ガンダム? そんなことよりスーパーロボットだ!   作:神咲胡桃

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間が開いてすいません。

ちょっとアズレンで退屈から救われてたので……

今回、長くなりそうなので前後編に分けます


歌とたまごと純情と 4 前編

レンがミクモ先輩に負けた。

 

彼女の力量はよく知っている。それこそ、何度か戦った中なのだ。

 

その彼女が一方的に負けた。

 

「……レン」

 

GPベースから離れたレンに声をかける。

 

ゆっくりと振り返ってはくれたが、深く被ったフードに顔が隠されていた。

 

「その……」

 

何て声をかけるべきか分からない。

 

僕らがやっているのはガンプラバトルだ。バトルである以上、勝ち負けは当然あるのだ。だからこそ、次のバトルで勝てばいい。

 

……本来なら、それで済む話だ。だが今回は訳が違う。

 

レンは僕と戦うためにこの大会に出たのだ。それが、その前に負けてしまった。

 

彼女の悔しさは、僕には図ることができない。

 

「……ごめん」

 

呟かれたのは、その一言だけだった。

 

そしてまるで逃げるかのように走り出した。

 

「っ! レン!」

 

慌てて呼び止めるも、すでにレンの背中は見えなくなっていた。

 

 

――自己満足にしか聞こえないの。

 

――どれだけ筆舌に尽くそうと、結局は遊びだ。

 

 

ミクモ先輩とヒメの言葉が脳裏をよぎる。

 

そしてレンの震える背中。

 

「(分からないよ)」

 

二人から言われた言葉と、レンのあの姿が一致せずに、頭の中をぐるぐると回る。

 

「ここにいたのか。もうすぐ始まるぞ。アーハンの整備は済ませたが……どうした?」

「ヒメ。頼みたいことがある」

「……?」

 

僕を探しに来たヒメが現れたことで、答えのない問いに蓋をするしかなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『これより決勝戦を開始します』

 

アナウンスと共にGPベースから緑色の光が発光する。

 

これが3分ほど前のこと。

 

巨大なビルが立ち並ぶ街中を模したステージでは、一切の戦闘が起きることなく膠着状態が続いていた。

 

そんな中、ビルに隠れながら移動する機体の影があった。右手にブレード、左手にマシンガンを装備したアーハンである。

 

「(未だにミクモ先輩の機体の姿が見えない。向こうも警戒しているのか、それとも僕を探してすれ違ったのか……)」

 

ビルの影から覗き込み、この先にある大きな交差点を確認する。

 

しかし、敵機の影がないと分かるとすぐに引っ込める。

 

……ほとんど胴体と頭が一緒となっているアーハンでそれをすると、何ともシュールな光景になるのだが、幸か不幸かハルトは気付かない。

 

「(すでに4分ほど経過している。このまま手をこまねいているわけにも……いや、いる!)」

 

アーハンのセンサーが微かな反応をキャッチした。

 

場所はさっき見た交差点。急いで確認すると、丁度交差点を横切っていく影が見えた。

 

全貌が見えたわけではないが、ミクモの機体だと確信したハルトはアーハンを操作し後を追う。

 

「(背後から奇襲を狙う!)」

 

レンとミクモの試合を見ていたヒメの話では、ミクモは試合開始直後に速攻で攻め立てたという。それ以降、レンに一切の主導権を渡さないまま、ブレイヴを撃破したらしい。

 

ならばと、奇襲を仕掛けることで主導権を得ると判断したハルトは、見失わない内に影を追って角を曲がる。

 

それと同時にマシンガンを向け、背後から攻撃しようと引き金を――

 

「なっ!?」

 

――引こうとしたところで()()()()()に気付いた。

 

重量感を一切感じない、ふわふわとした動きでひたすら直進するそれは……紛れもない人型のダミーバルーンだった。

 

「(偽も――)」

 

次の瞬間、アーハンの足に何か細長いものが引っかかったような感触。

 

直後、アーハンを囲むように爆発が起きた。

 

アスファルトの破片を打ち上げ、派手な音を響かせる……にもかかわらず、アーハンは無傷だった。

 

「何が……まさか!?」

 

ハルトが上を向くと同時に、コンクリの崩壊する音を鳴らしながら、両サイドのビルがアーハンめがけて倒れてくる。

 

先ほどの爆発はアーハンの足を止めると同時に、その両サイドのビルの根元を破壊するためだったのだ。

 

アーハンを押しつぶさんとばかりにビルが倒壊するも、それより早くアーハンのブースターが火を噴き、何とか倒壊範囲から離脱する。

 

「くそっ! なんで急に爆発が……なんて、聞くまでもないよな!」

 

再び足に何かが引っかかるのを感じると、今度は高く跳躍。

 

その眼下では、再び爆発が起こっていた。

 

新たに倒壊するビルを尻目に離れた位置に着地し、すぐにビルの影に姿を隠す。

 

「トラップによるゲリラ戦? 今までそんな戦い方はしていなかったはずだ」

 

ハルトが言うように、ミクモは予選からこの決勝まで戦い方をあの手この手と変えていた。

 

ある時はロングレンジでの狙撃で、ある時はクロスレンジで、そしてレンとのバトルでは速攻を決めることで、ミクモは勝ち上がってきた。

 

そして今、この決勝戦ではトラップを多用している。

 

一戦ごとに戦い方を変えることで、相手を混乱させることが目的なのかとハルトが考えるのは当然のことだった。

 

そして、ミクモがトラップを使うのであればどこかに潜伏しているはずだ。

 

急いでミクモの機体を探そうとした時、マシンガンが何かに撃ち抜かれた。

 

「なにっ!?」

 

爆発するマシンガンから離れつつ、狙撃場所を逆算する。

 

「あそこか!」

 

ひと際巨大なビルの屋上。そこに片膝ついた体勢の機体を見つけると、その場所に向けて飛翔する。

 

迎撃するように再び狙撃されるが、弾丸が実弾なのは確認済みである。ブレードを盾にすれば、狙撃は防げる。

 

そのことを向こうも察したのか、ライフルを捨て奥に消える。

 

それを追ってアーハンがビルの屋上に降り立つと、向かい合うようにミクモの機体が立っていた。

 

無骨な姿に、青い塗装。背部には大きなウェポン・コンテナが。そして緑色の複眼の視線がアーハンを貫く。

 

「『ブルーディスティニー1号機 ファンタズム』。どうかしら? 私のガンプラは」

「その余裕も……ここまでだ!」

 

ブレードを構えてアーハンが突貫しようと動き出した直後に、左右から弾丸の嵐がアーハンを襲った。

 

100mマシンガンとワイヤーを使った簡易的なトラップ。

 

この場にアーハンが来たこともすでにミクモの策だったことに、今更気づいたハルトは、しかしアーハンを()()()()()

 

それなりにダメージをもらったが、まだ許容範囲内。

 

マシンガンを失ったために、ブレードしかないアーハンでは接近するしかない。そしてマシンガントラップを避けること。この2つを一度に達成する方法が突撃することである。

 

だがミクモもそのことは知っていたのか。シールドから取り出した何かをばら撒いた。

 

それらは地面や壁に引っ付くと、アーハンとブルーディスティニーを引きはがすように次々と爆発していく。

 

ダメージはほとんどない見掛け倒しだが、爆発の煙が煙幕となり、ブルーディスティニーはその煙に紛れて距離を取る。

 

 

ミクモとのガンプラバトルは、始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 


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