シャルロットは鈴が出て行ってから考えこんでいた。
和成の解決策は和成にできないから“できる一夏に託した”。
記憶を辿れば一夏に巻き込まれてクラス代表決定戦に出たとは言ってたけれど、それに不満を漏らした事は無かったが……。
実際に自分がその立場なら、なんてことしてくれたんだとシャルロットは思う。
一夏にはある意味で力がある、千冬と束の後ろ盾と言う力が。
けれど和成には何も無い、では自分は? 本当に無いのか?
「ある……、僕には専用機と代表候補生って言う立場の力が……。
デュノア社社長の愛人の子供っていうジョーカーもDNA鑑定を日本で行えば切り札になる……。
それに織斑先生とちゃんと話せば、協力してくれるかも知れない。
だって僕はスパイ行為だけはしてないんだ……、あれ?」
そこでシャルロットは気付く、いつから定期連絡して無かっただろうかと。
でも催促すら無くて追加装備が送られて来た、もう女として生きているんだから広告塔の意味は無いのに?
「辻褄が合わない、なんで今まで気づかなかったんだろう。
って、そうか……特記事項で守られてるって勘違いして一夏のことばっかり考えてたから……。
和成はそんな僕を心配してくれてた? それとも何かに気づいてる?」
鈴の言葉を思い出す、和成は自分が命懸けなのにシャルロットのことを考え約束を守ってくれたのは確かだ。
自分は? 学園に来てから自分のことしか考えない、それどころか考えるのも忘れて好きに生きて来た。
「駄目だ、頭がよく回らない。でも、やらなきゃいけないことはわかったよ、鈴」
死に瀕してるのは一緒の相手をさらに追い詰めたのが自分で、逃げてるだけなのも自分。
なら戦わなきゃ、そしてその前に償いを。
「早く僕の気持ちを、反省の言葉を和成に伝えなきゃ。
後悔を残して死ぬのだけは嫌だ、だって僕が死んだらきっと和成は後悔する。
自分に力があれば救えたって、でも違うんだね? 鈴。
僕が必死に動いていれば今よりもっと良かったかもしれないんだ。」
机に向かったシャルロットは意を決してレポートに取り組む。
同じ死に瀕した境遇なのに自分を気遣ってくれた人を死に追いやった。
それを後悔しながらもペンは止めることなく……。
◇◆◇
黛薫子は新聞部副部長である、そして今の状況からとくダネの匂いを感じていた。
「男性操縦者が二人共見当たらない。
一年の専用機持ちも誰もいない。
それで織斑先生が副担任になってるっと」
聞き込みの成果を確認する薫子。
「で? 織斑くんは篠ノ之博士が連れてった?
崎守くんは体調不良で休んでるから保健室に行くなって、もう何日目よ。
いや、なんかもう疑ってくれって言ってるみたいな物でしょ、これ」
そう言うと薫子は向かった、唯一場所がわかっている生徒、和成の下へ。
◇◆◇
ダリル・ケイシー、またの名をレイン・ミューゼルは悪名高い亡国機業の一員である。
そして、ダリルが知らないだけで亡国機業のスリーパーは当然IS学園にも潜んでいるのだ。
<スコール叔母さん、レインだ>
<あら、レインからなんて珍しいわね、どうかしたのかしら?
<一年の専用機持ちが全員消えた、更識楯無にも動きがなさ過ぎる。
しかも織斑千冬が降格、なんか情報上がってないかと思ってさ>
スコールは目を細める、これはいい傾向だと。
レインはこちらとの接触には消極的だ、それが自分から動くと言うのはスコールにとって望ましい。
とはいえわかっているのは一つだけ、動くに動けない状況。
これ幸いとレインの興味を引いて情報を増やそうと画策する。
<男性操縦者の一人、崎守和成が投身自殺したわ。でも、どう言う訳か無傷>
<は? なんだそれ。でも織斑千冬の降格理由としちゃ十分か。
で、何故か同じ時期から専用機持ちが消えた……臭せぇな。
何かわかったら教えてくれねぇか? スコール叔母さん、あたしも調べて見る>
釣れた、そうスコールはほくそ笑む。
<ええ、いいわ。じゃあ、レインにも期待してるわね>
<わかった、それじゃ>
こうして事態は動き出す。
◇◆◇
偶然とは怖い物だ、情報を欲した者同士が鉢合わせになった。
「お、黛じゃねぇか。丁度良い、ちょっと教えてくれねぇか?」
「ケイシー先輩。
内容によりますがなんでしょう? 場合によっては報酬いただきますよ?」
「ん〜、あたしのインタビューとかどうだ? 写真もOKだぜ?」
これはこれで非常に魅力的な報酬、ダリルは姉御肌で結構人気があるのだ。
「交渉成立ですね、で、何が知りたいんですか?」
「消えた一年の専用機持ちと楯無の共通点だ」
薫子は考える、これは公表していい情報かと。
とはいえ一年の間では公然の事実、問題は無いと判断した。
「織斑くん狙い」
「ほう? あの楯無もか?」
「そうなんですよね、でも一年の間では割と有名な話ですよ?
上には上がってないですが」
ダリルは考える、これは結構な大事じゃないかと。
まあ、それを薫子に伝えはしないが他に心当たりがあった。
「そりゃ初耳だ、あたしが暇な時なら取材受けるぜ」
そう言ったダリルと薫子は悪い笑みを浮かべていた。
薫子はいい記事が書けそうだとサービスすることにした、内容に報酬が見合わないからだ。
「ちなみに織斑くんは篠ノ之博士が連れてったそうです」
「もう一人はどうした?」
「保健室で休んでるそうですよ? これから会いに行こうと思ってますが一緒に行きます?」
ダリルは頷くと流すべき相手を思い浮かべた、その結果を予想して。