悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第三十話

 ラスボス戦というのは一回だけでないイメージがあるのではないだろうか?

 

 多くの人間がそう思うかは別として、俺にはそのイメージがあった。

 それはゲームかもしれないし、漫画かもしれないし、小説やアニメの影響なのかもしれない。

 

 なんにせよ、第一形態、第二形態というのは人気とロマンがあるだろう。

 

「もっとも、敵が大きくなるのは負けフラグというものだがな」

 

 戦隊モノであれば倒した怪獣が大きくなるなどよくあるパターンだ。

 

 逆に元々大きかった敵が第二形態で小さくなって、代わり力が圧縮されて強くなる、というのも王道だろう。

 

「まあ、どちらにしても関係ない」

 

 俺の前に立ちはだかる敵はすべて殲滅するだけだ。

 

『アーアーアーアー』

 

 空を響かせるような声。まるでダイダラボッチのような見た目のそれは、相変わらず同じパターンの攻撃で俺を叩き潰そうとする。

 

 おそらくこれがゲームであれば、攻撃力が上がっていて初見で全滅してしまうのだろう。

 

 実際、マジックバリアで防ごうとしてもこの魔力を奪われ消えてしまう以上、俺に出来ることは躱すことだけ――。

 

「などと言うと思うなよ?」

 

 振り下ろされた黒い腕を、俺はそのまま片腕で受け止める。

 まさか止められるとは思わなかったのか悪魔が驚いたように声を上げるが、知ったことではない。

 

 そのまま掴んだ腕に向かって魔力を放ってやると、まるで風船に針を刺したように悪魔の腕が吹き飛んだ。

 

『アーッ⁉』

「さあ、このまま蹂躙してやろう」

 

 俺は浮遊魔術で反対側の腕を掴むと、同じ様に吹き飛ばす。

 これで両腕がなくなったわけだが、悪魔は気持ち悪い音を立てると身体の内側から再び黒い腕を生み出した。

 

 だらんと垂れ下げられた腕は元通りだが、先ほどと同じように攻撃してくることはない。

 どうやらこの形になっても学習能力はあるようだ。

 

「まあもう、どちらでもいい話か」

『ァッ⁉』

 

 巨大な身体が宙を浮く。

 足が地面から離れたことでバタバタとさせながら暴れるが、もうこの風の牢獄から抜け出すことは出来ないだろう。

 

 なにせ、魔力を奪う特性を逆手に取って、その部分に『大量の魔力』を流し込んでやっているのだから。

 

「くくく……」

 

 その度に部位が破裂していく悪魔を見て、俺は笑いをこらえられずにはいられなかった。

 

「無様だなぁ! クヴァールの力を持っているというのに、なんと情けないことか!」

『アー! アー! アー!』

「煩い、囀るな蛆虫が!」

 

 俺は悪魔の頭上に向かうと、そのまま頭部らしき部位を思い切り殴る。

 

 圧倒的質量を持つはずの悪魔は、それだけで地面に思い切り叩きつけられる。

 しかし再び風の魔術で浮かび上がり……。

 

「何発でも喰らわせてやろう」

 

 再度地面に向かって叩きつけた。

 

 浮かび上がらせる。

 殴る。

 浮かび上がらせる。

 殴る。

 

 それを何度も繰り返してやると、よほどダメージが大きかったのか悪魔の身体は最初の時よりもずっと小さくなってきた。

 

『ァ……ァ……』

「結局のところ、たとえ図体が大きくなろうと『絶対の力の差』というのは覆らないということだ」

 

 そして、再び人程度の大きさに戻った悪魔は、もはや動く気力すらないように地面に倒れる。

 

「さらばだ。もう二度と、この私の前に出てくるなよ……」

 

 悪魔の頭部を思い切り踏みつけて潰した後、最後に指先程度の大きさの炎を灯す。

 それは黄金色へと変わり、涙が零れるようにゆっくりと地面に零れ落ち――。

 

「『イフリートティアーズ』」 

 

 悪魔に触れた瞬間、まるで天まで上るような獄炎の柱が生み出され、『悪魔だったもの』は欠片も残さず消滅した。

 

 今度こそ、と思い周囲を警戒してみるが、悪魔の残りカスらしきものも存在しない。

 先ほどので、完全にクヴァールの力は滅ぼしきったらしい。

 

「……やっと終わったか」

 

 特に脅威に覚えたわけではないが、それでも精神的にはどっと疲れた。

 

 単純にあの悪魔がしつこかったというのもあるが、なにより俺にとって『破壊神クヴァール』に関わるというのは精神的に気分が悪いのだ。

 

「まあ、見つけ次第滅ぼすのは絶対だがな」

 

 苦手であったり、嫌いな物から目を逸らして生きていくことは簡単だ。

 だがしかし、それは俺の中に眠る『シオン・グランバニア』という存在の魂が許してくれない。

 

 本来の歴史であれば気高き帝王であるこの身体、それをただのサラリーマンが乗り移ったからといって大きく変えてはならないだろう。

 

「まあそれも、今更だが……」

 

 破壊神クヴァールに乗り移られることを防ぎ、シオンと相打ちに命を落とすはずだった聖女フィーナの未来も変えた。 

 

 これにより変わった未来はきっと大きなものだ。だがしかし、そこに後悔などない。

 

 なぜなら俺は、俺のために生きると決めたのだから。

 

「だからこそ俺は――」

 

 ――この世界を現実のものとして生きていく。

 

 そう呟こうとした瞬間、世界が変わる。

 破壊され尽くした森も、崩壊した要塞の城壁も、そして眩い太陽も美しく広がる空すらなくなり、ただただ真っ白な空間が広がり、まるで古代の宮殿のようなとなる。

 

「馬鹿な! 神の庭園(ヴァルハラ)だと⁉」

 

 神の庭園(ヴァルハラ)――それはゲーム世界でもたった一度だけしか登場しない、神々の庭。

 

 本来、旧神であっても現神であっても、今の地上に舞い降りることは出来ない。

 

 それでもなにか世界に影響を与えなければならない事態が発生した時のみ、一時的に『依り代』に憑依して神の奇跡を与えるのである。

 

 そして、その神の奇跡を使用するためには地上に『神の力に耐えられる場所』が必要だった。

 

 ゲームではただ一度、『ラストバトル後にのみ、イベント戦で生み出された場所』。

 

 そしてラスボスである『クヴァールに乗り移られたシオン・グランバニアが死んだ場所』。

 

「今までの貴方の所業を見させていただきました」

 

 ヴァルハラの中心、そこには神殿を背景に蒼銀色の髪をした少女が浮かんでいる。

 

 手にはこれまで『この世界』では見たこともない美しい剣。

 そして普段の人を落ち着かせるような口調の彼女とは大きく異なる、冷徹な声。

 

「なぜだ……」

 

 なぜ今、奴がこの場に現れる?

 それも、ゲームのラストバトルと同じ戦闘態勢を取った状態で――。

 

「なぜここで貴様が出てくる! 答えろ! 天秤の女神アストライア!」

 

 俺の怒り、そして叫びを聞いた彼女は、ただ冷たい瞳でこちらを見下してくるだけであった。

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