八本指を強化してみた 作:こさっく
「……なるほど、ありがとうございます」
「礼なんかいらねぇさ。私様も私様自身の事が分かってるなんて口が裂けても言えねぇしな。ま、それに──」
一度言葉を句切ると、メストレティアは大きく欠伸をする。それにセバスが薄ら寒いものを感じ、拳を構える。張り詰めた空気が辺りを浸食する。
そしてふわぁ、と眠そうな瞳に涙を滲ませ、メストレティアは言葉を続けた。
「──お前様はここで死ぬんだからな」
そして真後ろから響いたその声に、セバスが咄嗟に振り向き──鮮血が散った。
◆◇
(遅いなぁ……ソリュシャンからはそろそろ戻る筈だ、って聞いてたのに……)
屋敷の一室でアインズはセバスの帰宅を待っていた。勿論、それは確たる理由があって物だ。
『セバスが裏切っているかもしれない』
その情報がソルシャンからもたらされると同時、アインズはセバスと直接対面することを決めた。まさかとは思うが、シャルティアと言う前例がある。一番の指標となる、反旗を示す名前の色の変更は見られなかったが……。
しかし、懸念は捨てきれなかった。ゆえにすぐさまセバスから事情を聞こうと行動したのだが、
(……この調子だと、本当に……いやいや、疑ってかかるのはよくない。いや、待てよ……とんでもないイレギュラーが起きてそっちの処理に追われてる、とかか?
いや、だけどそれならそれで、
巡る疑問は、やがて大きな懐疑を生み出す。アインズは鎌首をもたげ始めたそれをどうにか否定しようと頭を捻る。
ライトブルーの武人、コキュートスと思案深げに瞳を揺らす悪魔──デミウルゴス。デミウルゴスが抱える胎児にも似た歪な天使が視界に入ると、スッと目を逸した。
(だけど、セバスが拾った人間の事を報告してない、ってのが重いよなぁ……)
そうだ。なによりも、アインズがセバスの背任を否定しきれないのはそれが理由だ。デミウルゴスが確認してもこれまでの報告書にそのような記載は無かったと述べ、更にソリュシャンから見ても異様な行動が目立っていたらしい。
その報告を受けたデミウルゴスが懸念の声をあげ、それにアインズが追従する形でここまで来た。だが、いざ来てみると不安の一途。
「アインズ様、ご心配なさられる必要はないかと。なにかあろうとも、私とコキュートス、そしてヴィクティムがおります。セバスの忠誠があればよし、無ければ──……やはり少々不安ではありますが」
デミウルゴスが不敵な笑みを浮かべながらアインズへと提言する。
それにアインズが声をあげようとし──
「──セバス様!!どうなされたのですか!?そのような格好で──」
「──今はそのような場合ではありません!ソリュシャン!!すぐにアインズ様に連絡を!!早急に伝えなければならない情報があります!!」
「今アインズ様はこの屋敷に──セバス様!一旦落ち着いて下さい!一体どのような情報だと言うのですか!!」
慌ただしい音が扉の外で鳴り響く。それは、ドタドタと言うような激しい音であった。だが、ここにいるのは人外の者達。故に聞き取れた、微かに混じる液体が地面へと滴り落ちる音。
余りの異常さに静止する世界の中、次の瞬間放たれたセバスの発言。そしてそれを聞き、場の全員が凍り付いた。
「今すぐ報告するのです、ソリュシャン!私を──守護者を殺し得る存在がいる、と!!」