八本指を強化してみた 作:こさっく
「頃合いでしょう」
セバスは歩みを止めた。
女──ツアレを助け出し、治療を終え。その後、いつものように散策を行っていたセバスは、途中から後ろを付けるそれらに気が付いていた。
夕暮れが垣間見える中、行き当たりとは言え、石畳の街路にも関わらず閑散としたそこにはひと一人居なかった。
セバスはゆっくりと後ろへ鋭い瞳を向ける。
「先程から付いて来られていたようですが……どなたでしょう?」
そして呼応するように路上へ滲み出たのは六つの影だった。ローブに身を包み、行灯とした雰囲気を纏うそれらは、身じろぎ一つせずにセバスを見詰めていた。
「何の返事も頂けないとは、随分とシャイな方々のようですね……何故私を付けていたのかお聞きしても?」
それに応じたのは、中でも一番小柄な黒ローブだった。一歩前へ踏み出し、そしてその中から紫の瞳が覗く。
そして、彼女はゆっくりとローブを引き剥がした。脱ぎ捨てられたローブが地面へパサリと落ち、掠れた音をたてる。
そして現れたのは、小柄な一人の少女。
「──あぁ、私様にそんな事聞くなんて野暮も良いところだぜ?」
それを目にし、驚愕を隠さずセバスは軽く目を見開く。いかにも『顔を見られたくない』とばかりに深く被ったローブを容易く脱ぎ去るという、予想の外にある行動と、なによりその姿見。
「まだお若いようですが……」
「それも余計なお世話ってやつだぜ、お前様よ。んじゃ、本題に戻ろうぜ。あぁ、だけどな。私様は歯に衣着せて物を言うなんて慣れてねぇ。目的っつったな?直接言うぜ?
──お前様、私様の店から従業員一人持ってったな?」
そして、放たれた言葉にセバスは雰囲気を変える。多少の躊躇いがあったその闘気から濁りが完全に梳いて溶かれ、残ったのは鋭いそれのみ。
しかし、多少の違和感を感じたセバスは疑問を口にする。
「従業員、と言うのは分かりませんが、傷付いていた女性一人をこちらで保護致しました。
……それで、貴女があの店を取り仕切るトップ、と言うことでしょうか?」
「まぁ一応、八本指の部門長を担わせて貰ってるな。『八本』って言うだけあって、私様じゃその内一部門のトップに過ぎねぇがな」
一息付いた少女は、同時。サッと手を上げた。そして流れるように黒ローブ達が散開する。
それを警戒するようにセバスが右へ左へと視線を迷わせるのを、少女は面白そうに見詰める。
「そっちは気にしなくて良いぜ。アイツらはお前様にも私様にも手出しは厳禁って厳命してあるからな」
空白。幼い少女らしからぬ動作で、目の前の少女は頭をボリボリと掻く。それにつられるように黒髪がゆらゆらと揺れる。
「……んでまぁ、それ前提に、だ」
少女の雰囲気が変わったことを悟り、セバスは辺りの気配を探りながら、ジリジリと臨戦態勢へと移る。その最中、チラリと視界の影に白い靄が映る。それに違和感を感じ、思わず目で追おうとし──、
「──死ね」
──瞬間、弾けた。