なお表現の都合上、難しい色が出てきます。ご了承下さい。
もうこの地点を保持できるだけの力は無かった。
先ほどの通信からアドナキエルが再びかけてくることもなかった。
その代わりに金切り声が下の階層から響いてきたため、いよいよ作戦失敗が現実のものとなりつつある。
その後ぽつぽつとメンバーからの通信が出てきたが、聞くほどに部隊壊滅や連絡途絶の情報だけが募ってくる。
それがわずか4人。
アドナキエル、ハイビス、クルースを含めても動けるのが7人しかいない。
フェンはクルースとハイビスと連絡し、合流することにした。
すでに目の馴れた薄暗い廊下を駆け抜けていく。
薄明りの差す窓辺の廊下へ出る。
あと少しで管理区画を抜け合流地点へたどり着くところ、すぐに足を止めた。
薄明りが斜に切り込んでオレンジの戦闘服を照らす。
数歩先に佇む人影が一歩足を進める。
薄ぼけていた顔の輪郭がハッキリと現れる。
この事態を引き起こした張本人その人。
「やあ! フェン、だっけ? 君すごいね! 予備隊のみんなが何であれほど強いのか分かった気がするよ!」
「メイヤーさん……」
「でもね私ちょっとショックなんだ。だってあたしが手をかけた「スタグビートル」は君に壊されちゃうし、ニューモデルのミーボは何故か怖がられちゃうし」
「……?あのちょっといいですか、メイヤーさん?」
「うん?もっと装甲を増やした方がいい?でもあの装甲だと超強化ポリイミドなんかよりもいいものあるよねえ、フェンさん?」
「え…、あ、あの、その…」
「もちろんキノコだよね!」
「はい?」
「それからミーボの実践データと、素晴らしさの布教と。やっぱり、同時に進めるのやめた方がいいかな?」
最早フェンには考えることも出来なかった。フェンには理解して当然だとでも思っているのか。会話の段階を相手は平気で飛ばしてしまう。
「あ、普段よりも私お喋りだね! アハハ! やっぱ7徹はやめた方が良かったかな? でもあんな素晴らしい改造思いついたら誰だってこうなるでしょ!」
「あの……」
「何?何か聞きたい事でもある?」
クックックッ……といかにもな作り笑いと変に身の屈んだ体勢を見て立ちはだかるこの敵役。明らかに気がふれているレベルで重症である。ミーボもライン生命の同僚たちも何故こうなるまで放っておいてしまったのか。暗い通路の中であってもその目は満月のように光り輝いているようだった。そんなテンションにのれるはずもなく、硬直した頭を無理やり回転させることで精いっぱいだった。
「その…大丈夫ですか?」
「大丈夫?」
先ほどの笑い上戸のような雰囲気を一瞬で消し、真顔のままフェンの顔をじっと見つめる。急激な変化にフェンは少し寒気を覚えた。何か拙いことでも言ったのか?だがどういう反応なのかよくわからない。しばらくお互い黙り続けていたが、
「そう言えば、ドクターにも言われたなぁ。実戦で出せればイメージアップ間違いないって。それだから教官にもお願いして、申請したり、もう大変だったよ。でも自信作の新型ミーボのお披露目会の為なら、どこまでもやっていけるからね!」
「申請?お披露目会?メイヤーさん、まさかそれだけのために?」
「うるさいな!黙っててよ!」
「ひぃっ!」
くどくどとしつこく話しかけると思いきや、急変して怒鳴りつけるメイヤー。知っている仲のフェンでもすぐに逃げ出したくなっていた。
「それでね…そう、ドクターにも言われたなぁ。実戦で出せればイメージアップ間違いないって。それだから教官にもお願いして、申請したり、もう大変だったよ。でも自信作の新型ミーボのお披露目会の為なら、どこまでもやっていけるからね!」
(また同じことを…一度撤退しよう……!)
フェンは次のタイミングで逃げることを決めた。
「そうですよね!」
「そうそう!ドクターにも言われたなぁ。実戦で出せれば…」
(今だッ!)
何にせよすぐこの状況から脱出しなくては!
すぐさま踵を返し全速力で脱出口へ駆けこもうとする。
だが二歩目を踏み出した足めがけて小柄な何かが体当たりした。
上手く踏み出せない体は前のめりに倒れる。
その腰元へ何かが着地。ドスッという音と共に肺の空気が押し出される。
起き上がる勢いを削がれうつ伏せになるフェン。
その直後に光が降り注いでくる。電源が復旧したようだ。後ろからは呻き声が聞こえる。
目が慣れ次第に顔だけを動かし、背中に乗っかる物体を確認した。
カワウソの形をした骨格。
空五倍子色の手足に青白の胴。
両肩に誇る黄色の「1」。
頭に頂いた小さい煙突。
そして彫りの深い頬の特徴的な微笑のある円い顔。
瞬間的にフェンは心の底からそれに畏怖した。
早く立たなくては殺される!
それだけが心と体を支配していた。 そして顔を前へ戻したとき、先ほどの顔が目の前にあった。
それは顔を回転させる。
ウイーンという駆動音と共に微笑みが一回転。
しっかり合わせた目を朱殷色に光らせ汽笛を鳴らす。
急激に目の前が遠ざかっていく。
辺りが光を失っていく。生命が抜けていくのを感じる。
そしてフェンは意識を失った。
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◇
「ッ……はっ!」
意識が覚醒する。
目覚めると白い天井が見えた。
ここは医療室の一つだ。
私は今どこにいるのか確認するためにゆっくりと辺りを見回す。
「っ! 痛い……」
頭に鈍い痛みが広がる。
そのせいでまだふわふわした感覚でいる。
ただその他には特に問題はない。
「気が付いた~? フェンちゃん」
「クルース……」
頭の上から声と見慣れたウサミミ。
心配していた隊員が無事でいてくれたことが安心感をもたらす。
「気絶したって聞いてね~、もお~フェンちゃんはドジなんだからぁ」
「あはは、ごめんよクルース……そういえば他のみんなは?」
「ちょっと待っててねぇ、今先生を呼んでくるからぁ」
「先生? ちょっと待ってクルース!」
そう言うとクルースは出て行ってしまう。
その立ち振る舞いになぜか違和感を感じていた。
そういえばさっきもこんな風なすれ違いがあった気がする。
身体を動かそうとするフェン。
だが手足が動かない。
不可思議な力で押さえつけられているかのように手足の自由が利かない。
今は頭以外の自由がない状態にあった。
(どうして……動かないの!)
せめて動ける頭で自分が今どんな状態にあるのかを確認する。
突然部屋の明かりが消えた。
それと同時にドアが開く。不快な金属を引きずる音が響きわたった。
暗闇の中、足音が近づいてくる。
すぐそばまで近づいたところでフェンの顔めがけて強力な照明が落とされる。
光を手で遮ろうとしたが手は動かない。
目をつぶって耐えていたが急に光が遮られたことを感じる。
おずおずと目を開く。
先ほど話をしたクルースの顔が至近距離で顔を見つめているのだった。
息遣いが聞こえ、柑橘系のにおいがする。
まるでいたずらが成功した大人のような得意げな薄笑いを浮かべていた。
「ごめんねぇ。脅かすつもりはなかったんだよぉ。でも驚いたフェンちゃんの顔を見るのわたし、好きだよぉ」
「な、何言ってんの! ふ、ふざけないで!」
「あれ? 赤くなっちゃった。いっつも怒ってばっかりなのに、どうしていつもはそんな顔見せないのかなぁ」
「やめてよクルース!」
「でもこの顔も最後だと思うと残念だよぉ」
「へ? クルース……何を言って」
「あ~そうそう、先生を呼んできたよぉ」
オレンジ色の髪が脇へ避けると、もう一つのオレンジ色が現れた。
「やあ! また会ったね!」
それは白いマスクを着け、緑色の使い捨てエプロンを首にかけたメイヤーだった。
その手にはなんだか怪しい銃のような機械が握られている。
「キミたちがミーボを壊すから数が足りなくなっちゃったんだ! だからね、布教と補充を一緒にできる方法を思いついたんだ!」
キ ミ を ミ ー ボ に し て あ げ る 。
目の前の狂人は確かにそういった。
そして告げられたのは被験者よろしく寝かされている負傷者。
つまり言葉がそのまま正しければフェンはメイヤーにミーボにされるという最悪の未来がこれから現実となることを宣言したことになる。
「クルースッ! 早く! 逃げて!」
警告を飛ばして逃げるように言う予備隊隊長。
だが動かない。何故動かないのか?
その顔は闇に包まれてしまって見えない。
「聞こえないの! 私はいいから早く!」
なんとしても逃がさなくては。
その一途な意思が通じたのかゆっくりと顔を挙げた。
「ぃ、ぃゃ……」
先ほどとは似ても似つかない白すぎる肌。
彫りの深い頬。
アルカイックスマイル。
しっかりと挙げた頭はその言葉に反応するかのように汽笛を鳴らした。
「そんなっ……これっ……トーマ……!?」
すると辺りに予備隊のみんながいることに気付く。ただみんな顔が隠れていてよく見えない。
一瞬無事なことに安堵したが、部屋の照明が全てを照らしだした一瞬で逆の感情に置き換わった。
全員の顔が明らかな作り物の微笑みを湛えて立っていた。
一斉に目だけが全てぎょろりと動き汽笛を鳴らす。
ピッピーとこだまする警笛はまるで新たな仲間が増えることを喜んでいるようだった。
それと同時に急に陽気な音楽が流れだす。
汽車をイメージするようなサウンドを背景に、全員目を赤く光らせた。
「……! ……!!」
全力で首を振るフェン。
何とかしてこの悪夢からの抵抗を必死で試みる。
だがマッドサイエンティストが奇妙な装置を目の前に突き付けられる時になっても、何の助けもなかった。
声にならない声で許しを請う。
だが果たして声がついていたところでこの実験は中止になるのだろうか?
「ちょっと苦しいけど」
目の前に装置の先端が突き付けられる。
が ま ん し て ね 。
目の前が真っ白に染まった。
もう12月も近いじゃないですか。
吐く息も白いじゃないですか。
だから合体させました。
後悔はしてないけど、何でこんな発想が生まれたんだろうと我ながら呆れてます。
色の解説
空五倍子色(うつぶしいろ):虫こぶ(別名を五倍子/「ふし」という。中が空洞なことから空五倍子とも)で染めたやや褐色がかった淡い灰色のこと。
平安時代から喪服に使われていた。
実際の色
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朱殷色(しゅあんいろ):時間がたった血のような暗い朱色のこと。血の色や血染めの色など、凄惨せいさんな様子を表現する色。
実際の色
https://irocore.com/color2.php?color=_740A00&fb=1&read=Shuan&text=%E6%9C%B1%E6%AE%B7