八本指を強化してみた 作:こさっく
円卓の会議
円卓に座るのは九人の男女だった。
八本指――そう称される組織の各部門支配者達は席を囲み、後ろの部下へと会話を交わしながらも、時折一つの席へと視線を向ける。それはまるで、その一人の機嫌を損ねないように、刺激しないようにしているようでもあった。
その目線の先にいるのは一人。部下など要らないとばかりに誰をも伴わないその存在は、椅子に座り直すとゆっくりと口を開く。
「――んじゃあ、揃ったことだし会議を始めようぜ」
それは、一人の小さな少女であった。本来ならこの場に似つかわしくない彼女は、だが反してあまりにも暗い雰囲気を纏わりつかせていた。長い黒髪を垂らし、毒々しい紫の瞳を歪ませて円卓を見渡す。
それに呼応したのは、この会議の進行役であり、纏め役である一人の男。
「そうだな。では、定例会を始めよう」
水神の聖印を下げたその男は、少女を片目に口を開いた。
「幾つかの議題があるが、最初に片付けるべきものは――ヒルマ」
「あいよ」
声の先は白い女だった。その女はキセルを中指と人差し指で挟み、ふわ、とわざとらしい欠伸をする。
そして、チラリと黒髪の少女へ目を向ける。ヒルマを興味深そうに見つめる少女を認めると、すぐに視線を前に戻した。
「……知ってるだろうけど、うちの麻薬栽培施設が襲われてね。とんだ出費だよ」
「その相手の情報はなにか持っていないのか?」
「ないね。完璧だよ……だからこそ、想像出来なくもないけどね」
「どの色だ?」
同時、全ての――黒髪の少女以外の顔が軽く歪む。その問いかけだけで察した者達は、だがすぐにその感情を圧し殺した。
「知らないよ。判明したのはさっきだよ。そこまで手が回るもんかね」
「そうか。では全員、そう言うことだ。なにか情報を持ってる者は手をあげよ」
そしてかけられたその言葉に――挙げられたのは一つの細い手。黒髪の少女が、瞳を爛々と煌めかせ、ゆっくりと手を円卓に下ろす。
「……メストレティア」
指名とも、驚きゆえに単に名を呼んだとも取れるその言葉。それを指名と受け取った少女は、ヒルマが軽く目を見開き唾を飲み込んだのと同時にトントンと机を叩き始める。
「まぁさ、別に確定するってわけじゃあねぇんだが……冒険者組合。あるだろ?」
「……ああ。あんたが冒険者組合のどこかしらに伝手があるのは知ってるよ」
警備部門の長、メストレティア。かつてその席に座っていた男――ゼロを完膚なきまでに叩きのめし、今はそれを傘下にすら抱える少女。
余りにも若く、余りにも歪で――余りにも強すぎる彼女。
この場にいる全員がそれを知っている。かつて、一人で王国を落とせるのではと思わせるほどの力を見せつけた彼女の笑みは、最早違う意味合いすら含んでいるように錯覚させた。
各部門の護衛達がビクリと震えるが、それは武者震いなどではない。ただ、彼女と戦うことの意味を正しく理解しているがゆえの震えだった。
それを無視してメストレティアは続ける。
「おう、それ関係だ。それなりの期間、依頼を受けてねぇグループがある。まぁ大きな依頼の用意とかの可能性は捨てれねぇが……他の動向とかも見ても、恐らく確定だろうよ」
「……それで、どの色なのさ」
「ま、もったいぶってもしかたねぇ。『蒼』だよ、蒼」
「――そうかい」
それを聞き、ヒルマは軽くため息を吐く。貴族、それも王族と仲の良い。
手を出しづらいどこころではない。いや、メストレティアに頼み込めばあるいは――、
「――で、だ。ここからが本題。ヒルマ、てめぇ
「……いらないよ」
周りの長達を横目で見渡しながら、眉間にしわを寄せる。
――かつて、中心と呼べる存在の居なかった八本指は、本当の意味で『集まり』だった。少なくとも、協力関係にあると大手を振って言えるような仲ではなかったのは確かだ。
だが、それはメストレティアの出現で変わった。否、変わらざるを得なかった。
対等だったゼロが潰された。それだけならまだよかった。長が変わったことも、受け入れられた。どうやって互いの利権を奪い合うかを考える暇があった。
この少女が、本当の意味での『化け物』でなければ。
初めて見る奴等に力を見せてやろうと言う、単なる脅し。
『――私様をなめるなよ?』と。聞こえてきた幻聴は、ただそれだけの意味合いだったのだろう。
だが、その光景は八本指の――警備部門は除くが――意思を固く統一した。
ちょっかいを掛け合う関係ではなく、どのようにメストレティアと対等に付き合うかの関係。あまりに強大な個は、他の者達の結束を招いた。
そしてヒルマは、この会議の前の話し合いを思い出しながら流し目をする。
「ほぅ?私様の誘いを断るってのか?」
「ああ」
「言うねぇ」
くっくっ、と引きつらせるような笑いを見せるメストレティアに、だがヒルマは面持ちを崩さず言葉を吐き出す。
「……でも待ちなよ、メストレティア。なにも私は単に断るっていってるんじゃない」
「――その話、私が代わりに受けたいわん」
「……ほぉ?」
線の細い男。奴隷部門を扱うコッコドールが声をあげると、それに追従してメストレティアは視線を流す。
「結構な厄介事が生じちゃったのよん。貴女程とは言わないけれど、少なくとも六腕クラスの精鋭中の精鋭を雇いたいの」
「なるほどなぁ……構わねえさ。いいぜ、その話受けてやる。まぁ、安心するんだな。コッコドール。お前の財産には、私様がいればこの世界の何者も――神だろうと手出しはさせねぇ」
「すまないわねん。契約金あたりの話は会議が終わったらすぐでいいかしら?実はすぐにやってほしい仕事かあるのよ」
「――いいぜ、構わねぇ」
「…………では次の議題に移るぞ。新たに誕生したアダマンタイト級冒険者である漆黒のモモンに関して知っている者。勧誘をかけた者はいるか?」