悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第四話

 交易都市ガラティアから半日ほど馬車で進んだ先にグラド山脈はある。

 

 バジリスク、マンティコア、トロールなど強力なモンスターたちが跋扈し、大陸随一の精強さを誇る帝国騎士団ですらおいそれと手を出せない危険地域。

 

「ふ、ふふふ……」

 普通なら死を覚悟するような場所ではあるが、俺はゲームで見た光景を実際に体験していることに内心でテンションが上がっていた。

 

 正直言って、今めちゃくちゃ楽しい!

 

「す、すごい……」

「おいおい……なんつーヤベェ魔術使ってやがる」

 

 近づいて来る魔物を倒しているだけなのだが、フィーナは感心した様子で、そしてマーカスが引き攣った笑みを浮かべている。

「この程度は児戯のようなものだ」

 

 そう言いながら指先から飛ばす小さな光の魔力球。

 

 ゲームには出てこないが、シンプルでかつ早く、威力は込めた魔力量に依存するから俺が使えば大抵の魔物は一撃で死ぬ。

 

 ただ魔力の塊を飛ばしているだけなので、誰でも使える児戯というのは間違いないが、これを防ぐには相当な魔力障壁が必要だった。

 

 我がことながら中々エグい魔術を生み出してしまったものだ。

 

「グラド山脈を進むのにこんな楽だったことはねぇな」

 

 呆れたようにマーカスが歩いて来た道を振り返る。

 

 そこには魔物の死体が列をなして並び、なにも知らない者が見たら新手の儀式かなにかだと恐怖を覚えてしまうだろう。

 

「さあ、どんどん行くぞ」

「リオン様、魔物の素材を取らなくてもいいのですか?」

「ん? そうだな……」

 

 普通の冒険者なら魔物をはぎ取って素材にしてギルドなどで売るらしい。

 

 グラド山脈の魔物たちは強力な分、強い武器や道具の素材になるし、本来ならはぎ取って持ち帰るのが冒険者としての役目なのだが……。

 

「別に金に困っているわけではないからな」

「いや俺は小遣い稼ぎに来たんだが……」

「それより火竜だ。そもそも、こんなに持って帰れないだろう?」

 

 少し不満そうなマーカスは、手に持っている魔力袋を見て少し葛藤している。

 

 それなりの容量が入るそれも、竜のような魔物の素材を入れようと思えば他の物を入れている余裕はないらしい。

 

「わかったよ。こいつらは諦める」

「そうしてくれ。それより私は早く竜が見たい」

 

 魔物の素材をはぎ取りながら進んでいては、目的の火山帯に辿り着くまでにどれだけの時間がかかるかわかったものではない。

 

 魔術の鍛錬は続けてきたし、強くなるために色んな魔物を討伐してきた。

 

 しかしである。未だに希少種である竜を俺は見たことがないのだ。

 

「やはりファンタジーと言えば竜だろう」

「リオン様は竜がお好きなんですか?」

「いや嬢ちゃん、これから殺しに行くのに好きも嫌いもねぇと思うが……?」

 

 そんな風にグラド山脈を進んで、俺たちはそのまま火山帯へと入る。

 

 山脈の麓あたりと比べて、魔物が少ない。

 辺り一帯に溶岩が流れ、真っすぐ進むのですら困難。

 

「おいおいおい! お前そっちは溶岩が――⁉」

「リオン様⁉」

 

 俺がそんな溶岩を無視するように真っすぐ進んでいるからか、二人から悲鳴のような声が上がった。

 

「心配するな」

 

 世界最強の魔術師を自称するのが伊達ではないことを教えてやろう。

 俺は水たまりに踏み込むように、極々自然と溶岩へ足を突っ込んだ。

 

「「っ――⁉」」

 

 魔力を身体に覆わせるだけの一般的な魔術だが、俺が使えば溶岩地域だろうと、極寒の土地だろうと、竜のブレスだろうと快適な場所に変わる。

 

 当然、溶岩の中だろうと俺にとっては水と大して変わらない。

 

「どうだ?」

 

 俺が自慢げに笑うと、二人は引き攣った顔をしていた。

 

「……いやいや、そうはならんだろ普通」

「リオン様……凄いです!」

「嬢ちゃんも結構ズレてんな」

 

 溶岩には初めて入ったが、意外とスライムみたいにぬるぬるしていて楽しいかもしれない。

 

 今度溶岩の中で泳いでみるのも楽しそうだ。

 

 そんな風に遊びながら火山帯を進んでいくと、遠くから竜の咆哮が聞こえてきた。

 

 どうやらだいぶ近くにいるらしい。

 

「さぁて、ようやく本番だぜ。なんかここまで来るのにどっと疲れたがな!」

「私のおかげでだいぶ楽したではないか?」

「その分突っ込み疲れたんだよ!」

 

 まあ確かに、俺の力はもはや人外の領域に足を踏み入れているし、一般的な感覚を持っていればそうなるか。

 

 とはいえ、これでもまだ常識の範囲内で手加減はしているのだが……。

 

 そんなことを思いながら見上げると、火山帯の空は真昼間だというのに深紅に染まっていた。そしてそこに小さく見える無数の黒い影。

 

「あの、リオン様……あれ、なんか多くありませんか?」

「そうだな。優に百は超えているように見えるがこれは……まさか?」

「おいおいおい⁉ なんで火竜があんなに⁉ 」

 

 マーカスが焦ったような声を上げているが、俺は別のことを考えていた。

 

 火竜の大量発生。

 この現象を俺は知っている。

 

 しかしそれはあり得ないはずだ。なぜならそれが起きるのは、『未来』の話なのだから。

 

「ちぃっ! あいつらこっち目掛けてきやがる!」

「元々火竜を討伐しに来たのだから問題ないだろう?」

「数が問題なんだよ分かれって!」

 

 これは――本来主人公たちが最終決戦に向かう前にグラド山脈で起きるイベントの一つ。

 

「くそ! ここで逃げたら街が……やるしかねぇか!」

「神様……いざという時は……」

 

 二人が覚悟を決めた様に空を見上げ、武器を構えた。

 どうやら逃げるという選択はないらしい。

 

 火竜を討伐するにはAランクの冒険者が必要だと言われている。

 それに対して空を飛ぶ火竜の数は百以上。

 

 普通なら絶望的な光景だろう。

 それでも心が折れずに立ち向かう姿を見せる二人の姿は――

 

「まるで英雄のようだな」

 

 物語の主要人物であるフィーナはまだわかる。彼女の心の強さはずっと画面の前で見てきた。

 

 しかしマーカスはゲームには登場しない存在。

 

 そんな彼もまた、自分たちの背後にいるであろう人々を守るために命を懸けて立ち向かおうとする。

 

「素晴らしい」

 

 物語を紡ぐ英雄、そしてそれを支える者たち。

 そんな世界のすべてを今、俺は全身で感じられていた。強き魂の輝きを見た!

 

 これだ、これが見たかった! これを感じたかった! だから俺はずっとこの『幻想のアルカディア』に憧れてきたのだから!

 

 俺は今、最高に気分が高揚している!

 

「く、くくく、くはははははは!」

「お前……?」

「リオン様?」

 

 突然笑い出した俺に対して二人が怪訝そうな表情をする。

 この絶望的な光景に気が触れてしまったとでも思っているのかもしれない。

 

 そんな無礼な思い、しかし許そう! なにせ彼らは今、俺を心の底から楽しませてくれているのだから!

 

「貴様らに見せてやろう。我が力をの一端をな!」

 

 俺はずっと抑えていた魔力を開放する。

 同時に周囲の空間が歪み始めた。

 

「こ、この強大な魔力は……」

「っ――⁉」

 

 突然現れた圧倒的な魔力の奔流に二人が驚く。

 

 二人に軽く視線だけを向けた俺は不敵な笑みを浮かべると、天に向かって手を上げ、金色に輝く魔法陣を生み出した。

 

 それは徐々に大きくなりながら俺の手を離れ、天へと昇って行き――。

 

「さあ、消え失せろ塵芥ども」

 

 空を覆う巨大な魔法陣。そこからバチバチと魔力が渦巻きだし、そして――。

 

「『メテオスォーム』」

 

 無数の巨大な隕石が空から落ち始め、火竜の大群は逃げ場などなく、次々と撃墜していく。

 

 その光景はまるで世界の終焉のようで、とても美しいものだった。

 

 俺は今、この世界のすべてを壊し、そして愛している。

 

 ああ……これこそが(おれ)の求めていた――。

 

「終わったぞ」

「……」

「……」

 

 呆気にとられた顔をしている二人に対して、俺は当然という風な態度を崩さない。

 とはいえそれも仕方がないだろう。

 

 もはや火山帯の地形は大きく姿を消していて、先ほどまで見えていた山々の一部が完全に失われていた。

 

 少しテンションが上がり過ぎて、やり過ぎたかもしれない……。

 

『ヴオォォォォォォォォ――‼!』

 

 そんな風に反省していると、遥か遠くから巨大な咆哮が天を貫いた。

 

 それに込められた魔力は、先ほどの俺が生み出したものに匹敵する。

 

「「っ――⁉」」 

「ああそうか……やはりそうだったのか」

 

 火竜が大量発生するということはつまり、やはり『奴』が復活したのだ。

 

 だとすれば、向かわなければならないだろう。それもまた、俺の望みの一つなのだから。

 

「それに、歴史が変わったとしたらそれはきっと、俺のせいだろうからな」

 

 ゆっくりと、まるで散歩をするように俺は歩く。

 数千年の時を生き、かつて神々と戦った誇り高き『龍』の下へと。

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