八本指を強化してみた   作:こさっく

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襲撃の夜明け

 「今回、お前らは厄介払いに終始しろ」

 

 道なき道を駆ける集団。黒いローブを纏った彼ら彼女ら。その中で一際離れて先頭を駆ける小柄な影が唸るように声を吐き出す。

 靡く言葉が耳に入る。それを聞き取ったのは後ろの黒ローブ達であった。

 

 「……我々はサキュロント様の代理でここにいます。貴女様のお役に立て、との事です」

 

 後ろの集団の一人がそう提言すると、小柄なそれは細めた瞳を背後へと向ける。明示しないまでも、その意味を読み取った彼女は巡る景色の中、口の内で何度か言の葉を転がすと、吟味するようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 「私様はな、()()()()んだ。お前らを明らかな死地に追いやる事はしたくねぇ」

 

 「──っ」

 

 それは衝撃的な発言だった。その言葉は、『自分達が負ける』と遠回りながらもハッキリと伝えてくる。

 そしてその言葉の内容は、あり得てはならない発言。失敗は許されない彼らが取るべき行動は本来なら『最善』である。例え竜の(アギト)に等しい死地であろうと、臆する事なく進まなければならない筈だ。

 だが、その逡巡は一瞬。

 

 「承りました。ご命令通りに」

 

 そしてそれを確かに聞き取った少女は、裂けるような笑みを頬に称える。

 煌々と煌めく紫の瞳孔がローブから覗き──、

 

 

 「おう、任せな。私様に負けはねぇ。例えそれが……神にも等しい存在だとしてもな」

 

 

 一種の確信を持ったその言葉は、流水に落ちた木の葉のように風に巻き込まれ、そして。馴染む様に虚空へと消えた。

 

 

 ◇◆

 

 

 『今回の依頼だがな、予感がするんだ』

 

 薄暗い道を進むコッコドールの脳裏に浮かぶのは、禍々しい紫の瞳を歪ませる一人の少女の姿。会議の後、契約が一通り纏まった後で。

 黄昏れる様に呟いたそれは、今回の依頼が彼女にとっていつもとは違う事を示していた。

 

 『あぁ、私様が出るからって別に金は構わねぇさ。これは私様のわがままだからな……ただ、ひしひしと感じるんだよ。むしろ、って言うべきなのかは知らねぇが……私様は確信すらしているんだぜ?』

 

 浮かんでは消え、浮かんでは消え──泡沫の夢のように形を作り、崩し。そして明確に姿を取るのは欲望に滾る悪魔を彷彿とさせるほどに爛々と煌めく紫の瞳。

 ニヤリ、と。いつも通りに彼女は頬を歪めて言った。

 

 『──私様を楽しませてくれる奴らが来た、ってな』

 

 あまりにも異様な雰囲気を纏っていた彼女に、コッコドールは何も言うことが出来なかった。あの時臆せず口を開いていれば、何かを知ることが出来たのだろうか。

 

 いや、考えるだけ無駄だとコッコドールは首を振る。どちらにせよ、彼女の力を借りなければ奴隷事業の衰退もあり得るのだ。無駄口は叩けなかった。

 

 だが今目の前を歩むのは、メストレティアの厚意によって付けられた護衛、『幻魔』サキュロント。つまり、今はメストレティアに近しい唯一の集団である六腕、その一人と直接話せる数少ない機会。

 メストレティアと進行役を抜いた七人で話し合った事を脳裏に過らせながら、慎重に言葉を紡ぐ。

 

 「……ねえ、貴方達の長は何を考えてるのよん」

 

 ため息と共に吐き出された言葉が空に砕け、先導する男に伝わる。サキュロントはそれを聞き、足を止めた。何度か逡巡すると、やがてコッコドールと同じように大きなため息交じりで言葉を濁す。

 

 「いやぁ……俺らには分からないですね。正直、あの方の考えてる事は到底計り知れるものじゃないんですよ」

 

 「無粋な事を聞いちゃったかしらん?」

 

 「いえ、いいですよ。俺らも困惑してますしね……まぁ、あの方に任せておけば問題ないと思いますよ?」

 

 サキュロントの言葉に滲むのは、諦観と羨望と──そして絶対的な信頼感。言葉身なりは変わらずとも、かつてのサキュロントの様相からかけ離れたその姿をコッコドールは見据える。

 

 「……そうねん。そうさせてもらうわ」

 

 ポッカリと穴の空いた響きだけが、虚しく空に反響していた。




 
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