悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第三話

 交易都市ガラティアは帝都グランバニアと帝国中を結ぶ重要拠点の一つである。

 

 帝国は大陸最大の軍事国家。

 しかしその帝都は大陸の最北に存在するため、この都市無くては物流は成り立たない。

 

 そんなこともあり、ガラティアには大陸中から人や物に溢れ、活気に満ち溢れていた。

 

 

 

 街に着いて一息つくため、マーカスの勧めで冒険者ギルドに向かった俺たちは併設されている酒場のテーブルで向かい合う。

 

「さて、これからどうする?」

「どうするっても、まあ俺は当初の予定通りグラド山脈に行くつもりだが……」

 

 そこでマーカスは言葉を切り、同じくテーブルに座ってジュースを飲んでいる聖女様を見る。

 

 俺も同じくフィーナを見続けると、今度は出てきたハンバーグを見つめて瞳を輝かせていた。

 

 一緒に置かれたナイフとフォークを丁寧に使いながら、その小さな口からは想像も出来ない勢いで食べていく。

 そして野菜を食べて、またハンバーグへ。少し落ち着いたらジュースを飲み、再びハンバーグ。

 

 頬に手を当てて幸せそうにする姿は、周囲の人々を見ているだけで幸せにしてしまいそうだ。

 

 ……美味しそうに食べるなこの子。

 

「……とりあえず、俺らも食うか」

「ああ」

 

 彼女をどうするかというのは、また後で考えればいいだろう。

 

 そうして俺たちが注文した料理を食べると、たしかに美味しくすぐに完食してしまった。

 

「さて、それじゃあ改めてこれからどうするかだったな」

「ああ……私としては貴様についてグラド山脈の火竜とやらを見に行きたいところだが……」

「普通は見学しにくるようなとこじゃねぇんだが……まあお前なら大丈夫だろうなぁ」

 

 元々俺の実力を見抜いていたマーカスだが、少しだけ言葉を濁す。

 理由は俺の隣で自信満々にしているフィーナの姿だ。

 

「リオン様は我が神に認められるほどですからね。ところで火山帯に行くにはどういったものが必要となるのでしょうか?」

「「……」」

 

 当然のようについて来ようとするフィーナに、俺たちは少しの間無言となる。

 

 まず前提として、フィーナは弱い。ただの盗賊に襲われるほど弱い。

 

 原作のゲームであればレベルアップがあり、新しい技や魔術を覚え、そしてなにより『天秤の女神アストライア』の力を使えるようになる。

 

 いずれはラスボスであるシオン・グランバニアを除けば世界最強の実力者になるのだが、そもそも原作開始はまだ先の話。

 

 主人公たちと旅を続ける過程で強くなっていく彼女は今、聖女として祀り上げられているだけのか弱い少女でしかないのだが……。

 

「本当に付いてくるのか?」

「もちろんです。神様がそうすることで世界は救われるとおっしゃるので」

 

 聖女にとって神託というのは、まさしく絶対の言葉。

 それは理解出来るのだが、アストライアはなにを持って彼女を俺の傍に付けるのだろうか?

 

「世界が救われる……か」

 

 どういう神託を受けたのか細かいことは教えて貰えず、『ただリオン様に付いて行くだけ』とのことだが……どうにも彼女は俺を主とでも扱う様に接してくる。

 

 最初は命の恩人だからだと思っていたのだが、マーカスとの対応の差を考えるとやはり神託の内容が理由だろう。

 

 そこを教えて貰えないのは、神の意思。

 であれば、これ以上追及しても意味はない。

 

「どうするよ」

「まあ、どうしても私に付いてくると言うのだから仕方ない。許可をした以上、私が責任をもって守るさ」

「そうかい。いちおう言っておくが、グラド山脈はA級以上の冒険者推奨だぜ」

「誰にものを言っている?」

 

 俺の実力を肌で感じているマーカスは肩をすくめて不敵に笑う。

 少なくとも、A級冒険者程度ではないことは気付いているだろう。

 

「グラド山脈か……」

 

 帝王学を学んできた俺は、この帝国の地理程度はだいたい頭に入っている。

 

 グラド山脈はこの交易都市ガラティアから少し西に広がる広大な山脈地帯。

 

 そこは龍の巣とも呼ばれ、かつては古代龍が住んでいたと言われる場所だ。

 

 知識はあることを証明するために説明すると、二人は感心した様子でこちらを見てくる。

 

「へぇ、あんな辺鄙なとこなのにずいぶんと詳しいな」

「さすがですリオン様!」

 

 グラド山脈は『幻想世界のアルカディア』でも出てくる重要な場所だからな。

 

 原作ではここで封印から復活した古代龍と戦闘し、力を認められたことで仲間になった。

 そして主人公たちが最後の戦いに向かう際に、その背に乗せて帝国に乗り込むのだ。

 

 最終決戦に向かうシーンだけあってアニメーションにも力が込められていて、俺も胸が熱くなったのをよく覚えている。

 

 ――まあ、今はまだ封印されてるし、古代龍と会うことはないが……。

 

「そういやリオン。お前冒険者ギルドには登録してるか?」

「いや、していないが」

「だったら今しとこうぜ。グラド山脈まで行くのは問題ねえが、その奥の火山帯に入るには冒険者の資格がいるからな」

 

 それだけ言うとマーカスが立ち上がり受付に向かう。

 

 周囲の冒険者を見ると、彼を目で追っている様子。どうやらこの街では相当有名な冒険者らしい。

 

 それほどの実力者なら俺の耳に入ってきてもおかしくないのだが、帝国は冒険者たちを下に見る傾向がある。

 

 強い騎士の噂はすぐ回って来るのに、強い冒険者の情報ははあまり入ってこないことが多いのは貴族の見栄だろう。

 

「リオン様が冒険者になるなら、私もなります」

「そうか、好きにするといい」

「はい!」

 

 馴染みの受付なのか、マーカスはカウンターで俺たちを指さしながら何かを説明していた。

 

 しばらくしてこっち来いと手でジェスチャーしてくるので、その通りに動く。

 

「このお二人が登録ですね?」

「おう、頼むぜ」

「わかりました……さてお二人とも、ギルドのことについてはご存じですか?」

「ああ」

「えと……」

 

 ギルド自体はゲームであったため、俺はその知識を思い出す。

 

 登録することで冒険者と呼ばれる職業に就くことが出来、そしてクエストを達成することでお金やイベントアイテムを手に入れることが出来るシステムだ。

 

 原作では物語自体に直接かかわってくるクエストはないのだが、その代わり仲間キャラの過去に関わるストーリーや、特別なアイテムを手に入れるためなど、やりこみ要素的な部分である。

 

 とはいえ、それはあくまでゲームの話。

 

 ゲームではランクなどはなく、先に進めば進むほど難易度の高いクエストが増えていくだけだったが、現実はそうじゃない。

 

 SからFまでランク分けされた冒険者たちが、日々雑用や魔物の討伐、それに未開の地の開拓などをこなしていく職業。

 

 誰でもなれる分、治安的な部分はあまりよろしくない職業ではある。

 

「それではこちらがFランクのギルドカードになります。これからたくさんのクエストを受けて、どんどんランクアップを目指してください!」

「ああ」

「ありがとうございます!」

 

 簡単な受け答えで俺たちが知識を持っていることを理解した受付嬢はカードを取り出すと、俺とフィーナに手渡してくる。

 

 まさかこの受付嬢も、今目の前にいるのがこの国の皇子と大陸中に広がる教会の聖女とは夢にも思っていないだろう。

 

「お揃いですね!」

「そうだな……」

 

 満面の笑みを浮かべてくるフィーナを横目に、俺は自身のギルドカードを見ると、そこにはしっかりFという文字が記載されていた。

 

「ふむ……」

 

 別に冒険者になりたかったというわけではない。

 しかしこの世界を全力で楽しむと決めたからには自然の流れに身を任せるのも悪くはない。

 

「どうせなら、Sランクを目指しながら旅をするのも悪くはないな」

 

 そんなことを思いながら、ギルドを出るのであった。

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