束にとって和成の存在はイレギュラーだった。
一夏を主人公にした物語、ヒロインは箒という台本に紛れ込んだ邪魔者。
「だから無人機で殺そうとしたんだけどね〜」
ところが箒の予想外の行動により危うく最愛の妹を殺しかけた。
それを阻止したのは一夏ではなく和成、とはいえその時は然程興味が無かった。
「けどさ、その後も箒ちゃんを見てたら色々気遣ってくれてるのに気付いた。
だから束さんは試すことにしたんだよ、銀の福音を使ってね。
狙いは白式のセカンドシフトと紅椿鮮烈デビューに絢爛舞踏の発動。
そしてもう一つ。
いっくんと同じだけ実戦を経験したら“束さんが何もしなくても”セカンドシフトするのか。
そしてその時どう行動するのかが見たかった」
白式と紅椿は“そうなる様に束が作った”IS。
しかし、打鉄は倉持技研が過去に作り納品しただけのIS。
「流石に驚いたよ? まさか本当にセカンドシフトするなんてさ。
しかもファーストアタック失敗時には殿を努めて箒ちゃん達を守った。
セカンドシフト後もいっくんみたいには治ってないまま、あの中で最高の仕事をした」
だから気になったのだ、ISをどう思っているのかが。
そして思い出す、休養中に交わした会話を……。
◇◆◇
束は密かにIS学園の保健室を訪れた。
「やあやあ、二度目だね。ちょっと聞きたいことがあるんだけど君にとってISって何?」
和成は束が突然来た事に驚きながらも素直に自分の想いを告げた。
「IS自体は翼です、空を宇宙を飛ぶための」
その答えに違和感を覚えた束はそこを追求する。
「IS自体は? じゃあ、他に何があるの?」
「今のISを取り巻く環境です、翼は戦いの道具にされ、女尊男卑の象徴になりました。
そして僕の家族を引き裂き、命の危険に晒した原因でもあります」
和成の言葉に間違いは無かった、それは束自身がよくわかっている。
だからこそ聞きたくなった、束がISを作ったのは間違いなのかどうかを。
「束さんがISを作ったのは間違いだと思う?」
「いいえ、作った初心のまま運用すれば間違っていないと思います。
僕も素敵な夢だと思いますよ、心から」
「そっか、ありがとう。君、名前は?」
束は満面の笑顔で名前を聞いた、自分の夢は間違っていないと告げた少年に。
◇◆◇
「で、ナノマシンを打って治療したんだよね、かーくんを」
それからの束は箒と和成を見続けた、そして徐々に疑問が湧いてくる。
「どうして皆、いっくんを好きになるの?
かーくんがどれだけ気遣っても、問題の解決に奔走しても。
絶対何かあるよね? 今までは気にしてなかったけど何か変だよ。
それにこれじゃあ、かーくんが報われなさすぎ」
こうして束は原因の追求を始めた、それこそ過去の資料を引っ張り出してまで。
けれど原因がまったくわからない。なら、もう一度とあの場所へ足を運んだ。
「お前ら、まだやってたのか」
二度目の束来訪に驚いたのは“
天然の超人である束を知って解体された筈が超えるべく研究を続けていたのだ。
まあ未だ超えることはできずにいた訳だが。
束は織斑計画を完全に潰すことにしたが、その前にデータを全て抜き取った。
その後、その場所は地図から完全に消え去ることになる、何の痕跡も無く……。
◇◆◇
データを全て閲覧した束は過去の自分を殺したくなった。何故あの時、こうしなかったのかと。
「何が織斑計画だよ、こんな物の所為でかーくんが報われないなんて。
だから、いっくんはああなんだね。そして……」
言葉を飲み込んだ束は織斑計画を完全に終わらせる研究を始めた。
けれど準備が終わる前に事件は起きてしまう。
「かーくんが投身自殺した!? でも無傷で意識不明……。
今のうちに準備を早く終わらせなきゃ!」
それからの束は不眠不休で準備を進めていく、全てはゆがんだ歯車を元の姿へ戻すために。
その結果、どうなるかは問題じゃない。それが自然なのだから。
「早く早く! これ以上、何かが起こる前に!」
束は急いだ、全ての元凶を正すために……。