ガンダム? そんなことよりスーパーロボットだ! 作:神咲胡桃
「ガンプラ、ねぇ……」
ヒメがVF-171 ナイトメアプラスを作り始めてから早一週間が経った。
「……やぁっぱり、やる気でないなぁ」
放課後の学校に残って、練習して来いと渡されたキュリオスを眺めながら、僕は他のロボットたち並にやる気が出ないことに項垂れる。
別に、ガンダムが嫌いなわけじゃない。ガンダムだって、立派なロボットアニメだ。
何年も続いただけに、多くの人を魅了してきたアニメだというのに、何故か僕の食指は動かない。
逆張りしてるわけじゃなくて、こればっかりは相性の問題なのだろう。
「問題は、一度も練習に行ってないってことなんだよなぁ……ん?」
ピコンと携帯から着信音が聞こえた。取り出してみると、ヒメからのメッセージが届いていた。
その内容を見た瞬間、僕は慌てて学校を飛び出した。
「ヒメ! ヒメ! できたってホントか!?」
「騒がしい。落ち着きたまえ」
「これが落ち着いていられるか!」
ヒメの部屋にお邪魔した僕は、届いたメッセージをヒメに突き付ける。
「『例の物が出来たから、すぐにこい』……ほんとなんだな!?」
「ああ。これが、私が作ったVF-171 ナイトメアプラスだ」
そう言って、ヒメが視界を塞いでいた机を見せるようにその場から動いた。
机の上にはプラモデル用のカッティングマットが敷かれており、その上には、色塗りまで終えられているVF-171が鎮座していた。
ガンダムキュリオスの高機動形態とは異なったディテール。より
「感動、感動ものだ……目の前にあのVF-171 ナイトメアプラスがいるんだ……」
「どうだ? 最初ということもあってなかなか苦労したが……それなりに楽しめたよ」
「ありがとう!! めっちゃ感謝してる!」
「……フフ。そうかそうか。それじゃあ、早速行くとしようか。ガンプラバトルに」
「え、でもいいのか? 壊れる可能性だってあるんだぞ?」
「一応予備パーツは準備してるし、一度作れば同じものを作るのに、最初ほど時間はかからん。私は天才だからな」
珍しく小さくどや顔を披露するヒメ。
予備パーツまで準備していることには驚いたが、詰まるところ……ヒメも見たかったのだろう。VF-171が飛ぶ姿を。
……というわけで、僕たちはVF-171を持って近くのゲーセンに赴いた。
ゲーセンには代替ガンプラバトルをするための筐体GPベースが置いてある。
故にゲーセンに来たのだが、既に数人の子供が並んでおり、僕たちもその最後尾に並ぶ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……それなりにいるな。やっぱ」
「それは仕方がないだろう。ちょうど良いから、マニュアルを読んで基本操作を覚えておけ。ところで、ちゃんと練習はしてきたか?」
「やってな……あ」
会話の中で自然と聞いてきたヒメに、僕は思わず正直に答えてしまい、口を紡ぐも時すでに遅し。
その反応で察したのであろうヒメは大きくため息をついた。
「まあ、良いだろう。ナイトメアプラスに関しては、練習をしていない方が良いかもしれないしな」
「どういうことだ?」
「ナイトメアプラスのブースターは、お前のノートに書いてあったように偏向ノズルだ。操作性を簡易にしてあるキュリオスのブースターとは、また勝手が違う。練習をしていないのだから、操作自体に慣れないかもしれないが、そこはまあ、頑張りたまえ」
「そっか。確かにキュリオスはそんな感じがないな」
偏向ノズル。
マクロスを見たことがある人ならこれだけで察しが付くが、あのブースターがグィングィン動くやつだ。
あれのおかげで、直角曲がりみたいな芸当もできるわけである。
「それと、ピンポイントバリアも搭載されていない。さすがの私でも、あれを作ろうと思うと時間がかかる」
そ、そんなにか……。まあ、確かに僕も前世で興味本位で調べた時は、何だこれと思いはしたが。
それでも時間を掛ければ作れると言っているあたり、さすがの才能マンである。いや、この場合は才能ガールか?
それからもヒメとナイトメアプラスについて話していると、僕たちの順番が回ってきた。
「ふむ。どうやら相手は女子か」
ヒメの言葉に相手を見ると、なるほど確かに女の子が相手だった。このご時世、女の子がガンプラバトルをするのも珍しくない。だからと言って手加減しないけどな。俺初心者だし。
そう思いつつ準備をしていると、ヒメが対戦相手と何か話していた。ヒメの言葉に対戦相手が頷くと戻ってきた。
「ハルト、喜べ。お前が初心者だと話したら、動きに慣れるまで待ってくれるとのことだぞ」
その報告に思わず対戦相手の子を見ると、ホントだというように頷いた。
どうやら本当らしい。礼もかねて軽く頭を下げる。
さて、そろそろ始めようか。
ナイトメアプラスをセットすると、衆人からどよめきが聞こえてくる。
GPベースが緑色に発光しながら起動すると、それに呼応するようにナイトメアプラスにも光が灯る。
いける……いけるぞぉ!
「いくぞ……VF-171 ナイトメアプラス。出るぞ!」
緑色の球体のレバーを握り、思いっきりブースターを吹かす。
その操作に反応して、VF-171が宇宙ステージへと飛び立った。
「すげぇ……本当に飛んでる……!」
「感動してる暇はないぞ。相手は待ってくれているんだ。操作感を確かめろ」
「分かって……っとと。なかなか難しいな」
偏向ノズルという仕様上、機体の姿勢が安定させにくい。
しかしシステムのアシストもあるのか、数十秒もあれば慣れ、姿勢が安定した。
「よし……!」
『……そろそろいい?』
聞こえてきた声に前を向けば、青い一機のガンプラ?飛行機が向かってきていた。
「あれは……」
「イナクトカスタムか。お前と同じ可変機だ。抜かるなよ」
「分かってる!」
ブースターの出力を上げ、イナクトカスタムに向けて前進する。
それに応えるようにイナクトもこちらに向かってくる。
互いに互いへと向かっていき、そのまますれ違った。それがバトルの合図となった。
「先手必しょうぉっ!?」
Uターンしようとした瞬間、機体の近くを実弾が通り過ぎていく。
後ろを確認すれば、さっきまでいなかったはずの人型……元飛行機のイナクトがそこにいた。
「そういや可変機か……!」
『その機体面白そうだけど、手加減しない』
スピードを上げ一旦距離を取ろうとするが、イナクトがピッタリと張り付いてくる。
こいつ、はやい! そういう機体か!?
「なるほど。ブースター周りを強化してるのか。確かにナイトメアプラスに追いつけるだろうな」
「どういうことだ、ヒメ!?」
「ガンプラバトルはガンプラの出来がもろに現れる。常識だろうに」
「って言われてもさ!」
「安心しろ。この私が作ったんだ。出来に関しては引けを取らん。あとはハルト次第だ」
「だったらぁ!」
僕はレバーを操作して、ナイトメアプラスを戦闘機型のファイターから、足と手が生えたようなガウォークへと変形させる。
「こなくそぉ!」
脚部の先端のブースターを前方に向け、そのまま機体を下がらせつつ上昇させる。
イナクトはその動きに対応できないまま通り過ぎていき、ナイトメアプラスがイナクトの背後を取る。
「これでぇ!」
『……甘い』
ガンポッドをイナクトの背部に向け、ロックオンと共に引き金を引く。ギュィィィンという特徴的な音と共に発射された弾丸は、しかしイナクトを捉えることなく外れた。
「まじかよ!? 避けられた!」
「反撃来るぞ」
ヒメの言葉に気付き、すぐさま左にそれる。
次の瞬間、さっきまでいた位置を弾丸が通っていった。すぐさま反転して撃ってきたらしい。
しかしイナクトが足を止めたため、これ幸いとファイターに変形し距離を離す。
『逃がさない』
とはいえ、相手が易々と見逃してくれるはずがなく、変形して追いかけてくる。
ピッタリと張り付きながらライフルを撃ってくるイナクトを引きはがしたいが、どうにもうまくいかない。
「おい、どうした。このままだとやられるぞ」
「分かってる! でもなんか、上手くいかないんだ……!」
「やはり技術は相手が上だな。ハルト、デブリが見えるか?」
「デブリ? あ、そういうことか!」
ヒメの言葉の意味を察した俺は、ブーストしデブリに突っ込む。
相手は障害物の多いデブリを嫌ったのか、背後から離れる。僕はガウォークになってデブリの陰に隠れる。
さて、どうするかな……。
「……どうする?」
「奇襲を掛けろ。長期戦はこちらが不利だ。短期決戦で決めろ」
「よし」
僕を探しているのか、イナクトはデブリには入らずに飛行している。そのイナクトが、僕が隠れているデブリを通り過ぎた瞬間、飛び出して背後からガンポッドによる奇襲を仕掛ける。
しかしそれを予想していたのか、イナクトは余裕をもってかわす。
だが俺だってそれだけでは終わらない。ガンポッドが避けられるのは想定済みだ。マイクロミサイルを発射すると同時に、ファイターで突撃する。
イナクトはミサイルを振り切ることは難しいと判断したのか、MS形態に変形し次々と撃ち落としていく。
僕は爆発の煙を引き裂いて、イナクトに突撃。同時に人型のバトロイドへと変形する。
『なっ!? 三段階変形!?』
「もらったぁ!」
『くっ……!?』
急接近した勢いのまま、イナクトを蹴り飛ばす。姿勢を崩したイナクトに向けてガンポッドを構え、引き金を引く。ガンポッドから放たれた銃弾が、イナクトをハチの巣にする。
一瞬のスパークの後、イナクトは爆発。
《HARUTO WIN》の文字がモニターに浮かんだ。
「いよっしゃ!」
「初めてにしては上出来じゃないか?」
「そうだろそうだろ!」
「……ねぇ」
初勝利の余韻を噛みしめていると、対戦相手の女の子から声をかけられた。
GPベースを挟んでいるときは余り観察していなかったが、よくよく見れば十分に可愛い。さらりと流れる短い銀髪に、どこかぼんやりとした顔立ち。眠そうな表情を浮かべていて、どことなく儚さを感じる。クールという言葉が似合いそうではある。
学校じゃさぞモテるんだろうなぁとか思ってたら、少女が不思議そうに首を傾げた。
「……どうしたの?」
「あいや、何でもない」
慌てて返事を返して、ついでだからとさっきのバトルのことで礼を言う。
「さっきはありがとう。操作、慣れるまで待ってくれて」
「……別に構わない。それよりあなたのガンプラ、そんなの見たことない。どうやって作ったの?」
「え? ああ、これは――」
「帰るぞ、ハルト」
「ガンプラじゃない」と言おうとしたところで、険しい表情をしたヒメに手を引かれる。
「すまないね、君。少し用事を思い出してな」
「ん。それなら仕方ない。私はここでよくガンプラバトルしてるから、またやろうね。バイバイ」
「ああ、失礼させてもらう」
「お、おい! あ、じゃあなー!」
手を振る少女に別れを告げて、僕たちは足早にゲーセンを出る。
しかし依然とヒメの表情は険しいままだ。
「おいヒメ。どうしたんだよ?」
「私としたことが、うっかりしてたよ。さっきのバトル。GPベースの録画機能がデフォルトでオンになっていた」
「だからなんだよ」
「あのバトルの映像が録画された。おそらくSNSにあげられる。操縦者の顔は映らないだろうから、そこは問題ないだろうが……分かってない顔をしてるな、ハルト」
ヒメの言うように、僕は何が問題なのかさっぱりわからない。
説明してもらったところ、GPベースには録画機能というものがあるらしい。なんでも、バトルの様子をGPベースが自動的に記録しているのだとか。その記録は、近くにある端末でいつでも見返したり、自分の携帯にコピーして持って帰れる。当たり前だが、操縦者の顔や声などが入ることもない。
そしてここからが、ヒメの言う問題だ。
僕たちは、従来のガンプラとは全く異なる機体を使ってバトルした。しかも、GPベースの録画機能をオフにせずにだ。
ナイトメアプラスの特異性は目を引いただろう。確かにバトルが終わった時、周りにいた人の数が多かった気がする。
「ガンプラ一強のこの時代に、まさしくガンプラとは思えない作りのプラモデル。騒がしくなるよねぇ」
「僕が言うのもなんだけどさ、そこまでか?」
ヒメが言ったように、この世界はガンプラ一強の時代だ。そんな中で、VF-171が出てきたところでそこまで話題になるだろうか? しかも、単なる町の一ゲーセンで起こったことなのに。
そう思っていると、ヒメが携帯の画面を見せてきた。映っているのはSNSの画面。そこにはついさっきのバトルの映像が載せられ、すでにコメント数が3桁に昇っていた。
「……マジ?」
「フルスクラッチな上に、従来のガンプラとは似ても似つかない……これで分かったか? 私が言いたいことが」
呆れたように聞いてくるヒメに、僕はひたすらに頭を縦に振る。
いや、知らなかったんだって。珍しがられるとは思っていたけどここまでとは。
でも、ナイトメアプラスでさえこうなるのなら、これからは人前で動かすのはやめた方が良いだろうか。
あのゲーセンには俺だけじゃなくて、ヒメもいた。さすがに目の前の友人に迷惑をかけるわけには……と考えていたら、いきなりチョップされた。
「とう」
「あいた!?」
「妙な気遣いはしないでほしいな。ハルトの案に乗ると決めたのは私だ。今更止めるなんて言うなよ?」
「ヒメ……」
「すでにVF-25を含め、他の機体の作成の目途をつけているんだ。無駄してほしくないなぁ」
どうやら僕の考えは気づかれていたらしい。だけど……とてもうれしい。
ヒメの言葉に頼もしくなった僕は、右手を差し出す。
「なら、約束だ。ヒメが作ったロボットたちで、僕が戦う。二人で一人、一心同体ってやつ」
僕の右手を見て目を丸くしていたヒメも、やがて右手を差し出してきた。
ガンプラ以外のプラモデルを作り、戦う。
そのための協力関係が、握手と共に固く結ばれた。
戦闘シーン 読みやすい視点は?
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