八本指を強化してみた   作:こさっく

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正体

 「……さて、私には分かりかねます」

 

 「ほぉ?」

 

 少女の瞳が細くすぼめられる。その反応から、セバスは対話で時間を稼ぐのを止め、逃走への準備を始める。

 

 ──確実に()()()()ことはバレている。

 

 ならば、せめてその失態を補うだけの情報を得なければならない。

 

 「……質問を」

 

 「あん?」

 

 「こちらからも一つ、質問をよろしいでしょうか?」

 

 喉の渇きを実感しながら、セバスは少女へ口を開く。やけにゆっくりと感じる時間の中、少女は楽しそうに笑った。

 

 「ん、あぁ。構わねぇさ。私様は強者と飛びっ切りの弱者、それと身内には寛容でな。今回がどれなのかは、まぁお前様の考えに任せるが……つっまんねぇ話、一つくらいは聞いてやるさ」

 

 「感謝致します」

 

 そして、軽くとは言え頭を下げる。明確な隙だ。それを長時間曝しながらも、だが少女はこちらの隙をつこうとすらしない。

 ただ面白そうにこちらを見守るのみ。これは余裕だ。これまでセバス達ナザリックの面々が持ち得てきた、『余裕』を少女は持っている。

 

 それを理解したとき、セバスは得も言われぬ感情に襲われていた。頭を上げながらセバスは察する。これは──恐怖だ。

 圧倒的強者に弱者が抱く、最も本能的にして根源的な感情。

 至高の御方々に見捨てられる。それに勝る絶望はない。だが、それと比類し、この感情は決して忘れる事の出来ないものとなるであろうことは明白だった。

 

 思わずセバスの口元に薄い笑みが浮かぶ。その脳裏に浮かんでいたのは、これまでナザリックと相対した時のこの世界の住人達の行動だった。

 

 (今なら……彼らの気持ちも理解出来るかも知れませんね)

 

 これまではそれらの生命にセバスは、憐憫と慈愛、そして余りの無礼には怒りを抱いていた。決して『同情』や『理解』など、同じ立場に立っていなかった。だが、今ならもしかするとそれらを理解することが出来るかも知れない。

 

 そして、紫紺の瞳をしっかりと見据えセバスは覚悟を決める。

 

 「……貴女は一体、何なのでしょう?」

 

 一息に吐き出された言葉が少女に伝わる。それを耳にした少女は、不思議そうに首を傾げた。

 

 「私様が『なに』かぁ?んん?まぁ聞いちまったもんはしょうがねぇ。んーと、そうだな。あー、良い言葉が思い付かねぇ。本来なら八本指の一トップで済ませるんだが……」

 

 そして、一拍。朗々と響いた言葉は、セバスの脳裏に驚愕を刻み込む。

 

 

 「強いて言うなら、あー、そうだな──《人類の守護者》メストレティア……とでも名乗っとこうじゃねぇか」

 

 

 醜悪とすら捉えられる悪意に満ちたその笑みで、少女は──メストレティアは、ゆっくりとそう言い放った。

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