『───さあ、対ポルトガル戦の選手紹介を終えましたが、解説の新井さん。このスタメンの中で誰か気になる選手は居ますか?』
『やはり日本からは逢沢 傑選手を挙げたい所ですね。数年前からずっと世代別の代表に選ばれ、中学生の現在ですらトップリーグのプロから目をつけられていると話題に上がっていますからね』
『なるほど。その点を言うと彼の弟である逢沢 駆選手も、この交流会最小年齢でのスタメン出場となりますが……』
『桁外れの決定力。昨今騒がれている、絶対的ストライカーの誕生ですね。しかし私としては、ここまで年代が上の試合に招集して良かったものかと、そう思ってしまいますが』
『気になる点が?』
『代表という立場ですからね。プレッシャーによる疲れはもちろん、身体能力に関してはかなり差が出ると思われます。決定力こそ傑選手のパスもあって活きるでしょうが、世代別代表デビューという場でどこまで通じるか……特に、今回は強豪ばかりを集めた大会ですからね。期待はありますが、同時に不安も芽生えます』
『なるほど。……そろそろ試合が始まる頃でしょうか。ボールはセットされ、審判も時計を確認しています』
交流会カップ。海外の同年代代表チーム、及び自国のユースチームを合計8チーム集い、AグループとBグループに分かれ、グループ試合の後に成績に伴い順位決定戦を行う大会だ。
この大会の目的は同世代の選手たちの交流、そして集った海外チームの日本観光となる。
今回召集された海外チームはスペイン、フランス、スウェーデン、ポルトガル、デンマークと、何処もフル代表でのFIFAランキングは上となる強豪国ばかりだ。
日本はBグループに位置しており、共に同じグループとして居るのはフランス、スウェーデン、ポルトガル。日本で行う大会故にホームグラウンドであるU-17日本代表は応援という面で非常に有利に立てる上、全国大会では使用するチームもあるピッチなので精神的な有利もある。
だが強豪国を相手にそれでどれだけ試合運びが上手くいくか。この世代の日本代表は強い選手も多いが、オリンピック代表召集メンバーに比べると個性が弱いと言わざるを得ない。世代が違うと言われてしまえばそこまでだが、海外リーグでは高校在籍の間にプロデビューする選手は珍しくないと聞く。
日本はプロに在籍するには、高校生の年代はやはりまだ若いというのが通例だ。居るには居るが、異例の域をまだ出ていない。
今日戦う相手はポルトガル。この中にも既にプロデビューを果たして居る選手が居るとの事だ。海外リーグを経験してる選手が居るのはそれだけでも厄介。どう戦うか。
今月で15歳を迎えた傑がそうやって考えを巡らせ周りを見渡していると、駆が直立している姿が目に入る。やはり緊張しているか。そう思い近づいて声を掛けようとするが、その行動に目を見張る。
日本のユニフォームに描かれた日の丸を握りしめて、目を瞑り、笑顔を浮かべている。
世代別代表という場にも関わらず沢山いる観客の歓声などプレッシャーになっていないかの様な、そんな立ち姿。
確かにメンタルは、あの紅白戦の前とは一線を画した駆になっているとは思っていた。しかし代表デビューという場でさえそうとなると。
最早、既に経験してるんじゃないかと思える程の───。
(……いや、いい。プレッシャーになってないならそれで良い。いつも通り、俺のパスとお前のシュートで、ポルトガルを倒すだけだ)
胸を借りるつもりなんか無いぜと強気な笑みで、傑はセンターサークルに立つポルトガルの選手を見つめる。やはり海外でも傑は有名か。警戒した様な目つきで傑を見返していた。
やがて審判はホイッスルを鳴らす笛を口元に持っていき、片手を空へと向けて伸ばし。
大きく、試合開始の合図が鳴らされた。
『駆選手は全中大会と同じく前線からハイプレスを───おっと、少し前のめりになっているのでしょうか。普段は後ろへと回されるとジワジワ距離を詰めて行きますが、今回は追いかけ回しています』
『……いえ、全中レベルと高校年代世界レベルの違いというのを理解している動きですね』
『と、言いますと?』
『全中の彼はボールの動きを誘導する為の前衛守備を行なっていました。しかし今回は強豪国。オフ・ザ・ボールの質が非常に高く、受け手がワンタッチで様々な場所へ通せる場所に身を置いているんです。何処で受けてもチャンスを演出できる様に。これではボールの誘導は非常に困難です。故に、選択肢を減らす目的で追いかけているのでしょう』
『なるほど……言われて見れば、彼はボールを追うというより、選手と選手の“線”を塞ぐ位置を動いている様に見えますね』
『やっている事自体は全中の時と大差はありませんが、全中と高校世代世界レベルとの差を良く理解しています。……試合の中で自分が出来る事を分かっている選手というのは、非常に安心感がありますね。全体的に上手くマークについています』
これならば期待を抱いても良い。解説を務める新井は駆の評価を改め、実況と共に試合の流れを放送していく。
パスコースを限定している事に苛立ちを感じたのか、リスクは高いがと大きくサイドに開くRMFの選手を見る。前のスペースが空いているからあそこに通れば一気に駆け上がれるだろう。
駆を正面に捉えるポルトガルのボランチ選手は一度左へと視線に向け、駆の重心が其方に移動するのを視界に収め、即座にボールを右へと蹴る。
そのパスは綺麗に渡り、RMFの選手はボールを運ぶ。ハーフラインを超え、それでもスピードは衰えず、一気に駆け上がった。
早速ピンチか。ポルトガルの選手は特別秀でた
クロスを塞がなければピンチになる。だが今回の日本のフォーメーションは4-3-1-2であり、マークすべきサイドの選手というのが欠けている。サイドバックも対応するために上がりすぎてはスペースが出来てしまうし、少々不利と言わざるを得ない。
まだ持つ、まだ持つ。サイドバックが止めに来ない故に、深く日本の陣地へと入り込んでいった。
中に雪崩れ込んでいるポルトガルの選手を見て、RMFはクロス体勢を取り。
『いや、詰めている! 左寄りのCMFが詰めてクロスを止め───そこにLSBも即座にプレッシャーを掛けます! ポルトガル6番、一度後ろに下げるか……』
MFによるクロスのタイミングの妨害。それを躊躇した直後に今まで溜めていたSBが一気に詰め寄り二人掛かりでのプレッシャー。
流石にこの寄せの速さの中でパスコースを探す余裕はない。ボールキープを優先に身体で守り、後ろを向いてバックパス。そこから立て直し───が描いていたイメージ。
其処に現れたのは、駆の動きをフォローする様に前衛で動いていたトップ下の傑。
出されたパスを死角から奪い、トラップと同時に前を向く。トラップに使った右足を即座に踏み込み、至宝の左脚を一閃。そのボールは前線を走る駆へと渡った。
(───駆一人のパスコース限定だけなら、相手も戦況を理解しただろうが)
駆け上がる駆を遠目に、念の為にとこぼれ球を打ち込める様に自身も相手陣地へと走り込んではいるが、その頭は先の一連の流れを思い出していた。
(俺と、FW二人の計3人による極端なハイプレス。パスコースを多く消す事で、相手の思考は一手の打開へと変化する。このパスが通ればという思考により、前線へと意識が高まった)
誰も追いつけないタイミングでの抜け出し。駆はゴールキーパーとの一対一となり、微かにフェイントを入れる。
だが距離がある事も相まってそう大きくは振れず、シュートコースは作れない。止むを得ないと言わんばかりに続くドリブルでやがてペナルティエリアまで侵入した。
(大きくスペースが空いていれば、相手は日本が前のめりになったと勘違いするだろう。深く侵入させる事で殆どの相手選手を此方陣地に引き摺り込める。クロスタイミングをズラし、後は挟めば、相手の思考は立て直しのショートパスへと移行する。後は俺がそれを狙って───)
手を使えるペナルティ・エリアでは、一対一は間違いなくゴールキーパーが有利だ。余程危険なタックルでない限りはキーパーの止める為の動きというのはファールにならない可能性が高く、手を使える分ボールに向かって飛び込み拾えるという選択を取れるから。
まして、抜け出したとはいえ駆は今フェイントした時のドリブルの遅れもあってキーパーとDFに挟まれている。止まる選択肢ではカットされるだけ。シュートコースが狭いまま打つかドリブルで躱せる可能性に賭けるか。今の駆が取れる選択はそれに絞られる。
(駆に渡せば、初見じゃ対応できない)
───だが、傑が笑みを溢すと同時に、駆は跨ぎを行う。絶好のシチュエーションだ。相手DFが後ろにいるから敢えて見せる事も出来る。
駆の重心移動と、同時に周りを見る視線。それに釣られパスに反応出来る奴が居るのかとキーパーは視線を高くする。ついて来れる奴はいない筈。だが万が一に備えて動ける準備を整えなければと視界を広げる。
目線の微か下で駆が一人。見える範囲では受け取ってすぐに狙い打てる日本選手は居ない。ならば駆一人の集中すれば良い。決して完全に見てない訳ではないから、駆に抜かされていないのは分かっている。
視線を下げて。
「……?」
いつの間にか消えているボールに困惑。
反射的に後ろのゴールへと視線を向けると、後ろで弧を描いて地面を巡るボール。
それはキーパーの横を通り抜けた駆の足下に綺麗に収まって、軽く振り抜き、ネットを揺らした。
開始4分。弱冠13歳ながら世代別代表のデビューであり、U-17という世代が明らかに上の場で見せる、衝撃的な得点だった。
『さて、解説の新井さん。先制点からポルトガルにかなり引かれ、ボール保持率は8:2とかなりの差が開いていますが……ポルトガルが攻め入らないのは理由があるのでしょうか?』
『先程のカウンターが衝撃的だったのでしょう。得点というよりは、それに繋がるボール奪取の時の動きが重要ですね』
『なるほど?』
『先程は空いているスペースを駆け上がりました。しかし相手に余裕を持たせたところで、想定とは違うタイミングにし、そのズレを狙うハイプレス。言わば嵌めですね。それが頭に焼き付いている為、“空いている”というのが必ずしもチャンスではないと判断したのでしょう』
これが何度もトライして、前半半ば、或いは前半終了間際に漸く成功させたのならば、相手にもリスクを賭ける覚悟はあった。
だが前半始まってすぐの意識が試合に入りきれていないだろうこのタイミングで完璧に取られ、決められる。これでは引き気味になり、ショートパスが多くなるのも無理はない。
『駆選手は最初の様なハイプレスを仕掛けておりませんが、その点については?』
『今のポルトガルは精神的にダメージを負っていますからね。前衛守備をせずとも打開の一手が打たれることはありません。ここで危険なのがショートパスを繋がれて前線に運ばれる事。大丈夫だという自信が芽生えると共にポルトガルの本領が発揮されてしまいますからね。なので現在はスペースに入り込み、オフ・ザ・ボールの時の動きを邪魔して、本来のポルトガルの在り方というのを出来なくしているんです』
『なるほど。……いやぁ、若手ながら随分と良い選手ですね。やはり兄弟、傑選手と同等の期待を抱いていますよ』
『ははは、私も開始前の不安は何だったのかと思っています』
そんな実況の会話を他所に、試合は進む。ポルトガルもボールを回す事で何処が大丈夫で何処がダメなのかを理解し始めたのだろう。段々と繋ぎが早くなり、パスに迷いが無くなり始めている。
オフ・ザ・ボールの妨害。スペースを埋めるだけの動きとはいえ、ここまで加速した組織的な動きを対応するのは難しい。やがて前半始めの時の様に左サイドの選手へとボールが渡るが、カウンターを警戒しているのか駆け上がる事は無い。
あの嵌めはサイドバックが一気に詰め寄れる距離感にいた事。死角に入り込んでいた傑に気付かないくらい慌てていた事で起こったカウンターだ。
ならば相手との距離感に余裕があるサイドの選手が溜めを作れば良い。戦況を見渡せれば、強豪本来の力が発揮される。
“溜め”の後は、隙を突いた様な鋭いパス回しの応酬。基礎能力が高いからこそのパス回しを披露され、流石に傑の頭でも全部に対して嵌めを作用させる事は不可能になった。要所要所で決定的なパスを封じてこそいるが、奪い取るには難しい。
(……今駆を下げる訳にはいかない。人数が増えれば有利にはなるが、今の駆はカウンターに備えているという事実によってプレッシャーを与えてる。そこを下げたところで相手の積極性が増すだけだ)
頭の中で可能性とそれをしない理由の言語化を展開し、直感的に行ってる現在の行動に迷いを生ませなくする。明確化された理由は自信にも繋がる。それが傑の表情に表れているのを目に映しているから、駆は前線から戻ろうとしない。
とは言えこのままではジリ貧だ。自力の差が出て点を取られる。
どうするか。
そんな傑は無意識に駆を目で追いかけて。
「───」
改めて、駆のオフ・ザ・ボールの質の良さを理解した。前線で待機してる状態と言えば、走っていないというイメージがどうしても湧いてしまう。
だが駆はボールが移動する度に、それを奪った後に上手く貰える位置へと体を動かしている。守備をしている訳じゃないのに、「其処で取れる」と動きだけで主張している。
駆の動きからイメージがどんどん湧き上がっていく。ポルトガルの選手が駆に向ける警戒。先程のカウンター時の嵌め。
相手はリスクを極力減らすパス回しに注力している。ならば嵌めが作用されやすい部分を避けるだろう。それを頭に入れて、この守備で出来ること。
目を合わせた駆に傑は頷き、その意図を共有できたことを伝える。駆は目を一杯に開き、露骨に懸命に走ってるとアピールする。最初のカウンターの様に左サイドで嵌めてから攻める事を意識させ、傑もその意図に乗っ取り味方に指示を出す。
少し戸惑いを感じたが、即座に従い最初の様に嵌める動き。侵入させ、MFのプレッシャーとサイドバックによる勢いのある詰め。だが同じ展開になると分かっていたポルトガルのRMFはクロス体勢には入らず中央へと視線を向ける。リスクはあるが、中盤にいるべき選手がポジションを空けたのなら必ずスペースが出来る。真ん中に通せればチャンス。
だがそれは誘導。空いたスペースには傑が現れる。RMFは躊躇いボールキープ。だがこのシチュならば流石に今回は後ろが空いていると後ろを向き。
視線の先には、猛ダッシュで迫る駆の姿。
カウンター狙いじゃない。完全にボールを奪う為の陣形。最初のカウンターが頭にあるから薄れていた、駆が守備に来る動き。
カウンターによるプレッシャーを与えつつ、
抱え込む様な形でファールを誘う様にボールをキープするが、寄せ方があまりに上手い。囲っていても押さず、だがボールを蹴ろうにもタイミング良く詰められる。
この状態でのキープは誰であろうと長くは続かない。サイドバックがボールを奪う。それと同時に駆は走り出してボールを受け取った。
「駆!」
前半始めのカウンターとは違い、駆はボールを奪った位置からそう遠くない場所からドリブルを開始している。あの一瞬の隙を突かれるようなカウンターは今回起こり得ない。
ポルトガルも落ち着いて対処出来るだろう。その思考を遮る“天才”の声。
ボールキープが逆に動く時間を与え、傑が前線に飛び出していた。
FWの動きではなく、あくまでトップ下の飛び出しであり、DFの裏抜けは出来ていない。だがDF人数が少ない状態での傑のドリブルは脅威そのものだ。
駆は声に応じてパスを出す。
丁寧に、走りのスピードを落とさないように、歩数を意識して。
(───不思議と、兄ちゃんの思考が理解出来る。兄ちゃんの見えていた景色が見える様な、そんな感じ)
段々と共有される思考。
どんなサッカーがしたい。どんな動きが望みだ。こうして欲しい。戦術が、動きが、思考が。全て理解出来る全能感。
深まる集中力が、余計な景色を切り落とす。
(兄ちゃんは敢えてここでドリブルスピードを落とす。味方の上がりに意識を向けさせ、視線誘導によりドリブルをし易くする為に)
駆の読み通り、傑はスピードを落として周囲を見渡す。トップスピードで来ると踏んで間合いを測っていたDFは微かに動揺した様子だが、即座に想定していた間合いへと詰め寄った。
その刹那、傑はトップスピードへと変化する。周りへの意識とチェンジオブペースによる緩急での剥がし。尋常じゃない上手さ。DFは一瞬で振られ、傑はそのまま直進で駆け上がっていく。
まだペナルティエリアの外。
だが、傑は斜めに切り込みゴールへと視線を向ける。理由は三つ。視界の端から微かに敵の姿が見えて追い付かれる事を理解した為。狙えはしてももう少し詰めてくる事を想定したキーパーの虚を衝ける為。
(ここで、ダイアゴナル・ラン)
そして、最高のストライカーが斜めに走り込んで来た為。
傑が斜めのカットインをすると、駆と傑は交差し、ボールをスイッチ───その意識を囮にする。傑の視界の端に見えたDFは駆に釣られて離される。ボールは傑の足下に置いてあるままだ。
釣られたDFがシュートコースを塞ぎにくるが、間に合う筈も無く。傑は左脚を振り抜いた。
正確無比、弾丸ミドル。15歳ながらにしてフル代表級のキックセンスを持つと言われているのは伊達では無く、そのシュートはポストギリギリに放たれた。誰もがゴールを確信し。
だが、キーパーが勘で差し出した手が、ボールに触れる。
誰しもが傑のビッグチャンスが潰されたと思うだろう。会場の観客は立ち上がって頭を抱えたい気持ちだっただろう。弾かれたボールが外に出ていればそうなっていた。
だが溜息が吐かれるその間際。観客は鋭く息を呑む。
弾かれたボールの行き先は、先程囮として走り込んでいた筈の駆の足下だった。
キーパーはよく触ったと褒められるべきだろう。普通ならばコーナーキックとなりビックセーブを披露したと称えられていたかもしれない。
だがその盛り上がりを、駆の培われた“嗅覚”が取り消す。一直線に走り込んだ駆を止めることなんて出来るはずも無く、弾かれたボールを押し込み、駆は前半38分にして、2点目を奪い取った。
『───では、前半のハイライトを振り返っていきましょうか』
『最初はやはりこれですね。綺麗に嵌めてからの駆選手の得点です』
『彼の代名詞とも言える【φトリック】も相まって、最高の代表初得点となりましたね』
『ここから長くポルトガルに保たれ、試合の流れを掴み防戦一方となりますが、それを打開するもう一得点。傑選手の得点になるかと思われましたが、キーパーのビックセーブに妨げられました』
『しかし其処に駆選手が詰め寄っていました。いやぁ、流れで見ていると「よくぞ其処に!」という感じなのですが、改めて見返すと彼は分かっていた様に直線で向かっているんですよね。シュート威力、コースも合って確かに弾く方向が読み易いというのはあるのでしょうが、それでも一瞬で判断する得点感覚は類い稀なる才能ですね』
『しかし気の緩みがあったか、前半終了直前に1失点。1-2で前半を終える形になりました』
『とは言え、強豪国を相手にリードしている事実は良いですね。新井さん、後半はどういう試合展開になると予想しますか?』
『そうですね……前半は相手の一瞬の隙を突くカウンターが出来過ぎというくらいに刺さりましたからね。後半は堅い試合展開になる可能性が高いと思われます。お互いにこのハーフタイムで対策を立ててくるでしょうからね』
『私としましては、駆選手が一躍有名となった理由の一つでもあるハットトリックを期待したいところですが、新井さんとしてはどうでしょうか?』
『それは勿論、私も同じですとも。得点を積極的に狙っていく意識だけは持ち続けて欲しいですね』
『……おっと、選手たちがコートに集っていきます。そろそろ後半開始の笛が鳴りますね』
『───後半スタートです』
試合の流れは、実況・解説の予想通り堅い展開となった。後半だけで考えればボール保持率は6:4と差が縮まり、攻め入るチャンスこそあるのだが、駆が決定打を見つける隙が無い。流石に世界レベルに徹底してマンマークを追及されるとプロの感覚があれど難しいだろう。
段々と重なっていく感覚がある故にもどかしい気持ちもあるが、同時に今は駆の時間帯でない事は理解したのだろう。傑は前線での指揮を駆中心から自分中心へと移し替え、カウンター戦術では無くポゼッション戦術を徹底させる。ポルトガル有利に保たれるのは変わらないが、それでも日本がボールを持つ時間も多くなった。
攻撃意識が強くなり、攻撃に向かう選手たちの思考を読み取り、それを自在に操る。自力の差はあっても追いつかれずにリードできているのは傑の指揮の功績が大きいだろう。
駆の得点能力もあり、二人が味方で良かったと頼もしく思うと同時に、彼らが居なければこの交流会カップでどれだけ世界との格差を味わっていたのかと思う。
さて、堅い試合になり後半31分。
再びボールが傑の足下に収まると、彼の視界の中の動きが極端にまで遅くなった。心臓の高鳴りは良く聞こえるのに、それに比例することの無い時間感覚。随分と不思議で、それでも懐かしみを覚える全能力が飛躍する様な成長の体感。
ああ、この感覚は、紅白戦の時の───。
傑は視界の中の“領域”を見る。ここを通せば良いのか? そんな軽いとも取れる気持ちで左脚を振り抜き飛んでいくボールは、傑の視界に移る真っ白な空間を綺麗に通っていく。
やがてそのボールは、気づかぬ内に抜け出していた駆の足下に届いた。
DFの裏をかく様な抜け出しの動きじゃない。あくまでペナルティ・エリア内で一瞬だけでもフリーになれる、それだけの動き。だがその一瞬を無駄にしないトラップとシュート体勢。
流れる様にシュートを放つ駆の視界には、これまた傑とよく似た真っ白な空間が映っていた。
打たれたボールはその空間の間を通り抜けていき。
駆はこのデビュー戦でハットトリックとなる、3点目を決める事になった。