闇の精霊が幻想入り   作:ジャンヌ

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第二夜 闇と光とアイデンティティ

人里からやや離れた、人間でも生活可能な森の端に、その店は存在していた。

女将は妖怪。種族の名もそのままに、"夜雀食堂"という看板を小綺麗な屋台に掲げている。客足はもっぱら妖怪の類いであるが、物好きな人間も訪れるくらいには有名な店だ。妖怪勝りの奴、例えば白黒魔法使いのみならず、人里の者もポツポツ足を伸ばす。

店内では喧嘩は禁止。その他、良心的なルールも相まって、和やかな雰囲気だ。

そんな隠れ家のような店に来たそいつは・・・幻想郷といえど、一風変わっていた。物の怪のようにも、人がたのようにも。妖気から確実に妖怪ということは分かった。

 

「いらっしゃい、ルーミア。そちらの方は?」

「やっほー、ミスチー。それなんだけどね、どうも新参者らしくてさ」

「へぇ・・・随分と顔色が悪そうだけど?大丈夫なの?」

「あー・・・お冷やでもだしてやって」

 

お客なら分け隔てなく大歓迎。女将であるミスティア・ローレライは手際よくグラスに水を注いだ。

 

 

 

さて、あれから自分に起きた異変を二個も三個も突きつけられた皐だったが、やはり理解が追い付かなかった。動悸が激しくなり倒れてしまった彼をルーミアが助け、担いでミスティアの店を訪れた、というわけである。途中、気分を持ち直してルーミアの背から降りたが。

 

出された水を、洗い流すかの如く、一気に飲み干す。はあ、と漏れた息からは、表情と同じく憂いが見てとれた。

 

「・・・迷惑、かけたな」

「いんや別に。それで、どうなの?やっと自覚した?」

「いや。未だにここの場所を知りもしていない」

 

よくよく考えれば、結果は分かったものの原因は何一つ把握していないのである。ただ、今までの常識が通用しないことは既に、今の自分の姿が物語っている。

 

(現に、今・・・)

 

グラスを口元に運んだとき。今更ながら、気づいたのだ。

ダークライの容姿に、口らしき器官がないことに。

アニメでもそんな描写はなかった。まあ専ら戦闘シーンしかなかったから当然であるが、疑問に思ったのも束の間。

 

 

感覚は通常通りに、ただ水だけが消えたのである。

 

 

詳しくいえば、縁に接触などしていない。ただ、傾けただけである。飲んだような飲んでいないような、もはやわけが分からない。

この事からも・・・移動の仕方や飛べたりとか、いやがおうにでも人外である自覚が芽生えてしまった。

恐怖はない。あるのは、ただ戸惑いのみ。

パニック状態からは抜け出せたが、思考は正常に働かない。

全ては、目の前の金髪幼女の話を聞いてからだろう。

 

「そうねー。まずは、ここは"幻想郷"。忘れられた者が集う場所よ」

「忘れられたモノ・・・」

「そう。外界の人間が生み出し、そして忘れてしまった、妖怪、神、その他モロモロ・・・要は、私達の楽園ってこと」

 

尚も、ルーミアの話は続いていく。曰く、二重の結界で隔離されてるだの、弾幕ごっこだの。

そして、その中に・・・一つも、"ポケモン"という単語はなかった。つまりは、幻想郷にポケモンという概念はないということ。当然だろう、今姿を借りているダークライは幻のポケモンとよばれる、チビッコにも大きなお友達にも広く認知されているポケモンなのだ。

 

(こいつだったらキャーキャー騒ぎ出しそうだしな・・・)

 

どうやら、自分はメルヘンよりもさらにメルヘンチックな存在らしい。もう、驚くには感情のキャパが飽和している。

 

(そもそも、なんでこんな目に・・・)

 

家族のこともそう、幻想郷だとかいう場所に拉致られたのもそう。

だが最も少年の心を揺さぶっているのは・・・自分が変わってしまった(・・・・・・・・)こと。

確かに、ダークライは好きだ。大好きだ。愛しているといってもいい。アニメを見ながら、学校の授業中、そしてベッドの上で何度も妄想した。

だからこそ、なのだ。喜びと悲しみがない交ぜになったような、こんな複雑な気持ちになっているのは。

 

多くの者が一度は思うだろう。このアイドルみたいな容姿だったら、技能に秀でていたら、頭が良ければ、話術に長けていれば、男だったら女だったら。

全く違うナニカに憧れるし、なった時には負の感情よりも歓喜で満ちると夢想する。

だが。実際に、こんな状況に陥ってみれば。

 

自己同一性(アイデンティティ)がさっぱり消失したことに、気づくのだ。

 

ただでさえ今までの人生を全否定されたような環境なのだ。依るべき己()さえ消えてしまう。そうなれば。

なにもかも投げ出したい脱力感と諦めしか、残らないじゃないか・・・

 

「・・ねぇ。ねえってば」

「・・・あ、ああ。悪い」

「聞いてた?また説明するのは嫌だからねー?」

 

本人は怒っているつもりなのだろうが、正直、頬を膨らませたその顔は愛玩の感情にしか見えない。だが、今の状況でそう思うには、些か余裕が欠けていた。

・・・なんで、俺だけ、こんな目に。

とりあえず自分には妖怪と判断されるに足るらしいから、それでいこう。どのみち、こんな姿じゃ人間とは信じてもらえまい。できれば落ち着けるとこをさがして、こうなった原因でも探るか。

 

 

そして、その後はどうする?

 

 

元に戻れる方法もわからぬ今の状況を、絶望以外になんと形容すればいいんだ?

何も分からない、何をしろというんだ?

何が目的で、こんなことをしたんだ。

それを彼女に聞いたところで暖簾に腕押しだ。

ああ、いっそ殺されていたならどんなに楽だったか・・・

 

 

「はい、どうぞ!」

 

 

再び陰鬱な泥沼に浸かり出した意識を現実に引き戻したのは、女将の声だった。

 

「これなに、ミスチー?」

「お通しだけど?」

「そ、そうなんだけどさ。肉じゃが?」

「そ!この前新メニュー考えてるって言ったでしょ?人里のおじさんから聞いたレシピを元に作ったの!」

 

フンス、と自信満々に胸をはるミスティア。

なるほど、見た目はそう一般家庭のモノと変わらない。だが、ふんだんに入れられた魚のような食材が、色と匂いを更に濃くしている。

 

「あむっ・・・うん、美味しいよミスチー!」

「ホント!?良かった〜・・・ほら、そこの新米さんも食べてみて!」

 

 

半ば急かされるように箸をとり、口に入れる。

 そして、思わず目を見開いた。

 ・・・なるほど、豚肉とは違う魚の香り、臭みもなくしつこくもなく、見た目よりもあっさりしている。

そして、何より。

 

 

 

 

−−−お母さんの肉じゃがの味と、そっくりだ。

 

 

 

 

ただの偶然と片付けるには、その味は余りにも暖かい。

 

「じゃあ日本酒でも・・・!?ちょ、どうしたの皐!?」

「あ、あわわ、タオルをお持ちしますっ!」

 

 

指差す先を手で触れれば、一筋の涙。

ノスタルジア、というやつか。だが、不思議と楽観的な気分になるのを感じていた。悲哀に感じるには、余りにも急変化すぎる展開だった。

 

 

そうだ・・・まだもう一つ、こんなにもはっきりした事実があったじゃないか。

 

 

まだ、俺は生きている。まだ、俺は思考できている。

 

 

妖怪だのは後で考えろ。家族も死体があったわけじゃないんだ。

 

 

諦めるには、まだ自分は何もしていない。

 

 

「は、はは・・・」

「だ、大丈夫なの突然さ・・・」

「いや・・・大丈夫。ただ、妖怪でも、生きているんだなって」

「はぁ、まあそうだけど」

 

 

思えば、そこまで不幸続きでもなかったかもしれない。

人間の姿だったらルーミアに食われていたかもしれないし、そもそも妖怪にすら会わなかったら自分はグズグズに腐っていたかもしれない。

 

「ルーミア、だったっけ?」

「うん、そうだよ」

「・・・ありがとう」

 

パチクリ、と目を瞬くルーミア。そして、ニッコリ、とあどけない笑みを見せる。

 

「どういたしまして。何かあったら、いつでも私に言ってね」

「そ、そうか?ならよろしくな」

「うん!・・・ちょっと外に出るね」

 

 

そう言って席をたつルーミア。

また一口、肉じゃがを口に運ぶ。ゆっくり咀嚼して、味を噛み締める。これからの生活への、期待とともに。

 

「はいタオル・・・って、もう要らなかったか」

「あ、わざわざすみません」

「いえいえ。そういえば、まだ自己紹介がまだだったね。私はミスティア・ローレライ。ミスチ−って呼んでね!」

「ミスチ−、ね。俺は新城皐っていいます。今更な気もしますけど、その翼・・・」

「御察しの通り。私は"夜雀"よ。貴方は?」

「そう、だな・・・強いていうなら、"ダークライ"ってところかな」

「だーくらい?変わった種族ね」

 

まあ、と自嘲ぎみに皐が笑い。

 

突如、悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう・・・」

屋台から離れ、一人、息を吐く。

付き合いなんてたった数時間の彼、新城皐。新参の妖怪にしたってどこか様子がおかしかったが、迷いも少しは吹っ切れたようで、ルーミア自身も安堵していた。

 

「へんな気持ちだなあ・・・」

 

ちょっとした好奇心から接近した。だけど、意識が薄れた皐をおぶった時、不意にナニカを感じた。

 

−−−それは、ルーミアが抱える"闇"のような・・・

 

−−−制御もままならない、畏怖すべき力のような・・・

 

なぜだか、共鳴するような、そんな感覚を抱いていたのだ。

 

「同じ、なのかな?だったら・・・"友達"に・・・」

 

ミスティアやリグルとは違う意味での"友"。

他人には受け入れられない力を持つもの同士、そうだったのならば、きっと・・・

 

 

「・・・ほう、こんなとこにテメェがいるなんてなぁ」

 

 しまった、と思った時にはすでに正面をふさがれていた。

 気づかなかった。いつもならこんなに接近されることはないのに・・・!

 

「何の用よ」

「つれねぇなぁ?なに、随分と可愛げのある顔してたもんだからよ、思わず声をかけちまったってわけさ」

「そう。どうも」

 

 相手の妖怪の言葉は、字面だけなら褒め言葉と取れなくもないだろう。無論、ニヤニヤと歪むその単眼からは全くそれは想起できない。

 一つ目で亜人の妖怪は、徐々にルーミアに近寄る。邪で不審な表情を浮かべながら。

 

「いいご身分だよなあ?そんなちっこいガキの面してよ、雑魚には上から目線だもんなあ?」

「・・・そんなことない」

「いいや分かってるぜぇ?テメェにゃ俺たちにない自信がある。だからそれを・・・」

 

 ---壊してやるのさ。

 

「全くいいタイミングだぁ。丁度、テメェを殺す算段がついたところだからよ」

「へぇ?それは気になるわねぇ?でも、残念。脳みその無駄遣いよ」

 

 刹那、ルーミアは自身の能力・・・”闇”の球体を展開した。そして、敵だけを包み込む。

 博麗の巫女との初戦は、自身も巻き込んでしまったことが敗因だった。加えて、反則級の勘の良さで目潰しも意味がない。それを受け、何とか闇の展開する起点を自分以外に移すように練習したのだ。

 

「・・・大口叩いて、もうおしまい?」

 

 ウンともスンとも言わなくなる野良妖怪。こいつとは会うたびに喧嘩を吹っ掛けられるが、いつも返り討ちにしてきた。弾幕ごっこで、野良に負けるわけがない。

 だから、失念していた・・・今回が、”殺し合い”であることに。

 

「コテンパンに・・・っ!!」

 

 突如、闇が消え去った。丁度中心から、拡散するように広がった・・・”光”によって。

 

(逆の属性・・・!なんで?そんな能力が使えるやつなんて・・・!)

 

 妖怪は闇に住まうもの。イレギュラーならともかく、普通の妖怪が自身を滅ぼすような力を扱えるわけないのだ。

 思わず目を閉じてしまう。それが、命とり。

 飛び出してきた野良妖怪の拳が、ルーミアの腹を抉る。

 

「ガフゥ・・・!」

「これでも男の妖怪なんでな。鬼ほどじゃあねぇが力はあるぜ?」

 

 飛ばされかけたルーミアの肩を掴み、下卑た笑みを浮かべる妖怪。だが、口は笑っていても・・・その眼は、いつの間にか赤く、充血していた。

 ドムッ!!

 ドムッ!!

 また二発、三発と容赦なく、野良妖怪は拳を振る。

 

(お、おかしい・・・)

 

 確かにパワーでは相手に分がある。だから、こうなってしまってはそうそう逃げるのは難しい。

 それよりも・・・腹の痛みが、ありえないほど膨大になっているのだ。やや殴る場所をずらされているのにも関わらず。

 痛みをこらえて目を開け、敵の拳を注視する。やはり。何の妖術かは知らないが、何やら赤黒いオーラが纏わりついていた。

 

「気づいたかぁ?この技はなかなかエゲツネェゼ?殴れば殴るほど、力が増すんだからな・・・ほら、この通り」

 

 ドサリ、と地面に崩れ落ちる。何を、と思う間もなく。

 肩と左腕を掴まれ・・・

 

「い、いや・・やめて・・・!」

「あぁ?何を怖がってんだよ・・・ちぃと、引っ張る(・・・・)だけじゃねぇか。えぇ?」

「や・・・あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!!」

 

 ブチリ、と果実をもぎ取るかのようにあっさりと。

 ルーミアは、左腕を喪失した。

 妖怪といえど、身体構成は人間に近い。ドロリ、と行き場を無くした血流が、間欠泉のように吹き出す。

 

「ああ・・・ひぐっ」

「おーおーいい顔だな。癖になりそうだが・・・あいにくロリコンじゃねえんでな。終わりにするぜ」

 

 スッと、頭上へ拳を構える。きっと、その馬鹿力で頭から真っ二つにするきだろう。仮にも妖怪だ、どんな残虐行為をはたらいたところで、逆に愉悦に変えてしまう。

 ・・・いわれのない理由で敵意を向けられたのも、ここまで手も足も出ず負けたのも、どうしようもなく不満だ。悔しい。戦意さえ保てていれば、八つ裂きにせんと恨みがましく睨み付けたことだろう。

 だけど。それよりも。

 

(皐、まだ待ってるよね・・・?)

 

 ”友達” になれたかもしれない、新城皐のことが、気がかりだった。

 所詮、偶然の出会いだ。きっとこの幻想郷で多くの出会いを経験し、交友関係を築くのだろう。

 

「私が、一番だったらな・・・」

「あ?」

 

 ちょっとした、自己中心的なエゴだが。

 まだ、なにも知らない。伝えてない。もっと、分かり合いたい・・・!

 

「・・・だから嫌なんだ。その目がよ」

 

 チッ、という舌打ちを最後に、私が見たのは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脇腹を殴られ、閃光の如き速さでふっとぶ姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 グシャリ、と樹にぶつかったそいつを、鋭く睨む、黒い影。ルーミアにも視認できなかったスピードで突っ込んだ、彼は・・・

 

「皐・・・?」

「ああ。大丈夫か、ルーミア・・・!?」

 

 うっと口を手で押さえた皐。何でだろう・・・ああ、そうだ。左腕か。まったく人間みたい、とルーミアは不謹慎ながらそう思う。

 

「皐、私はいいから、逃げ・・・」

「・・・成る程な」

 

ポツリ、と呟く皐。再び野良妖怪を睨み、ジリジリと近寄る。

一方のそいつは、佳境を邪魔されたこと、名も顔も知らぬ妖怪に殴られたことで怒りは頂点に達していた。

 

「許さねぇ・・・ぶっ殺したらぁっ!!」

 

ドン、と地を蹴り、その禍々しいパンチを喰らわせんと迫る。

間合いなんか勝手に向こうが縮めてくれた。外さない自信があった。一発でも入れば終わり。そんな確信もある。

そして、敵はヒラリと身を翻したかと思うと顔を殴られた。

 

(・・・はい?)

 

空振りした自身の拳をぼんやりと見つめ、一瞬、思考を停止した。

 

(嘘だろ・・・今の、並みの妖怪の速さじゃねえっ!!)

(パンチこそ素人同然だ、力もヒヨッコ。だが、あのスピードは異常だ・・・!)

 

違和感を感じないくらいの、スピード。恐らくさっきの攻撃も、余りの速度故の破壊力。自身が吹っ飛ばされるくらいのエネルギーは優にあった。

 

「・・・そうだ・・・自分が何者かなんて、やっぱりどうでもいい」

 

不意に雲みたいな頭をしたそいつは、誰に聞かせるわけでもなく呟く。

 

「だって・・・」

 

 

 

 

 

 

−−−こんなに凄い力が、あるんだから。

 

 

 

 

 

「う・・・・うあああああぁぁぁぁぁああ!!」

 

我慢の限界だった。怒りも恐怖も焦りも・・・ないまぜになって、我を忘れてしまった。

唯一の理性というべきか、ルーミアの闇をも取り払う"光"を展開しながら、獣のように突進する。

 

「うっ・・・」

「がああぁぁぁぁあ!!」

 

やはり皐は動きをとめ、無防備になってしまう。

今までと比べ物にならない衝撃が、全身を揺らす。

 

「ぐっ・・・」

「これでぇぇぇシメェェェだぁぁぁあ!!」

 

両手を組み、降り下ろす。片手だったのが、両手に。当然威力も倍増されている。これを喰らえば五体満足でいることは難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

−−−闘うことを、諦めた者ならば。

 

 

 

 

 

 

「喰らうかよっ!」

 

体勢は不安定だ。だから普通は身動きできない。誰だってそう思うが。

 

そのまま、水平にずれた。

 

 

対象を捕捉できなかった野良の拳は、地面にクレーターを作っただけで終わった。

 

「あ・・・?」

「終わりだ、名も知らねぇ馬鹿野郎」

 

その言葉とともに、後頭部にズン、と衝撃がはしり。

野良妖怪の意識は、完全に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーミアの左腕、人間ならもはや手のほどこしようがないが・・・

 

「まさか、くっつくとはな・・・」

「まあね、妖怪だもん。」

「いやいや、ルーミアちゃんだからこそ、ねえ・・・?」

 

どうやらこの少女、封印された妖力がなんたら〜とかで他の妖怪よりちょっぴり再生能力が高いんだそうだ。加えてミスティアの手際よい処置も功を奏した。

いやちょっぴりどころじゃねーだろ。とは口にしない。

 

「心配して損した・・・」

「いやいや、それでもアイツは倒せなかったし。ホント、何だったんだろ?」

「そうねぇ、光を操る妖怪なんて聞いたことないし。あ、でもルーミアのことはよく話題にしてたよ?『気に入らねぇ、ガキは嫌いだ』って」

「へんなやつだねぇ。妖怪に年なんて関係ないのに」

「そうだ、そういえばルーミアって何歳なんだ?」

「え?聞きたいの?」

「・・・やっぱいいや」

 

あの顔に差した闇は、きっと能力のせいだと思いたい。

 

 

(それと、あの光・・・)

 

ふと思い出す。そういえばポケモンでそんな技はなかったか・・・

 

(ああ、そうだ。"フラッシュ"じゃないか?)

 

命中率を一段階下げるだけの技だが、成る程、リアルでは絶大な威力を発揮する。

まあ問題は、あいつはただの妖怪に過ぎず、ポケモンの技など覚えようがないことだが。

 

さて、夜も更けようかという時分である。いつまでもここに邪魔している訳にもいくまい。患者はピンピンしているし。

 

「じゃあ、俺はこれで・・・」

「あ、まって皐!」

 

暖簾に手をかけた皐を呼び止めるルーミア。にぱっ、と無邪気な笑みを浮かべる。

 

「ありがとう!皐がいなかったら、私・・・」

「いい、気にすんなって」

 

手をヒラヒラさせながら軽い調子で返した皐だったが、その顔は、どこか憂いを帯びていた。

 

「そうだ・・・また会ったらよろしくな、ルーミア」

「・・・うんっ!」

 

そう言い残し、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「良かったの?ルーミアちゃん?」

 

皐が店を出た後、ミスチーはそう問いかけてきた。

 

「え、なにが?」

「きまってるじゃない、貴女の家に泊めなくてよかったの?」

「っ!?い、いやなんでっ!?」

「あはは、冗談よ・・・でも、気になっていたのは事実でしょ?」

「・・・ミスチーには敵わないなあ」

 

屋台を始めてから、益々ミスチーは人の感情を読むのが上手くなった気がする。

 

「まあ、ね。私に似た力を感じたし、それに」

「命を救ってくれた王子様だし♪」

「ミスチィィッ!!」

 

あー・・・そんなカラコロと笑わないでよ・・・調子狂うなあ、もう。

 

「なんというか、その・・・孤独、というのかな。どこか悲しそうで・・・」

「・・・」

「でも、ちょっと吹っ切れた顔してたし!」

「うんうん」

「私も、もうあんな奴に負けないように頑張らないとっ!」

「花嫁修業?」

「違うわっ!!」

 

・・・とはいったものの。

よくよく考えてみると、彼、寝床の当てはあるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日を反射し、煌めきを放つ、二枚の円盤。

それは、傍らに突っ伏している妖怪の頭の付近に落ちていた。

不意に、円盤に影が射す。

 

「・・・」

 

それは、鋭い眼光を放つ、やや中年の男の影だった。

ゴミでもみるかのような視線をむけながら、妖怪の頭に足を置く。

 

グシャリ。

 

なんの感慨もなく、一つの生命を潰した男は、そっと円盤を手にする。

 

 

「正常に作動したか。使用痕跡あり・・・それで負けたか」

 

ゴミはゴミだな、と吐き捨てるように呟く。精神的に問題を抱えた奴を唆してテスターにさせたはいいものの、身に過ぎた代物だったようだ。

"フラッシュ"と"グロウパンチ"。試作品といえど、効果は保証されている。

 

「まあ、急く必要はない。我が野望はまだ始まったばかり・・・」

 

覚悟しろ、神よ。

 

そう強かに呟き、その場を後にした。

 

 

 




*水を飲む時
オモシロ現象が起きたんだな、程度の認識でOK。

*ルーミアの力
現在の地力は雑魚より少し上程度。

*最後のおっさん
黒幕ぶってますね。次の登場はいつかな?


今回は少し戦闘も混ぜました。無論、技も段幕も使わず、ただの身体能力だけで戦いました。まあ、やや肝が座っている気がしなくもありませんが。何の覇気もない妖怪なぞ、アホ面チンピラと同然、みたいな認識で。

基本ダークライは浮いていますからね。体勢が崩れる、なんてことはほぼないかな、と。もう何時間かたっているので慣れていますし。
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