ドクターは語り出す。このテラの大地に起こってしまった新たな悲劇を。
—少し小腹が減っていたので、カップ麺を作ろうとしていた
「ねえドクター?この間もそのことでフォリニックさんから注意受けてたんじゃない?」
「不可抗力というやつだよ。その時終わらせるだけのエネルギーが無くてね」
「ねえ、口の中で作ってはないわよね?まさかだと思うけど」
「私を曲芸師だと思ってないかい?ブレミシャイン」
「あ、ごめんなさい!ただ想像したらやけどが酷そうだと思って」
「大丈夫、コツがあるんだ。君だって慣れればできるようになる」
「いや、その……それより話の続きを聞かせて」
—ところがその時は丁度ポットのお湯が切れてしまっていた。これは由々しき事態だ。そこで私はメイヤーのラボへお湯を借りることにした。
「いつもやってるかしら?」
「いや、でもたまに作業効率化のためのアルゴリズムを作ってもらったりミーボの世話をしたり交流はしてる」
「ロボットの世話って」
—着いてドアベルを鳴らし続けて、3分待ったくらいの時に彼女が現れた。普通、不機嫌になってるんだが、この時ばかりは上機嫌だった。
—あ!ドクター!ちょうどいい所に来たね?見てほしいものがあるんだ!
—メイヤー、お湯を借りに来たんだけど
—お湯ね!ちょっと余っているけど足りる?
—彼女のポットにも私のカップ麺を作る分がなかった。それでお湯を沸かす間、メイヤーの試作品を見ることにしたんだ。
—ずっとメイヤーがご機嫌だったから聞いてみたんだ。何でなんだって。すると素晴らしい改造計画が思いついたから機嫌がいいと返ってきた。
—色々聞くと動きを俊敏にしつつ、なおかつ大量の相手でも効果的な威圧効果を持ち、かつ可愛い外見にしたとのことだった。
—矛盾してないか?と思ったが、まあこうなったメイヤーはたまにこうしたことを言ったりするから…。是非とも見たいと言った。だが…
とうとう予備隊は目的地点を確保した。あとは占領までの10分間敵の攻撃を退ければ訓練は終わる。フェンたち予備隊はしっかりと準備を整え、敵に備える。
彼女はここでメイヤーが来ると考えていた。ミーボは小柄で素早い動きで翻弄し、自爆で多くの敵を屠る戦い方をとる。そのため集団ではなく二、三人で一組を要所に配置。また遠距離攻撃できる者を必ず一人一組入れ、爆破に巻き込まれないように戦ってもらう。これでミーボの動きは封じられると考えている。
唯一の懸念は占領地点が二階建て倉庫に限定されている事だった。散乱した機材で視界が悪く、また侵入経路も多数ある。小柄なカワウソなら通気口からでも侵入できるため、理論上は倉庫全体が入口になりうる。入ってくるところを速攻で叩く布陣で挑むも、万が一内部に入られた時にはこちらが不利になる。
つまり相変わらず厳しい状況だった。
ザザっと音がして無線が繋がる。慣れた手つきで交信を始めるフェン。
「こちらフェン。敵は見えるか?」
「こちらアドナキエルです。視界良好、敵は見えません。どうぞ」
「こちらフェン了解した。引き続き警戒せよ。どうぞ」
「どうしたの隊長? ずいぶん固いようだけど……。ひょっとしてまだ何か引っかかっているのかな? 例えば、残り五分を切ったのに動きのない敵の事とか?」
「……そうだね」
薄汚れたデスクに両手を置き、監視モニターを睨む。カメラを切り替えながら慎重に攻撃パターンを考え込んでいく。もしやってくるならもう来てもおかしくないはずなのに。それとも何か見落としがあるのか? 先ほどから何となく嫌な感じも続いている。それが体を強張らせているらしかった。
突然電気が消え、部屋全体が薄暗闇に包まれる。瞬発的に天井を仰いだ。
「っ! 来るぞ! 各員持ち場を離れるな!」
「隊長来ました!」
「メランサ気を付け「え、これ……ひゅいっ! いっ、やっ……!」」
「メランサ?! どうしたのメランサ!」
突然の叫び声を最後にメランサが応答不能に。まだ繋がっているインカムからはカシュカシュと軽快な駆動音が響いていた。
そして被害はこれだけに止まらない。
「動きが早すぎる! ダメ! 持ちこたえられない!」
「ミス・バニラ、俺がカバーにっ!? ガッ!」
「バニラさん! ミッドナイトさん! まずい!」
「待ちなさいスチュワード君! ここは下がるのよ! 行っちゃダメー」
全てをかき消す爆発音。オーキッド小隊があっという間に壊滅する。
「突進してくる! 止めてっ! ビーグル!」
「たぁ! ありがとプリュムちゃん……な、な、何ですかこれ!」
「二人とも奥へ下がって! あたしが足止めするよ!」
「頼みますカタパルトさん! う、裏からも!」
「ひいいっ! ごめんなさい! ごめんなさい!!」
隊長を失ったメランサ小隊は撤退を余儀なくされる。
「アンセル君が爆発に巻き込まれちゃったよ!」
「カーディ、あたしと一緒だ。助けるぞ。あんたたちは正面の奴を上手く追い込め」
「分かった。……よしポプカルそこだ」
「うん! 任せて!」
突然の攻撃にラヴァのチームは対応に追われている。ある程度善戦しているものの厳しい様子だ。
暗がりの中でフェンはひたすら呼びかけることとインカムを耳へ押しつけることしかできなかった。セオリーが通じない事態に遭うのは度々経験済みであるものの、一瞬で対策全てがひっくり返される経験は果たして何度あったのだろうか?
対応策の練り直しを模索しようとするとどこまで作戦が崩壊したかを調べる必要がでる。そのために押し当ててでも情報を得たいが今からでも立て直しの策を立てたい。だがそのためには調査の必要が、と延々と続く。さながら循環小数の最後の数を上手いトリックをつかって求めようと四苦八苦する数学者のような取り組みを続けるしかなかった。
「皆! 聞こえる!?」はっきりと意志を感じさせる声。アドナキエルだ。
「聞こえる? アドナキエル! どれ位無事か分かる?」
「今オレはラヴァ、カーディ、アンセルと合流してる! アンセルがダウン中、ラヴァも攻撃を受けたみたいで戦闘が厳しいみたい!」
「他の隊は?」
「先ほど通信を図っていたプリュムとの連絡が途絶えた。カタパルトともはぐれている状況だと恐らく……」
「分かった。アドナキエルはその場にいる人たちを連れて私のいる管理室まで来て。上階の階段付近で多分ハイビスとクルースが待ってるはずだからとにかくそこを目指して!」
「オッケー! それじゃあそこまで向かうよ。じゃあまた!」
通信を終了したアドナキエルがアンセルを背負う。爆発のダメージが大きいのか時折うなされているようだ。4人で移動を始めた時、ラヴァから追加で状況を聞く。
なるべく追加情報をとって知らせておくのもある。だが隊長にだって少し時間を置いた方がいいだろう。ただ音声に異常なほどの恐怖が混ざっていたことが特に気になっていた。まずは先ほど聞きそびれたスポットとポプカルのこと。
「あいつらはB出入口から侵入してきた敵を叩こうとしていた。少し前にポプカルを追いかけるといってスポットからの連絡が切れた。それっきり」
「メイヤーさんにやられたのかな」
「いや仕留めた。そう言えばあいつはロボットの姿を見た途端泣いて走り出したといっていたな」
「私も聞いたよ! なんて言ったか分からなかったけど…。 あ! そうだあのおもちゃにそっくりだった!」
「あのおもちゃ?」
何かキーワードとなるような言葉を聞き出す。次に敵について。
「奴らは恐ろしい邪念を宿していた」ラヴァが口を開く。
「見てくれは一瞬おもちゃのような奴ら。だがあたしはあの顔の裏側を見逃さなかった。いや、あれ程の狂った霊力は占いを使わなくても分かる」
「ふーん? それ、どういう意味なのかな?」
「まだ僕もハッキリわからないんだけど」
「とにかくすっごいひどかったよ! うーんどれくらいかっていうとねー……とにかくすごかった!」
「オマエも見ればすぐ分かる。あれはこの大地に存在してはならないものだ」
「酷いなー! あたしが精魂込めて作ったミーボに何てこと言うのさ!」
「そうだよラヴァ。ちゃんとミーボに謝って……って!」
即座に三人はイレギュラーに向かい合う。それはあの教官の隣にいたオペレーター、メイヤーに間違いなかった。クマの濃い目をらんらんとさせて、彼女が一歩近寄る。
「大丈夫だよぉ二人とも」
また一歩にじり寄る。彼らは見えない壁に押されるように一歩下がった。
喜ばしくないことにアンセルがここで目を覚ました。「気絶」という知らない権利を持つはずの彼は、ここでその権利を放棄してしまったのである。気が付いた彼は状況を把握しようとしてメイヤーの足元にいるロボットに目が行く。向こうもこちらと目を合わせると獲物と認識したように赤く輝かせた。焦点が合わさったアンセルはアレと二度目の遭遇を果たしたことを認識して急激に血の気が引いていく。アドナキエルの肩を抉らんばかりに強く握りしめ、潤んだ瞳、しゃくり上げた呼吸でアレを拒絶する。
「一蓮托生」という言葉がある。チームの団結力がとても強いことを表すこの故事成語は、如何なる組織でも理想的ともいえる状態を意味する。お互いに信じ合い、助け合う。他人をまるで自分の身のように大切にできるという事であれば、この予備隊は一蓮托生と言える素晴らしいチームであると誰が否定できようか。教官のしごきと厳しい戦場で磨かれてきたこの絆を誰が断ち切れようか。ちなみにこの状況のような意味も持っている。
そう、「連帯責任」とか。
「じっくり見ればすっごい可愛いんだからぁ」
誰ともわからぬ悲鳴が倉庫内にこだました。
次で中盤といったところ。
予備隊が出てくるのは私の趣味です。
だってシンプルで強いんだもん。