのめしていき、徐々悪魔から黒い粘液のようなものが地面に飛び散っていく。

 もはや原型すら留めていないほどに歪んだ悪魔は、ここに来て初めて感情らしいものを見せ始めた。

 

 すなわち――恐怖を。

 

「ァー……ッ」

 

 怯えたように下がり始める悪魔の首を掴んで持ち上げる。

 

「本体ごと燃えつきろ。『フレアバースト』」

 

 瞬間、激しい黄金の炎が一気に黒い人型の上半身を吹き飛ばした。 

 ジュワジュワと焦げ臭い匂いが周囲に漂い、地面に落ちた下半身が必死に逃げ出そうとするが……。

 

「逃がさん」

 

 今度はそちらに向けて同じく黄金の炎を解き放つ。

 同時に地面を炎が走り、黒い下半身に追い付くとそのまま一気に燃やし尽くした。

 

 そうして悪魔を完全に滅した俺は、そこで油断することなく辺りを見渡すと、ウネウネと、わずかに動く丸い影。

 

 それらは先ほどまでの悪魔の欠片であり、そしてまだそこに『生物』としての意思が残されている。

 

 それは俺に対する恐怖もあるのだろう。

 だからこそ少しでも遠ざかるように動いて行くのだが、それを見逃してやるほど俺は甘くない。

 

「風よ渦巻け」

 

 ゆっくりと、穏やかな風が俺の目の前で小さな竜巻となり、徐々に巨大化していく。

 それは地面に落ちる細々とした黒い悪魔の残滓たちを掃除機のように吸い込んでいき――。

 

「そして燃えろ」

 

 黄金の炎が混じる竜巻によって黒い粘体が燃やされ尽くし、そして醜悪な臭いとともに風に消えていった。

 

「クヴァールの残滓とはいえ、所詮はこの程度――」

 

 なんとなくそれを見送るように空を見上げた俺は、風に混じる魔力の残り香を感じて思わず瞳を細めてしまう。

 

 完全に滅ぼすつもりで魔術を放ったはずだ。

 だというのに……。

 

「なんというしつこさ……ゴキブリ並みの生命力だな」

 

 風に乗って消えていくかと思ったクヴァールの残滓が再び集まりだし、古の巨人を思わせるほど大きくなっていく。

 

『アー……』

 

 先ほどと同じような、壊れた機械のような声。そこには俺に対する恐怖と、そして怒りが込められているのがよくわかる。

 どうやらこの再構成の中で、少しは生物らしくなったようだ。

 

 それと同時に、悪魔の魔力が大幅に削れているのもわかった。

 今回の大型化はよほど力を大きく使ったらしく、これ以上復活することも出来ないだろう。

 

「さて……それでは今度こそ、終わりにするとしようか」

 

 俺を見下している悪魔と向き合うため、俺はゆっくりと浮遊していく。

 

 そして真正面から巨人となったそれを見て、不敵に嗤うのであった。

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