ピッチの王様とエリアの騎士   作:現魅 永純

24 / 63
21話『原点』

 

 

 

 

 FIFA U-17 W杯トーナメント戦。大陸予選・グループ予選を通して集った16ヵ国による世界一位を決める大会の第一回戦。

 予選を勝ち上がったのだから当然どこの国も強豪であることは明白だ。だがこの第一回戦の8試合の中で、大抵の国が勝ちを予想してるであろう試合が幾つかある。

 

 その中でも一番点差がつくだろうと思われていた日本対コスタリカ。これは自国故の慢心ではなく、当国コスタリカを除いたこの大会に出場しているどの国もが予想していた事だ。

 何故なら16チームの中で一番低い戦績である事はもちろん、コスタリカの試合内容自体もそれほど優れていない事が明らかだったからだ。個人能力はもちろん、戦術性に於いても勝る日本が負ける要素は無い。

 

 ───だからこそ、前半終了時点での結果に動揺する者は多い。

 日本は一点をリードされる状態で前半を終え、ロッカールームへと集まっていた。

 

 

「読まれてますね、完全に」

「……ああ」

 

 

 どんよりとした空気が漂い下を向く者が多い中、二人の選手が声を出す。傑と鷹匠だ。

 傑は誰に話し掛ける訳でもなく呟いたつもりだったが、その声に反応し返事をする鷹匠に顔を向け、コクリと頷いた。

 

 

「どこの国も、一時集まって行う代表戦である以上は戦術が限られてくる。傾向が似る以上は読まれ易くなるのは仕方ないけど……現状、日本の()()()完封されてる」

 

 

 前半の試合内容。日本はグループ予選二戦目の対フランス以降と同じ4-4-2のフォーメーションであり、基本的な流れは変えていない。これはコスタリカも同じであり、予選時の5-3-2の5バック+トリプルボランチというドン引きフォーメーションのままだ。戦術も奪ったボールを前にパワープレイで渡してワンチャンスを狙うという単純なカウンター。

 ただ、この戦術が恐ろしい程に日本に対して効果を発揮している。

 

 

「恐らく日本に狙いを絞って研究してたんだろ。フル代表なら兎も角、世代別は日程が密集してる。俺らも全部が全部に研究を割ける訳じゃねぇ。本来ならバラバラに“ある程度”の区切りをつける。けど……」

「コスタリカは予選含め研究時間を全部日本に注ぎ込んでいた」

 

 

 通常、ドン引きは格下のチームが格上の相手に対して取る選択だ。例えばU-16のアジアカップでも、日本は小国と対戦した時に幾度となくやられている。だが大抵は後半に入る前に1点以上を決め、そこから雪崩れる様に大量に得点が入る。

 だが今回日本が相手をしているのはコスタリカ。トーナメント戦に於ける戦績最下位と言えど、強豪国であることに違いはない。一人一人の能力はアジア予選に比べて高いのは明白だ。

 

 そんなチームがドン引きで守備を固め、パワープレイで放り込んでくる。当然DFも相応に対処を追われるし、競り合いで負ける事もある。その結果が前半の1失点。

 しかもただドン引きで守備を固めている訳ではなく、“役割”というのが割り振られている。例えば鷹匠に対して、例えば駆に対して、この相手ならばどうするか、この相手にはこうという担当というのが決められているのだ。

 

 

「……僕の場合、基本的に連動した離れた位置のツーマーク。セカンドボールへの反応時に完全密着……というか、ボールじゃなく僕だけをコミットしたマーク。ミドルシュート時は必ずコース限定のみを徹底されてます」

「俺の場合も似てるな。取り敢えずフィジカルで入らせないツーマーク。後はボランチが挟みに来て、ボールキープの余裕を与えてくれねぇ。ワンタッチで打てる場所にパスがこねぇしな」

「いや、しゃーないだろ。今回はそもそもゾーンが埋められてるからスペースに出せねぇし、浮き球対策もされてる。ジワジワ攻めようにもトリプルボランチがそんな暇を与えてくれない」

「荒木、別にタカさんも責めてる訳じゃない。実際コスタリカの戦術は俺達を完全に封じてる。点取りの手段を徹底的に知り尽くしてる感じだ。俺のドリブルスタイルも読まれて取られてるからな」

 

 

 駆の言葉に反応して鷹匠が、その鷹匠の溜め息混じりの言葉に不満げな表情で荒木が、それを嗜める様に傑が声を出す。人数効果だろう。落ち込みはまだあるが、ロッカールームに戻ってきたばかりの空気感は微かに良くなり、選手達が声を掛け合っていく。

 ……日本の武器は攻撃力。だがその攻撃力が発揮されているのは前線四人によるものだ。無論、ボランチやサイドバックによるアシストもある。だが中心になって動いているのはやはり前線の四人。

 

 それぞれの個人能力もさることながら、連携も他のメンバーとは比にならない程に練度が高い。言わば個人戦術。自分の武器を活かすための動きというのをよく理解しており、一人が発揮するならば他はその補助を徹底する。瞬間の判断力と噛み合い方は今大会の国の中では間違いなく一番だ。

 だが、あくまで四人。噛み合っているのはその四人まで。他はどうしても個人戦術ではなくチーム戦術を優先してしまい、“個人”に一歩出遅れる部分が見えてしまう。それでも十分通じるのだが、徹底した研究がそれを阻む。

 

 駆も鷹匠も荒木も傑も封じられ、攻撃の芽となる部分が完全に閉じられた。ともすれば、本当に第一回戦で敗退するという可能性すらある。

 それを再認識し、日本のロッカールームは悩みに陥る。さてどうしたものかと沈黙が訪れる中、傑がポツリと呟く。

 

 

「……対策されている。そこが穴ですね」

「どういう事だ?」

「逆に言えば、対処される方法が分かりやすい。こう動いた時に相手がこう動くと誘導出来る」

「だが傑、俺達四人がしっかり封じられてるってだけで、他の奴らも得点に絡む時はちゃんと対処されるぜ。攻撃の幅を増やすってだけでどうにかなるもんでもねぇぞ」

「少しずつです。少しずつでもズラせばいい。俺と駆なら可能です。飛鳥さん。合図を出したら島と一緒に前線へ出てきて貰って良いですか?」

「……なるほどな。了解した」

「監督、後半は───」

 

 

 傑の言葉に飛鳥は問う。鷹匠の指摘と、それに答える傑の言葉を聞いて、飛鳥は納得がいった様子で薄く笑い了承。島はどういう組み立てになるかが分かっていない様子だったが、自分の役割は理解したので質問はしない。要するに、攻撃の幅を増やす為の一人。だが()()攻撃の幅を増やす訳じゃなく、タイミングを伺えという事。それだけ理解出来れば充分。

 監督も交えて後半からの出方を組み立てていき、最後に傑は駆の方を向いて問い掛ける。

 

 

「駆、出来るか?」

「……大丈夫。けど、一つ僕がやりたい事があるんだけど……いい?」

「ん、言ってみろ」

「えっと、僕が正面からミドルを打つってだけなんだけど───」

「……なるほど。単純だが確かに釣られるな。さっきの作戦も効果的になる。最悪外しても」

「決めるよ」

 

 

 駆は内容を話す。傑がその説明を受けると頷いて同意を示した。だが続く言葉を遮る様に駆は立ち上がり、自信満々の笑みを浮かべて傑に答える。

 

 

「必ず、決める」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

 そもそも駆の評価が低くなった1番の理由は、その対処のし易さだ。

 昨年度のU-17交流カップまでの逢沢 駆という選手は、中学生ながらに高校生を抑えられる身体能力と世代最高峰クラスのテクニックを持っており、それ故に選択出来る幅があまりにも多かった。それに加えて100%のシュートコースを見出す特異の能力。当然ながら高校世代に止められる筈もない。

 だからツーマークだろうがスリーマークだろうが関係なしに決定機を作り出すし、彼を止めようと人数を掛ければ自由になれる選手が多く出る。

 

 だが、今の駆は身体能力もテクニックも世代の中では並。キーパーとの1対1の時の決定力こそ変わっていないが、決定機に持っていく武器が欠けている。無論、φトリックという武器がある以上はDFとの1対1で負ける事はそうそうないが……φトリックは二人以上いる時に使える技じゃない。その左脚による加速も同様だ。Bトリックは使えない訳ではないがリスクは高いし、対処も織り込み済みだろう。

 取り敢えずフリーにしない事。ボールが渡れば二人が対面すること。これを徹底することで駆の脅威は格段に減る。ミドルシュートも好きに撃たせていい。100%を見出すシュートセンスが無くなった為に、シュートコースの限定さえ出来ればキーパーは読み易くなる。

 

 事実、今大会に於けるグループ予選時の駆のシュート数は9本。その内の6本はミドルレンジからのシュートであり、その全てはキーパーに弾かれている。理由はいずれも同じで、シュートコースが限定されているから。

 予想外の所へと放たれていたU-17交流カップの時とは違い、今の駆が放つミドルはかなりストレートに分かりやすい方向だ。だからコースの限定さえすれば読み易くなる。シュート速度に追いつけば止める事が可能だ。

 

 それでも駆は()()()()セカンドボールを拾って決めており、結果という意味では毎試合残している。期待されていた大量得点とは程遠いが、そもそも本来ならばU-15世代の彼が結果を残せるのならばラッキーでも充分と言える。

 ───だからこそコスタリカは思った訳だ。では、そのラッキーは偶然では無いのではないか。逢沢 駆はセカンドボールがどこへいくのかを分かって動いているのではないかと。

 

 事実、ドン引きサッカーによって生まれる波状攻撃とその副次効果による多数のセカンドボール。それに幾度となく駆は反応してみせた。

 だが、予めボールではなく駆だけを見ていた相手を掻い潜る事は出来ず、拾う前に拾われ、拾えても即座に打てる状態を防がれる。

 

 たたでさえ決定機が少なくなったストライカー。決定力が武器なのに、決定力さえ発揮出来なくなれば、当然期待値は落ちていく。

 ましてや、ここはU-17世代。本来ならばU-15世代である駆は飛び級で呼ばずともそちらでやった方がいいんじゃないかと言われる訳だ。

 

 ……無論、コスタリカも駆を100%封じている訳じゃない。他のチームも同様だが、キーパー任せなところは多々あるし、一つ間違えれば抜け出して決められるのも事実。

 だが高い集中と費やした時間による意地が、日本の猛攻を堰き止めているのもまた事実。

 

 

 さあ後半はどうなるか───9分が経過し、日本はまたもゴール前でチャンスを作る。今回の試合でもう何度になるだろう。

 荒木は普段通りに突破を仕掛ける、と見せ掛けてからアウトで横へ叩き傑にボールを渡す。傑はボールキープする素振りを見せる事もなく、ふわりとした浮き球を駆へと繋いだ。

 

 ハイボールと言うには人の身長ギリギリ上の高さ。競り合いにはならず、ボールは駆の足下で収まる。駆は腕を伸ばして手を相手の身体に触れさせて距離感を測りつつ、ボールをコントロール。

 相手が一歩引くのを手で感じ取った瞬間に右足裏でボールを自分の方へと引き、左足で右脚後ろを通すようにインサイドで叩き体を前へと向けた。ゴールまでの道が開く。当然シュート体勢。

 

 しかし体を離した相手DFは即座に食らいつき、シュートコースを狭めてくる。脚はあくまで地面スレスレに、体ごと寄せる事で、股抜きや浮いたボールによるすり抜けを発生させない。

 

 

「……ッ!」

 

 

 前にはシュートブロック。仮にシュートフェイントを仕掛けようとも後ろにフォローが居て簡単には抜けない。ここでボールキープを選択してもボランチが背後からプレッシャーを掛けてくるのは明白。

 

 

「いっ───」

 

 

 駆は、振りかぶった左脚を()へと逸らす。ゴールは真正面で、駆は左へとカットインした形。ここで外から脚を振るうのは明らかにコース外に飛ぶ事になるし、仮にパスだとしてもこの密集地帯では通す事は難しい。

 

 

「けぇえッ!!」

 

 

 駆が選択したのは『シュート』。

 枠外へと飛んでいくボールは。だがしかし、ホイップキックの溜めで蹴ったにしては遅い球。

 そのシュートは、曲線を描いて枠内へと向かう。駆視点で左から右へと向かえばただのカーブシュートになるが、その視界に映るのは、ブロックに来た相手DFがブロックに来た方向をすり抜けて右から左に曲がっていくボール。つまり、アウトサイドキックで強力な斜めスピンを掛けてカーブを打った。

 

 だが普段に比べれば格段に威力は下がっている。シュートコースの限定という頭への刷り込みはあったが、同時に『U-17交流カップの時の予想外の方向へのシュート』というイメージもあった。シュート速度が遅い事、コースが甘めである事。それらの要素でキーパーはそのシュートに飛び付ける。

 予想外の方向へのシュート。誰もが止めたと安堵するその刹那。

 

 

「───……ッ」

 

 

 シュートを放つと同時にDFの視界を潜り抜けていた駆が、弾かれたボールに反応して脚を伸ばし、シュートをネットに突き刺した。

 

 一連の流れは、ただ駆が放ったシュートを自分自身で拾い決めるというだけの簡単な話だ。

 だが言葉で表せば簡単だが、ここには様々な情報が絡んでくる。

 

 まず得点が決まった1番の要因として挙げられるのは、相手DFの思考だ。相手は駆を抑え込んでいたが、フィニッシュへと持って行った時はその限りじゃない。

 駆自身がシュートを放った後、キーパーがキャッチングした時、ボールがラインを割ってコスタリカボールになった時。これらへと至った場合、まず『駆の動き』という選択を切り捨ててボールに集中する。当然だ。点を取らなければ勝てないのだから、自分達側にボールがある時はもちろん、駆がシュートを放った後は少しでも人数を掛けてセカンドボールを確保するのが先決。

 

 だからこそ予想外なのは、駆が放ったシュートを自分で押し込む事だ。とは言え、普通ならばそう簡単に決まったりはしない。幾らそれを前提に組み立てても密集地帯にボールが転がる可能性は非常に高いし、弾いたボールがラインを割る可能性もある。キャッチされたらそもそも無意味。ストレートに放たれれば駆の動きは相手DFの視界内だ。

 故に駆はシュート時の発想を変えた。

 

 ホイップキックで溜め込んだ脚をインステップではなくアウトサイドで蹴る事で、相手選手によるシュートブロック時の身体を利用して放たれた瞬間をブラインド。これならば威力は落ちるが判断を鈍らせてキャッチの可能性を減らせる。また弱い威力のシュートで甘めのコースのボールを弾くとなると必然的にラインを割る可能性も限りなく少なくなり、セカンドボールの奪い合いとなるだろう。

 予想外への方向へと放たれたDFは当然『危機感』というのが芽生える。それは通常のシュートでも起こるだろうが、役割に徹してる以上は駆の動きが最優先と染み付いているだろう。前半の長い時間を掛けて慣れていれば尚更だ。

 

 その瞬間に『駆の動きへの注意』という意識がDFから外れる。そうなれば駆の独壇場だ。

 幼い頃から小柄な体格を活かして身に付けた相手の視線を掻い潜るオフ・ザ・ボール。先天的に身に付いている天性の嗅覚。弾かれた方向へ迷いなく進めば、結果は分かりきっている。

 

 後半10分。日本は1点を返して同点に追いついた。

 それから僅か3分。コスタリカは動揺を隠せないが、やる事を変える訳にはいかない。やはり前線はパワープレイを主に、DF陣は奮闘して兎に角事前に伝えられた動きを徹底して行う。

 前半とは違い駆と傑への繋ぎが多くなっているものの、コスタリカにそれを気にする余裕はない。普通以上の集中と徹底して頭を使う抑えは非常に疲労を要求する為に、コスタリカは延長戦へと持ち込ませない必要がある。何より先程の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が頭に染み付いているから、加えて駆の行動に要注意。

 

 だから、傑の策に嵌っていく。

 

 

(……はは、コスタリカには同情するぜ)

 

 

 駆から受け取ったパスをワンタッチで傑へと渡す。一度トラップし、鷹匠へとパスを出す体勢。

 だが振りの角度を変えてパス方向を変更。そこにボランチの轟が表れ、これまた駆にワンタッチでパスを送る。駆と傑の直接の繋ぎはそれほど多くないものの、一度違う選手を挟んだ後は必ず二人のうちのどちらかにパスが渡る様になっている。

 

 

(日本を研究しているコスタリカにとっては日本の効果的なパスワークも理解してる。だからここぞというチャンスのタイミングで、必ず()()()

 

 

 インターセプト、ボールカットのチャンス。コスタリカは前半でその光景を幾度となく見せてきたが、後半に入ってからのボール奪取数はそれほど多くない。日本、厳密には駆と傑のチャンスメイクとなる筈のパスが、毎度ただのポゼッションへと変更されるから。

 ホイップキックによる足振り角度の変更。相手の行動を見てから選択できる後出しの権利。ましてやコスタリカは前半で日本を完封していた分、慣れが生じて一歩早く判断している。それが後出しを可能とするホイップキックの精度を段違いに上げてしまっている。

 

 

(コスタリカはそいつを修正しようとしてくるだろ。そんで───)

 

 

 ズレていくタイミングに着いて行こうとコスタリカは、気付かない内に穴を作ることになる。

 事前のやり取りにない個人戦術をチームで噛み合わせるのは非常に困難だ。自分が思う最善を尽くそうが、味方がそれに合わせられるかは不明。個人個人の思考の相違が出て来れば、当然付け入る隙が出来る。

 

 

「……」

 

 

 傑はボールを受け取ると、コスタリカのDFラインから離れた場所。ボランチの近くで立ち止まる。

 ハーフライン辺りでボールキープし全体を見渡すのは良く見かける光景だが、相手陣地の中盤、囲まれやすい中央でのその行動にコスタリカは思わず驚愕する。

 

 だがすぐにボランチがプレスを仕掛けた。傑は一人躱し、ペナルティエリアへと迫る。

 正面から一人、他選手へと出されても対応できる位置にフォローが二人。後ろからボランチも背後からプレスを掛けている。傑は正面一人を抜き去り、囲まれる前に視線でフェイントを掛けながら横へパス。其処には駆。先程の光景もあり警戒は人一倍強いだろう。ミドル体勢に入る駆の前にシュートブロックが二人。多くの注目が駆に集まる中で、選択したのは───パス。

 

 

「……!」

 

 

 ズレていくパステンポに対応しようとすれば、当然今までの意識は崩れていく。攻撃枚数を増やすという単純なパターンでさえ頭に浮かばなくなるだろう。そのここぞというタイミングで、一度傑が溜めを作り(合図を出し)味方のオーバーラップを引き出す。

 駆のパスはサイドの島へと渡り、空いたスペースに切り込んでいく。ズレからの素早いパス回し。ギャップもあってコスタリカは対応が間に合わない。

 

 島からマイナスへとパスが出される。其処にはCBながら上がってきた飛鳥の姿。当然DF枚数が多い為に幾らギャップを作れてもゴール前にシュートブロックは出来てしまう。

 DF二枚のオーバーラップを無駄には出来ないという至極当然の考え。それもあり、次の飛鳥の行動は相手にとって予測不可能だっただろう。

 

 飛鳥は、ボールをスルーした。

 

 

「───ナイススルー、飛鳥さん!」

 

 

 其処へと飛び込んできた荒木。幾度となく素早いパステンポでDFが釣り出されたのだ。枚数が多くても限度がある。

 ゴール前は固められているが、荒木のテクニックならば。曲げて放つのは容易であり、当然シュートは枠内へと飛んでいく。

 ゴールネットへと突き刺さり、日本は逆転となる2点目を決めた。

 

 その後。日本は怒涛の攻撃を繰り広げて2点を追加。前半の動きが嘘だったかの様に日本が自由にピッチを駆け巡り、4-1で日本は勝利した。

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

『さあ、FIFA U-17 W杯トーナメント二回戦。日本はエジプトを相手に3点クリーンシートで制したドイツとの試合になります』

 

 

 FW(フォワード)がまだ見えない筈のパスルートに向けて動き出す時。

 

 

『お互いメンバーもフォーメーションも前戦と変わらず試合に臨みます』

 

 

 司令塔の創造性(クリエイティビティ)が。

 

 

『ボールセット、選手配置完了しました』

 

 

 奇跡を生む。

 

 

『笛がなりました。試合開始(キックオフ)です』

 

 

 ───さあ。

 永遠に叶う筈のなかった、()()の1番の「夢」を叶えるとしよう。

 ずっと思い描いていた、夢の続き。

 

 ピッチの王様が傑出したパスで切り拓いた道を、駆け抜けたエリアの騎士がゴールを沈める。

 

 

『───逢沢 駆いきなり抜け出した!』

 

 

 そんな夢見た光景を、今。現実に引き起こす。

 

 

『決めた! 衝撃のゴール、開始僅か3分! 今大会最少失点でここまで勝ち上がったドイツを相手に、日本先制点を決めました!』

 

 

 

 

 

 

 

 




 トーナメント一回戦終了時点

【挿絵表示】


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。