それでも後悔しない方はどうぞお進みください。
ここは遥かな大地 テラ
天才発明家がいると思われた
ロドスの一角が
理不尽にも吹き飛んだ。
一つの部屋の爆発が爆発する。
爆発は他の爆発を呼び寄せ、その研究室とそこで作られたすべてを呑み込む。
爆発の力か、ほぼ同時に巻き起こされた一企業都市ロドスにおける爆発。
これによりこの移動都市はしばらく停泊することとなる。
この事件が引き起こすことになる闇を宿した凶行を見出せるのか?
そして、大事なものを全て守ることができるのか?
―あれから一か月後。
滑らかな黒い壁に水色と黄色が平行線をなぞっていく廊下。
少し前にロドスの天才吸血鬼エンジニアが修理した照明は、残念ながら再び明滅していた。
幸いというか、ライトブルーに塗られた自販機の明かりが幾分か暗さをマシにしてくれてはいた。
そんな不規則に薄暗さが覆っている空間を通過しようとする人物。
ピンク色の髪に小柄な体。
黒いフードから微かに覗くザラックの丸い耳。
肩には男物の貸してもらったジャケット。
カジミエーシュの騎士、グラベル。
ドクターから貸してもらったそれを羽織って彼女は弾んだ足取りで前へ進む。
暗がりから出てきたグラベルはあるものを取り出した。
それは先ほどもらったキーホルダー。
青い汽車を象ったキャラクターが付いていて、いかにも子供が喜びそうな可愛らしいものだった。
ちょっと先ほど起こったことを思い出して摘まみ上げたストラップに視線がいく。
いつの間にかゆっくりと揺れるストラップ。
その陰から覗く端正な顔は、とてもやさしい微笑みに満ちていた。
「あいたっ!」
「あ、ごめんなさい」
唐突に出てきた作業着のエンジニアにぶつかってしまう。
数歩歩いたところで大事なものを落としたことに気付いたようだ。
すぐに拾い上げてほこりを払うと、足早に去っていった。
残された人影はしばらく佇んでいた。しばらくぼそぼそとした声でつぶやいたかと思うと、何かに気が付いたように顔を挙げた。
「これはいいインスピレーションだね」
よーし!いますぐやろう! と薄いクマの目で笑いながら自分の研究ラボへ戻っていった。
「ラボ・ルトラ」へと。
ロドスの中でも随一の作戦指揮能力を持ち、トップの一人でもある指揮官。
普段ドクターと呼ばれる人物は深刻そうなオーラを醸し出して座っていた。
いつも黒づくめのフードで顔を隠しているが、対面した大多数の人がそう感じられただろう。
さて、そんな彼に対して気まずそうな面持ちのブレミシャインが来客用の椅子に座っていた。
密度の高い沈黙で満たされたこの部屋には声を出すだけの空気もなく。
普段とは打って変わった様子に、一応ドクターの方は向いているがよくよく見れば目を合わせないようにしている。
「どうぞ」
「あ…」
騎士の声とコーヒーの香りが堅固な沈黙に間を空ける。
こんな空間でも手際よくお茶を入れられる。
さすがはドクターの自称専属秘書…。
さざ波を立てるマグカップに目を落とすとやおら黒いバイザーが上がる。
「…ブレミシャイン」
「!は、はいっ」
思わず声が大きくなった。
(一体何の話かな?まさかウィスラッシュおばさんが関わってるのかしら…。)
身構えて次の言葉を持つものの、またドクターは逡巡してしまっているようだ。
もしかして、ものすごく重要な任務とかかしら?
今のドクターは口数が少ない上、どこかためらいがちな様子。
いつもの彼らしからぬ雰囲気に感化されたのか、力になってあげたい思いがこみ上げる。
高い頻度でサボりに来るのを匿ってくれるのもあるが。
(とにかく今はこの状況を変えなくちゃ)
カップの中身を半分飲み込む。
まだ熱かったけど私だって耀騎士の妹なんだ。
こんなところで弱みは見せないわ。
ううん、むしろドクターの為に身を乗り出すべきは私の方なのよ。
しっかりしなきゃ。
「ドクター?困っているなら話して!私を呼んだのってドクターがロドスのみんなのためにやりたいことがあるってことなんでしょう?」
「あ、ああ…」
さらに前向きに身を乗り出す。美しい耳がピンと立つ。自然と部屋へ光が満ちる。
「だったら大丈夫よ!私、耀騎士ニアールの妹なんだから、ね?どんなことだって半歩も引かずやり遂げてみせるわ!」
そう言い切ったブレミシャインの表情は凛としていた。
普段はひだまりのようにふんわりと包み込む様な可愛らしい少女だが、今の彼女は困っている者へ救いの手を差し伸べる騎士そのものだった。
「…」
「…ドクター?」
「そうだな、すまないブレミシャイン。そこまで言ってくれて嬉しく思うよ」
しばらく考えた風な間をおいてドクターはブレミシャインへ頼むことにしたようだ。
だが何故かドクターが申し訳なさそうな顔をして…いや顔ではなく雰囲気がそのように感じられた。
窓から差す光が丁度かげったせいなのか、それとも先ほどから一連のやり取りを見て俯きがちに体を震わせている秘書のせいなのか。
「たのむ!メイヤーの暴走を止めてくれ!」
机に伏すドクターの頭。
机の上で彼は真面目なトーンで土下座をする。
もしこれが漫画ならドンッ‼という効果音が出ているかもしれない。
全力の、気迫の、土下座だ。
…しばらく彼は何も言わなかった。
また騎士も何も言わなかった。
だが秘書は更に身体を震わせるともう耐えきれないと言わんばかりに笑い出した。
突然あっけらかんと笑い出した秘書のグラベルに、
真意のつかめない頼み事をしたドクター。
ブレミシャインの左右の耳はそれぞれの方へ向かっている。
眉根も末広がり、訳が分からないといった風に、
「へっ?」
なんとも可愛らしい、気の抜けた声を漏らすことだけが彼女にできることだった。
フクロウを象った鳩時計が正午を告げる。まだ昼休みは始まったばかりだ。
1時間前
ロドス 仮想訓練室
「仮想敵演習ですか?」
唐突に知らされた教官からの決定に行動予備隊A1隊長である私、フェンは少し驚いていた。
「ええー?またなのぉ?」
「…やっぱサボった方がよかったかな」
「カタパルトお姉さん、帰っちゃうの?」
「ううん違うよ、ちょっと冗談言ってみただけ」
他の面々も驚きの声を漏らしている。
多分普段よりも多めの訓練人数、早めに切りあがった基礎体力訓練から全員がなんとなく察していた。
珍しく参加したカタパルトはなんとなく嫌そうな顔つきだったし、メランサもどこか緊張した面立ちで訓練に臨んでいたし、ビーグルはこっそりだが私に訓練予定の確認をしてきた。
仮想敵演習は週一回あるかないか位のペースで回される。
今週は週二ペースの気でいたから安心させるつもりで大丈夫と返した。
だが実際の所そんな気はしていた。いや、想像したくなかったのだろうか。
私ですら今ドーベルマン教官の決定を聞いて心が揺らいでいるのに、ビーグルとくると…。
「うう…やっぱり…わたし、みんなの足を引っ張らないかな…」
相当こたえているのが横目でも分かる。
先ほど安心させたのがかえって裏目に出てしまった。
ビーグルにはあとでお菓子を買っておかないと。
彼女には本当に申し訳ないことをしたな…。
「気をつけ!」
教官からの指示に全員が姿勢を整える。
少し静かになったところで一瞬訓練場外に目を巡らせたドーベルマン教官から指示が出された。
「今回も引き続き仮想敵訓練を行う。ただいつものようなホログラムではない。今回は対ロボット戦に主軸を置いたものになる。気を抜かず対応するんだ」
その言葉を聞いて少し緊張がほどけた。
ここのホログラムでは色々な相手が出現する。
アシッドムシの大群や聳え立つウルサス帝国軍先鋒が出てくるのはまだいい。
だがこの間はドローンを駆使する歴戦の戦士を二人同時に相手にした。
攻撃用ドローンを二機吐き出させるまで粘ったあの時の自分は誇っていいと思う。
かと思えば昨日は異形な怪物が相手だった。
円い口いっぱいににギザギザの牙を湛え、おぞましい姿と奇声とスピードで迫りくる怪物。
精神攻撃と医療マシーンとの板挟みの中で戦っていた時は永遠に続くとも感じられるほどだった。
本当にこんな怪物と戦う機会があるのだろうかと思いながらも、なんとか耐えきったが。
珍しいことにその後クルースからキャンディをもらった。
しかも私の好きな濃密ハニーキャンディ。
「これフェンちゃんにあげるね」
嫌いなものをわざわざ買ってきたのか譲ってきたのかはわからないが、彼女に心配される程私は疲れを見せてしまったのだろうか。
あの時はもっと厳しい訓練を耐えられるような隊長になろうと意気込めたっけ。
教官が咳払いをする。気がそれていたことに気付いてすぐに気を引き締める。
しっかりしなきゃ。
私はこの隊を導いていかないと。
でも、本当にロボットでよかったとは思う。
ホログラムで出てくるのはなにも敵と限ったことではないから。
「またこの演習にもう一人オペレーターが参加する。妨害役をつとめてくれるそうだ。各員、一層奮励して欲しい」
では待機、とそのオペレーターを呼びに離れていった。
いなくなったところでまたみんなが会話を交わす。
このタイミングで彼女を落ち着かせなければ。
その時私よりも声をかける人がいた。
同じ重装のカーディだ。
「ビーグルちゃん!凄い緊張してるね!」
「うわっ!カーディちゃん!?」
「ねーねーあたしすっごく調子いいんだ!なんでだと思う?」
「え?んーと?」
急な質問に戸惑うビーグル。
いつでも割って入れるように用意しながら話を聞く。
「今日訓練の前に水を買ってきたの!それも自販機で!すごいでしょ!普段だったら購買で買うんだよ!後でスチュワードくんに自慢するんだー!」
すごいご機嫌なことを矢継ぎ早に話すカーディ。
とても嬉しいことだったのだろう。
後ろでその本人が聞いているのに気づかない程に。
「す、すごいですね…!よかったです…!」
「ありがとう!…だからビーグルちゃんの分まであたし頑張るんだ!もしミスしちゃったとしてもあたしがカバーしてあげる!だから、大丈夫!二人で一緒に乗り切ろうね!」
妙なテンションで話しかけるので心配していたが、どうやらカーディなりの励ましだったようだ。
私がしようとしていたことを彼女が代わりにやってしまった。
あの活発さはロドスの誰にも負けないだろう。
お陰で私も上手く緊張が解けた。
「二人でじゃなくみんなでね」
「フェンちゃん!」「フェン隊長!」
二人とも向き直る。
「ありがとうカーディ。お陰でもっと頑張れそうだよ。みんな辛いけれども今まで私たちは耐えてこれたんだ。この訓練を乗り切れば私たちはもっと強くなれるよ」
だからビーグル、と彼女の肩に手を置く。
「一緒に乗り越えよう。ここまでこれたのもビーグルがいてくれたからなんだ。私たちに追いついていこうと頑張ってくれたから私も頑張れたんだ。みんなと一緒に約束を果たしたいから」
約束。
いつかロドスから離れ、この大地の宿業も鎮めた後の約束。
私たちを過去と今を繋ぎとめ、未来へ向かわせる約束。
肩に置いた私の手に勇気のぬくもりが重なる。
眼鏡の奥には決意の光が差していた。
「隊長…わたし、まだまだ頑張ります!」
ビーグルが立ち直った。
その姿を見て私も勇気をもらった。
こうした時の彼女はとても心強い。
普段から控えめがちな性格だがいざというときには頼りになる。
格好良くて私は好きだ。
「え~、今のうちにみんなでサボっちゃおうよぉ」
「クルース!」
それに比べてクルースときたら!
ここまで来ておきながら逃げようとするのには呆れて何も言えない。
珍しくラヴァだって来たというのに!*1
だが今回は何も言わないでおく。
と、ドーベルマン教官が戻ってきた。後ろに一人ついてきている。
オレンジ色が印象的な人影は段々と近づいてくる。
と、クルースが「メイヤーさん?」と呟いた。
アドナキエルは「誰?」と漏らしている。
改めてみるとより姿がさっきよりもハッキリしてきた。
ライン生命の制服に、作業用アームの目立つアーツユニット。
ロボット工学のエンジニアであるメイヤーさんだ。
しかし正体が分かったら今度は理由が分からなかった。
メイヤーさんは基地の中にいて、戦闘に参加するようなタイプではないはずじゃあ?
あれ、直前の三回目、相手がロボット、メイヤーさん…。
「めんどくさいことしてくれるねぇ」
クルースが毒づく。微かに目が開いたような気がした。
教官が元の位置に着くころには私たちは再び姿勢を正していた。
メイヤーを傍に控えながら教官は紹介を始める。
彼女は特殊作戦に参加するオペレーターで、カワウソ型自律歩行ロボット「ミーボ」を駆使して戦う。
今回新型ミーボの実験データを取るために私たちの仮想敵訓練に参加するとのことだ。
その時はそう伝えられるだけだったが、後々考えてみれば予兆があったと思う。
カーディの幸運。
すれ違った金色の騎士。
ポプカルの新しいストラップのキャラクター。
全てが警告だとあの時の私は気付けたのだろうか?
とにかく一つだけ言えるのは、「新型ミーボ」が恐ろしい脅威になったということだった。
皆さんどんなキャラクターで攻略していますか?
私は最初予備隊で攻略したいタイプです。
多分来週には次を出します。
どうか皆さんが危機契約を切り抜けられることを祈って。