男性操縦者の理解者達は許さない   作:しおんの書棚

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出来れば高評価という燃料を投下していただけると嬉しいとか言ってみたり。


崎守和成という人間

「崎守くん! 本当に大丈夫なんですか?」

 

突然現れた和成を心配して、真耶はそう声をかけるとすぐに返事が返って来た。

 

「ええ、先程も言いましたが私は元に戻りましたので以前よりスッキリしています」

 

それを聞いてホッとする一同の中で、唯一千冬は違和感を敏感に感じ取っていた。

 

「待て崎守、さっきから一人称が変わっているだけでなく、やたらと“元に”を強調しているな?

 どういう事か説明して貰いたいのだが」

 

「はははっ、流石はブリュンヒルデと言ったところでしょうか。

 

 質問にお答えしましょう、私は“僕”と称していた崎守和成“本来の性格を持つ人格”です。

 おかしいとは思いませんでしたか?

 一夏以上の被害を被り、自殺までした人間が“怒らない”事に。

 それどころか全員を気にかける? それはもう異常以外の何者でも無いでしょう?」

 

その一言が齎したもの。

許された訳では無いが認められた筈の彼女達が受けた大きすぎるショック。

それは誰一人言葉を発せないほどの衝撃となって襲いかかった……。

 

◇◆◇

 

崎守和成は崎守神社に生まれた長男、頭脳明晰で活発、優しさを持っているのと同時に理不尽には怒りを覚える普通の子供だった。

ただそれがあまりにも極端で神職となる身としては自身を制御することが必須。

しかし、優しさに際限がない様に怒りにも際限がなく、崎守家に伝わるとある方法で怒りや怨みと言った負の感情を大きく抑制せざるを得なかった。

つまり封印したのだ、そしてそう言った感情の発露を予見すればなんらかの方法で抑える様にと念には念を入れて強力な暗示までかかっていた。

 

「ですが暗示が効き過ぎて自殺にまで至ってしまいました。

 ここで封印にヒビが入ったのですが解けるにはまだ足りません。

 しかし、昨夜とある事実を知って“僕は”随分と耐えていましたが……。

 最終的には耐え切れず封印が解け、こうして私は本来の自分を取り戻したという訳です。

 

 まあ、“僕が”随分と頑張ったので余計な手間は増えてしまいましたが……。

 なら別の方法で返すまでです。

 あれだけのことをしておいてただで済むとは面談した以上思っていないでしょう?

 

 セシリアには、まあ既に罰が与えられているので蒸し返すのも男らしく無い。

 しかし、他は? 学園は? 政府は?

 私の怒りや怨みはその程度の対応で晴れるほど中途半端な物ではありません」

 

それを聞いてゾッとした、足元から這い上がる様な負の感情を叩き付けられて。

 

「今日のところはこの辺にしましょう。その方がいい、間違いなくね。

 いつ誰からどんな報復が始まるのか怯えて過ごすのに最適でしょう?

 

 以前の悪夢は所詮夢、現実にはどう頑張っても敵わない。

 自分達が犯した罪に怯えるといいでしょう。

 どんな末路が待っているか期待してて下さい」

 

和成は言いたいことは言ったとばかりに生徒指導室を後にした。

残された加害者が恐怖に震えるのを尻目に……。

 

◇◆◇

 

本音はすぐに和成を追った、自分の意思をどうしても伝えたかったから。

 

「かずくん、待って!」

 

その声に和成は足を止めて振り返る。

 

「どうしたの? 本音さん」

 

その声はいつもと変わりなく温かい物だった、それでも本音は伝えずにいられない。

 

「かずくん、私はかずくんと一緒にいていいんだよね!?」

 

それを聞いた和成は目を見開いた。

 

「私が怖くないの? こんなタガの外れた人間が」

「怖くないよ、だって当たり前だもん。

 人よりちょっとだけ怒りが強いだけで“かずくんはかずくん”でしょ?」

 

本音は心からそう思っていた、誰だって酷いことをされれば怒るし恨む。

ただそれが人よりも強いというだけで抑圧されて来たこと自体が悲しいと。

 

不意に本音は抱き締められて、でもそれはいつもの優しさに満ちていた。

 

「本音さんは本当の私を受け入れてくれるんだね? なら本音さんを私の物にするよ」

「うん、私はかずくんの物だよ、ずっと一緒にいるから」

 

そう言った本音の目から涙が溢れた、愛しい人の苦悩を思って……。

 

◇◆◇

 

「何か理由があるとは思ってたけど随分と好き勝手したね、そいつらは。

 だからズレてるって束さんが感じてた訳だ」

 

和成の過去を聞いた束はそう呟く。

 

「負の感情って言ってたけど、それってつまり攻撃性。

 誰かも言ってたけど守りは元々優れてた。

 そこに攻撃が加ればサキモリとかーくんの組み合わせって最強になる。

 だって優しいかーくんはいつも“抑えてた”、傷つけたくなかったからね?

 

 それと死に瀕する経験ってフェイズシフトの切欠になるんだよ、感情の爆発も。

 だからいっくんを何度も追い詰めてたんだけど……。

 これはサキモリのサードシフトが見られるかもね」

 

束はひたすら嬉しそうにそう語る。

 

「で、やっぱりこっち側の人間だった訳だよ、見た? さっきの振り切れっぷり。

 束さんの目に狂いは無かった訳だ。

 

 これからは全て揃ったから、かーくん本来のスペックが発揮できる。

 ただでさえ明晰だった頭脳は抑圧されてた訳で、それが解放されたんだから楽しみだね」

 

そして今度は慈愛の籠った目を向ける。

 

「良かったね、かーくん。かーくんを理解して支えてくれる子ができて。

 あ〜あ、束さんにもそういう人がいればなあ、きっとこうはなってなかったのにね……」

 

そう言った束は遠い目をしていた……。




和成は本来の自分を取り戻しました、底抜けに優しく、苛烈過ぎるほど怒る自分に。

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