悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第三十六話

「それで主、こやつはどうするつもりだ?」

「……そうだな」

 

 俺の傍にやってきたレーヴァが指をさすのは、気絶して地面に倒れている女神アストライア。

 女神の象徴でもある白銀の翼を失い、見るも無残な姿は俺としてもこれ以上攻撃する気が失せる光景だ。

 

 シル婆に押し付けられたとはいえ、俺が責任を持つ義務もないし捨て置くか。

 そう思っていると、フィーナが恐る恐る袖を引いて来た。

 

「あのリオン様……アストライア様のこと、治してはいけないでしょうか?」

「……」

「だめ、ですか?」

 

 俺がなにも言わないからか、フィーナが不安そうな表情をする。

 

 正直、俺からすればもうこの女神に対してなにか思うことはない。

 たしかに敵対してきたが、神としての矜持すら奪われて地に堕ちたことは、この女神にとってこれ以上ない絶望だろう。

 

 それに、アストライアに関して一番の被害者は俺ではなくフィーナだ。

 彼女は神を宿すことが出来るだけの器であり、そのために聖女という地位に押し込まれた。

 

 もちろん本人が拒否することも出来ただろうが、教会に連れられたときはまだ年端もいかない幼少期。

 

 聖女としての教育を受けてきた以上、本人に選択肢などなかったと考えれば、運命を無理やり決めつけられたことに対して恨みを抱いてもいいと思う。

 

 だというのに、フィーナはアストライアを救いたいらしい。 

 俺には理解出来ない感情であるが……。

 

「……貴様は、この神が憎いと思わないのか?」

「思いません。思えませんよ……だってアストライア様は常に私を見守ってくださっていたのですから」

「そうか。ならば私からはなにも言わん。好きにしろ」

「はい!」

 

 たたた、とフィーナは倒れて気絶しているアストライアの傍まで行くと、背中に治癒魔術を使用し始める。

 地面に血溜まりを作るほど深い傷であったはずが、みるみる治っていく姿は彼女の卓越した才能ゆえだろう。

 

 光を放つ彼女の姿はまさに聖女というに相応しい姿で、その光景は美しいものだと思う。

 

「やれやれ。主はどこかフィーナに甘いなぁ」

 

 そんな光景を見ていると、隣に立っているレーヴァがやや呆れた口調で呟く。

 

「甘い、か?」

「うむ。誰の目からみても主はフィーナに甘い」

「それは、私自身と重ねているからかもしれないな」

 

 生まれたときからクヴァールの器としていずれ飲み込まれる運命にあったシオン・グランバニア。

 いずれ生まれるはずだった破壊神を滅ぼすため、女神にその肉体を明け渡して死を選ぶフィーナ。

 

 ある意味自分たちは対照的で、そして同じ運命を背負った共同体だった。

 

「……まあ、今となっては意味のない感傷のようなものだ」

「主の過去なども聞いてみたいものだが……まあ今は良いか」

 

 しばらくして、翼を失った女神アストライアの背中は、美しい人形のように傷が消え失せていた。

 まだショックから意識を取り戻せていないが、いずれは目を覚ますことだろう。

 

「さて、それでは私はエルフたちを解放してくるか」

「む? あれはどうすればいい?」

「もし起きて暴れるようであればお前がなんとかしろ」

「……我の扱いが雑ではないか?」

「神を抑えられる者など、貴様以外にいないのだ」

 

 俺がそう言うと、レーヴァはかなり嬉しそうな顔をする。

 

「むふふー。そうかそうか。主は我を頼りにしているということだな?」

「事実を言ったまでだ。調子に乗るな」

 

 とはいえ、機嫌良く仕事をしてくれるのであればこちらとしては問題ない。

 

「任せたぞ」

「うむ! 任されよう」

 

 そうして俺はフィーナに近づく。

 相当魔力を消耗したらしく、額からは汗をかいているがやり切った表情だ。

 

「あ、リオン様」

「フィーナ。今からエルフを解放しに行く。その際に傷付いた者もいるかもしれないが、来れるか?」

「もちろんです。元々、そのためにここまで来たのですから! ……あっ」

 

 そうして立ち上がると、フラッと一瞬立ち眩みをしたように倒れそうになる。

 

 このままでは不味いと思い、彼女の腰に手を回してそのまま抱き寄せた。

 

「あ、あのリオン様……!?」

「今から貴様には活躍してもらわなければならないのに、怪我などされては困る」

 

 俺には大した治癒魔術の才能がないのだ。

 全く使えないわけではないが、聖女であるフィーナと比べれば月とすっぽんという程度のもの。

 

「だとしても、えと、その、近ぃ――」

 

 だが、やはり先ほどアストライアの回復でだいぶ無理をしていたせいか、顔を紅くして動揺している。

 立ち眩みをしたようだし、ここは一度休ませる方がいいか?

 

「時間を置くか」

「だ、だだ大丈夫なので、とりあえず身体を離していただければ!」

「そうか? もう倒れるなよ」

 

 コクコクコク、と凄いスピードで頷くのが余計に気になるが、とりあえず彼女を解放すると素早い動きで俺から距離を取った。

 

「……」

「……」

 

 どこか警戒した小動物のような行動にどうしたものかと考えみるが、答えは出そうにない。

 

「とりあえず行くぞ」

「あ、はい……」

 

 俺が歩き出すとそれについて来るようにフィーナも動き出す。

 

 そうして半壊した要塞を歩きながら、俺は生命力が複数ある方へと歩いて行くのであった。

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