「お待たせしてごめんなさい。凄く広いお風呂でゆっくり入ってしまったわ」
「いえ、気に入っていただけて良かったです」
ふわふわと甘い花のような石鹸の香りを纏わせてセリアとアイシアはリオ達のいる客間に戻ってきた。
2人とも頬や首筋、手足をほんのり桜色に染め髪をラフに結い上げており素顔のままでもその綺麗さが際立っているように見える。
まじまじと凝視するのは彼女達に失礼だと気づきリオはさっと台所へ向かった。
「はーっ湯上り最高……!」
海人は想像通りリオの紳士的気遣いも虚しくまじまじと彼女達を凝視していた。
こうならないように奥にあるシンクで野菜の洗いと皮むきをおしつけていたのにまたしても妙なポテンシャルを発揮し早々に4人分の材料として持って行った野菜達は綺麗に皮残りもなく剥かれていた。
「さあさあレディ達冷たいお茶をどうぞ」
「あ、ありがとう」
「……。」
驚きつつお礼を言うセリアと無言で少しだけ頷くアイシアを座らせ、
勝手に時空の蔵を開き(教えていない)勝手に麦茶を手際よくコップに注ぎまるで執事のように彼女達をもてなしている。
「おい、早く玉ねぎを刻め」
「え、まだ手伝うの?」
リオは無言で右手に包丁を逆手に持ち左手に玉ねぎを握り海人にキッと威圧的視線を向ける。
「はい。やらせていただきます」
ささっと台所に戻ってきた。
「あら刻みで頼む」
「御意」
大学時代はお互い一人暮らしだったため2人とも自炊には慣れていた。
手馴れた手つきでリズム良く玉ねぎを刻んでいく姿をいつの間にかアイシアとセリアが尊敬の眼差しで見守っていた。
「リオが器用なのは知っていたけれど、海人さんも上手ね」
「ははっありがとうございます♡セリア嬢」
海人は手は止めずに視線をセリアに向け微笑んだ。
「適度なお手伝い上手はモテるからなー。でも出来すぎちゃうと女の子に引かれるんだよな、春人」
「手を止めるんじゃない」
「止まってないだろー」
なんだかんだと言い合いつつも息の合った共同作業をしている2人にセリアは羨ましそうな視線を送る。
……私もお料理勉強したらあんな風にリオのお手伝いができるかしら。
そんな想像をしたらなかなかいいなと思ってしまってようやく赤みが薄れてきた頬をまた染めていた。
隣で見ていたアイシアはゆらゆらと左右に身体を動かしながら穏やかな笑顔を向け小さく呟いた。
「良かったね、ハルト」
そんなアイシアの視線に気づきリオは声をかけた。
「アイシア、どうかした?」
「ううん。」
アイシアはふるふると小さく首を振ると客間にぱたぱたと戻っていった。
約30分後には手際のいい殿方2人による綺麗に盛り付けされた色鮮やかな料理が並んでいた。
「お待たせしました。頂きましょうか」
つい数時間前に花嫁奪還事件が起きていたとは思えないほど穏やかで賑やかな晩餐となった。
そこでだいたいのこれからの話しと海人の話、自分の前世の記憶などについて簡単に説明をした。
もっとも海人については謎だらけなため2人の関係性についてくらいしか話してはいないのだが。
しばし料理に舌鼓をうち、落ち着いたところでリオがセリアに訊ねた。
「明日はアマンドに買い物に行こうと思うのですがどうでしょう」
「え、ほんと?」
「アマンドにはリッカ商会がありますから必要なものは大体揃うかなと」
わああ、丁度アイシアと話していたところだったの!とセリアは顔を綻ばせる。
アイシアもうんうんとデザートのシャーベットを食べながら頷いた。
「じゃあ決まりですね。一応セリア先生は変装した方が良いと考えているのでこれを」
リオは光る石のついた首飾りをセリアに渡した。
「髪の色を変える魔道具です」
「えっ、ちょっと付けてみていい?」
リオは好奇心に目を輝かせるセリアの表情を懐かしく感じながら微笑み答える
「もちろん」
セリアは渡された首飾りをかけ、結っていた髪を解いた。瞬時に彼女の銀髪は綺麗なブロンドへと変化していった。
持っていた手鏡で自分の髪色を確認したセリアは感嘆の声をあげた。
「凄く自然に変えられるのね!」
髪を梳きながらセリアは嬉しそうに笑顔を向けた。
ガチャっ
持っていた箸を落としたのかセリアの向かいに座っていた海人から落下音がした。
「……。」
じっっとブロンドヘアのセリアを見つめ、徐に立ち上がり部屋の外へと走った。そして直ぐに戻ってきたかと思ったらセリアに近づき黒いリボンの様なものを手渡した。
「これを是非つけてほしい」
「へっ?」
いつも突拍子もないことをする海人の行動にまたしても動揺するセリア
「出来れば高めツインテールでお願い致します!!」
「は、はい」
その勢いと熱意に押され反射的に返事をするセリア。
「ちょっとお風呂場の鏡を借りるわね……?」
優しいセリアはよく分からない要望に答えるべく部屋を出ていった。
やれやれと止めに行こうと立ち上がろうとしたリオを彼はビシッと手で制止した。
「春人、俺はっ、今、人生で1番大変なことになっている。」
「お前の人生が平和だったようで何よりだ」
戻ってきたセリアは髪を高い位置で結びさっき手渡された黒いリボンをしていた。
「俺の永遠の推しが、実在した……っ!!」
……何がしたいんだろうな。こいつは。
奇声を上げながら咽び泣き感嘆の声を上げる男を侮蔑の表情でリオはその有様を見つめた。
そう言えばこういうところを見られていつも女の子に逃げられていたとふと思い出した。
──お前はどこの世界に来ても絶対にモテないなと静かに頷くリオだった。
アマンドには彼女達がいますのでまたリオは苦労しますねえ。