悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第三十三話

 意識が暗い闇に飲み込まれる中、俺は昔のことを思い出していた。

 

 ――壊せ。

 うるさい。

 

 ――破壊しろ。

 黙れ。

 

 ――この世のすべてを滅ぼすのだ!

 貴様の言うことなど誰が聞くか!

 

 この世界に生を受けてからずっと、俺は心の奥底から聞こえてくる声を否定してきた。

 もし一度でもこれを受け入れてしまえば、俺はきっと俺ではなくなってしまうから。

 

 傍に這いよるこの声の主は、いつも俺を取り込もうとしてきて、そして――。

 

「くっ……ぅぅぅ」

 

 目を開けると、地面に仰向けで倒れた俺の上に馬乗り状態になったフィーナの姿があった。

 腕をフルフルと震わせ、必死に抵抗をしているようにも見える。

 

 感情がおかしくなっているのか、怒りと悲しみと無情が混ざり合ったような表情。

 涙をポタポタと流し、その雫が俺の顔を濡らしていく。

 

「だ、め……神様っ! 駄目です!」

『この力は危険なのです』

「違います! もう……もうこの力は危険なんかじゃないんです!」

『この男の力の源は破壊神のもの! ここで殺さなければいずれ、世界すら飲み込むほどに強大にして危険なもので――!』

 

 俺を殺そうとする女神アストライアと、俺を助けようとするフィーナが体の主導権を奪い合っているのだろう。

 同じ身体からまったく逆な言葉が出てくるのを見ているのは、どうも違和感を覚えてしまう。

 

 身体を見れば、俺の身体には剣で貫かれた穴が開いている。

 我ながらこれでよく命を生きながらせているものだと感心するものだが――そこで俺の身体が白い光に包まれていることがわかった。

 

「リオン様! 目を覚ましたんですね!」

『くっ!』

「まったく……貴様というやつは……」

 

 普通なら致命傷の傷でもこうして意識が保てるのは、どうやらフィーナが回復魔術を継続して使ってくれているかららしい。

 

 使っているのは聖エステア教会でもごく一部の者しか使えない最上位のもの。

 アストライアと意識を奪い合いながらと言うことも考えれば、とてつもない才能だと言わざるを得ないだろう。

 

 そもそも、存在として上位者であるはずの神と己の身体の制御を奪いあえること自体、奇跡のようなものなのだ。

 

 さすがはゲームでも壊れキャラとして、主人公を差し置いて最強を誇った――。

 

「いや、違うか……」

 

 そもそも、この世界の人々は生きている。決してゲームの中の存在ではないのだ。

 だからこそ、そんな風に考えるのは彼女に対する冒涜だろう。

  

「さすがは聖女、といったところだな」

「あ……」

 

 そしてフィーナのおかげで傷が完治した俺は、身体の主導権を奪いきれずに動きを止める彼女をどかして立ち上がる。

 

 服には穴が開き、そして大量の血液が流れたせいか意識がやや薄れているが……。

 

「気分がいいな……」

 

 ずっと、生まれたときから俺の耳に残り続けていた奴の声が完全に途絶えていた。

 

 一度はその肉体を滅ぼし、それでも魂だけとなって往生際もなく残り続けていたクヴァールの意思が、俺の中から完全に消えていた。

 

「フィーナよ。貴様は分かっていたのか?」

 

 先ほどの彼女はこう言った。

 

 ――もう危険じゃありません!

 

 それは俺の中に眠りクヴァールの力を恐れるアストライアに向けた言葉だ。

 

「リオン様の中に眠る破壊神の意思は……神様の剣で貫いたときに完全に消滅しました」

「そうか……だからか」

「だから神様! これ以上リオン様を傷つけることは止めてください!」

『……』

 

 フィーナの言葉によって、これまでずっと俺を殺そうという意思を隠さなかったアストライアの瞳が揺れる。

 

 だが俺はそんな彼女のことよりも、自身の内部の変化の驚いていた。

 フィーナの言う通り、俺の中にずっと燻っていた破壊神の意思すら、今はもう完全に消えている。

 

「くくく……」

「リオン様?」

 

 生まれたときからずっと抑え続けていた破壊神の意思が消え、俺の身体は今まで感じたことのないほど軽い!

 

「ああ……そうか。世界とはこんなに広かったのか」

 

 これまで以上に感覚が鋭くなり、そして世界に広がる魔力をより繊細に感じることが出来た。

 

 空は高く、風は柔らかく、空気は澄んでおり、大地は力強い。 

 まるで子どもが初めて一人で外に出たときに知る、世界の大きさを今更ながらに感じながら、俺は今の自分を知るために魔力を放出する。

 

 それだけで神の庭園(ヴァルハラ)の空間に亀裂が走る。

 

『な、なんですかこれは……なぜ破壊神クヴァールの力を失ったというのに、先ほど以上の魔力が……』

「なぜだと?」

 

 そんなことは当然だろう。

 

「私は生まれたときから、破壊神クヴァールの存在に気付いていた」

『生まれたときから……?』

「そしてやつを表に出さないよう、自らの魔力でずっと抑えこみ続けていたのだ」

『っ――⁉ 神を、しかも最上級神であるクヴァールを、ただの人間が押さえ続けていたというのですか⁉ そんなこと、我々ですら不可能だというのに!』

「貴様らの常識がすべてだと思うな」

 

 俺の力の半分以上は、常にクヴァールを抑えることに使われていた。

 たとえ肉体を失った神であってもその力は強大であり、なにより魂だけになっても俺という器を狙い続けていたのだ。

 

 それが今、天秤の女神アストライアという神の力をもってその魂だけを討ち滅ぼし、フィーナの聖女の力で傷を治した。

 

「まったく……これほどまでに大きな借りが出来たのは生まれて初めてだ」

 

 生まれたときからずっと付き合ってきた、最大級の破滅フラグ。

 それをまさか他の誰かの手によって叩き潰されるとは、思いもしなかった。

 

「くくく……ああ、なんと愉快なことか」

 

 これまでクヴァールを抑えるために使っていた魔力を全開にすると、先ほど入った空間の罅がさらに大きくなる。

 俺の放つ黄金の魔力に、神の庭園(ヴァルハラ)が絶えられなくなっているのだ。

 

『ぐ……こんなこと馬鹿な⁉ ただの人間に、神の庭園(ヴァルハラ)が……』

「私は自分の敵はすべからく滅ぼす」

 

 ビシビシビシと、世界が壊れる音が聞こえた。

 

「そして私は、自らを救った者は絶対に救ってみせる。さあ天秤の女神アストライアよ! 私の中にいた破壊神クヴァールの力はすでに聖女フィーナの手によって滅ぼされた! それでもまだ、この身を討ち滅ぼそうとするか⁉」

『……』

 

 アストライアはほんの少しの間だけ瞳を閉じ、そして空色の瞳で真っすぐ俺を射抜いて来た。

 

『破壊神クヴァールの力が滅びたことは認めましょう。ですが、貴方の力はそれ以上の脅威となります』

「……それが、貴様の答えか」

「駄目です神様! もう、これ以上は……」

『黙りなさい。私は世界の秩序を守り、正す存在! そして神すら超えるその力は地上に必要ありません! 世界の未来のために打ち砕せて頂きます! いでよ! アークエンジェルズ!』

 

 その瞬間、フィーナの身体から膨大な魔力が解き放たれ、白い閃光が空へと伸びる。

 

 天を斬り裂き白銀の狭間が生み出されたと思うと、そこから白い翼をもった騎士たちが大量に現れる。

 

 その数――数百は下らない。

 

「さあ、天界が誇る最上級天使たちです! 一体一体が下級神に近い力を持ったこの軍勢を前に、どれだけ耐えることが出来ますか⁉」

「自信満々なところ悪いが……」

 

 俺はひび割れた空を見上げる。

 天使たちがいるそこよりも遥か上空に広がったその罅の外側から、強引にこちらに入って来る存在。

 

「ご自慢の天使たちは、所詮下級神程度の力しか持っていないのだろう?」

 

 かつて創造神エステアや、破壊神クヴァールと正面から戦い続けた存在がいた。

 

 結果的に敗北したとはいえ、その力はまさに神すら上回る。

 

「ならば、やつの炎に耐えられるものではないな」

 

 俺の言葉に反応するように、罅が大きく破裂して獄炎の炎が入り込んでくる。

 それは下級神に匹敵する力を持った天使たちを飲み込み、一気に滅ぼしてしまった。

 

『くくく、ハーッハッハッハ! 久しいな天秤の女神アストライアよ!』

『獄炎龍……レーヴァテイン⁉』

『そう、我だ! 我こそは原初における神の反逆者! 煉獄龍レーヴァテインである!』

 

 その口上とともに巨大な龍の姿をしたレーヴァは、まだ残っている天使の集団に襲い掛かった。

 下級神に近い力を持っていようと、レーヴァはかつて最上級神たちと覇を競った正真正面、世界最強クラスの存在だ。

 

「これで、貴様ご自慢の天使どもは使い物にならないな」

『くっ――』

「さあ、それでは決着を付けようか」

 

 ――天秤の女神アストライア。

 

 本来の歴史では、『シオン・グランバニア』を『聖女フィーナ』とともに滅ぼした、俺にとって破壊神クヴァールと並ぶ最大の破滅フラグ。

 

「私は貴様を倒すことで、本当の自由を得るのだ!」

 

 そうして、黄金の魔力を全開にし、アストライアと向き合うのであった。

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