気になった感想への返信
>>12話の自然治癒、瘡蓋に関して言及させて欲しい(ry
→瘡蓋エアプ勢です。対ありでした(敗北)
今回は矛盾が生じるか心配という感想でしたので其方をお答えさせていただきますと、この件で重要になるのは『色々欠けている部分はあるけどプロに至った駆の能力を扱える脳』と『元々の中学生の駆の脳』があるという点であり、治癒力そのものはそこまで重要ではありません
この件で気になってる方は他にもいらっしゃるかもしれませんが、その場合は「あ、こいつバカ晒してやがるw」と笑って逃して貰えると助かります。
駆の練習復帰初日。
怪我のブランクがあったとはいえ、あまりにも違い過ぎる彼の動きに困惑する者は多かった。多少能力が落ちたとしても動きに固さが現れる程度で、それも少し練習すれば戻る程度だと思っていたからだ。
それを再度確認する目的もあるのだろう。外部入学も視野に入れている三年生組も、せめてもう一回と、その翌日の練習に集っていた。僅かに少なくなってはいるが、寧ろこれだけ良く集まったと言うべきだろう。
この中でも集った三年、そして現一・二年生を集合させ、傑は全員を見渡して練習メニューの説明。の、前に。
「───俺達三年は、今日以降は在学中に部活参加する事はない。高校に上がってから来ることはあるかもしれないが、少なくとも中学三年の間は無くなるだろう。この代の1〜3年が揃って練習出来る最後の日だ。祐介、キャプテンとして頼むぞ」
「はい」
メリハリをつけるために、「練習参加出来そう」や「息抜きに」という練習参加は今後無し。傑も世代別だったりクラブの練習参加に引っ張りだこで確実に来れなくなる。
もちろん上がる人はそのまま鎌学の高等部に上がるだろうから、会えなくなる訳じゃない。だが今のメインはあくまでも一・二年、次期二・三年だ。厄介者はおさらばだと言わんばかりに傑がそう告げ、練習メニューを発表していく。
「今日の練習メニューは、三年には予め伝えている通りだ。高校に上がってから熊谷監督に頼んで行うつもりだった事をやるから、一・二年には知らない奴も多いだろう。今から説明する」
駆は前日の夜に予め練習メニューの書かれた紙を渡されているから知っている。というかこれに関しては自分が傑に「こういうのはどうだろう」と“記憶”を参考に提言したものだ。
練習メニューは大まかに二つ。
「端的に言えば、6人対11人と11人対21人の二つ。前者は15分ハーフ、後者は通常の紅白戦と同じ20分ハーフだ。コートの広さは通常と同じ。試合時間と人数以外は通常の試合と同じルールで行う」
(……なるほど)
違う人数で試合を行う。言葉に表せばそれだけの事ではあるが、実際の試合感覚を分かっている選手にとってそれは結構な提案だ。特に小学生時代から続けている人物は、レッドカードによって退場し10人対11人で試合を経験した事があるだろう。その分の苦しさは知っている。
もちろん練習の中で人数をバラけさせOF対DFという内容は何度か行なっている。しかしこの場合はOF側が少ない事が基本で、『取り敢えず攻めれば良い』というOFとDFの明確な分け目があるからこそ成り立つ練習だ。実際の試合形式となるとそうはいかない。少ない人数でOFとDFのどちらをも成立させるには相応の体力と判断力が必要になる。
と、そこまで理解した佐伯がふと駆の方を見ながら納得した。
(駆は間違いなく少ない人数の方に割り振られるな。体力や判断力。そこが重要になるなら、今の駆でもクリアしている。けど身体がまだそれに順応してない……って見解が、多分俺と傑さんで一致してる。とすれば、試合展開に多く絡ませる為に少ない人数の方で経験を繰り返させる感じか)
荒治療な気はするが、元々出来ていた事の回復と思えば相応の対処なのだろう。身体能力に関しては説明がつかないが、弱まったならそこは鍛え直すと言わざるを得ない。本来は一朝一夕で何とかなるものでもないから。
(と言っても、駆のはついでか。高校に上がってからって言ってたし、主には俺達の個人戦術を鍛える目的だと考えるべきだ)
6人対11人の時の11人側が比較的普段通りでやれる試合だろうか。他では人数差による通常との違いというのが絶対に現れる。
6人対11人の6人側は言わずもがなであるが、21人側は有利ではないかと言われると、必ずしもそうとは言えない。11人───キーパーを除けば10人のフィールドプレイヤーが通常であるサッカーにとって、それ以上の人数でのノウハウというのが存在しない。ポジションの割り振りも狭められ、通常よりも選択肢が増える分、個人個人の動きの合致が非常に難しくなる。
逆に21人側がそれなりに試合の動きが出来るのであれば、今度は11人側が対処の難しい状態となる。通常よりも多くの攻撃参加、通常よりも多い守備。それでどう通常通りにやれというのか。
つまり今回の練習で必要になるのは、状況判断能力。通常よりも幅広い選択肢、通常よりも少ない選択肢の中で、どう試合を進めていくかを判断できる能力だ。
あまりそれだけを繰り返しすぎると人数差がある状態がデフォの感覚になってしまい、通常の試合感覚が狂ってしまう場合もあるが、その辺りは11人対11人の通常の練習も取り入れる事で調整はするだろう。
感覚さえ狂わせなければ、判断能力を高める良い練習にもなる。普段からやるならば基本はポジションだけ合わせてシャッフルのメンバーになるだろうが、今回は予め決めてある選手の組み合わせになるだろう。
自分の想像が正しければ───と、そこまで思考を浮かべたところで傑からメンバーの発表が行われる。
「6人側の方にはキーパーから富永。他は元ポジションがそこまで重要にはならないが、ある程度バランス良くする為に各ポジション。国松、祐介、駆、俺と西島」
「へ、俺っすか?」
「不満か?」
「俺はてっきり……いや、不満なんかないっす! やらせて頂きます!」
元気よく返事をする西島を見ながら、佐伯は思考を巡らせる。
(西島の動揺も分かる。今回の場合、傑さんも言った通り6人側のポジションはそこまで重要じゃない。判断能力が重要にはなるが、それをひっくり返す速さがあれば人数不利でもそこそこイーブンに持ち込めるから、公太が常套な判断。……けど、昨日の駆の事を考えたらこれも不思議じゃない)
多少判断能力が劣っていたとしても、中塚の脚の速さは攻守共に活躍出来る。近い将来でメンバーをシャッフルして行う事を考えているにせよ、最初は判断に戸惑うこともあるだろう。それを考えればやり易くする方が良いに決まっている。
だが佐伯の思考通りであれば、攻撃的な選手を増やすのは間違いでもない。
(西島は現状、傑さんと組んだ場合の全体的な質が一段上がる。それは鎌学の全員が分かってるから、西島の動きに警戒せざるを得ない。とすれば、駆への警戒も幾らか下がる。判断の連続は変わらないにしても、多少は駆に余裕が出るから……経験の場を作るって意味じゃ、西島は良い判断だ)
ただその場合、この試合自体が駆の為であり、個人戦術の向上の方がついでになってしまう気もするが。その辺りは自分以外気付いて無さそうだし、佐伯自身も駆の為になるならそれが一番だとは思うから指摘する事はない。
他の選手には悪いが、駆の完全復帰が果たされるなら、それこそ学生レベルの質向上よりも優先すべき事だ。この先、U-17交流会カップの時の駆ほど秀でた選手など輩出されるとはとても思えない。同調的な日本には馴染みの薄い意識ではあるが、個人の為の行動というのもまた、ワールドクラスの選手を生み出す為には必要な事だろう。
佐伯がそこで思考を切ると同時にメンバー発表は終わり、試合の準備へと移っていく。
いつも通りの白線といつも通りの地面のピッチの感触。だがいつもとは違う、味方側のピッチの広さの感覚。
記憶の中では知識として存在するが、“体感”が消えている今にとっては初めての状態だ。思わず記憶の時の自分のように、引き攣った表情を一瞬出してしまう。だが大丈夫だと、そう深呼吸を一つ入れて試合に集中した。
「おい、駆」
「ん?」
そんな駆に声を掛ける西島。
彼は腰に手を当てつつ、悪態つくように言葉を溢した。
「俺はお前の不調なんざ知ったこっちゃねぇからな。いつも通りやる。ちゃんと合わせろよ」
「あはは、うん。遠慮はいらない」
「……ケっ、ドMめ」
「え」
あまりの言い方に思わず口を開けて硬直してしまったが、これも彼なりのエールだろう。苦笑しながらそう思い、センターサークル内のボールに近づく。
笑みを浮かべていた表情を薄くさせ、集中力を高める。目を瞑って自分がやるべき事を頭の中でシミュレーションし、笛の合図と共に目を開き、キックオフで蹴り出された西島のパスを受け取った。
(───昨日のセブンとの練習で修正を施さなかったのは、試合中に直した方が染み付きやすいと判断したからだ。1対1だと正直緊張感が足りない。自覚が足りない。身体が覚えない。だから、顔を上げなければいけないという状態を作れる試合の中で覚える方が断然良い……と思う)
足下にあるボールを感じろ。まだ見てないと不安なのは自信がないから。見るな、感じろ。視線を上げる事で取り入れられる情報の重要性をその身に叩き込む。
(西島に釣られてマークが一人減った。普段なら駆は傑さんの上がる時間を作ってボールキープするが……昨日の様子からしてフォロー優先で)
「祐介」
「! あ、はい」
「普段通りで良い。駆に“逃げ”の選択肢を増やすな」
「……了解です」
本当に、厳しいのか優しいのかが分からない人だ。佐伯は本当にいつも通りの動きだけをしている傑を見て、自分も思考を切り替えて“予知”を駆が今までと同じ事ができる事を前提に組み立てる。もちろん、ミスをした時の対処も頭に入れながら。
(僕の癖の原因は集中力だ。ボールへの意識が高まるから、無理やりにルックアップをしたところで全体的にグズグズになる。だからボールコントロールは自分の感覚に任せた上で、集中力は相手の動きへと移す)
近づいてくる相手の人数を正しく認識し、今最も警戒すべき相手の動きに集中力を高める。そして、ボールか目の動きか重心の移動か。そのどれかしか見えない距離感になった時に仕掛ける。
自分の集中力なら、相手がどう引っ掛かるかも即座に判断出来るだろう。
「───っ!」
ルックアップ。相手の動きをしっかりと見て、ボールの動きは体に馴染ませる為に比較的シンプルに。ダブルタッチ気味にボールを右へとスライドさせ、相手が脚を伸ばしたのを見て股抜きで躱す。
(よし、今の感じだ。忘れるな)
ルックアップを意識する事で伴う実感。それによる自信の芽生えで、身体が感じるボールの感覚が一段と強まった気がした。
二人、DFが寄ってくる。人数差があるから数を増やしてDFする事に躊躇いがない。前からの寄せはまだ余裕がある。視線を微かに後ろへと向け、躱した選手の動きを警戒。プレスバックが早い。タイミングをズラして近寄っているから躱す時に動かしたボールを狙えるようにしている。
駆は3人を引きつけた上で、ボールコントロールによる球離れを最小限に抑え、相手の隙間を狙って傑にパスを出す。
「よし」
兄が頷いたのを見届けて、駆は笑みを溢しながらDFの間をすり抜けて前線へと駆け上がる。マークが付いているとは言え、駆が3人を引きつけた以上は傑へのマークも多少甘くなっている。通す事は簡単になるし、何より傑へと渡ればそう簡単に取られる事がなくなるだろう。
駆は鎌学中等部として兄とプレーした時の記憶を振り返りながら、自分がすべき動きというのを浮かべ、体現していく。この時の兄が何を要求するか。
駆が佐伯を見ると、彼は最前線にいる西島に指示を出していた。ポストプレーのサイン。
ならば自分がすべき動きは。
「駆!」
「っ、ふ!」
傑へと近づき、パスを受け───取らず、ダイアゴナルに動く兄へとワンタッチで返す。直後に駆は走り出し、傑もまたワンタッチで即座に優しいパスを落とし、ボールは佐伯へと渡った。
が、それもまたダイレクトで前線へと送られる。低弾道のロブ。コースに身体を入れた人物の頭を掠める高さで、そして飛ぶのが間に合わないくらいのスピードで出されたパスは、西島の胸元に収まる。西島は身長こそ駆より少し高いくらいで特別秀でた高さではないが、それでもボールキープ能力はある。取られない位置にボールを置くというよりは、フィジカルでボールに近づけさせないタイプのポストプレーだ。
CBを動かさないボールキープで溜めを作り、他の選手がフォローに来るが、その時には既に二人の選手が走り込んでいる。駆と傑だ。しかし二人にはマークが付いている。傑には厳しく二人。前線からのプレスで人数が足りずに駆には一人。だが距離は近く、西島のマークに着いてるDFがすぐにフォローに入れる位置。
止めて打ってもシュートコースはないし、ダイレクトで打とうにもコースは狭いし精度が鈍る。以前までの駆でもこの場面では狙わない。
故にランウィズザボール。右脚で長めに叩いたボールは左方向へと抜けていき、オープンスペースで打てる状態。だがこれに関しては読み易さもあっただろう。シュートコースは間違いなく出来たが、西島に付いていたマークが直ぐに寄せて来た。
(けど、兄ちゃんの上がりで釣られたマークが元々西島の居たDFラインまで戻ってる。西島もバックステップでラインを超えてない。今なら右脚で少し流すだけでも西島が抜け出して決められる)
微かに過った思考。少し大股に移動して左脚を踏み込み、右脚でパスコースへ通そうという思考。トラウマが過ぎる分、ストライカーにとっての逃げの選択肢が迷いを生んでしまう。
でも。
「─────」
ゴールを前にした時は何も考えるな。
頭を真っ白にして、本能で動け。
大股になりかけた右脚を強く踏み込み、左脚を大きく振り被る。鞭のようにしならせ、軸足の方向は西島の抜け出す先へ。
距離感もあるだろう。絶妙な位置でコースを塞ぎに掛かっていた分、駆の足下がしっかりと確認できていた。その為DFは塞ぎに掛かる場所をシュートコースから西島の抜け出しへと変え、動きを停止させる。
と同時に駆の左脚は僅かに内へと逸れる。真っ白な頭に迷いはない。身体はそれに呼応し止まらない。独特な伸びのシュートは、キーパーが動けないままゴールネットへと突き刺さった。
「よしっ」
右手で拳を作り小さくガッツポーズ。
ドリブルスタンス、シュートの決定力。仲間の動きの理解と実行能力。昨日の事もあって不安が芽生えていた佐伯だったが、今の一連の流れを通してホッと安心するように息を吐いた。
(戻った、か? まだ以前に比べるとぎこちなさがある様に思えるけど、ボールに触れないブランクもあったし、その辺は当たり前か)
「ナイッシュー駆」
「うん、サンキュー。祐介もナイスパス」
「半分は俺の得点だかんなテメー。つか出せよオイ」
「あはは、ごっつぁん。アシストで我慢して」
「こんにゃろ」
佐伯とハイタッチを交わし、悪態つく西島の眼圧を躱しつつ、自陣へと戻っていく3人。そんな様子を見守りつつ、ピッチ外にいる現1年生組が会話を続けた。
「やっぱ駆先輩すげぇな。昨日の傑さんとの1対1であっさり取られてたから俺もいけそうだなって思ってたけど、やっぱ無理っぽいわ」
「昨日もブランクあって外してただけだろ? 寧ろ1日で修正してくんの流石だよな」
「凄いよね。なんという、凄く、凄い!」
「お前語彙どうした」
傑さんが凄かっただけだな、とか。佐伯先輩のパスもエグかったとか、そんな会話を続ける一年組。その一端を聞き取った傑は、苦笑した。
(───戻った? いや、違う。
戻った訳じゃない。傑は駆の観察を続けてそれを理解した。確かに今の一連の流れを見る限りでは駆は少し前までの、U-17日本代表の場ですら圧巻のパフォーマンスを見せていた時の動きに見える。だが元に戻った訳じゃないと断言出来る部分が幾つかあった。
まずはルックアップ。確かに一瞬で修正されたから分からないのも無理はないが、駆の視線は間違いなく最初下に行っていた。全く下を見ないでプレーするというのは流石に難しいのでそういったタイミングでの確認にも思えるが、そのタイミングとはトラップの瞬間。今までの駆ならば相手の動きに注視しながらボールをコントロールしていただろうに、西島から受け取った時は間違いなくしっかりと下を見ていた。
そして、ドリブルテクニック。普段はそういった面を見せる事はないが、ボールタッチセンスは傑を彷彿とさせる何かがある。今の場面なら右脚だけでエラシコの切り返しを股抜きに利用出来た筈なのに、敢えてダブルタッチで引きつけての股抜きを使用していた。
身体を大きく使った方が釣りやすいという意味ならば納得せざるを得ないが、駆は無意識に最善を探り当てる本能の強いタイプのストライカー。細やかな足先のタッチではなく、足の
後は身体能力だ。足の速さは昨日からので言わずもがな。以前までの駆でもこの場面ではダイレクトで狙わない───とは言え、以前までの駆ならばコースが塞がれる前に走り込めている。
そしてもう一つが、シュート威力。
(駆のシュートの伸びは独特だから、分かり難いけどな。間違いなく落ちてる。とは言え……なるほど、“本質”を理解している状態なら、中学平均の身体能力でもあまり変わらないレベルの映えにはなるのか)
傑としては、何度か失敗しても続けられるメンタルさえあれば、この6対11の試合中に良くなる兆候が芽生えるんじゃないかと思っていた。本来は成長なんて、一朝一夕で望むものじゃない。
だが傑の想像を遥かに超えて、恐ろしい速度で成長し、周りからは一見“戻った”ようにしか見えない強さを発揮している。
(元々、駆の才能自体は俺と変わらないくらいあると思ってた。じゃあなんで一年前まではあんなに差があったのかと振り返ると……多分、言語化が影響してるんだろうな)
言語化。傑は常に考えるシンキングサッカーの舞台を小学生の頃から理解していた事もあって、早くから世代別代表の座に呼ばれる成長速度を見せていた。元の才能はもちろん、一つ一つのプレーを正しく言葉に出来る能力というのは、自分の身体を動かす時の正しい認識が可能になるから。
だが駆の場合、才能が同等であろうとも、本質的に考えるサッカーでは本領を発揮しない。
傑と同じ成長をするのは簡単だ。傑が自分の成長をそのまま駆にインプットすればいい。だがそれでは傑と同じプレイヤーが生まれるだけであり、傑の望んだエリアの騎士は育たない。基本ならばまだしも、根底にあるモノを変えてまで成長させては、エリアの騎士が生まれなかった。
駆に必要なのは“本能”を消さずに“言語化”を可能とすること。駆自身に己の本質を考えさせる事だった。だからこそ傑はお手本を見せても答えは教えない。自分の言語化ではなく、駆自身の言語化でなければ意味がないから。それに気付かせる為には、じっくり、じっくりと己のサッカーを育む事。傑が早期から生まれ成長を続ける天才だとすれば、駆は大器晩成型。本来ならば何年も開花するはずの無かった、駆自身の才能。
(詳しい事情は知らない。けど、今までの様子から察するに、駆は未来の駆の能力を使っていた訳だ。現在の様子的に身体能力は元に戻っても、記憶そのものは消えてない。“知識”が確かにそこにある。他ならない駆自身の成長した状態
だが、未来の駆という知識が、正しい成長が、記憶が。現時点での駆に“言語化”を覚えさせ、しっかりそれを発揮出来るというのならば。
世間はきっと、退化したと騒ぎ立てるだろう。弱くなったと言うだろう。中学2年が最盛期の天才と言われる可能性すらあるかもしれない。
だが傑は胸を張って言える。
(やっぱり俺にとってのエリアの騎士は、お前だよ。駆)
傑は笑み一つ残し、駆に近寄って頭をポンポンと数回優しく叩き、告げる。
「ナイスゴール───けど」
「?」
「もっとギリギリを狙えたな」
「……! が、頑張るよっ」
「……やっぱ厳しいのか」
「ほんとドMだな、駆」
唯一、このピッチで試合をしている選手の中で以前と今の違いを正しく認識している傑の言葉。
それを理解した駆がハッとし、挑戦的な笑みで返事をすると、その横で傑の言葉を聞いていた佐伯は「ブランクあるにしては良いゴールだったろうに」と思い。西島は少し引いた様子で、喜ばしそうにしている駆を見ていた。
結局その後も駆の
6対11も、11対21もつつがなく終わりを迎え、三年生たちは鎌学中等部とのサッカーはこれでお別れだと深く頭を下げ、それぞれ帰宅していく。
駆の本格的な復帰と三年生達の完全な引退───
から、約二ヶ月後。
そろそろ学生達が進級・入学という時期に差し掛かる少し前の三月末にて、駆は海外へと飛んでいた。モンゴルの地だ。
復帰に伴い、U-15日本代表の東アジアサッカー交流会に呼ばれた為である。ここ暫くは他代表での試合が無いという事と、復帰戦ならば比較的年代が同じ方がいいとサッカー協会が判断して召集し、駆がそれに応じた。
U-17代表で異例の活躍を残したとは言え、復帰してからの初公式戦。しかも自国では無く海外のピッチ。今回に関しては彼を最大限に活かせる傑が呼ばれていないという事もあり、チームメイトの佐伯が呼ばれてるとは言え、彼もまた代表初招集。そんな彼らがどこまでやれるのかと、海外からも注目を集める中で。
合計4チームの三節総当たり。四日間*1の試合結果で、駆は13得点の記録を残し、その復帰を世間へと知らしめた。