男性操縦者の理解者達は許さない   作:しおんの書棚

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和成の苦悩と本音の献身

今、和成の部屋には和成と本音がいた。

 

「かずくん…」

 

戻って来てからの和成はずっと俯いて何事か考えている様に見える。

けれど、本音には苦しんでいる様にしか見えなかった。

 

「私は、私はまた抑えきれなかった……。

 ああでも言わなければ、少しは吐き出さなければ即座に殺しかねなかったんだよ、本音さん。

 いつでも抵抗できる様にISは元に戻しておいたのも私なりに取れる最善策だったんだよ?

 そして手遅れになる前に“逃げた”、あれ以上あの場にいたらと思うとゾッとするよ……」

 

ああ、やっぱりと本音は思って和成を強く抱き締めると話す。

 

「かずくんは前と変わらない優しさも持ってて。

 でも溜まっちゃた分なんとかしなきゃいけなかったんでしょ?」

 

「そうだ……と言いたいけど、実際あんな行動しておいて言えないよ。

 でも、これでみんな私を危険と判断して離れてくれれば。

 凶行を起す前に何もできなくしてくれればいいと多少落ち着いてる今の内に……」

 

そういうと和成は“サキモリ”を本音に手渡した。

 

「ねえ、本音さん。私を懲罰室に入れてくれないかな。

 そうすれば私は怒りを鎮める時間が取れる、何の被害も出てない今がチャンスなんだ。

 お願いだよ、本音さん。私が人殺しをしないためってわかるよね?」

 

本音は更識に仕える従者、生徒会役員、その気になれば入れることはできる。

 

「かずくん、私も一緒に。だから山田先生に相談しようよ。

 

 それにみんなには悪いけどやっぱり何か罰は必要でしょ?

 なんでかずくんだけいつまでも苦しんでるの?

 みんなは一週間弱謹慎だったけどそれは早く反省してレポート出さなかったからでしょ?

 最初から真剣にやってればすぐ謹慎は解けてたし、あんなの罰にならないよ!

 なんで、なんで自分で罰しようとしないの!?」

 

和成は自分の変わりに泣きながら怒ってくれる本音が愛おしかった。

 

「本当はね? 私も本音さんの言う通り罰はみんなが自分で考えることなんだと思ってる。

 だから僕の怒りがなかなか消えてくれないんだ、何も犠牲にして無いから。

 

 セシリアさんは別だよ? 自分を捨てて守るべき人達を選んだ。

 サラさんの協力があったとしてもね。

 

 とにかく本音さんの言う通り、山田先生に相談するね?

 多少落ち着いている今がチャンスだから」

 

こうしてもう一人、本当の自分を理解してくれるだろう真耶と相談する事にした和成だった。

 

◇◆◇

 

「山田先生、先程は怖がらせてしまってすみません」

 

和成は真耶に相談があると言って呼び出すと、まずは謝罪した。

真耶は先程との落差に驚いていたが、今の雰囲気は今までの和成で恐怖も感じない。

そこでまずは話を聞くことにした。

 

「いえ、今の様子を見る限り何か理由があった様に見えるんです。

 早速お話しを聞かせてもらえますか?」

 

そう言った真耶に答えたのは気遣い少しでも怒りが湧かない様にしようとした本音。

 

「かずくん、また話したら思い出しちゃうでしょ。

 私が話してもいい? その間、シャワーでも浴びて来たらいいんじゃないかな?」

 

「……そうだね、任せるよ、本音さん」

 

そう言った和成がシャワー室に消えた後、本音は経緯を話す。

そして、それを聞いた真耶は和成の優しさが失われていない喜び。

怒りによる被害を抑えようとする心の強さと和成の苦しみを知った。

 

「崎守くんの言う通りにしましょう、不本意ですが」

 

真耶からは力になれない悔しさ、またしても理解してあげられなかった後悔が滲み出ている。

 

……そして、和成と本音は懲罰室よりは環境がよく、それでいて出られない場所。

特別な寮の一室でこの職員寮の最奥へと隔離された。

 

◇◆◇

 

「……強いね、かーくん」

 

束は全て見聞きしていた、そしてそう断じる。

 

「あの子、本音ちゃんだから、ほーちゃんかな?

 ほーちゃんも凄いよ、本当の理解者って言うのはああいうのを言うんだね。

 山田だっけ? 彼女もそこに近づいている、羨ましいよ、本当に」

 

少し寂しそうに、それでいて嬉しそうに束は呟いた。

 

「かーくんも、ほーちゃんも言ってたけど自罰が無いのは事実だね。

 束さんだって、箒ちゃんと離れるって言う一番嫌なことしたんだよ。

 その気になれば連れて来れるけど、それじゃ罰にならない。

 それに箒ちゃんの意志も無視しちゃうからね、まあ結局はああなっちゃったんだけど。

 

 苦しいなぁ、なんで私は大切な人を見てることしかできないんだろう。

 私にできることなんて……、あった、あったよ!」

 

その瞬間から束は動き出す。

 

「他の人にはできなくて束さんにできること。

 ううん、“束さんにしかできないこと”で!

 

 待っててね、かーくん、ほーちゃん。

 束さんには束さんにしかできない事で救ってみせるよ。

 

 今回は間違いじゃない、絶対に!」

 

その熱意、その想いは烈火の如く。

 

「それとかーくん本来の人間性を束さんは否定しない。

 否定しちゃうと束さん自身も否定することになるからね。

 だって私達は天然物でそういう風に生まれてきたんだから。

 

 そして覚悟しておけよ、石ころ共。

 フェロモンの効果が切れたその後何かしたり、行動が伴わなかったら…。

 

 “私”の夢を今もわかってくれる唯一の理解者、かーくん。

 かーくんは優しいから許すかも知れないけど、“かーくんの理解者の私は許さない”」

 

束の決意は堅く、もしもその時が来れば……後は言うまでも無かった。


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