サラは、ああ言ったものの現状を知らな過ぎる事をよく理解していた。
なら信頼できる今の担任、真耶に聞かなければと職員室を訪れる。
「山田先生、お忙しいところすみません。二年操縦科のサラ・ウェルキンです」
「お久しぶりですね、お元気でしたか?」
真耶は去年の教え子であるサラを温かく迎えた。
「ええ、お陰様で。ところで少々お聞きしたいことがありまして。
大変申し訳ないのですが生徒指導室でお伺いできればと」
サラの台詞回しが真耶は気になった、関係がありそうなことと言えばセシリアのことくらい。
場所の指定から言って、まず間違いないと思った真耶は話の場を設けることにした。
「わかりました、では行きましょうか」
そう言うと場所を移したのだった。
◇◆◇
生徒指導室に入った二人は鍵を締めて向かい合うと早速サラは切り出した。
「山田先生、申し訳ありません。同郷のセシリアが問題を起こしたとか。
その、出所は不明なのですが崎守くんが……」
流石に真耶も驚いた、まさか箝口令下で漏れているとは思ってもいなかったのだ。
「出所が気になりますが、どこまで知っているんですか?」
「彼が投身自殺したこと、何故か無傷だったこと。
その原因にセシリアを含む多くの専用機持ちが関わっていることでしょうか」
殆どと言ってもいい内容、なら何が聞きたいのかは察しがついた。
「実は私から関係者全員に反省を促して、レポートを義務付けました。
その内容を認めるまで全員自室謹慎だったんです。
それでその、これはオフレコですよ? 崎守くんのIS“打鉄・防人”。
そのワンオフアビリティによって、昏睡状態の時にコア人格から罰を与えられたんです」
「コア人格が!?」
「ええ、それが関係者の持つISのコア人格と協議して待機形態を変更。
心臓の大動脈に設置、展開不可、取り出そうとすれば即内部展開して……」
それを聞いてサラは震えた、つまり死ぬと言うことだから。
「解除条件は今回の件を反省して崎守くんに謝罪、本人が認めること。
ですから私はレポートを見ては謹慎を解くという業務に追われています」
「今、崎守くんは?」
「保健室で養生していますが元気です、ただ面倒事を避けるため起きていないことに」
それを聞いてサラは考える、優しい和成なら勝手に決めてセシリアが不幸になれば悲しむ。
なら、まずはセシリアに謝罪させて判断を仰いでからでも遅くはないだろうと。
とはいえ、無罪放免は幾ら何でもあり得ないが。
「セシリアの謹慎は……」
「先程レポートを読み終えましたので解きます、一緒に行きますか?」
真耶の言葉にサラは頷いた。
◇◆◇
セシリアの下に謹慎の解除と謝罪の場を設けるとサラを伴って真耶が来た。
そして今は保健室にいる。
「崎守くん!」
「サラさん、すみません。訓練、休んでしまいました」
「そんなことはいいんです! ごめんなさい、私は何も気づいてあげられなくて……」
前回は真耶だったが今回はサラ、やってることに基本変わりは無い。
つまり本音は膨れてる、そして真耶は自分もああ見えたのかと赤くなった。
サラはあまり気にした風もなく、抱擁を解くと和成が問う。
「私は崎守和成と申しますが、そちらの方は?
「初めまして、ミスター崎守。
私はオルコット家のメイド、チェルシー・ブランケットと申します。
この度は誠に……」
そこまで言ったところで和成がストップをかける。
「ミス・ブランケット、貴族ではどうかわかりませんが……。
貴女に落ち度が無いにも関わらず謝罪を受けるほど僕は恥知らずではありません。
それとも貴女が謝罪すれば罪が軽くなるとでもお思いですか?」
チェルシーは和成が理性的な紳士であり、譲れない矜持を持つ強い人間だと理解した。
つまり、今の自分したことは……。
「出過ぎた真似を、ミスター崎守」
「いえ、わかっていただければ」
こうなれば後はセシリア自身解決すべき問題とチェルシーは下がる。
そしてベッドまで来たセシリアは意を決して謝罪を始めた、膝をつき懺悔する様に手を組んで。
「和成さん、わたくしは出会った当初、貴方を含む日本の方々に暴言を吐きました。
後に謝罪したとはいえ許される行為では無かったと。
祖国の人々をも裏切る行為だと今更ながら痛感しております」
セシリアの瞳からは止めどなく涙が溢れ落ちている。
「銀の福音の時もキャノンボールファストの時も守りフォローしていただきました。
にも関わらず、喉元過ぎれば熱さを忘れたかの様に酷いことを繰り返す。
謹慎中に思い返せば和成さんは気遣ってくれていたのにそれを当たり前の様に……」
どんどんと頭を垂れて行くセシリアはそれでも続けた。
「口ではなんとでも言えるとお思いでしょう。ええ、それだけの事をして来たのです。
弁解の余地もありませんが、これから行動で示し、許しを乞うつもりでおりました。
ですが、それも叶わぬ望み。わたくしは強制送還のうえ裁かれるでしょう」
そこで和成は理解した、何故サラがいるのかと言うことを。
「サラさん、報告の方は?」
「まだですが、行うことに私は決めています」
和成の悲しげな表情に、ああやはりと思いつつもサラはそう断言した。
そしてサラの態度から和成もセシリアや自分への思いやりを感じて……。
「セシリアさん、一つ教えて欲しいんだ。
セシリアさんが守りたい物はなんですか?」
その問いは誰にとっても予想外の物だった。
それはセシリアにも言えたが……。
「オルコット家に連なる多くの方々です」
その答え、和成が求めたのは滅私の心。
つまり自分の事ではなく巻き込まれる人を守ると言う意志。
「そのために積み上げたすべてを失ってもですか?」
「はい」
「サラさん、イギリスの女王陛下と直接話すことはできませんか?
報告はサラさんに任せます、その後で構いません」
和成はそう言ったのだった。
◇◆◇
「あはっ、さっすがかーくん、わかってるねぇ。
なら、束さんが手伝ってあげよう」
そう言うと束はすぐに連絡する。
「もすもすひねもす、束さんだよ。
ちょっと女王陛下に伝言頼めるかな? OK?
じゃあ、代表候補生のサラ・ウェルキンに至急電話してって伝えて貰える?
その時、男性操縦者の崎守和成の話を聞いて判断してって一緒に。
うん、そう。ちょっと問題が起きたんだけど、彼、私のお気に入りなんだ。
悪いけど頼むね、お詫びにブルーティアーズのBTシステム改良してあげるから。
どんなって? 簡単だよ、適正範囲をひろげてあげる。
今狭すぎるでしょ、それじゃあ人を選びすぎてイグニッションプランに勝てないよ。
そうそう、汎用性を上げるってこと。OK?
じゃ、そう言う事でよろしくね〜」
束にとってBTシステムなど零落白夜に比べればなんてことは無い。
「じゃ、かーくん、上手くやって見せてね」
そう言うと嬉しそうに笑った。
◇◆◇
サラが方法を考えていると見知らぬ番号から電話がかかって来た。
とはいえ、この回線はイギリスの専用回線、出ない訳にも行かず……。
「はい、サラ・ウェルキンです。
……これは女王陛下! 私の様な者にどの様なご用件でしょうか!」
まさかこのタイミングで女王陛下から電話がかかってくるなど誰も予想していなかった。
サラは促されるままに事情を告げると、和成に電話を手渡す。
「女王陛下がお話しを伺いたいとのことです」
それを聞き、受け取った和成は臆することなく自身の意志を告げる。
そして最終的に双方納得の上、電話は終わった。
「セシリアさん、女王陛下に嘆願してオルコット家の取り潰しだけは回避できたよ。
これで君の守りたいの物は守れた。
でもね、セシリアさんは代表候補生の剥奪、専用機の譲渡が義務付けられる。
IS学園にはこのまま通い、筋を通す様にって女王陛下からのお言葉だよ。
だから、セシリアさん。さっきの言葉通り行動で示してね。
それとサラさん。専用機は改修の後、サラさんに与えるとのこと。
どうもBTシステムの汎用化に成功したらしくて、そのテストをするそうです」
セシリアはその温情に泣き崩れてしまった。
サラは思い掛けない汎用化されたブルーティアーズのテスト操縦者に任ぜられて呆然としている。
「この度は、女王陛下へ嘆願して、下さり、ありがとう、ございます。
必ず、必ずこの御恩に、報いるよう、行動で示して、参ります。
誠に、誠にありがとう、ございました」
セシリアは立場は失ったが、守るべき物は守れたと心から感謝していた。
「僕の我儘だよ、セシリアさん。
極論セシリアさんが罰せられるだけならまだいいかもしれない。
けどね? 無関係な社員とか家族が不幸になるのは違うと思うんだ、ただそれだけだよ」
照れた様に言う和成だが、誰もがわかっていた。
これが唯一無二の落とし所だったと言うことを……。
「サキモリ、ブルーティアーズと話して元通りに。頼めるかな」
直後、セシリアの耳にはブルーティアーズの待機形態が現れたのだった。
セシリア編、一応の決着です。
束さんが味方だと融通効くんですよね、これが白い束クオリティ。