男性操縦者の理解者達は許さない   作:しおんの書棚

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千冬の変化

鈴がシャルロットの部屋を訪れる前、千冬は今までが嘘の様に仕事をこなしていた。

そして一区切りついたところでレポートを見直す。

 

「私は教育者失格、いや人間失格だった。

 

 崎守との約束を政府を言い訳にして考えもせず破る。

 自分の言葉に責任を持たず、都合よく物事を進める。

 無意識のうちに一夏を守る事を優先して崎守を蔑ろにした。

 

 その結果が……」

 

和成の投身自殺とコア人格の逆鱗に触れた。

一夏は白式、コアNo,1だけが。つまり自分の残留思念が残っていたから動いたとサキモリは濁して言った。

 

「“白騎士の残留思念”とは上手く言ったものだな。

 あの時、一夏をISから離そうとは考えていなかった。

 なら、協力するのは当然だった訳だ」

 

白騎士から降り、コアを初期化した。

そして世情が変わり始めて一夏をISから遠ざけたのだから。

 

千冬はレポートを真耶の机に置くと席を立つ、とある目的を持って。

 

◇◆◇

 

「うんうん、やっぱりいっくんの安全を確保して離したのは正解だったね。

 

 ちーちゃんの優先順位はいっくんが一番、なら一番を気にしなくて良い様にする。

 そうするとそれなりに普通の思考と行動ができるって予想したんだけどさ」

 

束ほどの天災にしてみれば、千冬や一夏・箒についてだけではあるがこの程度の予測を外すことはまずあり得ない。

そして天才の思考を持ってすれば一手に複数の意味を持たせるなど造作もなく、理解者である和成のためであればそれはさらに効果的な物となる。

いや、するといっても過言ではない。

 

「それにしても鈴ちゃんだっけ?

 甲龍のお陰ではあるけど見ていて気持ちいいぐらい潔かったね。

 その後の行動も有言実行で束さんが花丸をあげよう。

 

 ……まあ、かーくんにしたことを許すってのとは別だけどね」

 

束は天災と呼ばれる科学者だ、だがそれ以前に“気に入った人間”以外は石ころ程の価値も見出さない破綻者でもある。

 

「かーくんのためにしっかり働けよ、じゃないと“消す”。

 ……かーくんが悲しまない前提だけどね♪」

 

束の世界はモノクロだ、色がつくのは気に入った者だけ。

つまり白以外は灰色か黒が基本、真耶に本音や鈴は灰色だが果たして他は?それは束だけが知る孤独な世界だった。

 

◇◆◇

 

「ボーデヴィッヒ、入るぞ」

 

そういうと千冬はラウラの部屋の中へ、そこにいたラウラは疲弊し切っていた。

 

「織斑先生……」

 

「随分と酷い有り様だな、ボーデヴィッヒ。余程レーゲンに絞られたか?」

 

「……」

 

なるほど、図星かと千冬は思う。元々ラウラはこうと決めたら余程では無い限り意志を曲げない。

今回も前回同様、また和成が軟弱者だとでも思い込んでるのだろうと当たりを付けた。

 

「ボーデヴィッヒ、私は自分の間違いを認めた。一夏も凰もだ。

 更識姉妹とオルコットもレポートを進めている、私は今提出して来た」

 

それを聞いてラウラは目を見開いた。

 

「何故です! あれは奴が、和成が軟弱者だっただけではないですか!」

 

千冬は溜息を一つつくと、話を続ける。

 

「ボーデヴィッヒよ、お前は一夏にもそう言ったではないか。

 なら何故一夏を認めた? はっきり言うが一夏より崎守の方が圧倒的に強いぞ。

 

 軟弱者と言うならそれはボーデヴィッヒ、お前のことだ。

 折角見える様になった目をまた曇らせて、いつまで寝ている。

 

 軟弱者では無いと言うなら、まずは認めて受け入れる心の強さを示せ。

 一夏をそうした様に和成の姿を正しく思い出せば簡単な話ではないか」

「認めて受け入れる心の強さ……」

 

ラウラは遺書の内容を思い出していた。

 

「……壊れて誰かを恨み傷つける前に命を絶つ」

「ああ、お前にできるか? 私を求めなければ生きられなかった。

 加えて今は一夏がいなければ生きられない、違うか?

 

 お前は壊れて一夏を恨み傷つけるために此処へ来たとも言える。

 そしてそれを自分では制御できず、力に溺れた。

 

 崎守と真逆ではないか、悔しくはないのか? そんな軟弱な自分に腹が立たないか?

 私は悔しくて腹立たしかったがな、軟弱な自分が」

 

そう言うと千冬は背を向ける。

 

「認めろ、ボーデヴィッヒ。軟弱者は私達で和成は精神的強者だ。

 ISの操縦技術なんぞ、人の強さの指標にはならん。

 

 人の強さは心の強さなのだからな」

 

そして振り返ることなく千冬は部屋を出た、愛弟子の更なる成長を願って……。

職員室へ帰ろうと歩き出したところで鈴に出くわす千冬。

 

「凰か、ボーデヴィッヒは私に任せてくれないか?」

「既に手を打ったんですね? 織斑先生」

 

その言葉に頷く。

 

「ああ、因みに他はどうだ?」

「シャルロットには発破をかけて来ました、残るは……箒です」

「篠ノ之か……、あいつが一番厄介だな」

「同感です」

 

二人は意見を交わすとそれぞれの目的に向けて動き出す。

全てを解決すると言う同じ意志の元に……。


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