男性操縦者の理解者達は許さない   作:しおんの書棚

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冷氷が再び溶ける時

真耶は薫子に釘を刺していた、面倒事はこれ以上御免だと言わんばかりに。

しかも、以前の真耶とは迫力が違いすぎる。

 

「という事ですから、今回の件は記事にしちゃダメですよ。

 男性操縦者に各国の代表候補生が関わってるんです。

 記事にして国際問題になったら広めた黛さんも痛い目を見るんですから」

「折角のネタが……」

「まだ言ってるんですか!」

 

真耶の剣幕にどうせ記事にしても発禁になると察した薫子。

結局、この記事はお蔵入りになったのは言うまでもない。

 

ちなみに一組の面々にも同じ事を告げてあり、予防線に抜かりは無かった。

 

◇◆◇

 

とぼとぼとシャルロットが去って少しした後、今度はラウラが和成の下に現れた。

 

「和成、すまなかった。嫁に気を取られて結局お前を蔑ろにしたのは事実。

 その、なんだ。模擬戦と称してそのつもりは無かったのだが憂さ晴らしをだな……」

 

どんどんと語調が弱くなって行くラウラ。

口調が千冬に似ているのでなんとも言えない和成。

ムードはお葬式以外の何者でも無かった。

 

「ほ、本当にすまなかった。

 私がセシリアと鈴に喧嘩を売った時もお前は止めようとしてくれた。

 第二世代機の初心者がどうにかできる訳もないとわかって、い、いながら、ぐすっ」

 

和成は聞きながら思う、これでは自分が苛めているみたいだと。

 

「タッグ、トーナメント、の、時だって、お前は、お前、は」

 

これ、最後まで聞くの? と和成はだんだん申し訳なくなって来た。

妙な罪悪感があるのだ、こう幼女を虐めている様な。

 

「VTシステムの、時も。

 福音の、時も一番体を張ってたのはお前だった!

 

 なのになんなのだ、私は……。

 どうしてあんな事が平然とできるのだ……。

 

 やはり私は戦う事しか……」

「それは違うよ、ラウラさん」

 

流石にその言葉を聞き逃す訳には行かない。

和成は命懸けで救い出したラウラにそれを言わせるのだけは許せなかった。

 

◇◆◇

 

ラウラは和成の雰囲気が変わったことに怯えた。

何を間違った? と、そして混乱してしまう。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

泣いて懇願するラウラを和成は優しく抱きしめて落ち着かせようとした。

しばらくそうしているうちにラウラも落ち着きを徐々に取り戻し始めた様で震えが収まってくる。

 

「ラウラさん、そんな悲しいこと言わないでよ。

 僕はラウラ・ボーデヴィッヒという一人の人間を助けたかったから命を賭けたんだよ?

 

 正直に言ってVTシステムを抑えるのは死に物狂いだった。

 一夏は怒ってて冷静じゃ無いし、シャルロットさんは退避してくれない。

 

 あの時の僕は4人の命を守ることしか考えてなかったんだ。

 

 現役時代の織斑先生を抑える? そんなの無理に決まってるのにね」

「だ、だがお前はやって見せたではないか……」

 

ゆっくりとラウラから離れて、和成は伝える。

 

「どうしてできたんだろうね、今でもわからないよ。

 でも、もし理由があるならあそこで消えていい命は無かったんじゃないかな?」

「……」

「ラウラさんはあれから変わったよね。

 きっと必要な事だったんだよ、綺麗事だけどね。

 

 だから僕は胸を張って言えるんだ、ラウラさんの人生を変えたのは僕達で。

 ラウラさんは幸せになる義務があるって」

「幸せになる義務……」

 

和成は頷き、ラウラは考える。一夏と一緒だと幸せだ、けれどそれだけだったかと。

シャルロットとの生活は楽しい、これも幸せというのだろうと。

みんなで騒ぐのも苛つくことはあるが楽しくもある、これもそうだろうと。

 

なのに何故、和成を傷つけなければいけない?

一緒でいいじゃないかと、みんなで楽しめば幸せなんだと。

 

「その、幸せに、和成も入ってるのか?」

「みんなが拒まなければ」

 

ああ、そうだった。自分達が拒んだのだとラウラは理解した。

もう駄目だった、レポートを書いた時よりもっと重要な事に今気づいてしまったから。

 

“和成の幸せを壊したのは自分達だ”という事実に。

それはサキモリが怒って当然で、罰せられるのも当たり前。

和成が死を選ぶほど壊したのは自分達の馬鹿げた独占欲だったのだと。

 

「和成、本当にすまなかった!

 これからは私自身も! みんなも! 和成の幸せを壊さない様に私が止めてみせる!

 だから見ててくれ、それが私の償いだ。そして和成が納得した時、私を許して欲しい」

 

「うん、見てるよ。だからラウラさんも幸せになれる様に頑張ってね」

 

涙を拭ったラウラは晴れ晴れとした表情で、大きく頷いた。


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