ガンダム? そんなことよりスーパーロボットだ! 作:神咲胡桃
ガンプラバトル大会 決勝戦。
GPベース上の戦いを映すモニターでは、ミクモの操るブルーディスティニー1号機 ファンタズムのトラップ戦法に、ハルトが駆るアーハンが追い詰められていた。
ミクモはあえて完全に姿を隠すことはせず、チラチラと姿を見せることで誘き寄せ、トラップに引っ掛からせている。
しかしハルトとて馬鹿ではない。ミクモが姿を見せるたびに、動きを変えて攻撃を仕掛ける。
だがミクモはそれをすべて読んだかのように対処する。その動きは、彼女の技量の高さを如実に表していた。
否、数々の戦法で勝ち抜いた時点で、彼女の強さは証明されている。
そして、大会会場の2階から見ている――大会が行われている1階天井部分は吹き抜けとなっている――少女もまた、その証明役となってしまった一人だ。
「やあやあ。奇遇だねぇレン」
「……どうしてヒメがここにいるの? ハルトの応援は良いの?」
「別にここからでも応援できる。それに、集中しててどうせ声は聞こえないだろう。それなら、偶然見つけた知り合いと観戦したって構わないさ」
にへらとした笑みであっけらかんと話すヒメに、レンは呆れた顔をする。しかしすぐに曇った表情に戻る。
レンは許せなかった。リベンジすると言っておいて、戦えてすらいない自分に。負けたレンを心配していたハルトから、半ば逃げるように立ち去ったことに。
「あの人は強い」
「そうだねぇ。今のハルトじゃ勝てるかどうか、分が悪い」
ヒメはレンの言葉を否定することなく、むしろ肯定する。なにせ、ヒメから見てもハルトの動きが悪すぎるのだ。
焦っているようにも見える、とも言えるだろう。
ミクモの技量からして、闇雲に突っ込んでも手玉に取られるだけだ。だというのに、ハルトはバカの一つ覚えのように突撃を繰り返している。
傍目からしてみれば、様々な動きでトラップを対処しようとしているように見えるだろうが、それなりの実力のファイターからすれば、それが焦燥感からの動きなのは明白だ。
それがトラップを駆使した戦術によるもの、ではない。
「(いったい何を焦っているだい? ハルト……)」
さきほどまでのレンとの会話とは違い、真剣な表情で見つめるGPベースでは、アーハンが爆弾で吹き飛ばされていたのだった。
ブルーディスティニーが投擲した爆弾が爆発し、アーハンがビルに叩きつけられる。
顔を苦渋に歪め、ガチャガチャとレバーを動かすハルトは、どう見ても冷静ではなかった。
「なんで、なんで……!」
「……呆れたわ。歌の件だけじゃないなんてね」
「何の話を……!」
「その機体、とても良いわ。込められた思いが伝わってくる。だけど、あなたからは何も感じない。もしかして、この大会に出る気はなかったのかしら?」
「っ!?」
ミクモの指摘は図星だった。しかし同時に、ハルトに怒りがこみ上げる。
誰のせいだと思っているのか。『歌を歌ってほしい』と言って、断られるだけなら良かった。初対面でそんなことを頼まれても困ると、そう言われたならば素直に引き下がった。
だが実際はどうか。
感動をくれた歌を聞きたかった。だけどその思いを自己満足と言われた。
前世の歌を聞きたい、再現したいという思いを否定された。
なら前世のロボットたちを再現したいのも自己満足なんだろうか。
ガンプラバトルで、ガンプラ以外のプラモデルを使って、周りの人たちに噂されたかった、ただの承認欲求なのか。
「僕は……」
レバーから手が離れる。
この世界におけるアイデンティティを見失ったハルトは、バトルを諦めた。
「……そう。所詮は
ミクモの声に失望の色が滲む。
ブルーディスティニーがビームサーベルを取り出し、ビルを背に座り込むアーハンへと斬りかかる。
その光景が、ハルトにはゆっくりと見えた。否、聞こえてくる周りの歓声も、どこかゆっくりと聞こえてくる。
「(ああ、僕の負けか……ヒメに、謝らないとな……)」
破壊されるアーハンを思い浮かべ、しかしハルトは何もしない。
振り下ろされるビームサーベルを、当然の天罰だと受け入れた。
「がんばれ……!」
――はずだった。
誰のものか分からないほど小さな応援。しかしハルトはそれが聞こえた瞬間、ブースターの出力を引き上げた。
「うぁぁああああああ!」
その行動にミクモは面食らうも、即座にレバーを操作。
次の瞬間、突貫したアーハンが背後からの衝撃で吹き飛ばされた。
「背後から!? またトラップか!」
「いいえ。違うわ」
《EXAM SYSTEM STANDBY》
背後から聞こえたミクモの声に振り返ると、そこにはウェポン・コンテナをパージし、複眼を赤く光らせたブルーディスティニーが立っていた。
ガンプラの知識に乏しいハルトには知りようがなかったが、外から見ているヒメは作業の合間に頭に詰め込んだ知識から正しい答えをレンに提示した。
「対ニュータイプの戦闘用OS、EXAMシステムか。ガンプラバトルじゃ、機体の運動性の向上効果だ」
「うん。でもその分、機体の操縦がとても難しくなる。だけど……」
二人にはEXAMシステムを起動したブルーディスティニーが、アーハンの背後に回り込み蹴り飛ばしたのが見えていた。そして、ハルトの勝ちの目がさらに少なくなったことも。
だがここで、二人の考えがずれた。
レンはハルトの勝ち筋が潰えたことを。そしてヒメは戦っている2体の機体ではなく、ステージの全く別の場所を睨んでいた。
一方で、ハルトは再びピンチに追い込まれていた。
ブレードしかない状況では迂闊に距離を離すわけにもいかず、かといって近づけばEXAMシステムを起動したブルーディスティニーに翻弄される。四肢の一部が破壊されてはいないが、このままではじり貧である。
そして今、投擲された爆弾で足が止まったところをビームサーベルの一撃が襲い、盾にしたブレードが断ち切られた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「これ以上は無駄よ。武器もなくなって、あなたの機体じゃ私のスピードに対応できない。終わりね」
「……確かに……」
「……? なにかしら?」
「確かに僕のやっていることは、自己満足なのかもしれない。でも……」
話しながら、断ち切られたブレードの刃を拾う。
ハルトの脳裏に、涙をこらえて走り去っていったレンの後ろ姿が映る。何度も戦ってきた彼女は、間違いなくガンプラバトルに真剣だった。
ヒメが言うように、ガンプラバトルは遊びだ。でも、それでも真剣に戦う人たちがいる。
ハルトは前世のロボットたちをこの世界で普及させたいだとか、そんな大それた夢は持っていないけど、それでも間違いなく好きなのだ。
「どれだけ自己満足でも好きなものは好きなんだ! だから!」
ブレードの刃を投げ、同時にアーハンも突撃する。
どこからどう見ても、最後の悪あがきと思われるそれを、ミクモは正面から受け止めた。投げられたブレードの刃をシールドで弾き飛ばし、アーハンをビームサーベルで貫こうと突きを放つ。
しかしアーハンは直前で体を捻るようにして右側に逸れる。ブルーディスティニーが振り返った時には、アーハンは天高く上昇していた。
撃ち落とそうとマシンガンを向けるも、アーハンの姿が丁度太陽と重なった。偽物の太陽とはいえ、その強すぎる光は複眼越しにミクモの目を焼き、一瞬の隙を晒す。
ハルトにはそれで十分だった。
このステージは巨大なビル群が特徴だが、その郊外には木々が乱立する林がある。その林の木々の隙間を縫って、黒い何かがアーハンへと飛んできた。四角い形に引き金がついたそれを受け止めると、一つ二つと続けて飛んできた物が、アーハンが持つパーツにぶつかるように合体していく。
「それは……一体……」
「最後まで手の内を隠してたのは、あなただけじゃないということだ!」
振り返ると共にそれを構える。光が灯り、
『ロングバレル・レールガン』
楽園追放の劇中、主人公アンジェラの後半主人公機である新型アーハンの武装だ。ロングバレル・レールガンは。商品展開上でニューアーハンと名付けられている新型アーハンの武装の一つである。つまり、このアーハンの武装ではない。
……原作の設定ならば、だ。
ハルトたちがしているのはガンプラバトルであり、尊敬はすれど原作に忠実である必要はない。だからこその発想。
ヒメに頼んでレールガンを積んだコンテナを持ち込み、それを林の中に隠しておいたのだ。
「なるほどね。でも、ステージに恵まれなかったようね」
ミクモはブルーディスティニーを動かし、ビル群に紛れるように隠れてしまう。
「あなたの思いが伝わってくる……。本気、真剣、そして暖かい気持ち……だから、あなたに勝ちたい」
「僕もです。あなたに勝ちたい。勝って、この自己満足が本気だということを知ってもらう!」
「そう。でも、このステージじゃその武器は使えない。私の勝ち――」
ミクモが勝ちを確信した瞬間、唐突に響き渡る爆発音。
その発生源はビル群の中でも一番高いビルの裏側、そこにいたブルーディスティニーのシールドだった。
「爆発!? でもダメージがほとんどない……まさか、私の!」
シールドが爆発したにもかかわらず、ほとんどダメージがないことでミクモは爆発の正体を看過する。
ハルトはEXAMシステムを起動したブルーディスティニーと交戦中に、隙を見てパージされて転がっていたウェポン・コンテナから、爆弾を一つちょろまかしていた。
その爆弾は、ミクモが主に足止めやかく乱に使っていた壁や地面にくっつくもの。そのため見かけは激しいものだが実際にはダメージはほとんどない。
先ほどの突撃ですれ違った瞬間に、ブルーディスティニーのシールドにくっ付けたのだ。
そしてハルトの目的は、ダメージを与えることではなかった。
「――そこか」
ハルトが引き金を引く。
轟音と共に打ち出された弾丸がビルに風穴を開け、その穴の向こうには胴体を貫かれたブルーディスティニーの姿があった。
「…………私の負けね」
潔く負けを認めたミクモの言葉を表すように、ブルーディスティニーが爆発した。