官能小説の世界に転生したらお隣さんが陵辱される直前の母娘だった件   作:青ヤギ

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【無垢なロリ巨乳JS雛未】天使が願うたったひとつの幸福・前編

 どうすれば皆で幸せになれるんだろう?

 門原雛未(かどはら ひなみ)はいつしか、そんなことを考えるようになった。

 

 きっかけは雛未が初恋というものを知ってからだ。

 といっても正直なところ、恋というのがどういう感情なのか雛未にはまだよく分かっていない。

 ただ、教室で『恋バナ』をしているときに雛未が何気なく口にしたことを「それは間違いなく恋だよ!」と親切な同級生たちが教えてくれた。

 

 一緒に居ると安心する人。

 大人になってもずっと傍に居てほしい人。

 誰にも渡したくない、自分だけが独り占めしたい人。

 

 裏表のない雛未が包み隠さず最近胸にいだいている本心を打ち明けると、同級生の少女たちは「純粋無垢な天使にもついに春が来たんだわ!」と言ってさらに盛り上がった。

 こっそり聞き耳を立てていた男子の半数以上は失恋から泣いた。

 

「そっかー。ヒナはお兄ちゃんに恋してるんだー」

 

 あたかも他人事のように雛未は呟いた。

 いざ言葉にしてみても、どうも実感が湧かない。

 ずっと女だけの家庭で育ち、あまり異性と関わりがなかった雛未にとって、恋という感情は未知なものだった。

 

 加えて雛未は同い年の娘と比べて心に幼さを色濃く残す少女だった。

 恋にうつつを抜かすよりは、甘いケーキを食べているときのほうが幸せ。

 お洒落をするのも異性の気を引くためではなく、好きなアニメのキャラクターの真似がしたいがため。

 そんな『花より団子』な雛未が特定の異性を意識しだすのは、彼女と親しい友人たちにとってまさに天変地異の出来事だった。

 

 皆こぞって雛未から、その意中の相手の話を聞きたがった。

 特別な存在に友人たちが興味を示してくれたことが嬉しく、雛未は機嫌を良くしながら話しだした。

 

「えへへ。お兄ちゃんはね? とっても優しくて、とってもかっこよくて、とっても強いの。この間もね、ヒナたちを助けてくれたの」

 

 雛未が「お兄ちゃん」と呼び慕うお隣さんの少年、中田誠一。

 まるで雛未が好きなアニメに登場する『ヒロインの危機に必ず駆けつける騎士様』のように、誠一は雛未のピンチを救ってくれた。

 

 ……けれど、そのせいで誠一はとてもとても痛い思いをしてしまった。

 大好きな誠一が傷つくのはとても悲しい。

 母や姉たちがそうしているように、自分も誠一のために何かしてあげたい。

 でも、何をしてあげればいいんだろう?

 そんなことを雛未は日々考えていた。

 

 自分は母や姉たちのように家事は得意ではないし、こんな小さな身体では腕が不自由な誠一の代わりに重いものも持ってあげられない。

 それどころか姉たちの対抗心から一度ムキになって誠一のサポートをしようとしたら、逆に足を引っ張ってしまって、却って迷惑をかけてしまった。

 優しい誠一は笑って許してくれたが、大好きな人の役に立ちたい雛未にとってはショックが大きかった。

 

「ヒナね、ママやお姉ちゃんたちみたいに、助けてくれたお兄ちゃんにたくさんたくさんお礼がしたいの。……でもお兄ちゃん、ヒナが何をすれば喜んでくれるかな~?」

 

 雛未がそんな悩みを打ち明けると、同級生の少女たちは一緒に頭を捻って考えてくれた。

 

「う~ん、相手は高校生だもんね。やっぱり大人っぽいプレゼントとか?」

「でも小学生の私たちじゃ高い買い物なんてできないよ? やっぱり無難に手作りの何かをあげるとか?」

「むむ。お料理とか身の回りのお世話じゃお姉さんたちとネタ被るわけだしなー」

「けどこういうのは気持ちが大事じゃない?」

 

 幼い少女たちは限りある知恵を絞って、年上の女性たちにも負けないような男の喜ばせ方を考え抜く。

 

「え~? そんなに悩む必要ないし~! 簡単かんた~ん♪ だって男が喜ぶことなんて、ひとつしかないも~ん!」

「メブキちゃん!」

 

 やたらと神経を煽るような声色で雛未たちの会話に混ざってきたのは、クラスで一番恋愛の知識が豊富な少女だった。

 名を若良瀬(わからせ)メブキという。

 好物は酢豚。苦手なものは()。趣味は義理の兄を「ざぁこ♡ ざぁこ♡」と煽ること。将来の夢は大好きな義兄のお嫁さんになって野球チームが作れるぐらい子どもを孕むこと。

 真冬でもなぜか薄着のタンクトップにショーツがギリギリで見えそうな極ミニスカートをあたかも美学とばかりに着込み、ランドセルに防犯ブザーを「そんなにいる?」というぐらい無数に付けている。

 ちょっと変わった娘だが、彼女のアドバイスのおかげで恋愛を成就させた女生徒は数知れず。

 こと恋愛の話に関して彼女ほど頼もしい存在はいなかった。

 

 ちなみにメブキ本人は本命の義兄からまったく相手にされていない。

 

「メブキちゃん教えて~。ヒナどんなことすればお兄ちゃんを幸せにできるの?」

「くふふ。雛未ちゃんったら~。そんなに喰いついちゃって~めっずらし~。よっぽどそのお隣のお兄さんにホの字なワケ~?」

 

 メブキはいつも義兄にしているように挑発的な笑顔で雛未をからかう。

 人によっては単なる煽りとして腹を立てそうなものだが、メブキにとってはこれは友好の印である。

 これまで恋とは縁の無かった穢れなき天使のような雛未が、頬を赤らめて慌てる新鮮な様子をメブキは期待したのだが……。

 

「うん♪ ヒナ、お兄ちゃんのこと世界で一番大好きだよ♪」

「お、おう……」

 

 恥じることもなく頷く雛未の笑顔の眩しさを前に、メブキは一瞬余裕を崩してたじろいだ。

 格好と同じく防御力は薄いメブキであった。

 

「こほん……。と、とりあえず~、男を喜ばせるなんて楽勝だよ~。メブキちゃんがとっておきの知恵を貸してあげる~」

 

 メブキはペースを取り戻すべく話を本題に戻した。

 自信満々に言っているが、メブキ本人は処女である。

 貧相な身体に反して知恵ばかりがご立派に豊かになったメブキは、さも得意げに雛未にアドバイスを始める。

 

「要はさ~、男って四六時中エッチなことばっかり考えてるでしょ~?」

「エッチなこと? お兄ちゃんもそうなの?」

「あったり前じゃ~ん♪ どんなイケメンだって隠れた場所でエッチなこと考えてお股おっきくしてるんだから~。ね~男子たち~?」

 

 同意を求めるようにメブキがいまだに聞き耳を立てている男子たちに目配せする。

 男子たちは居心地が悪そうに視線を逸らした。

 

「つ~ま~り~、エッチなことして誘惑すれば~、そのお兄さんもワンコみたいに尻尾振って喜ぶってワケ~♪」

「ほえ~? お兄ちゃんに尻尾なんて無いよ~?」

「例えで言ってんのよ! 調子狂うわねこの子は!?」

「ひゃぁん!?」

 

 立て続けに調子を崩されたメブキは素の状態に戻って、いきなり雛未の豊かな胸を鷲掴みにした。

 

「だいたいね~! アンタ小学生のくせにこんなご立派な膨らみがあるんだから、好きな男ぐらいさっさとコレを武器にして誘惑してやりゃぁいいのよ! このっ! このっ! 羨ましい! あたしにもこれくらい乳や尻があればお兄ちゃんを簡単に堕とせるはずなのに! ……うわっ、ていうかマジでデッカ!? 柔らか!? うっそでしょ!? こんなに小さくて細い身体に何でこんな立派なおっぱいやヒップがついてんのよ!?」

「やぁん。メブキちゃん揉まないで~」

 

 暴走したメブキは聞く耳持たず、雛未の歳不相応に育った際どい部分を揉みしだいた。

 背丈ならクラスでも一際小さいにも関わらず、肉付くべく場所には大人も顔負けな豊かさを誇る、雛未のトランジスタグラマーボディ。

 細いウエストを強調するように発育した柔肉は衣服の上からでも存在を主張し、日々クラスの男子たちのあどけない情念を揺さぶっていた。

 そして、現在メブキによって繰り広げられる扇情的な光景は、青い小学生男子たちにとってはあまりにも刺激が強く、何名かは鼻血を噴き出して机に突っ伏した。

 

「ええい! このドスケベボディを活かさないなんて宝の持ち腐れよ! アンタ今日あたしの家にいらっしゃい! 大人の恋愛ってやつを徹底的に教え込んであげるわ!」

「ほえ? 大人の恋愛~?」

「そうよ! モタモタしてたらその大好きなお兄ちゃんがあなたのお姉さんたちに取られるかもしれないのよ!? それでもいいの!? あたしのお兄ちゃんの周りだって、いっつもたくさんの泥棒猫が付きまとってるんだから! ヒヤヒヤしてしょうがないわよ! 恋はいつだって早い者勝ちの争奪戦なのよ!?」

「お兄ちゃんが、取られる……?」

 

 雛未は誠一が自分を放って、姉の杏璃や夏希とばかり仲良くする様子を想像した。

 すると、とても悲しい気持ちになった。

 思わず涙が出るほどに。

 

「……グスッ。やあ……。お兄ちゃんを取られたくないぃ……」

「でしょ!? だったらそのエッチな身体とクッソかわいいお顔で誘惑するのよ! 姉たちよりも先に寝取っておやり!」

「若良瀬さーん? また卑猥なこと口にしてるから後で職員室に来なさいね~」

「ぐはああ!? 先生堪忍しちくれ~!」

 

 メブキがいつものように教師に職員室に連行されて説教された後、雛未は友人たちと一緒にメブキの家に向かった。

 

 べつにメブキの言うことを全面的に信じるわけではなかったが、一度いやな想像をしてしまうと、雛未の心は不安に苛まれた。

 あの優しい誠一が唐突に雛未を蔑ろにするとは思えない。

 ……けれど、もし本当に杏璃や夏希と恋仲になったら?

 いまのように自分に構ってくれる時間はほとんど無くなってしまうかもしれない。

 

(そんなの……いやぁ)

 

 雛未は人一倍寂しがり屋だった。

 家庭内で最年少の彼女は、いつも家でひとり部活帰りの姉たちと仕事帰りの母を待っていた。

 お友達と遊ぶ時間は楽しいけれど、鍵を開けて静かな家に帰ってくると、いつも言いようのない寂寥感に襲われた。

 一度でいいから、他の家の子のように「おかえりなさい」と誰かに温かく迎え入れてもらいたかった。

 

 その夢は、誠一が叶えてくれた。

 誠一が怪我の影響で学園を一時的に休んでいる間、雛未はよく彼の部屋にお邪魔した。

 そのとき誠一は「いらっしゃい」ではなく「おかえり」と言ってくれるのだ。

 だから雛未は誠一が好きだ。

 出会った頃からずっと、口にしなくても、いつも彼は欲しい言葉をくれる。

 寂しい気持ちを、温かい気持ちに変えてくれる。

 

 姉たちのことはもちろん好きだ。

 でも誠一は取られたくない。

 だから誠一を繋ぎ止めることができるのなら、どんなことも頑張ってお勉強しよう。

 そんな気概で雛未はメブキの部屋にお邪魔した。

 

「ようこそ、あたしの神殿へ……」

 

 いったいどんなルートで入手したのか、メブキの部屋にはどう考えても小学生が所有すべきではない卑猥な本で溢れていた。

 一冊いっさつはとても薄い本だったが、薄い本も積もれば山となる。

 膨大な資料をメブキはこれでもかと見せてきた。

 

 そこで雛未は人体の神秘を知った。

 周りの友人たちは「キモ~い」「無理~」「メブキちゃんえんがちょ」と難色を示していたが、雛未は「ほうほう。人の身体ってとっても不思議~」と純粋に感心した。

 

 ……そして、雛未はあの日のことを思い出した。

 

(……()()()()()()、雛未にこんなことをしようとしたのかな?)

 

 いつものように、ぐっすりと眠っていた夜のこと。

 杏璃の希望によって各部屋に付けられた錠が奇妙な音を立てているのに気づき、雛未は目覚めた。

 留守にしているときや、眠るときには必ず部屋の鍵をかけなさいと杏璃に言い含められていた。

 もともとその指示は、誠一が杏璃に提案したことだった。

 そのアドバイスが無ければ、悲劇は間違いなく起きていただろう。

 ソレは、雛未の寝込みを狙ってやってきたのだから。

 

 扉の隙間からヌッと入ってきた真っ黒な影。

 オバケだ。あの開かずの間に住んでいるオバケがやってきたんだと雛未は思った。

 オバケは雛未に言った。

 

 怖クナイヨ。コレカラ、トテモ楽シイコトヲ、スルンダカラネ。

 

 と。

 

 だが雛未にはわかっていた。本能的にわかっていた。

 このオバケはきっと雛未に、とっても怖くて酷いことをするのだと。

 

(お兄ちゃん……)

 

 何かあったらこれを鳴らしなさい。決して手放してはいけないよ?

 そう言って誠一がプレゼントしてくれた防犯ブザー。

 大切な人から貰ったソレを雛未は宝物のように持っていた。

 これを鳴らせば誠一が来てくれる。大好きなアニメに出てくる騎士様のように。

 

(助けて、お兄ちゃん……)

 

 雛未はとても冷静に、そして迷いなくブザーを鳴らした。

 

 

 

 オバケは家から居なくなった。

 でもその代わり、姉たちはとても怖がりになってしまった。

 怖がりになった彼女たちは、誠一の優しさや温もりを求めるようになった。

 ……それは、母も同じだった。

 そう、ライバルは姉たちだけではないのだ。

 

 雛未にはわかる。

 母はきっと父に向けていたのと同じ気持ちを、誠一にいだいている。

 自分たちにバレないように必死に隠しているけれど、雛未の眼は誤魔化せない。

 妙なところで雛未は鋭いのだ。

 

 家族皆で同じ人を好きになるだなんて、それは素敵なことかもしれない。

 でもズルイ。

 雛未だって、誠一といっぱい素敵な時間を過ごしたいのに。

 誠一のためにお助けがしたいのに。

 ……雛未がブザーを鳴らしたせいで、誠一は怪我をしてしまったのに。

 だから、自分がたくさん誠一にお礼をしないといけないのに。

 

 雛未は幼いが、もっとも大切なことや、見落としてはいけない本質を、漠然と把握できる娘だった。

 誠一は身体を張って自分たち家族を守ってくれた。

 だから誠一が喜ぶことなら、何だってしてあげたい。

 たくさんお礼がしたい。

 幼さを理由に、何もできないのは嫌だった。

 

 いままでは、どうすれば誠一を満足させてあげられるのか、ちっともわからなかったけれど……小さな身体でも、男の人を喜ばせてあげられる方法を雛未は知った。

 知ってしまった。

 

(ヒナだって、ママやお姉ちゃんたちに負けないもん。お兄ちゃんのこと、たくさん喜ばせてあげられるもん)

 

 最年少がゆえの微笑ましい対抗心を、雛未はその胸に宿した。

 その方法は、ちっとも微笑ましいものではなかったが……ともあれ、この一件を機に雛未は意中の相手に猛烈なアピールを仕掛けるようになったのであった。

 

 

   * * *

 

 

 休日は、誠一が雛未の家庭教師として勉強を見てくれる日だった。

 雛未はあまり勉強が好きではないのだが、誠一と二人きりになれるのでこの時間を気に入っていた。

 その日も雛未は誠一の部屋で教科書とノートを広げていた。

 けれど、気まぐれな雛未は気づけば折り紙を折ったり、ラクガキなどをして遊んでしまう。

 

「こらヒナちゃん、集中しなきゃダメだよ?」

「ぷ~。だってヒナ算数嫌いなんだも~ん」

「この問題が解けたら終わりだから、もうちょっとがんばろ?」

「は~い」

 

 誠一に注意されることすら雛未にとっては嬉しいことだった。

 この時間だけ誠一は自分に注目してくれるし、自分は誠一を独り占めできる。

 とても素敵なひとときだ。

 

「ねえ、お兄ちゃん。ヒナお勉強ばかりじゃつまんない。もっとヒナとお喋りしましょ?」

「ふぅ。しょうがないな。じゃあ、ちょっと休憩しようか?」

「わぁい。お兄ちゃん大好き」

「わっ。こら、ヒナちゃん」

 

 誠一がベッドに腰掛けると、雛未はすかさずその膝に小振りながらも丸みを帯びた臀部を乗せた。

 誠一と向かい合うようにむっちりとした太ももを腰元に絡め、身体全体を預ける。

 

「ここ、ヒナの特等席だもん。ね? いいでしょお兄ちゃん」

 

 そうして子猫がすり寄るように、雛未は誠一の胸元に頬をあてがった。

 

「まったく、ヒナちゃんは甘えん坊さんだな」

 

 苦笑しながらも誠一も満更ではなさそうな声色で、雛未の桃色がかった銀の頭髪を優しく撫でた。

 雛未は幸せな心地に包まれた。

 

「お兄ちゃん、ヒナのこと好き?」

「え? ああ、もちろん好きだよ」

「本当? 嬉しい……ヒナもね、お兄ちゃんのこと大好きよ?」

 

 雛未はその小さく細い腕を誠一の首元に回し、上気した顔で意中の相手を見上げる。

 

「ヒ、ヒナちゃん? 急にどうしたんだい?」

 

 いつもと異なる雛未の気配に誠一は動揺していた。

 彼のそんな反応が嬉しくて、雛未はクスリと蠱惑的な微笑みを浮かべる。

 

「ヒナのこと、どれくらい好き? ママやお姉ちゃんたちよりも? ヒナが一番?」

「な、何を言い出すんだ。一番や二番なんてないさ。君たち親子みんな……大事だよ?」

「いや。ヒナそんな答え欲しくない。ヒナがお兄ちゃんの一番じゃなきゃ、いやなの。ねぇお兄ちゃん、ギュってして? ヒナのこといっぱい抱きしめて?」

「ヒナちゃん、本当にどうしたんだ? いけないよ、こんなこと……」

 

 誠一は優しく雛未を引き剥がそうとするが、少女は微動だにせず、カラーコンタクトで赤色に染まった瞳を切なげに向けた。

 

「ヒナ、ずっと寂しかった。パパも新しいパパも、ヒナの傍から居なくなっちゃった……。ねえ? お兄ちゃんはどこにも行かない? いつまでもヒナの傍にいてくれる?」

「あ、ああ。もちろんさ。ヒナちゃんが大きくなるまでは、寂しい思いはさせないよ?」

「いや。ヒナが大きくなってもお兄ちゃんはずっと一緒にいるの。どこにも行かせないんだから。絶対に離れないわ」

「ヒナちゃん……」

 

 気づくと雛未は涙を流しながら、誠一にしがみついていた。

 

 母や姉たちのことはもちろん大好きだ。

 ……でも、やっぱり父親がいる同級生が、雛未はずっと羨ましかった。

 

 物心がつく前にいなくなってしまった実父。

 絆を育む前にいなくなってしまった義父。

 二度にわたる父親の喪失は、幼い雛未の心に深い傷を残した。

 誠一の優しさは、雛未のそんな心の隙間を埋めてくれたのだ。

 

 しかし、いま雛未は思う。

 自分は決して、誠一に父親代わりになってほしいわけではなかったのだと。

 それよりも、もっと、もっと深い絆を育みたい。

 誠一に女の子として見てほしい。

 自分が誠一にとっての一番になりたい。

 

 幼い恋心は、着実に女としての一面を芽生えさせ、いまこの瞬間も艶やかに育っていく。

 熱く潤んだ瞳を向けて、雛未は間近で誠一と見つめ合う。

 

「お兄ちゃん……キスして? ヒナに大人の恋……教えて?」

「ヒナちゃん……止しなさい。こんなこと、ダメだよ……」

 

 小さな桃色の唇を寄せてくる雛未を手で制しながら、誠一は顔を背ける。

 

「ヒナが子どもだからいけないの?」

「そうさ。ヒナちゃんにはまだ早いよ。こういうことは大きくなって本気で好きになった相手と……」

「ヒナ、本気でお兄ちゃんのこと好きよ? ママやお姉ちゃんたちにも負けないくらい……お兄ちゃんだけ特別なの。他の男の人じゃ絶対にいやだもん」

「ヒナちゃん! いい加減にしないと、本気で怒るよ?」

「嘘。お兄ちゃんも本当はいやじゃないんでしょ? だって、ほら……」

「あっ」

 

 雛未は誠一の胸元に耳を押し当てる。

 激しい鼓動が聞こえてくる。

 

「お兄ちゃんのお胸、とってもドクンドクンしてる……。ヒナで、ドキドキしてくれているのね? 嬉しい……」

「ヒナちゃん……これは、その……」

「お兄ちゃん。ヒナのお胸触って? ヒナもね? いまとってもドキドキしてるの」

 

 誠一の手を優しく取って、雛未はその豊かな乳房に導こうとする。

 

「ヒナ、まだ身体は小さいけど、お胸とお尻はもう大人なのよ? お兄ちゃんのこと、きっと満足させてあげられるわ。ねえ、お兄ちゃん。ヒナのこと大人にして? お兄ちゃんの手で……ね?」

「ヒナちゃん……いったい、どこでそんなことを覚えてきたんだい?」

 

 メブキのことを素直に話すと、誠一は呆れを通り越して、何やら耐えがたい苦痛を抱えるような顔をしだした。

 

「お兄ちゃん? どうしてそんな悲しいお顔をするの? ヒナが悪い子だから?」

「ううん。ヒナちゃんは悪くないよ。ただ……ちょっと怖くなっただけだよ」

「怖い? 何が怖いのお兄ちゃん? ヒナがヨシヨシしてあげる」

 

 俯く誠一の頭を、雛未は優しく撫でた。

 そんないつもどおりの雛未を見て安堵したのか、誠一は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ヒナちゃんのこと、本当に好きだよ? ヒナちゃんの気持ちも嬉しい。……でもね? ダメなんだ。その気持ちには、どうしても応えてあげられない……」

 

 雛未の思いを真剣なものと理解してか、誠一は本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

 

「どうしてダメなの? やっぱり本当はヒナのこと嫌いなの?」

「違うよ。違うんだ。ただ……俺に原因があるんだ。ヒナちゃんは、本当に何も悪くないんだよ?」

 

 そう言って誠一は、ますます悲しげな顔を浮かべた。

 そんな誠一を見ていると、雛未も切なくなってきた。

 腰を上げて、誠一を豊かな胸元に抱き寄せる。

 

「ヒ、ヒナちゃん?」

「お兄ちゃん……イイコいいこ……泣かないで?」

「お、俺は泣いてなんかいないよ?」

「ううん。お兄ちゃん、心の中で泣いてる。何か、とても辛いことがあるのね? かわいそうなお兄ちゃん……ヒナが慰めてあげる」

 

 誠一の心の痛みを敏感に感じ取った雛未は、より深く柔らかな胸の中に愛しい相手を包み込んだ。

 

「お兄ちゃん。ヒナじゃ力になれない? ヒナ、お兄ちゃんのお役に立ちたいの。ヒナにできることなら、何でもするよ?」

「……ありがとう、ヒナちゃん。でも、こればっかりは、どうすることもできないんだ。きっと誰も、解決できない」

「どうして? どうしてそんなこと決めつけるの?」

「わかるんだ。自分のことだから……。いいんだヒナちゃん。これは俺自身の問題だから」

「……それって、ヒナたちにも言えないことなの?」

「……うん。ごめん。言えないというか……言いたくないんだ。特に、君たち家族だけには」

 

 それっきり、誠一は黙ってしまった。

 あの優しい誠一が、自分たちだけに隠し事をしているなんて。

 素直にショックだった。

 でも、それ以上に寂しかった。

 こんなにも密着しているのに、誠一がとても遠い場所に居るように、雛未には感じられた。

 誠一には、ときどきそういうことがある。

 こことは違う、ずっとずっと遠いところに思いを馳せているような瞬間が。

 そのときの誠一は、とても辛そうで、悲しそうだった。

 

(お兄ちゃん……そんなお顔しないで? ヒナ、お兄ちゃんに笑っていてほしいの。どうしたら、お兄ちゃんは幸せになれるの?)

 

 尋ねたところで、誠一はきっと答えてくれないのだろう。

 わからない。

 いったい誠一はひとりで何を抱えているのだろう?

 

 ただハッキリとわかったことがある。

 メブキから教わった方法では、きっと誠一を幸せにすることはできないのだと。

 

 ……そして、幼い自分ひとりでは、誠一の心の壁を取り払うことは、決してできないのだと。

 

(ヒナはお兄ちゃんが好き。ママもお姉ちゃんたちもお兄ちゃんが好き。……なら、皆で力を合わせれば、お兄ちゃんを助けてあげられるのかな?)

 

 大好きな人を独り占めしたい。いつのまにか、そんな独占欲は薄れていた。

 そのとき雛未の頭の中を占めていたのは「どうすれば誠一を幸せにできるのか。どうすれば家族が揃って幸せになれるのか」……その方法を探すことばかりだった。

 


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