ミサトはシンジの大好きなお姉さん ~碇シンジ養育計画~   作:朝陽晴空

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蘇る死者

 少し歪な形でありながらも家族としてのかたちを取り戻したシンジとミサトとアスカ。

 シンジとアスカは緩やかな交際を始め、ミサトは温かい目で二人を見守る。

 しかしその生活もずっと続くものではないと三人とも分かっていた。

 シンジとアスカが高校を卒業する時、決断を下さなければならないのだ。

 シェアハウスと言う言葉で誤魔化して、この家に居続けることは出来る。

 だがシンジも忘れかけていたが、この家は碇ゲンドウが残した家なのだ。

 だからシンジとアスカが住み続ける事になっても、ミサトが出て行く事になる。

 

「家賃を払い続けてくれたのはミサトさんですから、この家はミサトさんのものです」

「シンジ君の気持ちは有難いけどね、そう言う訳にもいかないのよ」

 

 シンジとアスカの成人を持って、ミサトは保護者の地位からも外れる。

 それからやっとミサトの自身の人生が始まるのだ。

 ミサトはシンジから貰ったネックレスを握り締めた。

 どんな結論になろうとも、三人で暮らせる今のこの時間は貴重なものだから大切にしようと誓い合うのだった。

 それでもミサトは何か悩みを抱えているようにシンジは気が付いた。

 特に変わったと気が付いたのは、ミサトがネルフの人たちに警戒しているような態度をとるようになっている事だ。

 全面的にネルフを信頼していた頃のミサトの笑顔が無い。

 ネルフに居る時のミサトは周囲を探るような目をしていた。

 そんなミサトの気持ちは家族であるシンジとアスカにも伝播していた。

 とても優しい好々爺のように見えるコウゾウにも何か裏があるように思えるし、スポンサーであるキール会長への不信は頂点に達していた。

 ミサトを避けてコソコソと動いているリョウジも気になっているし、シンジはリツコも近づき難い存在になっていた。

 せめて学校では軽音楽部で楽しい生活を送りたいと思っていた矢先、マナが怪しげな相手と連絡を取っていたのをシンジは聞いてしまったのだった。

 

「はい、霧島軍曹、これからも適格者の監視を続行します」

 

 マナに問い詰めれば軽音楽部の関係も壊れてしまう気がした。

 そんな表面上は安定していても、水面下では不安定な情勢の中、新たな出動命令が下った。

 

 

 

「今度の使徒の正体については不明、となっていますが?」

 

 ミサトはほとんどの部分が“Unknown”と書かれた資料を見て、コウゾウに厳しい視線を向けた。

 

「うむ、つい最近になって現れた使徒で、アンノと呼称される事となった」

「使徒アンノですか……この世界の創造神と同じとは大層な名前ですね」

 

 コウゾウの言葉にミサトは珍しく皮肉めいた言い方をした。

 まるで初めて会った頃のような信頼の無い冷たい空気が司令室を満たす。

 

「使徒アンノは黒頭巾の覆面で顔を隠し、黒いマントにパンツ一丁の大柄な男だとの話だ」

「何よ、その変質者みたいな恰好……」

 

 コウゾウの話を聞いたアスカは呆れた顔でため息を漏らした。

 

「黒い手袋や靴から繰り出されるパンチやキックはかなりの強さで、ATフィールドを込めた武器等も素手で受け止められているらしい」

「じゃあかなり強いんですね」

 

 シンジとアスカとレイにはもうマゴロクソードもソニックグレイブもおっぱいミサイルも無い。

 コウゾウの説明を聞いて緊張が走った。

 ミサトのオリハルコン製のメジャーも折れたままで、前に使っていた布製メジャーで戦うしかなかった。

 

「アンノはネルフ本部地下にある『ある物』を狙って襲撃して来る。君たちの使命はアンノの地下施設侵入を何としてでも阻止する事だ」

 

 コウゾウの言葉を聞いてミサトの目が光った。

 

「司令、その『ある物』とは一体何でしょうか?」

「その事について話すのは禁則事項だ。地下施設の扉は厳重にロックしてあるが、中の物を見たら君たちも処分の対象だ、分かったかね?」

 

 そう話すコウゾウの表情は厳しいものがあった。

 正体不明のものを正体不明の襲撃者から守らなければならない、ミサトたちにとっては不満のある任務だった。

 リツコもミサトたちが不審な動きをしないか監視してる様子で、落ち着かない感じだった。

 リョウジの姿も先程から見当たらない。

 

「今までの戦いと違って、負けたら即ゲームオーバーって感じね」

 

 アスカがそう呟いた。

 シンジたちは今までにない緊張感で使徒を待ち受けた。

 

 

 

 ドォォォォォン!

 大きな爆音と共に使徒アンノはネルフ地下施設への侵入を開始した。

 

「パターン青、使徒です! ば、化け物か!?」

「うそっ、特殊装甲板をパンチで砕いたって言うの!?」

 

 マコトとマヤは悲鳴に近い声を上げた。

 第三新東京市とネルフ地下施設の地面の間には、何層もの特殊装甲板が重なっている。

 アンノは拳を真下の地面に向かって振り下ろし、モグラのように地面を掘削し特殊装甲板もパンチで貫いたのだ。

 何層もの特殊装甲板があるとはいえ、ぶち破られるのは時間の問題だろう。

 一階のネルフ本社入口に居たシンジたちは急いで地下直通エレベータに乗り込む。

 常識外れの侵入方法に、シンジたちの使徒侵入水際阻止作戦は失敗したのだ。

 何とかシンジたちは先回りしてアンノを待ち受けることが出来た。

 背後には守るべき地下施設へのゲート。

 ここを突破されればミッション失敗となる。

 天井が突き破られ、穴から黒頭巾の覆面とマントをたなびかせて大柄の男が降り立った。

 服装は資料通り乳首も腹筋も肉体美丸出しのパンツ一丁だった。

 

「出たわね、変態使徒! よくもその格好で街を歩いて職質されなかったわね」

 

 アスカがアンノを指差してビシッとそう言っても、アンノは押し黙っていた。

 黒頭巾の下の表情は誰も見えない。

 アンノの前に立ち塞がっても、パワーでは勝てない事はミサトには分かっていた。

 

「彼の戦闘力は5,000。碇君の戦闘力は2,000前後だから、格闘戦では勝てないわ」

「綾波、何でそんな事が分かるの?」

「ボーイスカウター。赤木博士に作ってもらった」

「アイツはオッサンにしか見えないけど」

 

 アンノは勝利を確信しているのか、ゆっくりとシンジたちに近づいて来る。

 自分たちは最強の男と言われた使徒ゼットウに勝っている。

 油断させれば勝機があるとシンジたちは希望を持っていた。

 大柄な男はシンジたちに向かって怪しげな念仏を唱え始めた。

 

 「羅李砲……」

 

 するとシンジたちは強力な睡魔に襲われて跪いた。

 脳筋だと思っていた使徒が催眠術を使うとは、油断していたのはミサトたちの方だった。

 これではアンノは易々とスヤスヤと寝ているシンジたちをすり抜けてネルフの地下施設、セントラルドグマへと侵入してしまう。

 その時レイの身体のスピーカーからジャイアンツの歌が大音量で流れた。

 

《闘魂こめて 大空へ 球は飛ぶ飛ぶ 炎と燃えて》

 

 歌に闘志をもらったシンジたちは立ち上がった。

 自分たちより強い相手とも戦う勇気が湧いて来た。

 

「このおっ!」

 

 シンジが正面から繰り出したストレートパンチを、アンノは両手で受け止めた。

 生半可なATフィールドでは、シンジの腕の方がへし折れてしまう所だった。

 しかしシンジの全力を込めたパンチはアンノに当てることが出来た。

 

「無駄なエネルギーを使っているんじゃないわよ、バカシンジ!」

 

 そう言いながらもアスカは、隙が出来たアンノの首に向かって旋風脚を放った。

 アンノの首を捉えたはずのアスカのキックは弾き飛ばされてしまった。

 弱点であるはずの首を攻撃しても動じない敵相手に、シンジたちは動揺した。

 ATフィールドを全く持たないミサトがキックを当てれば、ミサトの足の方が折れてしまう。

 ミサトは自分の無力さに歯ぎしりしながらも、布製メジャーでアンノを拘束し、遠心力で投げ付ける事で少しでもダメージを与えようと考えていた。

 しかしアンノは獣のようにミサトの放ったメジャーを引きちぎってしまう。

 

「碇君、アスカ、バラバラに戦っていても勝てないわ」

「それならどうすれば良いのよ?」

 

 レイはシンジとアスカを手招きして、内緒話をした。

 アンノはその間余裕でそのまま仁王立ちをしていた。

 シンジとアスカとレイは三人で散開してアンノを囲むように立った。

 

「「「トライアングルアターーック!!!」」」

 

 三人は同時にアンノの頭に向かってユニゾンキックを炸裂させた。

 しかしアンノは少し体をぐらつかせただけで、堪えていない様子だった。

 

「使徒は頭部にATフィールドを集中させて防御していたんだわ!」

 

 ミサトが悔しそうに叫んだ。

 せっかくの必殺攻撃も、狙っている場所がバレバレでは決まらなかった。

 シンジたちはATフィールドを使い果たし、地面へとへたり込んでしまった。

 ミサトは動くことが出来るが、これでは完全敗北だ。

 アンノはセントラルドグマを覆い隠す壁に大穴を開けた。

 するとミサトの目にも、セントラルドグマの中心に安置された白い女神像のような物体が見えた。

 

「まさか……ユイさん!?」

 

 白い石像のようになってしまっているが、そのシルエットはミサトの知っている碇ユイ博士にそっくりだった。

 心臓のある左胸には禍々しい赤い色をした槍が突き刺さっている。

 アンノがゆっくりと白い石像に近づこうとすると、機械音声がネルフの施設内に響き渡った。

 

『セントラルドグマへの侵入者を確認。コードXXXの発動により、ネルフ本部施設は5秒後に爆発します。5、4……』

 

 ミサトは使徒イロウル戦の時に、ネルフ本部施設には自爆装置が仕掛けられているとコウゾウから聞かされていた事を思い出した。

 しかしまさか戦術核が仕掛けられているとは。

 ネルフ本部だけではなく第三新東京市を吹き飛ばすつもりか。

 シンジたち三人のATフィールドで抑えられるものではない。

 自分が死ぬのは構わない、でもシンジを守る事が出来ないのが悔しくて涙を流した。

 無情にも爆発への、死へのカウントダウンは止まらない。

 

「むんっ!」

 

 アンノが自爆装置に向かって跳躍し、ATフィールドを展開させているのがミサトには見えた。

 まさか爆発をATフィールドで抑え込もうと言うのか。

 シンジたちの数倍の力を持つとはいえ、無茶が過ぎる。

 そして爆発は起き、ミサトたちの視界は轟音と共に真っ白に染まった……。

 

 

 

「ミサトさん、一体何が起きたんですか?」

 

 起き上がったシンジはミサトに向かってそう尋ねた。

 

「使徒アンノはね、自分のATフィールドを全開にして爆発を抑え込んでくれたの。彼のお陰であたしたちは無事よ」

 

 ミサトはそう言って、地面に横たわるアンノを指差した。

 アンノの黒装束の覆面もビキニパンツも、爆発の衝撃で焼け焦げてしまっている。

 露になったアンノの顔を指差してミサトはシンジに告げる。

 

「使徒アンノは……あなたのお父さん、碇ゲンドウだったのよ」

「そんな……父さんは僕たちを救うために犠牲となって……」

 

 シンジは横たわるゲンドウを見て、すすり泣いた。

 

「いいえ、あなたのお父さんは、まだ生きているわ……」

 

 ミサトは顔を真っ赤にしてそう言うと、パンツが燃えて剥き出しになった部分を指差した。

 しっかりと↑の方向を向いていた。

 

「父さん、父さーん!」

 

 シンジが大声で呼び掛けると、ゲンドウは目を開いた。

 

「シンジ……頼みがある……ユイを封印しているロンギヌスの槍を抜いてくれ」

 

 ゲンドウはそう言うと、白い石像のような姿になったユイに刺さっている赤黒い槍を指差した。

 事態を察知したアスカとレイも協力して三人で槍を引き抜くと、白い石像のようだったユイに段々と血の通った赤みが指して行く。

 

「あなた……どうして……」

 

 人としての姿を取り戻したユイは悲しげな顔で呟いた。

 そしてユイの身体から、白い霧のようなものが吹き出し、白い髪、白い肌の女性の形を作って行く。

 しかしその顔はユイとは全くの別人だった。

 

「現れたな、使徒アルミサエル。ヤツは使徒を産み出す使徒だ……」

「あなたの力では、彼女は倒せない。だから私が彼女を封印していたのに、どういうつもりですか?」

 

 ユイはゲンドウに向かって怒りを示していた。

 どうやら使徒アルミサエルを封印するためのユイを封印していたものがロンギヌスの槍だったようだ。

 

「ややこしい話ね。そのロンギヌスの槍で使徒を封印すれば良かったじゃない」

「俺一人の力では無理だった。でも、今は問題ない。シンジたちが居る」

 

 ゲンドウはアスカのツッコミを完全にスルーして念仏を唱えた。

 

「辺保(略)ー!」

 

 ゲンドウがそう叫ぶと、シンジたちの体力が回復した。

 

「父さん、これは……?」

「俺が編み出した精気魔法だ。さあシンジ、ATフィールドを展開して使徒を圧し潰ぞ」

 

 使徒アルミサエルは霧の姿になって逃げようとするがもう遅い。

 ゲンドウやシンジ、アスカとレイの展開したATフィールドの檻に囲まれて逃げ場が無い。

 そして収束したATフィールドによって使徒アルミサエルは圧殺された。

 

「もしかして、渚君は……」

「使徒アルミサエルによって産み出された使徒だ」

 

 シンジの質問にゲンドウはそう答えた。

 渚カヲルが自分の母親に会えると言われて、セントラルドグマでユイの姿を見て激しく動揺した事は、この場に居ないリョウジしか知らない。

 

「でもどうして父さんと母さんが生きているの?」

「そうです、お二人は自動車事故で亡くなったはず。生きていたのなら、どうしてシンジ君に会いに来てくださらなかったのですか!?」

 

 シンジとミサトに立て続けに質問を受けたゲンドウは考え込む仕草をする。

 

「まず何から説明をすればいいか……使徒は南極大陸の永久凍土から葛城調査隊によって発見された未知のウイルスが源となっている。……そして人為的にウイルスのある永久凍土を溶かそうとした大爆発が『セカンドインパクト』だ」

「あなた……そろそろ服を着ないと……」

 

 ユイが顔を赤くしてそう言うと、シンジたちは真っ裸のゲンドウが着れるものが無いか探し始めた。

 しかしここは立入禁止区域のセントラルドグマ、服など置かれていない。

 しかもシンジやミサトたちは戦闘服であるプラグスーツに着替えている。

 ユイの着ていた服も封印されていた期間が長かったせいか風化が始まっていた。

 とりあえず話を中断して地上のネルフ本部を目指す事にしたが、ミサトに緊急の連絡が入った。

 ネルフ本部が混乱しているのはセントラルドグマで起きた爆弾騒ぎや使徒アルミサエル戦のせいかと思ったがそうではなかった。

 

「葛城さん、日本政府がネルフに対してコード八-O-1を発動させました!」

「何ですって!?」

 

 マコトの報告にミサトは驚きの声を上げた。

 

「ネルフは使徒を集めて、世界征服を狙う悪の組織とされていますよ」

「まさか、シンジ君たちが使徒だって言うの!?」

 

 ミサトが激昂してそう叫ぶと、シンジたちは驚いて跳び上がった。

 父と母とも再会し、使徒も倒して幸せな日々を送れるかもしれないと思っていた希望が逆転した。

 マコトの話では戦略自衛隊だけではなくアメリカのSOCOMやイギリスのSAS、ロシアのスペツナズまでもがネルフ侵攻のために集まっているのだと言う。

 そしてシンジたちを殲滅させるため、世界各地から使徒が呼び寄せられている。

 

「こんな事が出来るのは奴しか居ない。遂に動き出したか」

「あなた……」

 

 ユイは不安げな表情でゲンドウに抱き付いた。

 この事件の黒幕はネルフ司令のコウゾウではないかと疑っていたミサトだが、彼にはこのような事が出来ないとミサトは考え直した。

 もしかしてこの事件の黒幕はアイツなのではないかと思い当たる人物が浮かんだからだ。

 リョウジから受けた()()()()()()()()と言った警告に悪寒が走る。

 ミサトは地上に向けて上昇を続けるエレベータの中に居たシンジをギュッと自分の胸へと抱き締めるのだった……。

 

 

 

シンジとミサトの関係について

  • R15(?)の現状でいい
  • 姉弟の関係に徹するべきだ
  • アスカやリツコとの三角関係が来い!
  • より激しく!もっと激しく!さらに激しく!

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