悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第八話

 本来の歴史では『幻想のアルカディア』のラスボスとして君臨するはずだったシオン・グランバニア。

 

 しかしどういうわけか、俺という現代日本に住んでいた平凡なサラリーマンの魂が転生してしまった。

 

 当然ながら、最終的に主人公たちに負けて死ぬ運命にあるなんて認められるわけない。

 

 そのため赤ん坊の頃から文字通り死ぬ気で鍛え続け、そしてゲームの知識を思い出しながら自分に降り注ぐ『破滅フラグ』をすべて叩き折ってやった。

 

 そして十六歳になり、俺はついにラスボスになる運命から逃れることになり、こうして自由を得たのである。

 

 

 

「じゃあ兄ちゃん、達者でな」

「貴様もな」

 

 交易都市ガラティアを拠点としているマーカスは、今後もこの辺りで活動をするという。

 

 それに対して俺はこの世界を見て回りたいと思っているので、いつまでもこの街で立ち止まるつもりはなかった。

 

 当初の予定とは違ったが、それでも火竜見学を終えた俺はそのまま再び南に進んでいくことになる。

 

 レーヴァの背に乗ったり、俺が魔術を使えばすぐに次の街に辿り着けるのだが……。

 

「まあ、それでは情緒の欠片もないからな」

 

 俺はこの世界を知りながら楽しむと決めた。

 だからこそ一つ一つ、小さな村などを経由していくことで、この世界を知っていくつもりだ。

 

「ずいぶんとあっさりした別れだったが、良かったのか主?」

「ああ。出会いも別れも、一時の縁。そしてその縁がより深まれば、自然と再び出会うこともあるだろう」

 

 レーヴァの言葉になんとなく厨二的に返してやると、案の定というか彼女は首をかしげている。

 

「我にはわからん感覚だ」

「人と交わっていけば、自然とわかるようになるさ」

「そんなものか……」

 

 それからいくつかの村を経由していき、旅を進めていく。

 

 今は帝国の南の方にある小さな街に滞在し、見習いの冒険者として薬草採取に勤しんでいるところだ。

 

「あ、ありましたよリオン様!」

「お、我も見つけたぞー!」

「なんだと……」

 

 俺はまだ見つけられていないのだが……?

 

「んー? どうやら主はまだらしいなー」

「が、頑張りましょうリオン様! すぐに見つかりますよ! あ、また見つけた」

「我もだ」

「……」

 

 村々を渡り歩きながら、少しずつ冒険者として活動してきた俺たちは今Fランクから昇格し、Eランクになっていた。

 

 最初迷子のペット探しや屋根の修理など、ただの雑用しか出来なかった俺たちは今、こうして薬草採取のクエストを受けられるまでになったのだ。

 

 今回受けたクエストは、村の辺境に住む薬師の婆さんの代わり草原でいくつかの種類の薬草を手に入れてくること。

 

 どれもゲーム序盤で手に入る、どこでもある薬草のはずなのだが……どういうわけか俺の目には全く映らない。

 

 だというのにフィーナもレーヴァも次々と背負った網カゴに入れていき、あっという間に目標数を達成してしまった。

 

 つまり、クエストクリアである。俺はなにもしていないが。

 

「ふふふ、人の役に立てるのは楽しいですね!」

「フィーナよ、龍の我にその同意を求めるのは無理があると思うぞ」

 

 草原からの帰り道、フィーナはとても機嫌良さそうに鼻歌を歌っていた。

 

 どうやら聖女として、人の役に立つことが嬉しくて仕方がないらしい。

 

 そういえばゲームでも、彼女は人助けが出来ない時間が続くと機嫌が悪くなったりすることがあった。

 

 フィーナにとって人助けというのは生き甲斐のようなものなのかもしれない。

 

「しかし……E級のクエストというのも、侮れないものだな」

「いや主……これくらいなら多分、子どものお使いレベルだぞ?」

「ほう、つまり私は子どものお使いもできない男だと?」

 

 それは聞き捨てならないな。

 この身は幻影魔術で姿を変えているとはいえ、大陸最強の魔術師であるシオン・グランバニアだぞ?

 

 それが薬草採取一つ出来ないなどと思われてはあまりに心外だ。

 

「よかろう、明日は私一人でクエストをこなそうではないか」

「なんというか、主は人として桁外れに強い分、なにかを置き去りにしているのではないかと思う。たとえば……運とか」

「やめろ」

 

 運が悪いとか言うのは本当にやめてくれ。その言葉は俺の心に響く。

 

 そもそも運が良ければこんな破滅フラグ満載のキャラに生まれ変わることなんてなかったし、これまでの人生で苦労だってしなかったはずだ。

 

 普段の魔王ムーブと違い、素の俺が出たからかフィーナとレーヴァが少し驚いた顔をしているが、仕方ないだろう。

 

 別に肩ひじ張ってこの態度を取っているわけではないが、それでもたまには出てしまうのだ。

 

 まあおそらく、この短い旅ではあるが、それでも彼女たちのことを仲間だと信頼し始めているからというのもある。

 

「ともかく、明日は私がやる」

「リオン様、少しだけお手伝いさせてもらえませんか?」

「駄目だ」

「でもそれだと……その、言い辛いのですが失敗するかもしれません」

「ほう……」

 

 つまり、フィーナもまた俺が必要な薬草を見つけられないと思っているということだろう。

 

 なるほどなるほど。どうやら信頼しているのは俺だけだったらしい。

 

「絶対に、私がやる」

「……なんだか主、今までに比べてずいぶんと人間味が出てきたではないか」

「元々リオン様は人間味に溢れた人ですよ」

「いやフィーナよ、それはない」

 

 とにかく、今日の分はすでにフィーナとレーヴァが集めてしまったので、俺は明日再び同じようなクエストに備えるべく周囲の様子を伺うと……。

 

「声が聞こえるな」

「え?」

「なに?」

「あっちだ」

 

 俺が草原を走りその奥にある森の方まで出ると、複数の人間に囲まれた少女が見える。

 

「あれは⁉」

「人攫いか? 人は人同士で無意味に争って……いやあれは……」

「長い耳、独特の衣装……あれは、エルフだな」

 

 森の奥に住む種族で、別名妖精族と呼ばれる彼女たちは、滅多に人里には現れない。

 

 その理由としては、エルフが人間から見てとても美しく、そして奴隷として人気が高いからだ。

 そのせいで人間から襲われる彼女たちは、特殊な結界で守られている里で過ごすのである。

 

 ――結局、この奴隷制度には手を出せなかったな……。

 

 個人的には胸糞わるい制度だが、しかしそれが国民を守っている部分があるのもまた事実。

 

 奴隷という制度がなければ、最下層まで落ちた人間の権利は一切守られない。

 

 奴隷と主人という主従関係があるからこそ、人として最低限の尊厳が守られている部分もあるのだ。

 

「とはいえそれは借金であったり、犯罪を犯した場合ならだ」

 

 見たところ、襲われているのは奴隷商人の馬車で、襲っているのは盗賊らしい。

 自業自得とも言えるが、だからといって見過ごすわけにはいかないだろう。

 

 すでに奴隷商人やその護衛たちは逃げていて、残っているのはエルフの少女のみ。

 

 肩まで伸ばした金髪に、翡翠色の瞳はとても美しい人形のようだ。

 

 少女はそんな宝石のような瞳を丸くしながら、勢いよく近づいて来る俺に気付いて驚いている。

 

「な、なんだテメェ⁉」

「ち、近づくんじゃねぇ!」

 

 彼女の反応で襲っていた男たちも気付いて武器を構えるが、もう遅い。

 

 奴隷狩り程度が俺の敵になりうるわけもなく、一気にその場を制圧してしまう。

 

「う、うぅぅ……つえぇ……」

「バケモンだ……」

 

 魔術で作り出した闇色のロープで拘束し、木に括りつけて呻いている盗賊たちを横目に、俺は襲われていた少女を見た。

 

 おそらく年齢は俺と同じくらい、十五歳前後。

 

 エルフは長寿であるが、それも二十歳くらいまでは人間と似た成長を見せるので、おそらく見た目相当の年齢だろう。

 

「大丈夫か?」

「あ……うん。えと、その……ありがとう」

「この国で奴隷狩りが行われているとすれば、私のせいでもあるからな」

「え?」

「なんでもない。無事なのであればよかった」

 

 出来るだけ彼女を怖がらせないように注意をしながら、外傷がないか注意する。

 

 すると逃げるときに擦りむいたのか、膝が少し剥けて血が流れていた。

 

「失礼する」

「ひゃ⁉ な、なにするの⁉ って、え?」

 

 ほんの少しだけ彼女の膝に触れ、簡単な回復魔術を使う。

 

 魔術の天才である俺だが、残念ながら回復魔術の適性は極端に低かったので、出来ることと言えばこうしたかすり傷を治すことくらい。

 

「これで痕は残らないだろう。もし他になにか怪我をしているのであれば、あそこにいる――」

 

 そうして一通りの出来事が終わったことを確認したフィーナたちが近づいて来た。

 

「あの少女に傷を治してもらうがいい。まだ未熟だが、私などよりもずっと凄い回復魔術の使い手だからな」

 

 ほんの少しだけ、自分の関わる友人を自慢するように、俺はそう呟いた。

 

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