悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第五話

 グラド山脈は別名龍の巣とも呼ばれている。

 その理由は古代龍が住むと言われているからだが、それは決してただの噂話ではない。

 

 このエステア大陸ではかつて旧神と現神の陣営に分かれて戦争が起きていたが、龍は神に匹敵する力を持った種族。

 

 互いに支配をかけたその戦いに対して、龍はどちらの神も傲慢だと言い放ち、両陣営に襲い掛かった。

 

「そうして龍は滅びた」

 

 単体個体としては最強の種族である龍であったが、神々とは違い群れをつくることを好まず個で戦う者ばかり。

 

 それゆえに龍は神には勝てず、結果的にそのほとんどが殺され、ごく一部残った者も封印されることになる。

 

 今俺は浮遊魔術で空を飛び、地上から百メートルほどの高さにいる。

 何故そんな場所にいるのか、それは――。

 

『我らは滅びてなどいない』

 

 そこまで上がらなければ、この巨大な『龍』と会話が出来ないからだ。

 

「ほう。だが私が知っている限り、龍という種族はもうこのエステア大陸には存在しないが?」

『眠っているだけだ!』

「目覚めぬ眠りなど、死と同義だろうに」 

 

 古代龍レーヴァテイン――かつて古の戦争において旧神クヴァールと対立し敗北した最強の龍の一角。

 

 血のような深紅の鱗の覆われ、大きく伸びた翼と尻尾は太陽を彷彿とさせる強力な炎を纏っている。

 

 この龍が放つ獄炎は世界すら滅ぼすと謳われ、実際に多くのプレイヤーが初見では一撃で全滅させられるほどの出鱈目っぷり。

 

 一撃の攻撃力だけで言えば、作中のシオン・グランバニアすら超えている最強クラスの存在で、本来この龍を倒すためには神の奇跡が必要だ。

 

 そんな存在と向き合った俺のテンションはというと、原作を体験出来ていることで最高潮となっていた。

 

「古代龍レーヴァテイン。邪神クヴァールに敗北して封印された貴様が、なぜ今目覚めている」

 

 本来、古代龍レーヴァテインが復活するのは最終決戦の直前の話のはずだ。

 

 突如発生した竜の大群。

 その理由を解明し、解決するためにグラド山脈へ向かった主人公一行と復活したこの龍が戦うことになる。

 

 そして邪神クヴァールと戦うために旅をしていると知ったレーヴァテインは、そのまま仲間になるのだが――。

 

 ――いくらなんでも早すぎないか?

 

 たしかに復活の理由までは描写されていなかったが、まだ原作すら始まっていない。

 

 こんな時期にこの龍が復活してしまえば、帝国が滅んでしまうではないか。

 

『神の力を感じた! あの傲慢な神々は我らを差し置いて世界を支配しようなどと言語道断!』

「神の力……」

 

 俺は思わず地上の離れたところでこちらを心配しているであろう一人の少女を見る。

 

 『天秤の女神アストライア』の依り代としてともに来た少女。

 

「なるほど」

『喰らってやる! 神々の系譜はこの地上からすべて消滅させてやる!』

 

 そういえばフィーナは原作で仲間に出来なくても、この最終決戦直前ではお助けキャラとして一緒に行動していたな。

 

 つまり今も、そして原作でも彼女がこのグラド山脈に近づいてきた気配を察知し、怒りで復活したということか。

 

「まったく、ずいぶんとガバガバな封印だな」

『貴様からも神の残滓を感じるぞ! しかもこれはまさか……貴様クヴァールの⁉』

「あんなものと一緒にするな」

『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

  原作では本来はもっと理知的な存在だったはずだが、封印から解けたばかりだからか周囲の状況も把握することなどせず、ただ怒りに我を忘れたように攻撃を仕掛けてくる。

 

 口から放たれた獄炎のブレスは一つの街すら飲み込むほど強力で、普通の人間なら跡形も残らないだろう。

 

 だがしかし、俺は『シオン・グランバニア』。

 世界を滅ぼす邪神クヴァールすら飲み込んだ、世界最強の魔術師である。

 

「……こんなものか?」

『な、なんだと⁉』

 

 薄い球体のバリアを張った俺は、炎の中でも無傷で生還し、そして古代龍レーヴァテインを見下す。 

 

「どうしたレーヴァテイン。この程度では、私は殺せんぞ?」

『おのれぇぇぇ! ならばこれでどうだぁぁぁぁぁ!』

 

 レーヴァテインの口から先ほどのブレスとは違う、指向性を持った深紅の光線が俺に迫る。

 

 本来これは彼の龍が追い詰められたときに放つ、破壊の一撃。

 

 多くのプレイヤーたちがあと少しというところでこの閃光にやられ、やり直しをさせられたものだが――。

 

「それでは力比べといこうか!」

 

 レーヴァテインの放つ光線に掌を向けて、黄金の魔力を圧縮していく。

 その黄金は徐々に黒い闇に覆われ初め、黒球となった魔力が光線とぶつかり合った。

 

『ウヴォォォォォォォォォ!』

 

 強大な魔力のぶつかり合いに周囲の空間が大きく歪む。

 

 レーヴァテインの光線が俺の魔力球を中心に拡散していく。

 それに対して黒球は止まることなく、まっすぐレーヴァテインに近づいて行った。

 

『ば、馬鹿な⁉ あり得ない! 我は煉獄龍レーヴァテインだぞ! だというのに――⁉』

「理解出来ないか? 己の力が最強だとでも思ったか? ならば現実を知るといい。この身は貴様が敗北した邪神すら飲み込んだ存在であり、貴様の知る世界よりも遥か上位の存在だということをな!」

 

 そうして黒球がレーヴァテインに触れる。

 ただそれだけで凄まじい衝撃を彼の龍に与え――。

 

『ガャァァァァァァァァ⁉』

 

 そのまま大きな悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。

 

 俺はそんな龍の頭の上に着地し、どちらが上位者であるかを示す様に見下す。

 

『グゥ……こんな、ことが……』

「ふっ、これが実力の差だ。さて、決着はついたわけだが」

『殺せ! このまま生き恥を晒すくらいなら――』

「貴様が簡単に死なないことは知っている」

『っ――⁉』

 

 このレーヴァテインに限らず、龍というのはそう簡単には死なない生き物だ。

 たとえ一度死んだとしても、時間をおけば復活する。

 

 神ですら封印せざるを得なかったのはつまり、滅ぼすために多大な力が必要だから。

 

 それは今の俺ですら厳しく、それでも滅んだ龍というのは複数の神々によほど危険だと認識された者たちだろう。

 

 逆を言えば、今生き延びて封印状態で収まった龍たちは、神々にとって『問題ない』と判断された存在と言ってもいい。

 

「さて、とはいえ当然、滅ぼせないとは言わない」

『ぐっ!』

 

 俺の言葉が嘘ではないと感じ取ったのだろう。

 レーヴァテインが呻くような声を上げ、恐れを隠すように身動ぎする。

 

 一つだけ言っておくと、俺は別にこの龍に恨みがあるわけでもなければ、敵対したい思ったわけではない。

 

 ただ、だからといって攻撃してきた以上は敵であり、ケジメが必要だと思う。

 

「一つ、選択肢をやろう」

『選択肢、だと?』

「ああ。私は敵にはどこまでも残虐になれる自信があるが、そうではない者には寛容だからな」

 

 そうして俺はレーヴァテインの頭から降りると、その瞳を真っすぐ射抜く。

 

 俺たちの戦いの余波を受けないように遠くにいる二人を確認したあと、幻影魔術で隠していた『本当の姿』を見せる。

 

 長い黄金の髪と瞳を持ち、黄金の君とまで呼ばれる美貌の持ち主であるシオン・グランバニア。

 

 リオンの時とは比べ物にならない圧倒的な存在感をもって、地面に倒れるレーヴァテインを見下す。

 

『なんだと……貴様……その黄金の瞳は……』

「さあ、お前はどういう道を選ぶ?」 

 

 俺の問いかけに、この深紅の龍の選択は――。

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