八本指を強化してみた 作:こさっく
──轟音。
巨石が落ちてきたのかと思わせる程の音に、同時。発生する爆風。
ギリギリと音をたてながら、セバスは少女の右手の振るいを受け止めた左腕を右手で支える。拮抗は数秒。超重量のかかっているであろう石畳がバキリと嫌な音をたてた。
「……む」
このままでは不味いと悟ったセバスは、少女の力に流されるように体勢を右へと崩しながら拳を握る。
溜めは一瞬だった。躊躇はない。それを許してくれる相手ではないと理解した故に、拳は容赦の一滴も零させない程の殺意を持って放たれた。
そして爆弾でも爆発したのかと言うほどの爆音が世界を揺らし──少女の無防備な腹へと突き刺さり、衝撃が走る。
くるみが割れる様な音をたてて少女は弾けた。ドンッ、と一拍遅れた振動が鳴り、少女は石畳の上を滑るように弾き飛ばされる。
両の足は地面を抑え続け、やがて靴から薄い煙の様な物を流しながら少女は顔を俯かせて停止した。
それを瞳で捉えながら再度拳を握り込む。それは、あの程度で少女が倒れるはずがないと言うことがわかりきっているから。
(……重い。レベル八十、いや、九十はありますか)
そしてセバスの感覚で弾き出されたレベルの概算は、この世界の基準と思われる物を遙かに凌駕した数値。八本指と言う組織は確か王国の裏社会を牛耳っている、と聞いた。
たらりと冷や汗が流れる。
少女の言葉に嘘がないと仮定すれば、『八本指』の各部門のトップは皆これほどの力を持っていることになる。そしてそれは、これまで得た情報全てが無に帰してしまう可能性を秘めた代物だった。
(これは即時撤退も視野に入れておくべきでしょう)
単なる王都遊覧のつもりが、途轍もないやぶ蛇をつついたようだった。この情報を主へと伝えなければと言う思いが頭で回り続ける。
「……やるねぇ」
そして、笑い声を抑えるような響きが少女から放たれる。警戒するように瞳を揺らすが、それは少女の笑い声で否定された。
「ククク……──あぁ、安心しな。他の奴らは来ねぇよ。これは私様の問題だ。私様が片を付けなきゃならねぇ」
「しがらみ、と言う物でしょうか?」
「そうとも言うかもしれねぇな。だけどよ、これでも私様はアイツらを信用してるんだぜ?」
「……貴女程の強者が、誰かと対等である、と?」
面白そうに一頻り笑うと、少女は歪に瞳を歪めた。
「あぁよ。私様とアイツらに、立場の違いなんてもんはありゃしねぇ」
「そうですか」
フッ、とセバスは一息付く。嘘であろうと、無かろうと。これは主へ伝えなければならない情報だ。
「我が主へとこの脅威をお伝えしなさい。我らを殺し得る存在がいる、と」
そして、セバスは少女から欠片も目を離さず、
ならば、己が少女を抑えれば
そしてその予想は瞬きの間に覆された。
「──おっと、それは許せねぇな」
バクン、と何かを喰らう様な音が鳴り、そして。セバスの後ろに少女はいた。爆風が一拍遅れて吹き荒れる。目を見開く。
「ッ!!」
足に力を込める。加減の無い跳躍に石畳が遂に弾ける。振り切るのは大気。その流れを感じながら空中で反転する。衝撃波を撒き散らしながら足を地へ付け、摩擦を起こしながら停止。一息付いた頃には先程と位置が逆転していた。
そして、手を付きながらゆっくりと瞳を向けた先──少女の手には、
真っ白な霧が沸き出し、
「……随分と情熱的な方ですね。少しのよそ見も許して頂けないとは」
──警戒。
(なにより、あの白い霧、何らかのスキルによる物……いえ、種族的な特徴とも考えられますね。そして、あの移動速度……『武技』と言われる物か、もしくは──)
そして過るのは、あり得てはならない考え。
疑問がセバスの頭に回り続ける。それをセバスの顔から見て取ったのか、少女は口をゆっくりと開く。
「……ん、あぁ。飛ばしすぎちまったみてぇだな……お前様がどこまでなのか確かめたくてな。手を抜いてたっつー訳じゃねぇ。悪ぃな」
「……なるほど」
嘆息。ある意味では不確定な情報を送らなかったことを喜ぶべきかも知れない。今伝えられるなら、セバスはこう
「あー、そういや一応聞いときてぇ事があったんだ。忘れてたぜ」
ふと思い出したように少女が口を開く。そして、それを聞きセバスは固まった。トントンと人差し指で頭を叩く音が響く。
「んーと?なんだっけな……真っ赤な鎧野郎に真っ黒な鎧野郎と真っ青な鎧野郎……あー、あと眼鏡かけた珍妙な服着た悪魔……」
『そういやぁ、まだいたな』と流暢に語り出す少女をしっかりと捉えながらも、余りの驚愕に身を凍らせている最中。そして、最後に放たれた言葉にセバスは大きく目を見開いた。
「──変に偉そうにしてるガイコツだ。コイツら、お前様知らねぇか?」
間違えているところがあれば教え頂けるとありがたいです!