ガンダム? そんなことよりスーパーロボットだ! 作:神咲胡桃
大会の表彰が終わったあと、僕はミクモ先輩と向かい合っていた。
「さすがだったわ。まさか、あんな隠し玉を持っていたなんてね」
「買い被りですよ。EXAMシステムを温存されてたらヤバかったし、何よりレールガンを持ち込んでなかったら、確実に負けてたのは僕です。あなたは強かった」
「そう。それでも勝ったのはあなた。そうね。なんだったら、先日の話を受けても……」
「あ、その事なんですけど……」
話そうと思っていたことを先に話され、慌ててミクモ先輩を止める。
「その、あの話はなかったことにしてください」
そう言って頭を下げる。
ミクモ先輩はというと……意外にも動揺してはいなかった。
「あら、残念ね」
それだけ言うと、ミクモ先輩はクスクスと笑った。ただそれだけ。
この先輩のことだ。僕が言い出すことも分かってて、歌の件を言い出したのだろう。
ただ、この話はここで終わりじゃない。
「……だけど、諦めたつもりじゃありません。いつか、ミクモ先輩が歌ってもいいって思えるように、頑張りますから。だって、ミクモ先輩の歌声の、ファンになっちゃいましたから!」
しつこいと思われるかもしれないが、これは嘘偽りのない気持ちだ。
初めて聞いたあの時、僕は確かに感動した。そんなミクモ先輩に、歌を歌ってほしいから。
「ふ、ふふ……! 良いわ、今のあなた。とっても素敵ね。そのいつか、楽しみにしてるわ」
「はい!」
こうして、ガンプラバトル大会は終わりを告げた。
……のだが。
「――どーしてその女がここにいるんだい!?」
そう叫ぶヒメの部屋には僕と、そしてミクモ先輩がいた。
「一体何が目的だい?」
「あら、別に良いじゃない。あなたが作ったという機体が気になったのよ。確かアーハンだったかしら? それ以外にも作っているんでしょう?」
「……意外にも手が早いようで安心したよ。それじゃあ、回れ右して帰りたまえ。見たいものは見れて良かっただろう?」
「つれないわね」
笑みを浮かべながら話す女性二人。
なまじこの状況のを作った原因なために、何というか胃がキリキリしてきそうである。
「はー。来てしまったものは仕方ない。……ハルト。君はしばらく部屋から出たまえ」
「は? なんで?」
「ここからは女同士の話し合いだ。男がいるのは無粋だ。ああ、それとも女装するのであれば大人しく部屋に居てくれて構わないよ?」
「大人しく部屋から出させていただきます……」
女装は僕のトラウマが甦るのでNG。
というわけで、おとなしく部屋を出るのだった。
◇◇◇
トボトボとハルトが部屋から出て行った後、女二人となった部屋で、ヒメは先ほどとは違い真剣な眼差しでミクモを見る。
「さて、本題に移ろうじゃないか」
「何の事かしら?」
「決まっているだろう。
さっきと全く同じ問い。しかし、ヒメから向けられる圧は尋常ではない。
しかしミクモは、余裕の笑みを変わらず保っている。むしろ、それを楽しんでいる節さえ見受けられる。
「言ったでしょう? 気になったのよ」
「今更その答えで満足するとでも?」
「嘘じゃないもの」
「そうか。じゃあ次だ。あれはどういうつもりだ」
「どういう意味かしら?」
変わらず知らないふりを突き通すミクモに、ヒメがスマホの画面を突きつける。
それはとあるニュース記事。
「これは二年前の小さな記事だ。取りたてて見どころのあるものではない。しかしお前を知っていると興味深い内容でねぇ。当時、とある小学4年生がそれなりに規模のあるガンプラバトル大会で優勝した。その小学生の名は――ヒイラギ ミクモ」
「よくそんな記事を見つけたわね」
「私は天才だからな。ガンプラバトルに関する情報を片っ端から集めていた時に、この記事を見たんだ。まあ、思い出したのは昨日だったがね」
ハルトから声を掛けられたあの日、ヒメはガンプラバトルの情報を片っ端から集めては記憶して行った。
とはいえ時間に限りがあったので、出来たのは
それでも驚異的な記憶能力なのだが、重要なのはここではない。
「本来のお前の技術なら、昨日の大会には
「……確かに二年前、私はその大会に出たわ。でも、それ以降はあまりやることが無かったの。だから、鈍った腕を鍛えるつもりで出たのよ」
「嘘だな。あのブルーディスティニー、見た目こそ素組したものを多少アレンジしただけに見えるが、実際様々なところにチューンが入っている」
ミクモが使用した『ブルーディスティニー一号機 ファンタズム』。
予選や決勝で、一度も同じ戦い方をしなかったその機体には、細部に細やかな調整が成されていた。
元の機体そのままに見えて、実は全く異なると言える機体。
ハルトの見せた完成図の複雑な機構を理解し、その設計図を書き上げ、さらにはフルスクラッチで作るヒメだからこそ気づけた。
「そんな機体を作っておいて、あれが久しぶりにやりましたなわけがないだろう? ビルダーとして、あれほどの出来を誇るガンプラを動かしたくないなんて思わないはずがない。私でさえ、あれらを作った時は柄にもなく動いているところを見たいと思ったんだ。そして数日前のSNSに上げられた投稿」
再びヒメが見せたスマホの画面には、『マジモンの死神みたいなブルーディスティニー1号機がいたww』という内容でツイートが機体の写真付きで上げられていた。
さすがに操縦者の写真はなかったが、そこに移っていたのは大鎌を持ったブルーディスティニー1号機の写真。全貌が写ってい無い為判別は難しいが、それでも写っている部分からミクモの機体と考えてもいいだろう。
「……教えてもらおうか。わざわざあの大会に出た理由を」
手札を切り、問い詰めるヒメ。
そもそもなぜこんなことをしているのか。ミクモがどんな理由で大会に出ようと、ヒメにとっては関係のない話である。
別にヒメはミクモを糾弾したいわけではない。とはいえ、こんなことをしている理由も、自分でも理解していないが。
「当ててやろうか? ハルトと戦いたかった。そうだろう?」
「……どうでしょうね」
ここにきて、ミクモは答えをはぐらかす。
これ以上は問い詰めても無駄だろう。そう考えたヒメは、話を続ける。
「お前とハルトの間で何があったかはどうでもいい。だが言っておくぞ。……
その”あれ”というのが何を指しているのか、ミクモはあえて言わなかった。
なんかおもしろそうだ、とは思ったが。
「ちょっかい掛けるのは、ほどほどにしておけよ」
「でも良かったでしょ? 彼の中の何かが明確になって」
「……何?」
ミクモの言っていることが理解できない、とばかりにヒメの表情が怪訝なものになる。
「私とのバトルで彼の中にあった歪で、不安定で、不定形で、弱弱しくて、曖昧だったものが、確かな形を得た。いえ、あれは拠り所を見失っていたと言うべきかしら? 本当に面白い」
「まるでハルトの事を理解しているとでも言わんばかりだな」
「それは違うわ。私は魅せられたのよ。彼の持つ何かに。あのアーハンという機体。作ったのはあなたのようだけど、なんでもアイディアを出したのは彼という話じゃない。それにもっとあるんでしょ?」
「ハルトの奴め、余計なことを……」
「ウフフ。そう怒らないであげて。……それで思ったのよ。何故彼はガンプラバトルが、ガンダムが普及している中で、あんな機体を考え付くに至ったのかしらね?」
ミクモの流し目と共に投げかけられた言葉に、ヒメの思考が一瞬フリーズした。
確かに前から不思議に思っていたのだ。ヒメ自身、その答えは出ていない。
「……子供特有の発想力、というやつじゃないのか?」
「それは違うと、あなたも知っているでしょう?」
「ならなんだと言うんだ。ハルトが持ってきたアイディアは、実はあいつが考えたものじゃないとでもいうのか?」
「さあね」
「ふん。変な女だ」
ミクモの言うことも気にはなる。あれだけの緻密な設定。特に、完成図に到っては所々粗があるものの、とても普通の小学生が考えるものとは思えない。
しかし――
「私は、作るだけだ。あのアイディアの出所がどうであろうと、私には関係ない」
「……信頼してるのね。彼を」
「……変な女だ」
『二人とも~。そろそろ入って良い~?』
「「あ」」
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