ついに。ついに・・・この日が来た。
ああ、どんなに待ち焦がれたことか。どれだけ期待し、其のたびに絶望してきたことか。
だが・・・そんな日々も、今日で終わり。
「ダークライ配信・・・きたあぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
そう・・・映画で一目ぼれしてしまった、何とも厨二心をくすぐる伝説級のポケモン。
ダークライが・・・ポケモンセンターで配信されるのだっ!!
しかもっ!!超ド級の技をもってっ!!
「”ときのほうこう”、”あくうせつだん”、”ゴーストダイブ”、”ダークホール”、だと・・・!?さ、最強すぎる・・・!!」
自室のパソコンのディスプレイを何度見ても、その文字は変化しない。事実。圧倒的事実っ!!
ナゾの実まで所持という、軽くバランスブレイクっ!!
「あー・・・でも悪タイプの技はやっぱ欲しいな・・・ゆめくいも捨てがたい・・・うむ、しっかりかんがえねーとな!」
しかし・・・と呟き、今までの苦難の日々を思い出す。
攻略サイト上にあった情報をもとに改造で手に入れようとしたら・・・おもっくそ失敗して。データが全て飛んでしまったのも、今となっては良い思い出にできそうだ。
そして映画の特典でもらえる、と聞いて浮かれてたら、引き換えに必要な半券を母親に捨てられる、という鬼畜な受難・・・!
あの時はほんと、一日口を利かなかったなぁ。
「開始まで三か月くらいあるな・・・やっべ、アドレナリンが出すぎて軽くランナーハイなんだけど?寝れるかなマジで?」
ポスッと頭からベッドにダイブし、枕を抱えてアザラシのごとくゴロゴロ転がる。まあ、今ここで焦ったところで、ダークライが早く配信される訳もない。
それは分かってはいるが・・・。
「あはぁ・・・うふ・・・ぐへへ」
あらぬ妄想で、完全にお花畑になっていました。
雨にぬれ・・・ゆっくりと、ソレは空間を漂う。
頭を垂れ、今にも消えてしまいそうなほどに。生気なぞ微塵も感じられなかった。
ああ、願わくば・・・もし、次の生を得られたなら・・・
――――彼女を、この手で・・・!
ピチョン・・・ピチョン・・・
現代家屋の屋内にしては聞きなれぬ音で、思わず目を覚ました。
「う、うぅん・・・?」
記憶があやふやだ・・・どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。電気はついていないみたいだが、親が消してくれたのか?いや、深夜にこっそり起きて確認していたからそれはないはず・・・。うちの親は、めったに深夜に起きない。
違和感を感じ、あたりを見回す。
「・・・え?ドコ、ココ?」
そこは・・・まるで、自分の部屋を風化させたような、廃墟だった。
パソコンと思われる物体は、ディスプレイが割れて苔が生えている。
壁に亀裂が走っている。
ドアなぞ朽ちて倒れて。
明らかに、異常な空間だった。
「な、なんだよ、これ・・・!?」
理解が、追いつかない。だが、今の今まで寝てたのが幸いしたか、下手に現実味を感じることはなく、まだ少年の精神は安定していた。
傍らの置き時計を掴む。未だに機能停止してはいないそれは、"7月26日AM1:32"とある。昨日就寝したと思われる時刻とそう大差ない。
(じゃあなんだ、たった数時間もしないうちにこんな目に・・・俺に気づかせもせず?)
そこまで頭がおめでたい人だとは思わない。
まさか・・・一年過ぎていたとか?いや、時計が示す西暦は記憶と一致している。冬眠なぞできやしない。
いくら考えても、原因を推測するのは不可能と言えた。
(くそ、なんだってんだよ・・・)
悪態をつき、ベッドから降りる。やはり、どうにも現実感が薄い。今、床に立っている感覚も鈍く感じる。
家族の安否も気になるが・・・先ほどからピュウピュウと風が入り込んでくる窓が気になった。昨夜はクーラーをガンガンかけていたため、窓は締め切ったはず。やはり部屋の中を調べなければ始まるまい。
そして、サッシから身をのりだす。
「・・・は?」
今度こそ、平常心を失った。
何故なら、そこに、少年の目に確かに確認できたのは・・・
木、木、木。現代の都会では失われたはずの、自然であったのだから。
すなわち。
「ど、どーゆう・・・どーいうことなんだよぉぉぉぉおおっ!!」
−−−いよいよ、理解の範疇を越えたということだ。
胸の奥から吐き気と焦りが込み上げる。その突き上げる衝動のまま、滑るように少年は部屋を飛び出した。
半月が、机の上を照らす。
液晶がひび割れたパソコンの画面に、たった一つの言葉を映す。
"begin’the’Nightmare"。
誰の目に触れることもなく、最後の仕事を終えた。
「くそ、くそっ・・・なんだよ、何が起こってんだよ・・・!?」
何一つ都合の良くない、この状況。大声を出しながら全ての部屋を回ったが、肉親の姿を確認することはできなかった。
ならば、と玄関のドアを開けるも、やはり窓の外と変わらず。山奥のような雑木林しかない。虫の鳴き声が地味に苛々させる。
ここでペタリ、と座り込むのも致し方ないだろう。だが、なにも手がかりのない今、とにかく走り回ってでも情報を得たい気持ちがまさる。なに、確実に人くらいはいるだろう。拉致されたのであれば犯人がいるだろう。誰でもいいから、情報が欲しい。その思いのまま、森へつっこむ。
(うっ・・・!)
ぐにゃり、と視界が歪む。自分でも思ってもいないスピードが出たのだ。かるく酔ったのだろう。頭を押さえ、歩き出す。
「くそ・・・くそっ・・・」
ただそう呟くことしか、出来なかった。
ハァーイ!わたしルーミア!ここの森に住まう人食い妖怪だよっ☆
・・・なーんて。テンション高くしたけど、だめだな。気分じゃない。
今日は半月。この前が満月だから、徐々に月は欠けていっている。妖怪にとっては満月が一番力が出るから、ダルくなるんだよね〜。まあ、ちょっと人里の周りをダッシュで駆けた程度だけど。
外来人もこないし、お腹も減ってる。不機嫌とまではいかないけど、はしゃげる元気はないのだ。
「あぁ〜、どこかにいい人間(食料)はいないかなぁ」
仕方ない、ミスチーの屋台でも行こうかな。最近新メニューが出来たっていうし。そこそこ楽しめるかも。
(ん・・・?)
そのとき、小さな湖の辺りから妙な気配を感じた。同族、に近いけど、どこか異質な・・・。
もしかしたら、新しく幻想入りした奴かな?
少しだけ興味が出てきた。なぜなら、その妖気は・・・並みの妖怪のそれと、比べ物にならないほど強いから。
それは、私と同じような人型の知能をもった妖怪ということ。
はやる気持ちを押さえもせず、私は一目散に向かった。
・・・オイオイ。誰でもいいとは言ったけれども。
少年は、思わずため息を吐いた。
「あなた、誰?」
無邪気にそう訊いてくる金髪幼女。余計、少年の頭を悩ませる結果となった。なぜか?こんな子供が夜中に出歩くなんて、軽く事件だろ。
「あー・・・君、何でこんなトコに?」
「むう、質問しているのはこっちだよ?」
「あ、うん・・・俺は新城皐。で、君は?こんな夜中にどうしたの?」
キョトン、と首を傾げる幼女。いや、そんな可愛い姿を見せられても困る。
だが、こんな幼女が出歩くとは、そこまで治安を気にする必要はないのかもしれない。そうだ、どうせ手のこんだドッキリにちがいない。ロ○ハーぐらいだろうが、そんな物好きは。
「・・・ああ、そっか。あなた、生まれたばっかりかー。初めまして、私、ルーミア!人食い妖怪で、あなたの・・・同族よ」
目の前の幼女は、ドッキリにしても意味不明な言葉を、笑顔でのたまった。
「・・・は?妖怪?」
「そうだけど?」
再度、ため息が漏れる。どうやら、ただのイタイ子だったらしい。おそらく廚ニ病予備軍といったところか。
情報は得られそうにない。そう判断した。
「そうかい、お家はどこ?親御さんかいるならお兄さん、お話したいことがあるんだけど」
「・・・ああ、自覚もしてないんだ」
呆れたように呟いた。随分と失礼な言い草だ。他人を妖怪呼ばわりするなど。親の顔が見たいものだ、二重の意味で。
だが、ルーミアとかいう子は、懐から手鏡を取り出すと、ポーンとこちらに投げて寄越した。
「・・・何を」
「いいから。自分の姿、見てごらん?」
なんだ、怪我でもしているのか?怪訝に思いながらやや煤けた鏡をのぞき。
絶句した。
だって、え、これ・・・!?
「やっと分かった?それが・・・」
−−−あなたの姿だよ?
俺の姿・・・
連日の徹ゲーでクマが消えない、陰気な人間の姿などどこにもなく。
俺は・・・ダークライ
こうして俺こと新城皐は望まぬ幻想入りを果たす。愛してやまなかった、ダークライの姿を借りて。
だけど、この時からではなかった。
ただの一般人に過ぎない俺を巻き込んだ"異変"。その歯車が廻り始めたのは・・・。
抗えぬ運命。世界を巻き込む不条理に立ち向かう。
これは、そんな物語。
*主人公の名前について
新城皐→新城五月→"新"城五"月"→新月
という由来でした。
*冒頭について
劇場版DPの特典、2014年の劇場版前売り特典が元になっています。今回は現実のポケモンセンターで手にはいることにしました。