大変遅くなりました。次の話を。
ロドス治療室
ラヴァが目覚めたのは白いベッドの中だった。目が覚めてから自分が襲撃に遭って気を失ったことに気付くのにそう時間はかからなかった。浅く息づいて壁掛け時計の針を読む。数十分経っていた。
「あいつら……うぐっ‼」
起き上がろうとした途端に鈍い痛みが走る。体の各所が負傷しているようだ。特に左腕が痛む。起き上がるための支えにした左腕を慎重に戻しながら再びベッドへと体を横たえる。
「最悪だ……ちくしょう……」
右手で顔を覆う。起きたばかりで気付かなかったが、左手以外もケガをしているようであちこちが酷く痛む。先ほど支えにした左腕もよく見れば白い包帯で固定されている。
「やっぱりサボるべきだったんだよ……姉ちゃん……」
ラヴァは日ごろから占いをやる習慣がある。精度はまあまあだが、それでも占いの結果次第で自分がイケてる日かそうでないかを見てはその日ごとの指針を立てていくには十分といえる。だから今朝もここ近年では見たことのない大凶運の結果を見て、即座に訓練も完全に無視して逃げようと思った。あの時結局ラヴァ最大の天敵に阻まれて叶わなかったが。
朝 ロドス宿舎
日の差すテーブルに7枚のカードがある。そのカードはV字に並んでおり、どこか洗練されたような気持のするデザインがあしらわれている。そのカードを根本から左へとめくる。
「『皇帝』正位置。『教皇』正位置。『死神』正位置。『塔』正位置……いや、まだだ……まだ終わってない……」
これだけでもうため息をつきそうなカードだが。まだそうと決まった訳ではない。右側のカードもめくっていく。
「『審判』正位置。『世界』逆位置。そして『星』正位置」
ダメだ。今日は終わった。このようなカードはよろしくない。急いで出よう。
「ラヴァちゃん! 今日の訓練はサボっちゃだめだよ!」
「やめろ! 放せ! 今日は運気が最悪の時なんだよ! アタシは逃げる!」
「そうやって逃げようとしてもダメです! お姉ちゃん許しません!」
「分かった! 分かったから肩を掴むなよ!」
「あ! ごめん!」
そう言うと肩から手を放す。あーくそっ、よりにもよって痛いとこ掴みやがって。掴まれたとこがヒリヒリしてる。
「いってぇ……何で今日に限って引き留めるんだよ?」
「今日じゃなくても逃げようとするでしょ! もう! いつも一人で動こうとして……!」
「あのな? 本ッ当に最悪なんだよ! 今日は! これ見ろ! これ!」
テーブルの上をもったいありげに指さして示す。テーブルにはカードがVの字のまま置いてあった。
「んー、お姉ちゃんは占い詳しくないから分からないけど……これのどこがダメなの?」
「中央が安定。左へ行けば尊敬、終了、崩壊。右に行けば再挑戦、不完全、無気力」
大分端折った説明だが、ラヴァは未来占いの結果を伝えた。
「分かりやすく言うとな、『理不尽な災厄が降りかかる。身近な者、親しい者といれば更に災厄が訪れる』ってコトだ」
今まさに降りかかってきたけどな、という言葉は何とか呑み込んた。
「だから今日の訓練は参加しない方がいいんだ。イイだろ? 今日ぐらいサボったって」
「でも今週の訓練で教官が訓練に出ない人のいる隊は休日返上の訓練だって言ってたよ?」
「おい待て、そんなの聞いてないぞ」
「この前戦闘ログ見てるときに言ったでしょ? 聞いてなかったの?」
「……聞いてた」
勿論覚えている。あの時Pithさんの戦闘ログを研究していたからだ。その時ハイビスと幾つか話をしたような……気がする。
「じゃラヴァちゃんも行かないと! ほら! 早く支度しなさい!」
「やめろよ! 分かったから押すな! ほら外で待ってろよ!」
「うん待ってるね!」
急かす姉ちゃんを外へ押し出し、ドアを閉める。ったく!
(あーくそ! こういう時って本当にツイてないよな!)
アーツロッドの調子を見ながら毒づく。いつもこうだ! 大体悪い時にはとことん悪くなる。今までだって最悪な時はいつだってそこから逃れられたためしがない。大地の意思に定められた運命みたいに姉ちゃんが引きずり込もうとしてくる。
だからもうこういう時にはすぐに割り切った方がいい。しっかりとロッドをケースに納めると部屋の出口へと向かった。だがその前にテーブルに広げられたカードが目に入った。
(まあ、あっても困るモンじゃないしな)
デッキを箱に戻し、ポーチに入れた。そのまま姉ちゃんの待つ出口へ向かう。
「待たせたな……ガッ‼」
ドアがスライドした影から、長いケースが勢いよく伸びあがりアタシの顎をしたたかに打ち上げる。しかも舌も思いっきり嚙んだ。不幸中の幸いにも血は出なかった。
よろけたアタシがぶたれた箇所を覆って犯人を見れば、小瓶をポーチにしまおうとするポーズのまま姉ちゃんが固まっていた。つまり、拾って立ち上がろうとした瞬間に背負ったアーツロッドが、偶然扉の先にいた妹の顎にカチ当たったってことだ。
「ご、ごめんね! ラヴァちゃん!」
「もういい……何もするな……」
隊全体の罰なんか放ってすぐにでもバックレたいと思ったのは悪くないと思う。
(でもまあ、今までアタシにしてきた仕打ちにしてみればこの位……)
今までのツケが来ただけなんだ、と漏らす。親しいものの距離感でなら聞こえるくらいの声量だ。だが出している本人には何となく聞かれているような心地がしたので、そのまま黙って周囲の物音を窺う。
……。
…………。
やがてこの部屋にいるのがただ秒針だけと知ると、ほっとしてしばらく天井を見つめていた。その間ラヴァは色々と思い返す。
占いの結果に、きつい仮想敵訓練に、よく分からない奴の参戦に、歪んだヤバいオーラ、ミーボとかいうロボット、奇襲を受けて倒れされる味方、姉ちゃん。
(姉ちゃんは?)
ふいにラヴァの頭にハイビスの顔が思い浮かぶ。今朝方の姉の顔、いつもは元気がありすぎてウザいくらいに関わってくる明るい顔。そういえば隊を分けたきり見かけていない。
もしかするとハイビスも襲撃を受けて自分の様に寝込んでいるかもしれない。場合によっては重態になってるかも……
(そんなことはないな。いつもうっとおしい位に元気で、自己管理が完璧なアイツのことだ。そんなひどいことにはなっていないはず……)
だが占いの内容が続いて脳裏を掠めた途端、絶対に大丈夫だと確信できる何かが少しずつ失われていき、代わりにじわじわとした焦燥感がラヴァの身体をこがしていった。あたかも崩壊寸前の塔に立つ小人のような心地である。
『理不尽な災厄が降りかかる。身近な者、特に親しい者といれば更に災厄が訪れる。打開のための行動は思うように進展しない。大事なものが失われる結果に終わる』
違う……違う……。ヴィクトリアの時のようにはならない……。
チッ、チッ、チッと時計の秒針だけが部屋に響いている。まるで何かの制限時間を刻んでいるかのような意趣で奏でられるかのように聞こえる。そんな音に満たされた部屋の中で、ラヴァはここにいてはならない思いに駆られていた。やがて我慢の限界が来ると、まだマシな右手で勢いよく起き上がろうとした。
そのタイミングでドアが開く音がした。誰かが近づいてくる。不透明な厚いプラスチックの衝立が立っていて体の概要しかわからないが、全身黒づくめというだけでカンニングには十分だった。起きてるとラヴァが応えると、その目算通りの人物、ドクターがやって来た。
「大変だったね。……ああ、無理に起き上がらなくて」
ラヴァはその呼びかけが終わる前に身体を起していた。制止の声を留めていたドクターはその続きを言う。音量は明らかな控えめにして。
「……いい。……調子はどうだい?」
「……大したことない」
「右肩に擦過傷、右手突指、両足は捻挫、背中にも打撲の形跡あり、おまけに」
近くのスツールへ腰かけ、一呼吸おいてから続ける。
「左腕上腕部には2か所ひびが入ってる。君のような怪我が大したことないのかい? そんな訳ないだろう。ここまで見てきた中で一番の重傷者だ」
バイザーの奥は見えない。だが鋭い視線が向けられているのが分かった。ドクターは手を両膝の上に置きしっかりした姿勢でラヴァに対面している。
「そんなに深刻になるもんじゃないだろ? アタシは」
「そういうことを言ってるんじゃない、自分の体をもっと大事にしろってことだ。いいね?」
凄みのある、それでいて静かな声。しばらく何か言いたげだったラヴァだが、「偉大な術師には必要なことだよ」とドクターがつけ加えるとしぶしぶながらも「ああ」とだけ答えた。
「分かってくれたようで何よりだ。それより、体が痛むだけか?」
「特に、何もない」
「本当に?」
「本当だ」
「ふーむ……」
顔を左に少し向けてラヴァを窺い見るドクター。
「何だよ、まだ信じられないっていうのかよ」
「いや違う、精神的ショックを受けていないな、と」
「ショック?」
「ラヴァ以外のオペレーターは概ねそっちの症状が見られている。酷いのに至っては未だに意識不明の状態だ」
「そうか……」
彼女が目を伏せる。僅かにだが視線が左右に揺れているのが分かる。ドクターの目には何かを言っていいのか迷っているように映った。
「先ほどハイビスカスに会ってきた」
ドクターは食わせ気味に彼女の姉の名を言う。
「そこそこ怪我を負っているが君ほどじゃない」
「……そうか……そうなのか……姉ちゃんは無事なんだな」
「ああ。だからそう気を落とすんじゃない」
ラヴァは何とも返さなかった。
「さて、お姉さんの心配で弱っているとこ悪いんだが」
「よ、弱ってなんかねえよ! アタシはただ……!」
「分かってるさラヴァ。分かってる、がメイヤーの事について聞きたい」
「言っとくが、アタシはアイツの事なんかよく知らないぞ」
「こっちは早いうちにメイヤーの暴走を止める必要がある。聞いたこと見たこと、有益な情報は教えてほしい」
「聞いたこと、見たこと……か」
手を差し出して促す素振りのドクター。それを承けてすぐに思い当たることを探すラヴァはいくつか気付いたことを報告した。
「アイツは妙な形のロボットを使役していた。犬と機関車をくっつけたようなヤツだ。……アイツはいつもあんな感じなのか? 違う? ……いや聞いてみただけだ」
「姿形も奇妙だが、舐めたらマズい。アイツは予備隊の半数を行動不能にした。一体一体は大したことはないが連携が上手く取れている。自動操縦であそこまで動くのか?」
「アイツは新しいロボットにご執心だったようだぜ。『布教』とか『マーケティング』とか。そんな事。どこへ向かったかは見当がつかないな、すまない。……いや、何でお前が謝ってるんだよ」
そうして情報調査から5分経った頃。ドクターは立ち上がった。
「なるほど、分かった。有用な情報をありがとうラヴァ。役立ててみせるよ」
「……おい、他の奴からは話を聞いたのか?」
「グラベルとブレミシャインも他の予備隊に話を聞いてる。心配はいらない」
「ドクターはどうなんだ?」
「……君で最後だ」
彼女の目線はドクターの中を見透かすように鋭い。予定よりも聞き込みを終えそうであることを知っているかのようだ。ごまかすにはあまりにもドクターは拙すぎた。
「そうだ、一つ聞かせてくれないか? 今までに話してきたオペレーターたちは多かれ少なかれあのロボットたちの影響を受けている。だがなぜラヴァはあれと顔を合わせて平気でいられるんだ?」
「アタシだって何の影響も受けてないわけじゃない。実際アイツらが纏っていたオーラは歪みきって気分が悪くなったくらいだ」
「確かにあの悪魔合体は鳥肌モノだが。それにしたって君は酷く手傷を負わせられた割には、質問にすらすら答えられていたよ」
「……覚悟していたからだな」
どこか独白しているかのようにラヴァは語っていく。
「アタシの占いは、最悪な時ほどよく当たる。いくら避けようとしても、占いの通りになっちまうんだよ。だからもう始めっから覚悟しちまうんだ。最初っから身構えしちまえば、避けようと色々と無駄に足掻かなくていい。それに逃げ道がないって分かれば必死になれる」
たどたどしく話すラヴァは顔を挙げて何かを考えている。その表情は過去を思い返しているように思える。いつの間にかドクターは座りなおしていた。
「……ラヴァ」
「……なんだよ」
「おまえ何か変なモノ拾い食いしたか? らしくないぞ。君がデレるなんて」
「っ、っせぇな! 殺すぞ!」
「そうかー! 君、私をそんなに信頼してくれてたんだね! ドクター嬉しいよ……」
(くそっ、こいつも地味にうっとおしいの忘れてた……)
そう言うと大げさに泣き真似をしてみせるドクター。全く違うアングルで話を聞いてたドクターに真っ赤になる。ラヴァの中ではハイビスもドクターも面倒臭さという点で同格の存在であった。
「いい加減にしろよドクター! 今すぐにでもお前を……」
「もう一度占ってもらえないか? ラヴァ」
「……は?」
唐突に出されたドクターからの提案にラヴァが固まる。
「残念ながら我々には手がかりがほとんどない。探そうたってこの広大なロドス号を手探りで探すのは無理がある。だがこのままだと職員たちがパニックになる恐れが大きい。手をこまねいている訳にはいかない」
「あ……ああ……そうだな……分かった」
「占いの道具はどこに?」
「アタシのポーチの中にある……」
先ほどとは打って変わって冷静で真面目な調子のドクターに、ラヴァは困惑気味で占い道具の場所を教える。ポーチを取りに行く黒い背中を見て何と掴みどころのない不可思議さを感じ取っていた。
病室に響く秒針の音がテンポを緩めていた。
一方フォリニックのいる診察室前。
「……え、そんな感じの見た目なの? むー……なんというか、すごい……発想だよね」
「あたしも想像つかないわね……奇妙さは感じるけど、トーマスとの合体でトラウマが刻まれるものなのかしら?」
「うーん、私としてはメイヤーさんがこんな改造施すとは思えないけど」
「ひょっとしたら理性が足りなかったんじゃないかしら? ドクターもたまに『理性が足りない』とかいって奇行に走ることがあるんだし」
「そうかなぁ、そんなことは……うーん……以外にありえるかも」
「ね? ありえそうでしょ?」
一足先に戻っていたグラベルとブレミシャインはドクターを待っていた。診察室の前で2人はベンチに並んで腰かけている。
「……遅いわねえ……どうしちゃったのかしら?」
「そうよね……ちょっと遅いかな……」
思っていたよりもドクターが遅れていることが2人とも気になった。手がかりになる情報が見つかったから遅くなっているだろうとは思ったが、それにしてもやはり遅い。
「ねえブレミシャイン? あなた収穫はあった?」
「うーんと……これと言ってあまりいいのは聞けなかったよ……。私のトコは特に落ち着きがない人ばかりで……」
やや苦笑いで答える。偶然というか、彼女が聞き込みを行った被害者たちはよりによってトラウマ直前の状態の者が多かった。小さな物音がするたび怯えて抱き着いていたコータスの少年の事を思うと、事細かに報告するのも気が引けた。それを差し引いても有力な情報が集まらなかったのは事実である。
「ってことは……グラベルさんのが重要な手がかりってことだよね」
「『予備隊に相当数破壊されたロボットを補充しに行った』っていうから、一旦ラボに行ったんでしょう」
「それならまだ余裕はあると思う。訓練場からなら距離660m、エレベーター2本待たなきゃいけないから早くて11分はかかるわ」
「あら、随分詳しいわね。足繫く通ってたことは聞いてたけど、道のりも把握してるのねぇ」
「本当元ライン生命のチーフエンジニアやってただけあって、発明品一つとってもとても勉強になるの! 問題解決のために素材1つとってみても10の発見が見つかるくらいで驚きが止まらないの! 今も見学申請してるところだけどなかなか本人が忙しいせいで受け付けてくれないんだ! でもロドスの加工所全部見て回りたいと思ったら……」
ブレミシャインはロドスの中でも重度のメカマニアとして知られている。来てばかりの頃はロドスの加工所を見て回った時、職員に質問攻めをして困らせたことがある。しかも何度も暇な時間を縫ってはこの加工所に足を踏み入れてくる。たちまちメカ狂いのイメージが付くくらいにはブレミシャインの行動力は凄まじかった。そんな火のついた彼女の話を、グラベルは楽しそうに聞いている。
「うっふふふっ。あなたって本当に機械が大好きなのね。あの耀騎士の妹だって聞いていたから凄いギャップを感じちゃうわ~」
「あ、ごめんなさいグラベルさん……つい私……熱く語っちゃって……」
「大丈夫よブレミシャイン。それと私の事はグラベルでいいわ」
「分かった! グラベルさん……じゃなくてグラベル! でもあぁ……私は何の情報が得られなかったのがなぁ……」
「仕方ないじゃない。むしろあたし達と一緒に来てくれただけでも十分役に立ってるのよ」
「へ? 本当? あたしが?」
目をパチクリさせて自分に指差しまでして確認するブレミシャイン。
「本当よぉ。ドクターはあなたが来てくれさえすれば即戦力になるって言ってたのよ。他にもクロージャさんにも協力をお願いしたみたいだけど断られちゃって、困ってたとこなのよ」
「そうなの? ドクターが!?」
(あ、この娘すごい面白いわ)
満面の笑みを隠し切れなくなっていく金の騎士。それにつられて笑ってしまうピンクの騎士。
「グラベル、ダメだろ裏側を話しちゃうなんて」
「ドクターおかえり! やっと来たね!」
「あらドクター、あなたが遅いのが悪いのよ」
「メンタルケアも務めていたら遅れたんだ。許してよ」
やっと3人になったところで何ともなしに歩き始める。ライトブルーの区画通路をゆっくりと歩いていく。
「歩きながら作戦会議でもしようか」
先を歩くのはドクター。黒いブーツの音を響かせながらしっかりとした足取りで進んでいく。それに騎士たちも従い歩いていく。
その隣、やや後ろに控えて付いていくのはグラベル。僅かにずらした足音と共に進んでいく彼女の顔は、やや影が蔽っていたがどこか自信が漂っているようにも見えた。
二人の後ろを歩いていくのはブレミシャイン。光を纏った鎧はシャラリシャラリと小気味よい音を鳴らしてついていく。
しばらくしてドクター達の影が黒い通路へと入っていった。
ところ変わってとある治療室。
「ごめんなさい。あなただけ別室になってしまいました」
「いいよ。そんなに気にしてないから」
フォリニックは経過観察のためにラヴァの治療室へと足を運んでいた。
「あなたの怪我は予備隊の中でも酷いほうです。しっかり治るまで絶対安静にして下さいね」
「分かった」
「……?」
「……なんだよ……アタシの顔に何か付いてるか?」
「いえ何でも」
「……いつアタシは出られるんだ?」
「早ければ2週間ほどで退院できますよ。……あら、テーブルの上に……これは占い?」
「なんだよ。無理な動きはしてないぞ」
「別に責めている訳じゃないんです。大丈夫、あなたの努力次第ではもっと早く出られますよ。何かあったらベッドのボタンを押してください」
それではといってフォリニックが出ていった。彼女の形をしたモザイクが白いドアで閉ざされるのを見届けると、ラヴァはため息をついた。
「一体何を話したんだよ姉ちゃん……」
ゆっくりとベッドに身体を沈めるラヴァは先ほどの占い相手の言葉を反芻する。テーブルにはV字に並んだ7枚のカード。今朝の占いとほとんど変わりはしなかった。
『ラヴァ、私も覚悟ならしている。覚悟しているから、尚更人の事を頼るんだよ。例え運命で先のことが定められていたとしたって、打開することをあきらめない。そんな覚悟ができる人たちが、君の周りにいるだろう?』
今朝のカードは、中心が「皇帝」の正位置。片方へは「教皇」正位置。「死神」正位置。「塔」正位置。
『それでも無理なら私に頼ってくれ。私は君のドクターだからね』
もう片方へは、「審判」正位置。「世界」逆位置。そして「星」正位置だった。だが今は一枚だけだが違う。やっとだが希望が向いてきたようだ。窓の光が差し示す逆さまの星を見てラヴァはそう思った。
何とか早めに出せるように頑張りますので、読んで下さい!
後書きでいっても意味ないか。
船長戦はなかなか面白いな。☆3攻略とかで普段と違った戦法とれるの楽しい。
彼女のやったタロットについて補足。
V字のカードは「二者一択」というもので、中央から端へ、「現状」→「ある選択をしたときの現状」→「予想できる未来」→「選択全体の結果」を表します。