今回は視点が変わります。あとちょっとギャグテイスト。
自販機のドアがようやく閉ざされ、鍵が掛けられるようになるまで職員たちはずっと缶を床から拾い上げては戻す作業を繰り返さなくてはならなかった。その作業を終始見守っているのは切れ切れに灯っている天井灯だった。最後の一つを手に取って俺―――ブレナンは最早いら立ちすらその作業に使い切ってしまうと思えたくらい長らく時間がかかった。
(なんとか終わったな……)
普段であれば俺は自販機に飲料を補充する仕事を終えて、ゆっくり昼食をとっているはずだった。それが機械の故障で台無しだ。缶やらペットボトルやら廊下一面に散らかってる光景があったら誰だってそうなるだろう? しかも商品がひとりでに吐き出されている自販機を見たらなおさらだ、さっさとエンジニア部門に連絡をかけることだった。一通りのやり取りの内に担当者が来ることが決まり、通話を切って改めて様子を見ればさっきよりもっと増えていた。ただ放って待つわけにもいかねぇ。代わりのヤツを呼んでしばらく床に溢れた飲料を片付けていると向こう側からこちらに目指してやってくる人影を見つけた。その人物はある程度まで近づくとおもむろに声をかけてきた。
「大変なことになってますね。何でこんなことになったんでしょうか?」
「知りませんよ、俺が来た時は既にこのザマでしたんで。……ところであなたは……エンジニアの?」
「ええ……私が派遣されてきたエンジニアですよ」
「一人だけ? 他に来たヤツはいないんですか?」
新しくやって来たヴァルポの男はゆっくりと辺りを見渡していった。
「来たのは私だけみたいですね」
俺は内心溜め息をついた。もとより面倒な作業が嫌いな性分で、しかもやって来たのが悠長そうな奴。ニット帽をかぶっているから俺の耳が嫌そうな形をしているかは知られていない。いや最も知ったところでこのひょろっちい男には何のことだかわからねぇだろうが。そんなことを知ってか知らずか工具箱を携えた彼は自分の胸元を探って社員証を引っ張り出そうとしている。
「申し遅れました。自己紹介をした方がいいですよね? えーワタクシは……」
「あー大丈夫だ。自己紹介は後にしといてくれ。それよりもコイツを片付けてくれないか?」
「あっ、はい。分かりました」
結論から言えば修理はアイツ一人で十分だった。彼がドアを開け何やら内部の機械をいじると、すぐに自販機から飛び出してくるペットボトルの群れが消えた。機械にあまり明るくないが、それでもアイツの作業は俺でもわかるくらい手慣れたものだった。まるで手品だ。だが結局出してしまったものを全て片付けるのは二人でもなかなか骨の折れる作業であることには変わりない。それでも30分も満たないうちに商品は全て収まったが。
「大してかからなかったな」
「あ、待ってください。動作チェックをするのを忘れてました」
と先ほど修理をしたエンジニアがおもむろにボタンを押し始めた。ブレナンは遠巻きにそれを見て一瞬止めようと考えたが、なんとなく面倒な気がしてそのまま作業を眺めていた。まあ、そう直した先から故障するはずがないだろう。もしそんな自販機があるのならとっくにスクラップになっているはずだ。そう考えて作業を見守ることにした。今頃代わってくれたヤツは仕事を終えてくれたところだろう。後で何か奢ってやろうか。
「ここまでは順調……『ブレインコーヒー』、『グリーンジェル』、良し。『ボリバルルートビア』、『チャージマンKEVIN』は……良し。次、『秘密の皇帝ーイチジクのタルト味ー』、良し……」
名前を一々読み上げながらボタンを押して確認する姿を見ていると余計に退屈みを覚えて仕方ない。気付けば飲料の名前から味を想定している。ただそれにしてもこの自販機まともな飲料が入ってないじゃないか。ロドスにも得体の知れないゲテモノ好きがいるものだな。噂じゃドクターが買っている姿を見たとか。
「『強力炭酸! 痺れるアシッドムシ味!』……おわっ!」
妙な声がしてふと見れば何かが俺の横をかすめて飛んできた。顔のそばだ。サッカーのシュートの様に飛んできて壁にガンッとぶつかると、そいつは中身をあたりへぶちまけた。
「ぶはっ! 目が! 目に!」
突然の襲撃に身を守るすべもなく顔中にかかる。目にも入った。思わず目を擦ったがそれがまずかったのか余計に痛くなってきた。なんとか擦りたくなる気持ちを押さえて痛みに耐えるしかない。
(クソっ! 炭酸が弾ける感覚が肌に広がっている。かかっている部分がヒリヒリして仕方ないが、ここは我慢するしかねぇ。鼻で吸えば薬品臭い臭いがプンプンしている。しかもなんだか妙に甘ったるいような……オアッ!)
このまま吸い続けると吐き気がしそうだだから俺は口で酸素を確保するが、今度はその空気を舌で味わうことになる。飲めない程のゲテモノではないがそれでもオリジムシのエキスに砂糖と痺れる酸味を混ぜたようなシロモノとしか思えないような味だった。もちろん俺はオリジムシの味なんて知らない。だがそう感じさせる程には十分だ。だってあいつら何かエグそうだろ? 知らねえけど。それも舌をかすめた程度でそう感じるんだから、こいつがいかにヤバいものか分かるってもんだろう。
「だ、大丈夫ですか?」
「ごほっ! ごほっ!」
「うわぁ! また壊れた!」
エンジニアの慌てた声が聞こえる。もう一回直さなくちゃいけないのか、このザマで。すぐに止めるように言おうとするが息を吸っただけでもう動けなくなった。まさか俺が安価な化学兵器を運んでいるとは。というかこいつ選んだ奴は一体どこのどいつだ。
18分経過
「やっと終わりました……」
「ああ、2回目はお前だけに任せてしまったようなものだな。申し訳ない」
「いいんですよ。それよりもいいんですか? シャワーは浴びることもできますよ?」
「大丈夫ですよ。どうせ近場にシャワー室なんてないんですから」
「本当にすみません……」
「もう大丈夫だ」
少し乾いてより強くなった臭いのまま俺は尋ねる。
「なあ、普通自販機ってこんな壊れ方しないよな?」
「いえ、コインを入れていないのに自販機が商品を出してしまう誤作動はありますよ」
「なら顔面目掛けて缶を飛ばすのもよくある誤作動か?」
「普通なら起こりません。というよりもこんなことは初めてですよ」
顔を拭いてある程度ベタベタは取れたものの、臭いは相変わらず取れていない。後でこいつを製造したやつを焼き討ちにしてやろうか。というかなぜこんな化学兵器作ってておかしいとは思わなかったか? 臭いや味を確かめる奴はいないのか……? いやそもそもそんなクソどうでもいいことなんてどうでもいいんだよ! 考えてるだけでアホになりそうだ。
サイド──―「エンジニア」じゃやりずらいとのことで名前を教えられた。遠慮がちだと思っていたがなかなか出るタイプらしい──ーは、初めてのエラーを吐き出したことに暫く考えながらつぶやいている。「またあの人かな。後でスチュワードくんに聞いてみないと……」なんて言ってたから、恐らく心当たりがあるやつがいるに違いない。いずれにしろこの暗殺自販機は代わりが来るまで使用禁止にしたし、今度は動作チェックも済んでいるからまた故障するような可能性はなくなったわけだ。
「とりあえずこいつはこれでいいんだよな?」
「はい。今度は大丈夫ですよ」
サイドの顔を見て確認を取れば、ヤツは一瞬そむけるようなふりをしてこちらに視線を返してきた。探るような視線だったから俺は何を聞かれるのかと身構えていたが、視線を逸らしてこう言った。
「おや、あれはドクターじゃないですか?」
サイドがそう声をかけた。その黒い影を確認してみれば、なるほどドクターのようだった。しかも美人のオペレーターたちもついてきている。
危機契約も始まって新殲滅作戦も出てきてるとか
なんていう地獄なんだろ…
とりあえず目指せ18等級!
アンジェとスズランどっち昇進させよう