ミーボ改造計画!   作:揚げ玉ねぎを好きになろう!

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A.M 9:21
ロドス ドクターの執務室

ブレミシャインを待っている間のドクターは非常に落ち着きがない状態にあった。

椅子から立ち上がったと思えばまた座り、既に裁可の終わった書類を確認したりしている。わざとらしいくらい絵に描いたような落ち着きのなさが露になっている。仮にも総司令だから落ち着いていてほしいものである。

一方グラベルにとっては信頼の証のように映っていた。

こうしたドクターの姿は戦場でも社内イベントでも見られるような姿とは違う。普段の何の変哲もない仕事人の姿である。そんな当たり前を一体どれほどの人が楽しもうと出来るだろうか?
情けない姿を見せてはいるが、それと同時に彼はロドスの理念を真剣に考えてくれている。
感染者であることで飛び越すことのできない壁ができる。しかもその壁は冷たい鉄を纏った残忍な騎士であるようだ。お互いに歩み寄ろうとすれば冷血な騎士たちは容赦なくその矛を血に染める。

だから、本当に分かり合おうとして鉄の防壁に挑みかかる彼の傍に侍りたいと思うのも、きっと自然なことなのだろう。グラベルはそう思う。

ポンッ、と音がして電気ケトルがお湯の支度が出来たことを告げた。ほぼしないうちにブレミシャインも入ってくる。

ドクターが書類をデスクに置く、その動作もなんとなく神妙な雰囲気に見えておもしろく思えてきた。顔を見られそうになったのでコーヒーの支度に入った。別にそんな風に悩まなくていいのに、とにやける顔が見られてしまうから。



そうして最初の場面へ戻るのだが。

何をどうしたらこんなすれ違いになってしまったのか。何か勘違いをして真面目なトーンで迫る耀騎士の妹と、ただ頼みごとをするだけなのに遠慮ばかりのドクターと。

ここロドスでは迷走の果てや理性の枯渇で珍妙な事件が繰り広げられることがままある。ドクターも惹き起こす側に立つことが、まあ多くある。

グラベルもロドスの一員だ。やっぱりその予測不能な行動を見るのが楽しみになってしまう。それが今回では机にひれ伏す有り様と来た。もう限界を超えていたグラベルは普段のミステリアスな雰囲気も捨てて笑うしかなかった。



そして今に至る。

「心配しすぎなのよ、ドクターは」
「すまないね、どうも信頼を深めていこうとするのがちょっと不器用でね」
「ううん、心配ないわ。むしろあなたの力になれるのが嬉しいの」
「そう言ってもらえるとありがたい」

本当に、と言葉を切り本題に入るドクター。

「キミはメイヤーを知ってるね」
「ええ、でも彼女は自分のラボに殆どこもっていてなかなかコンタクトを取れてないわよ」
「そこは大丈夫。今回は君にしかできないと思っているから」

それよりもとドクターは続ける。

「メイヤーの暴走が酷い。彼女は時折研究を徹夜でやる癖をもっていて、その度にトラブルを起こす。例えばそう、一月前は研究室を半壊させた。そうだったよなグラベル?」
「お陰でドクターの休みが無くなったわね」
「まあ、無くなったな」

そのことはブレミシャインも心当たりがある。確か先月、バグパイプが壊して13個目になる端末修理を手伝っていた時だった。突然爆発音が響き、驚いて修理済みのタブレットを落として罅を入れてしまった。幸いすぐに直すことはできたものの、本人が受け取ったところすぐにバッテリーが焦げ付きだしていた。あのような壊し方を見たのは後にも先にもないだろう。

「技術力が確かでロドスの為になっているし、人当たりも悪くはないんだ。あとは暴走さえしなければね…。」
「あなたが言えることじゃないと思うわよ、ドクター?」
「ドクターも理性がない時があるし、人のこと言えないと思うわ」
「はは、冗談だよね…。え?冗談じゃない?ま!まあ、それはさておき、今回のは特にひどかった」
「あら?あたしは何も聞いてないわよ?」
「爆発じゃないんだよ、グラベル」
「一体何なのかしら?すごく聞いてみたいわぁ」
「爆発なんてちゃちなものじゃない。もっと、恐ろしいものの片鱗を覗いてしまった」

ドクターは座る姿勢を直す。
それまで凭れて聞いていた姿勢から、これから構えて話していく姿勢へと。
そしてその目に見た彼女の凶行を物語る。

「3日前の事だ。あの日私は…」





仮想敵訓練:工場

ロドス 仮想敵訓練中の訓練室

 

ロボットの噴出する催涙液。

剝がされる装甲版。

飛び交うボウガンの矢。

 

現在、行動予備隊は適性区域となる工場内へと進攻していた。目標は敵の一区画を占領、味方の本隊が到着するまで維持すること。そのためフェンたちは予備隊を二つに分け、侵入することになった。チームαは陽動を兼ね正面から制圧するルート、もう一方のチームβは内部へ浸透、背後から敵勢力を削り正面突破を助けるルートで攻めていく。

 

彼女が率いるのはαチーム。正面突破組だ。

予想通りロボットの大群が列をなして群がってくる。その中を彼女たちは攻撃側でありながら防御の陣形で立ち向かう。

 

「隊長!敵がさらに来ます!」

「ラヴァ!ビーグルにアーツで支援!」

「ああ。任せろ。」

 

ロボットの群れにアーツが爆ぜる。爆発に装甲が砕け、内部の機構が燃える。まともに動けなくなるロボットをビーグルが対処していく。

 

「ドローン3時方向!クルース!」

「今やっているよぉ」

 

指示より早くクルースの矢が飛ぶ。正確に放たれた矢は過たずドローンの小さな胴体に当たる。中古品のジャンクは相次いで墜落し、新たな残骸の一部となった。

 

「アンセル通信はまだ!?」

「あと少しで所定の位置だそうです!それまで持ちこたえてください!」

「重装を下げて!側面方向に火力を集中!スポット、ポプカル!」

「あと少しで仕込みが終わる。隊長、少し余りそうだが全部仕掛けるか。」

「一応残して!地雷敷設が終わり次第二人とも合流!」

 

普段よりもフェンは慎重になっているのを自覚する。何しろこの演習はイレギュラーの存在が一番の問題なのだ。今までの経験から上手くいっている時ほど、不意打ちを食らうのは分かっている。しかも常にこちらの嫌なところを突いてくるのがより対処を難しくさせる。

昨日は戦線が例の怪物で崩壊しかけていた時、ダメ押しにシーボーンが現れた。だがそれでもまだマシな方で、事前情報にない呼吸を阻害するガスが蔓延していたり、護衛対象が想定外のルートを通ったり、茂みからカランドの社長が飛び出してくるなどどれも厳しいものばかりである。

今のところ悪い状況ではない、それどころか余裕を持って対処できている。それでも警戒を怠るわけにはいかない。フェンはあの閹入者からただならないナニカを感じていたからだ。

 

 

 

「こちらチームβのメランサです。予定地点に到着しました。」

「こちらチームα隊長フェン、了解。準備が整ったら支援をお願いします!」

 

オーバー、と通信を切ると大量のロボットが倉庫のシャッターや区画の隔離璧を開けて入ってくる。それらが上がりきったところで、攻撃ドローンの黒い大群が続く。逆に予備隊のやって来た隔離璧は閉ざされる。まさに袋のネズミである。

相手側は布陣がすでに整ったようだ。ボロばかりとはいえ頭数は圧倒的。長い蒼髪のクランタたちを筆頭とする色彩豊かな勢力は緑青と黒鉄一色に踏みつぶされそうな恰好に見えた。

 

とうとうロボットが突撃を開始、その最前線が防御陣地に突っ込み始めた時だ。側面から突然爆発音が響き渡る。先ほど仕掛けたミスターランブルが作動したのだ。

 

続いて大群の中から爆発。装輪や無限軌道が外れ中には片側がすっかり外れ、逆走しだすものまであった。後続は突然障害物となったものたちを避けるか衝突するかの二択に迫られ、多くの損害を被った。

 

一回り大きな影が混乱を始めた群れの中から現れる。追加の装甲版と重武装を施した強化版といったところか。

その強化ロボ「スタグビートル」はすでに撃破された残骸を乗り越え盾持ちへ襲い掛かる。

と、ここでスポットがアシストで煙幕を張る。

攻撃目標を上手く捉えられなかった兵器は攻撃を中断。

背後から不意をついて二本のハルバード。

切り離される二本の武装の杭と許多の装甲。

ズタズタの背後をかばうようにすぐに振り向き至近距離に放った跳躍地雷。

しかしすぐに現れる一枚の盾。

 

「へへ!効かないよ!」

 

やってきたのはカーディ。地雷の高スピードで拡散したインク弾を防ぎきった。次の攻撃を行おうとしたロボットだが、ボロボロの背面がアーツ弾の強撃に撃ち抜かれ遂に機能を停止した。

 

「カーディ!合図を待たずに突っ込まないでくれ!」

「ごめんね!でも二人とも守れたから別にいいでしょ?ね、スチュワードくん!」

「一体がフェン隊長の方へ抜けていきます!」

 

プリュムが声を上げる。その声に横を向けば煙幕の晴れ間から迂回する強化型の姿が見えた。狙いはリーダーのクランタ。

 

両者の距離が縮まっていく。距離は20mもないだろうか。フェンは堅実な戦いを得意とするが、先ほどの地雷と双つの杭を槍一本で防げる訳ではない。ますます接近していく敵。フェンは槍を構えて相手の接近を待ち構えた。

 

 

 

「かかってこい…!」

 

ロボットが目標を変えると考えていなかったことで今私は窮地にいる。これも油断なのだろう。切り抜けられる自信はない。目は乾いて、指先が痺れてくる。何度やってもこの感覚は馴れない。だがいつもの通りやるしかないんだ。

するとドクターが指揮をする作戦の様々が脳裏で切り抜かれる。背中を押してくれる感覚と共に、落ち着きと勇気が満ちていくのを感じた。

目を閉じて手の力を抜く。そして開いた目は真っすぐに敵を見据えていた。

 

(耐えろ、私!)

 

もう幾分の猶予もなく接敵する。だが敵の足は突然急激に鈍る。千々れた煙幕の陰から飛んできた黒い楔に足止めされたのだ。すぐ迎撃のため足を止め、相手を捉える。そのカメラのレンズには黒い傘を向け毅然として立つオーキッドの姿が映っていた。

 

 

 

(今だ!)

 

すぐに私は駆け出し始めた。クランタの脚力を生かして疾走する。

気を取られている内に私が仕留める!

 

目指すは一番薄く反撃できないであろう上面。ここに辿り着きさえすれば一方的に攻撃できる。だが実際の敵は想像の敵とは違った。

 

(…っ!?)

 

すぐにこちらへ振り向く機体。無機質に赤く光るカメラが飛び込む身体を見つめる。頭の位置を調節し、杭を打ち込む姿勢に入った。残念ながらワンテンポ早い段階でこちらに標的を決めた敵にとって、飛び掛かる少女は格好の獲物となった。

 

杭を納める穴の奥がしっかり見える。

 

全てが鮮明に美しく映える。

 

景色がゆっくり流れる。

 

身体は止まらない。

 

止められない。

 

衝撃が襲う。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

……攻撃がない。

 

相手が撃ってこない。

 

どういうことなのだろうか?

 

私はなぜ攻撃を受けていない?

 

先ほどの来た衝撃は一体何なのか?

 

一体誰が私の窮地を救ってくれたのだろうか?

 

数瞬の後に天蓋に剣を突き刺したチームβ隊長、メランサの姿が映ったことで状況を理解した。すぐさま飛び乗るとメランサの開けた突破口へ精密な突きを入れる。奥の配線を切り裂いたのを槍越しの両手に感じると、すぐにねじり引き抜いた。身長の2倍はあろうと思われる巨体が沈黙し、底部を地面に伏したまま動かなくなった。

 

完全に動かなくなったところを確認したあと、周囲を見渡す。

 

正面大通り。ほぼ掃討完了。やや残党がいるが問題はない。

側面通路。最後尾の地雷が残っているので、恐らくまだ着いていないか殲滅済み。

背後は隔離壁が塞いでいる。

 

ひとまず安全が確保できたため、少しだけ息を吐く。

 

「ありがとうメランサ。怪我はない?」

「少し腕が痺れてますが、大丈夫です」

「一応後でアンセルに診てもらおうか」

「はい…あ、いえハイビスさんに診てもらうことにします」

「ハイビスに?」

「はい、あまりに手持無沙汰でいたので…」

「うん、それは大変だね。じゃあメランサはここで待っていて」

「あのフェンさん私も…あっ。」

 

と言い終わらないうちにすでに側面へ向かうフェン。綺麗な青い後ろ髪がたなびき、遠ざかっていく。正面ではすでに裏方の仕事を終えたミッドナイト、カタパルト、先ほど話に出たハイビスが出てきている。アドナキエルは先ほど倉庫の細道へ駆けていく所を見たので恐らくフェンの援護に向かうものと思われた。

ハイビスはと言うと辺りへすぐ救護できるような動きをしているが、立ち止まっている時の方が長く今のところ活躍できてないように見える。所在なさげなアーツロッドに時折目をやっては戦いの様子を窺う。その表情は何ともやり切れないことを表しているようにメランサには思えた。

 

周りが良く観察でき心優しいフェリーンが歩みだす。瓦礫が転がる地帯へ入ると駆け足で行くようにする。ここはまだ、安全ではないから。

 

「ハイビスさん」

「はいっ!?メランサさん?」

「少し手を痛めたようです。後で診てもらえませんか?」

「…!ええまかせてください!この私がしっかり治しますから!」

 

 

 

やはり数を集めても所詮はその程度。幾分もしないうちにオイルでくすんだ黒灰の道路を一人も欠けることなかった色たちが踏み越えていく。

 

目的地への先を照らす照明が細かく明滅を繰り返していたが、やがて切れた。

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