感想返信
>> そういう泥臭い!!点を取る瞬間が好きで!!サッカー見てるんだ!!!
→点を取る瞬間も勿論ですが、DFやGKがラインを割る直前に弾き飛ばしてスーパーセーブする瞬間なども良いですよね!
>> GKやってた時凄い速いボールは弾くか胸でボール抱え込むように取ってた時期あったなぁ
→基本は三角形(元GK)
キーパーは受け止める分まだ衝撃を和らげる方法はありますが、前回の鷹匠の場合は反動である程度前に飛ばす必要があるのでもろそのまま衝撃を胸で受けてるんですよね……。アレ対策なしだとマジで一瞬息が出来なくなるので怖いです。
「………」
「カ───……ッ!」
リスタートの為に両チームがポジションを初期位置へと戻していく中で、ドイツDFの一人がゼッケンドルフへと近づいていく。
気にするな、全員あの展開は予想外だった。名前を呼んでそう声を掛けるつもりだったが、ゼッケンドルフの表情を見て声を詰まらせる。
大きく変化した様子はない。だが静かに強張らせ、ゾクリとする雰囲気を醸し出すその圧は、味方でさえ萎縮してしまう様な凄みがある。
「……どうやら、無意識に見下していた部分があった様だ」
「え?」
「読みで負けるつもりはなく、どの様な手を使ってきても止める自信はあった。対等な場にいるのではなく、私の方が上だと思い込んでいた」
いや、事実としてゼッケンドルフが格上であるのは間違いない。能力、読み合い、判断力。その全てに於いて、今大会のメンバーの中で抜きん出た才能である事は純然たる事実だ。
しかし駆にはゼッケンドルフの
だが結果として見ればどうだろう。
多くのストライカーが避けてきた悪手を駆は敢えて選択してゼッケンドルフの“読み”から外れ、速さで微かに上回りシュート性のパスを許してしまい、
総合的に見て勝っているゼッケンドルフでも、要所要所を突かれればゴールを許してしまうのは当然だ。だがそこにまでは至らないと勝手に思い込んで、格下に見ていた。
「彼を対等に見よう。私もDFラインを合わせる」
「!」
「最終ラインで彼を正面から迎え撃とう。範囲を狭めるからお前達に頼る事になるが、良いか?」
「……ああ、日本は最高の敵だ。全身全霊で勝ちに行くぞ!」
コクリと頷き最終ラインにポジションを置くゼッケンドルフ。そんな彼が見つめる先には、駆の姿。
(……騎士を率いた王が相手でも、決して通すつもりはなかった。だが考えが違ったな。王の意図を騎士が全うするのではなく、騎士が王に意図を見出させる。時として騎士こそが王を覚醒させる時もあるのだろう)
そして、と。
駆から鷹匠へと視線を移し、思考を続ける。
(騎士が他の騎士へ己の
ゼッケンドルフは認める。日本の進軍を皇帝は跳ね除ける事が出来なかった。己個人で日本を潰す事は出来ない。
(だが、試合の勝ち負けは別。味方を利用した私個人の広域DFではなく、統率によって築く城壁で日本の攻撃に受けて立とう。そして私は───)
ゼッケンドルフは、己が2度ゴールを許した一番の要因であるその存在。駆へと再び視線を移し、決意を示す。
もう傑と駆の二人を繋ぐラインを塞いで、全てを自分で対処するつもりはない。
二兎追うものは一兎も得ず。格下ならば兎も角、対等と判断した駆と傑の二人を同時に相手取るのは得策ではないとゼッケンドルフは判断。
最も警戒すべき選手を一人へと絞る。
(最終ラインで、
『抜け出し───いやゼッケンドルフだ! またも逢沢 駆の前に
日本の2点目から約15分。
後半30分に差し掛かる時間帯。残り15分とロスタイムを残す中で、日本は支配率に於いて有利に立っている。
だがあくまでも支配率。ボールを保有する時間の長さを示すだけであり、試合そのものが有利に運んでいる事を指す訳ではない。
確かに日本のチャンスは増え、シュート数やコーナーの回数、ボール支配率やパス成功率は前半とは比にならない程にスタッツは良好。
だがそれだけのチャンスが演出されて尚、日本は鷹匠による二点目を獲得してからの15分間で、得点を重ねる事が出来ない。
その一番の原因はゼッケンドルフだ。
リベロとして動いていた彼だが、今大会に於けるゼッケンドルフは3バックの都合上、DFラインを合わせない程度に高めの位置を取って速攻でカウンターを仕掛けるのがU-17ドイツ代表としての判断。とは言えそれでも充分猛威を振るっており、回数が減っただけで要所で飛び出して来る事に変わりはないのでこうして圧倒的な盾と隙を突き刺す矛が成り立つ訳だ。
そんな彼が、完全にCBのDFラインに合わせて守備を統率している。
もちろん日本が油断すれば突こうとする程度の余裕はあるだろう。しかし今まで個人で行っていた
中でも駆に対しての反応は他と比較しても早く、“本能”がルートを見出しても最終ラインにいる以上は距離が近くて、今までの様なギリギリのシュート間際を狙う様なブロックではなく真正面から向かい合う機会が増えた。
シュートブロックは勿論だが、そもそもシュートを打たせないタイミングでのボール奪取を仕掛ける光景も増し、駆の動きは完封されている。
が、だからと言ってゼッケンドルフは余裕を見せる事は無い。その威圧感が消える事はなく、警戒が薄れる事もない。まだ準備段階と言える様な時間帯での一点目。シュートブロックが完璧に嵌っている状態からの鷹匠による二点目。駆の“本能”は隙を突いて仕掛ける。一瞬の油断ですら命取りだ。
その分周り───特に傑がボールを持った際にゴールへと迫る回数が増えているものの、ゼッケンドルフの統率によって成り立つドイツのDFによりゴールは阻まれている。
あのゼッケンドルフが頼りにしている。世界で見ても飛び抜けた才能を誇る【
まさしく城塞。君臨する最強ではなく統べる皇帝としてピッチに立つゼッケンドルフを相手に、日本はスタッツ上の有利にしか立てない。
(───全く、恐ろしい)
ゼッケンドルフは弾いたボールがサイドラインを割るのを見送り、息を整えて集中している駆へと視線を移す。
(先程のシュート性のパスの時にもしやと思ったが、やはりか。
駆のホイップキックは、振りが大きい。それもあって前半の間、ゼッケンドルフはシュートブロックに間に合う事が出来ていた。
だが駆がルーティンを行ってから、ほんの僅か。本当に少しだけ、脚の振りが早くなっている。単純に振るうのが早いという訳ではない。
ホイップキックによる利点。その性質上、『考えて蹴る』というのが必要になる為、キーパーの動きを把握して蹴るまでの流れに微かな空白があるのだ。だが今の駆は把握して脚を振るうまでの空白が『考え』ではなく『反射』になっており、その分の迷いが掻き消えて振りが早い。
微かな違いだが、前半までのゼッケンドルフにとっては何より重要な空白だった。あの瞬間、あのままシュートで振るわれても追いつけない可能性が高かった。無論、シュートコースの限定は出来ていた為に、一度しか通用しない事とキーパーに取られるリスクを考えた結果、あのパスになった訳だが。
今でこそ真正面から向き合う場面が多いので止められている。だがただでさえキーパーとの1対1で有れば確実にゴールを沈める決定力がありながらも、そこからギアが一段階上がった様な状態になった訳だ。
流石のゼッケンドルフも戦慄を覚える。
サイドラインを割ったボールは日本のスローインから始まる。今度は間髪入れずに速攻で飛鳥による縦パス一本。それはサイド側から綺麗に抜け出した駆に渡った中央へカットイン。
放たれるシュート、だがしかし。
『ま、まただ! 幾度となく日本のストライカーの前に立ちはだかる! ここに来て一段と素晴らしいDFで日本の猛攻を防ぎ切っています、カール・フォン・ゼッケンドルフ!』
ゼッケンドルフが塞ぎに来る前にと放たれたシュート。だが駆の視界に突如として現れ、ボールはゼッケンドルフの脚に当たり転がる。すかさずドイツDFがボールに寄り、大きいクリアで日本陣内へと蹴り飛ばした。
ドイツ内での支配率が高い為にキーパーも上がり気味。エリアから外れた位置ではあるが、ゴールの危険は皆無の為にクリアボールをキーパーが保持。
再び立て直しだと飛鳥へとボールが渡る。
膝に手を当てながら呼吸を繰り返す駆を見ながら、ゼッケンドルフは額に流れる汗を拭った。
(……側から見れば、私が奴を追い込んでいる様に見えるのだろうな)
いや、何ならこのピッチにいる選手の中でさえも、何人かはそう思っている。
だが、ゼッケンドルフの内情は違った。
(追い詰められているのは私の方だ)
通常、サッカーに於ける1対1で有利に立てるのは攻める方だ。何故ならOFは『選択』が出来る。対してDFは『対処』しなければならない。後手に回る以上は一瞬の判断ミスが命取りのDFだ。当然軍配はOFに上がる。
ゼッケンドルフは今まで最後を待つDF能力で読み切り、後手を後手と感じさせない程の強さを発揮してきた。だが速くなる脚の振り、見てから変えられるホイップキック。そこから派生する選択肢の多さが、ゼッケンドルフの読みに迷いが生じてしまい、
その上一つ読み違えれば決められかねない。そんな状況で幾度となく止められる駆のメンタルの削れはあるかもしれないが、何回も綱渡りの駆け引きを行なっているゼッケンドルフにこそ、余裕は無くなってきている。
その証拠に、今のシュートブロックも、その前の弾きも、ゼッケンドルフは弾く方向を選ぶ事が出来なくなっている。
前半までならばシュートのみを意識し、唐突に変えられても反応出来た。結果放たれたシュートをブロックした際、力の入れ方・抜き方。角度を調整する事によって、ゼッケンドルフは意図した方向へセカンドボールを転がすのを可能にしていた。
しかし後半。唐突に変えられれば対応出来ない“速さ”が明確になり、ゼッケンドルフはシュートのみに集中出来なくなっている。無論シュートブロックに穴を空ける様なミスこそないが、それでもシュートフェイントやパスに切り替わった時に直ぐに反応出来る様、差し出す脚の角度を敢えて調整せずに防いでいる。
今回の試合の中で最も多くチャンスを潰されている
最終ラインにいる以上、範囲は狭まっても日本のシュートレンジ内はゼッケンドルフの守備範囲。駆への意識の割き方が比にならないほど高くとも、決してドイツDFとしての在り方を捨てている訳ではない。
だからこそゼッケンドルフにとって最も効果的な攻撃が駆のルートであると、傑は分かっている。分かっているからこそ繰り返し、最も多く使う。
何度も攻撃を繰り返し、盾に走る微かなヒビを逃さずに果敢に攻め入る。全く嫌な相手であると、ゼッケンドルフは一度息を吐いて呼吸を整える。
日本陣内に渡ったボール。傑がゆっくりと下がり、センターサークル内で受け取った。
直後。
「───ライン上げろ!」
「えっ?」
ゼッケンドルフの
傑はトラップする仕草を見せ、日本陣地に向けていた身体を反転。右足のインサイドで左方向へと叩いてトラップに使った右脚を踏み込み、左脚を一閃。幾度となく目にした地を這うキラーパスではなく、浮いたフィードパス。
上空を切り裂いて進むパスは、ゼッケンドルフを完璧に出し抜く形で飛び出した駆へと向かう。
(私以外のDFが近いところで通して来ていたのはこの為か……! 左脚による急加速、意識はしていたが奴のオフ・ザ・ボールに合わせられると厄介すぎる)
後半二点目以降の傑のパスは、駆がゼッケンドルフと他DFとの距離感が近い場所で通す場面が増えていた。もちろん毎回では無い。それでは露骨になってゼッケンドルフに意図がバレる可能性が高いから、あくまで『駆の抜け出し』が活きる場面がそこだったのだと思わせる程度に、
それにより無意識にDFラインが下がったタイミングを見計らう。意図していた分それを見極めるタイミングはゼッケンドルフよりも傑の方が早く、間違いなくゼッケンドルフが出遅れたタイミングだ。
その上、駆の柔らかい左膝によるバネ。その急加速。今まで温存されていたそれだが、もちろんゼッケンドルフが警戒すべき要素の一つ。当然だが使われても対処する術はあった。
しかしDFラインの見極めで一歩出遅れる形になったが為に、それを逃さず駆は最大速度を以って裏へと抜け出す事に成功した。
(いや、エリア内に入るまでには追いつく。奴のミドルレンジを考えれば前半の様なシュートブロックの形には出来るだろう。最悪シュートコースの絞りさえ出来ればゴールの確率は下げる事が───)
そんな、刹那の思考。
それが結論へと至る間際。
高く、ピッチ内に笛の音が響き渡った。
「なっ……」
ボールがゴールへと到達する前に鳴った笛だ。それが示すのは、サイドラインの外側にいる副審の上げるフラッグが明確にしている。
オフサイドの判定だ。
「待ってください! 今のはラインを超えてない!」
「お、おい傑」
堪らず主審へと近寄り抗議する傑と、ここでイエローカードでも出されたら厄介だからと引き止めるボランチの轟。
笛が鳴った事を認識して脚の動きを緩め、身体を停止させたゼッケンドルフは、傑の焦りを含んだ表情を見ながら呼吸を整える。
(……私の
とはいえ、あくまでもサッカーの試合は主審がコントロールする。主審がファールと判断すればファールの判定になるし、一度取り決めた判定を覆すのは不可能に等しい。
それもあってフル代表の方ではVAR判定や判定ディレイなどで試合の流れは止めず、露骨に分かりやすい場面以外では一度流れが途切れるまで試合を続行させているが、W杯とは言え世代別。こちらにはまだ導入されていない。
(今日の審判はどちらに肩入れする訳でもなく、主審も副審も良い審判だ。しかし
やりきれない部分はある。だがこれもサッカーだ。際どい駆け引きには審判の判断も要素の一つとなる。
ゼッケンドルフは目を瞑り、腰に手を当てながら考えを続けた。
(同時に、これで判明したな。後半30分に至るこの瞬間まで、
日本は不運だった。そう判断するしかあるまい。
折角のビッグチャンス。それをシュートまで行く事が出来ずにオフサイドで取り消された。傑もそうだが、それによるダメージは駆にもあるだろう。
要するにこれで、駆は抜け出しのタイミングの際に審判の目に留まるレベルを考慮する必要が出来た訳だ。今のシチュエーションを考えればゼッケンドルフを出し抜くレベルの抜け出しはそう簡単には行えない。審判の判断へと賭ける選択もあるだろうが、それを繰り返せばゼッケンドルフにだって“慣れ”が生じる。そもそも幾度と出来る様な事じゃ無い。
さて、ここまで何度止められようともゴールを向き続けたストライカーと言えど、この試合終了を意識し始める時間帯。ロスタイムも合わせて残り15分少し。そんな場面で決定機を審判に止められれば、流石に心が折れる瞬間が垣間見えるだろう。
ゼッケンドルフは目を開き、駆へと視線を移した。
「───……?」
微かに、笑みを浮かべていた様に見える。だがすぐに表情が切り替わり、しきりに左脚を気にする素振りを見せている為に、それ以上の気掛かりがゼッケンドルフに芽生えた。
(……負担の掛かりそうな走りだ。痛みが生じて来たか? いや……その様な短命な選手を目指す様なタイプとは思えない。単純な疲労か? それならばまだ使ってくる事を考慮してDFを行わざるを得ないが)
ゼッケンドルフは早々に視線を切り、オフサイドと判定された位置へと歩んでボールをセット。抗議していた傑も既に冷静になっており、場は整っている。リスタートし、ポゼッション。
この時間帯になるとドイツも無茶な攻撃はしない。早いパス回しは避ける。駆と鷹匠の前衛守備が繰り広げられるが、豊富な中盤の幅広いパス回しとなると、この時間帯での追いかけ回す手段は運動力が並外れていても得策じゃ無い。
───笑みを浮かべていた。ゼッケンドルフが微かに見たその光景は、正しい。
(……ヒリつく感じ。ギリギリの試合運び、不運、流れ。今までも何回かあっただろうに、不思議と今日は一段と馴染む様な感覚がある)
試合の中でルーティンを行なってからの自分の感覚が、絶頂に達しているのだと自覚出来る程に集中している。
身体能力が急激に伸びたわけでは無い。だが自分のできる最大のパフォーマンス、自分に出来る行動、自分が出来る
まるで、プロで試合をしている時の様な感覚。久しく感じるそれに、駆は思わず笑みを溢していた。
試合の終わりを意識し始める時間帯。色々なことを考えながら試合を組み立てている中で、ふとした瞬間に頭が真っ白になる瞬間がある。
まるで、天啓を得るかの様な。試合を打開する為の飛び抜けた発想が、思い浮かぶ。
しきりに左脚を気にしていたのはそれが原因だ。駆は前衛守備へと走りながら、何度か左脚をチラ見して思考を続ける。
(……リスク・リターンの問題じゃない。試したこともないぶっつけ本番の更新だ。普通に考えれば出来ないし、絶対に躊躇う。でも)
幾度とない策を潰され、今まで通り真正面からやり合っても勝てないのであれば、全てを一新する心持ちでやるしかない。
それに、今の駆には“出来る”という確信があった。
今まで通りでは真正面から打ち勝つ事が出来ないのであれば。
今までとは違うやり方で
後半37分。ポゼッションに徹していたドイツが釣られない日本のDFに痺れを切らして攻撃を仕掛ける。我慢強く耐えていた日本はボール奪取に成功し、一気に前線へと上がった。
攻撃陣四人はもちろん、ボランチも含めて素早いスイッチの切り替え。一点を確実にポゼッションなどと言ってる余裕はなく、無数の攻撃を一気に仕掛ける事でしかこの城壁を打ち破るのは困難を極める。
ハーフライン付近でボールを受け取った傑は、ゼッケンドルフのすぐ近くで抜け出す素振りを見せる駆の意図を感じ取ってパス体勢。駆は一度飛び出し───。
(飛び出しはフェイク)
急停止とバックステップ。
ゼッケンドルフは多少釣られ、そのパスが駆へと渡ることを確信。だが体勢は崩れない。真正面から向かい合うことになる。それはゼッケンドルフも望むところだ。
駆のホイップキックはその性質上、振りが大きくなる。とはいえ駆が意図すれば傑と変わらないテイクバックで放つ事も可能だろう。しかしその場合精度は増しても威力は下がる。独特の伸びも無くなる以上、シュートコースの限定さえ出来ればキーパーは取りやすくなる。
真正面から打ち勝つ方法は、今の駆にはない。
故に、作り出す。
(! ダブルタッチ、からの使用した脚をそのまま軸に。また一段とシュートまでの流れが早い、が、追いつく)
駆は右脚のインサイドでボールを撫でる様に転がし幅広くダブルタッチ。浮かび上がった脚が地面に着くとそれは踏み込みと確信出来るほどの強い軸となり、左脚を振りかぶっている。
綺麗なシュート体勢。フェイクも想定しながらゼッケンドルフはコースに身体を割り込ませようと反応して動いた。
(───兄ちゃんが残してくれた『遺産』)
そんな緊張感が走る中で、駆の意識はどこか浮いていた。
頭の中で浮かぶのは、記憶の中での己をプロとして仕立て上げた最たる蹴りの動作。それを習得する時の、尊敬する一つ上のチームメイトの発言。
助けられて来たシュートフォーム。授けられた、ワールドクラスのキックセンス。
でも。
(今の僕の、最善)
駆の積み上げた技術。天性の才能と後天的な技術から成る、駆自身の発想を組み込む。
踏み込みを幅広くする事でテイクバックの猶予を短く。膝下は固定して振り被る。
軸に縛られず鞭の様にしなる蹴り方ではなく、全身の筋肉を収束して柔らかな関節に乗せてバネの様にするイメージ。
ボールに接する時間を長くして吸いつく蹴り方ではなく───跳ねる様に、叩き込んだ。
全て、イメージ通りに。
ふと気付いた瞬間。ボールは、ゼッケンドルフの差し出した脚をすり抜けて、ゴールの片隅を突き刺していた。
セカンドボール、競り合い。それらを想定していた日本は沈黙を要し、ドイツは衝撃的な光景を見て開いた口が塞がらない。
ゼッケンドルフを真正面に、駆は“ゴール”という結果を示した。
(───まずい)
瞬間、爆発的に上がる歓声。後半残り10分程度のここぞという場面で、たった一度。たった一度の左脚の一閃が、皇帝を打ち破ってゴールを決めた。
想定していた波状攻撃など無い。今までの猛攻はあれど、切り替わった攻守の一撃目を、駆は叩き込んでみせた。日本のチームメイトに近寄られ、勝利へと繋ぐ同点ゴールをあれよあれよと撫でられ頭をくしゃくしゃにされる駆を見ながら、ゼッケンドルフは息を飲んで焦りを示す。
(ダメだ、
ゼッケンドルフは、駆があのシュートをぶっつけ本番でやってきたことを理解している。理由は簡単だ。このシュートはゼッケンドルフを真正面にしても非常に効果を発揮する。
つまり、習得済みならば最初からやるべきなのだ。それをこの局面まで使用しなかったのであれば、未習得の技術である事を裏付けている。
(奴にボールが渡った時点でリスクが増す。ならば出所を───)
そうして試合はリスタート。
守備面でもそうだが、先の得点で試合はイーブンの状態。3-3へとなった以上、ドイツも決めなければ試合に勝てなくなる。トーナメント戦である以上は延長やPK戦もあるが、試合を長引かせて駆に渡ってしまうリスクを増やすよりも短い時間の中で攻め切る方が得策。
ここに来てゼッケンドルフは本来の在り方、リベロとしての自分へと戻り、また守備の統率はそのまま続ける形で、ドイツの攻撃現在は高めの位置に陣取っている。
ここでドイツが攻め切れば勝率は高いだろう。だが、ピッチの王様が、それを許さない。
今大会に於いて目立つ活躍はそれほど多く無い様に見えるし、実際数字の結果としてはそこまで飛び抜けた存在感を発揮している訳では無い。だが試合後の個人評価の中ではほぼ毎回トップクラスにいる逢沢 傑の真骨頂は、試合の流れを決める指揮にある。
攻守に渡り高い運動量を発揮しながらも、ピッチ上の誰より多く動いて味方のチャンスの演出をして相手のチャンスを潰しに掛かる。
何より、特に今回では秀でた面として挙げられるのが、ほぼ毎回駆の動き出しに合わせてパスを完璧に通している事。先日までと違ってコミット気味のマンマークが付いていないことも理由の一つだが、インターセプトも許さずに駆へとほぼ100%渡すその技量は圧巻の一言。
飛鳥との連動により、傑はボールを奪取。ドイツは再び攻撃チャンスを失った。
ハーフライン付近まで上がった傑は前線の駆へと視線を向けるが、そのライン上にゼッケンドルフが現れる。前半と同様の光景。だが前半とは違い、何としてでも通さないという“必死”な顔がゼッケンドルフに浮かび上がっていた。
そんな皇帝の姿を見て傑は笑みを一つ溢し、素早く横へと叩いた。
ゼッケンドルフが反射的にボールの行き先を見れば、そこには荒木の姿。
(───スゲェな、アイツ。正直自分じゃ通せないんじゃないかって心の中で折れてる部分があった。けど、引き寄せられる。完璧なパスを引き出させるような引力が、今のアイツから出てる)
荒木はボールへと近付く。一歩踏み込む度に脚がボールへと吸い寄せられる様な不思議な感覚。このまま出せば確実に通るとさえ錯覚する。
しかしゼッケンドルフは、前半の時と同様に異常な速度でパスコースを塞ぎに掛かった。荒木と駆を繋ぐライン。それを完全に潰せるタイミングの反射的行動。前半と似たようなシチュエーション故に、その時の感覚を無意識に身体が選択したのだろう。
どんなコースを選ぼうが対応される異質な状態。傑の言葉を思い出しながら、荒木はパス体勢に入る。
(生意気だぞこの野郎)
獰猛に、笑みを浮かべた。
まるで荒木が相手ならば絶対に止められるとでも言いたげな反射行動をするゼッケンドルフにも、身に任せてそのまま放てと指示するような駆の引力にも、まるで譲るかの様な傑のパスにも。
ああ、全てが生意気に感じる。苛立ちを感じながらも絶対的な自信を取り戻し、荒木は踏み込んだ。
「───ッ!?」
「オ、らぁッ!」
荒木から見て右側少し前方から転がるボールだ。通常であれば、左脚のインサイドで合わせて精度を高めたダイレクトパスを出すべき場面。
だがその想定を一歩早くする。そう、一歩だ。必然的に軸になるのは左脚。右脚で蹴る以上は直線上のパスは近寄るゼッケンドルフへと当たり、ダイレクトでアウトスピンを放とうにもボールの転がってくる方向からして困難を極める。
だが荒木は、軸にした左脚の後ろから右脚を振り被る。振り切れば脚が交差する形となる、ラボーナキックの体勢。
パスを出してからの反射で追いつくというのなら、
ラボーナキックによるパスタイミングのズレ。それによる認識の相違がゼッケンドルフの反射を崩し、パスはすり抜け駆へと渡る。
正面には一人のDF。開いて横に鷹匠ともう一人のDF。ゴールまではまだ距離がある。シュートレンジには遠い。
駆は脚を緩めてドリブル体勢。視線誘導を試みて鷹匠の方へと顔を向けるが、それに釣られる様子はなく駆のボールコントロールのみに集中している。
やはり単純なドリブル能力で抜き去るのは難しい。だがそれだけ。シチュエーションと発想次第ではこの勝負を掴む事は出来る。
身軽さを活かした切り返し。相手が反応して塞ぎに掛かるが、即座に逆へと方向転換。だが相手は付いてくる。自身の身体を大きく使って切り返しに対応できる様にし、駆の動きに反応。
見てから動いては対応出来ない。
だから駆は予め、相手がファール覚悟で塞ぎにくる事を想定に脚を動かしていた。
φトリックを使わずとも、その優れた集中力と本能から成る発想により、駆は切り返しの直後にエラシコ。インサイドで転がしたボールをアウトフロントで細かく切り返し、左右どちらも塞ぎに掛かった相手の股を抜く。
自分は蹴った直後に即座にステップで相手を躱して抜けたボールを足下に。数秒の時間を有して相手を抜き去りキーパーと一対一。エリア内。駆の決定力を考えれば確実なシュートレンジ。
飛び出しを行うキーパーを見て駆はシュート体勢。角度的に右にコースが空いている。今の駆ならば確実に決められるだろう。
そんな場面で、極限の集中力を発揮して近付く選手が一人。ゼッケンドルフだ。
駆が本能によってボールの落下地点を読む時の様な、最終位置を予測して迷いない移動。それが“反射”によって行われ、常軌を逸した速度で駆のシュートコースが塞がれた。ゼッケンドルフでも塞ぎきれてない部分があり、空いてはいるがその方向にはキーパーがいる。馬鹿正直に打てば、手を使えるキーパーが有利。
目の前にゼッケンドルフがいる以上はループシュートも難しい。完全に塞がれた。
そう───一瞬だけ。
未来を見通せる天才DFでも、過去に戻ることは出来ない。
駆は振りかぶった左脚を、ボールに当てる前に停止させ、その一瞬を過ぎ去す。
「────ッ!?」
(まさっ、でき───)
まさか、出来ない。途切れ途切れの一瞬で紡がれるゼッケンドルフの思考。思い当たる一瞬の発想に辿り着き、ゼッケンドルフは驚愕の表情を晒しながらあり得ないと考える。
そう。一度停止させた脚は振るう“流れ”というのが出来ていない。本当に微かなテイクバックで蹴る以上、脚がボールと接してる間に急激な加速が発生しない限りはインパクトの弱いシュートになるのは必然。明確な身体能力の差が出てしまい、駆の能力を考えればキーパーが反応出来る余地のあるスピードになるに違いない。
しかし、先の得点による駆のフォームは、基礎に忠実ながらも全身をバネの様に扱って振りの速さを大きく高めていた。脚を振るった瞬間とボールに接する瞬間の速度に差がない事を示している。
つまり、一時停止させたこのフォームからでさえも、駆は大きな威力変動を起こさせることもなく、シュートを放つ事を可能にしている訳だ。
ゼッケンドルフは、二つの判断ミスをしていた。まず駆の成長速度だ。普通であれば一度出来たからもう一度出来る、などと簡易な考えにはならないが、駆は普通じゃない。
大器晩成の才能、確かに本来の歩みならばゼッケンドルフの思う普通は当たっていた。しかし駆は未来の自分というノウハウを組み入れた結果、異質な成長速度を遂げている。急速な成長が身体に刻み込まれ、インプットする早さまでもが成長しているのだ。
そして、これが最大のミス。
スーパースターと呼ばれる程に伝説を残す選手は、往々にして、そういった常識や既成概念を打ち破り、観ている者達のサッカー観というのを新しくする。
それが、ゼッケンドルフだけでは無かったという話だ。
脚が振るわれる。
その刹那、その一瞬。
駆は、
誰に阻まれる事もなく、誰もいない。自分だけが見れる、ゴールへと真っ直ぐ続く領域。
ボールタッチのセンス。ストライカー故の空間認識能力。そして、逢沢 傑に匹敵する才能を待ちながらも彼を逢沢 傑と同じ成長にはさせなかった、逢沢 傑をも上回る、天性の集中力。
彼は、
「───いッ」
真っ白な空間に、愛されている。
「けぇえッッ!!」
常識も、前例も、関係ない。
誰もが決まると確信する程の鮮烈なる一振り。
「─────」
之ぞ世界に轟く
日本に生まれし、エリアの騎士。
その挑戦は、皇帝を幾度と打ち破る。
剣を天へと突き上げるが如く、そしてハットトリックを示すが為に、駆は三本の指を立てながら空へと向けた。