感想返信
>>次の話2ちゃんねる風にやってほしい
→すみません。普通に続きです。
2ちゃんねる風というか掲示板形式というか、それに関しては大会が終わる辺りを目安に考えていますので、そこまでお待ち頂く形となります。
他作品を含め私の作品を見て頂いている方からすると「またか」となる再三の注意となってしまいすみませんが、誤字報告機能での修正は『誤字・脱字・誤用』のみでお願いします。
基本的には『脱字』に当たる“い”抜き、“ら”行抜き文の訂正ではありましたが、所々私の文そのものを変える誤字報告が見つかりました。誤った意味ならば兎も角、使い方として間違っていない所にまで修正を加えられてしまうと『私の作品』では無くなるので、誤用では無い部分の添削は避けて頂けると助かります。文章に関しては私自身が読み返して気になった部分にのみ訂正します。
また“い”抜き文や“ら”行抜き文に関しましても、地の文は訂正対象となりますが、登場人物内の思考で行われている場合に関しては人間らしい考えという事で意図して使っている事をご理解頂けると助かります。地の文に関しては完全に脱字です。
気になる部分も大変多いかと思われますが、これらに注意して頂けるよう、お願いします。
前書きが長くなってしまい申し訳ありません。
他重要な事を後書きにも書いている為、お手数でなければ其方を御覧ください。
『逢沢 駆が決めた! 日本のエースが皇帝に三度の落葉を齎す! 後半40分に4-3、4-3で逆転です!』
残り試合時間は5分とロスタイム。残り10分の段階から怒涛の二得点を重ね、駆は今大会初のハットトリックを達成。
ハットトリックそのものならばグループリーグを含めれば幾つかのチームから達成者はいるが、世代最強格と呼ばれたゼッケンドルフを相手にそれを達成する事実。今大会では結果こそ残しても目立つ活躍が無かった為、その偉業が日本の至宝の再誕を示した。
三本指を掲げて満面の笑みを浮かべる駆に、ベンチを含む日本メンバーが駆け寄り頭を撫で肩を叩きのスキンシップを取っている。
そんな様子を、ゼッケンドルフは眺めていた。
「カー───ル……?」
「……素晴らしい選手だな、彼は」
日本に二点目を奪われた際は自身への憤りを覚え圧の強い雰囲気を晒し、三点目の直後は焦りを見せていたゼッケンドルフ。
だが4点目。ついぞ逆転を許した皇帝の表情を窺えば、笑みを浮かべて駆を見ていた。
「能力を考えれば、今このピッチ上では下に位置する程度の選手だ。そんな選手が【皇帝】を下す発想を幾度となく披露する。……サッカーを選んで良かったと心の底から思う。今まで漫然と選手を止めてきたが、あの【騎士】を相手にどう止めるか。そうやって頭を悩ませる楽しさが、今浮かび上がっている」
「……!」
真正面から【皇帝】という壁を打ち砕いて見せた。ゼッケンドルフの想定した最終地点を『停止』させる事で更新してきた。
怪我した左脚による特性を嘆くのではなく、それを強みとしている。そしてそれは彼の武器となった。
対等な位置からでさえも。その発想力からの駆け引きでさえも。部分的にゼッケンドルフを上回った【騎士】の存在に、ゼッケンドルフは喜びを覚える。
ああ。
発想力も、単純な能力も。
皇帝の
薄く、だが普段からの表情を考えれば深く強い笑みを浮かべながら、ゼッケンドルフはそう告げた。
審判に注意を促される前に駆はパフォーマンスを止め、自陣に戻りポジションを整える。
盛り上がりの絶頂。誇張なく試合を大きく動かした一点により、駆の心臓は大きく高鳴っている。サッカー競技を行うに当たっての運動量による疲労と興奮から動く、眩暈さえ覚える様な心臓の音が心地よい。
ポジティブな思考と、高揚。それらが駆の身体が覚えている疲労を掻き消し、最高のパフォーマンスを維持している。
下手したらこのまま、試合を決定させる追加点を奪ってしまうのではないかと思えてしまう程の期待感が、駆からは漂っていた。
無論、駆だけでなく。
それらの勢いは選手、ひいては監督・サポーターを含め、この試合を眺めるあらゆる人達の胸を高鳴らせた。そしてその影響はドイツにも。
逆転を許したドイツに余裕なんてある筈がない。だが【皇帝】が、世代最強が、この試合を心底楽しみたいと発するその笑みに応えなければという想いが、ドイツ選手の中で芽生えている。
カール・フォン・ゼッケンドルフは将来絶対にプロになるだろう逸材。サッカー界を大きく動かすことになるだろう。だが今この場にいる選手が漏れ無く全てプロになれる訳じゃない。
だからこそ、今ゼッケンドルフと同じドイツ代表として戦える誇り。そして世代最強を打ち破った日本の【騎士】との対決。
今恐らく、世界で行われている中で最もフットボールの熱い場所。
そんな試合を自分のミス一つで台無しにする訳にはいかないと、強迫観念にも似た何か。だが確かに緊張ではなく高揚を覚えているその身体は絶好調の状態だ。
お互いに最高潮のパフォーマンス。
後半残り5分とロスタイム。
試合が、再開した。
『ドイツ果敢に攻め入る! 今までのポゼッションを捨てた素早いパス回し、だが日本もその守りを崩さない!』
『ドイツ自陣にキーパーのみ残して全員攻撃!? 鷹匠・逢沢の2トップも溜まらず自陣に戻る! 全員攻撃と全員守備!』
『飛鳥奪った! ボールは逢沢 傑へ───ああだがゼッケンドルフだ! ボールを日本が奪うよりも早くカウンターを対策! 逢沢抜けるか!?』
『逢沢抜い、やっ!? 伸ばした、ゼッケンドルフ脅威的な反応で脚を伸ばした! ボール───ここで逢沢 駆が飛び出してきた! ロストボールを素早く察知し単独でピッチを駆け抜ける!』
後半、残り一分。
ピッチの外から掲げられる電光掲示板に表記されるアディショナルタイムは、4分。
『4分、アディショナルタイムは4分! 試合は残り5分で決着となる! 日本逃げ切るか、ドイツ追い縋るか!? 試合を決定づけるゴールを決めてしまうのか、逢沢 駆!』
キーパーとの1対1で駆が負けることはほぼ有り得ない。対1に於けるφトリックの強さは尋常じゃなく、またそれを抜きにしてもゴールを前にした駆の発想力は飛び抜けている。
だが自陣から奪ったボール。傑がゼッケンドルフと対峙していたほんの僅かな空白が攻守の切り替えをお互いにさせており、ドイツも守備に戻るのが早い。駆の最高速度も決して遅い訳ではないが、瞬間加速が飛び抜けているだけでドイツDFには追いつかれる程度の速さだ。先日15歳を迎えたばかりの未発達な筋肉では当然とも言える。
身体能力がこのピッチ上の誰よりも優れているゼッケンドルフが、一度姿勢を崩したとは言え50メートルもの独走を許す筈がない。
エリア付近。普通ならこの独走状態ではファール・ハンド覚悟でキーパーが飛び出すだろう。だが現状の駆にただ飛び出しを行うだけではタイミングを見極められて足止め出来ずに決められる可能性が高い。ならば確実なシュートレンジまで待つ。これが一番の時間の稼ぎ方だと、クレバーな判断。
シュートレンジに入った瞬間にキーパーは飛び出し。駆がボールに触れた瞬間を完璧に見極めた。これならば焦りでシュートを打つ選択か、或いはキーパーから大きく離れた位置へとボールを叩く可能性が高くなる。
駆は右脚でシュート体勢。だがバネの様に放つシュートは左脚の柔らかさに収束するから放てる。追いつく猶予が出来た。圧巻の速さで寄せたゼッケンドルフが脚を伸ばし、再び駆の放つシュートを防ぎに掛かる。乱れたボールコントロール。ホイップキックによるコース変動はミートを外す愚策となる。
だが駆の振り被った脚はボールを追い越す。ボールの進行方向上に脚を踏み出し、乱れたボールをバックパス。ゴール前でのビッグチャンスにも関わらずあまりに冷静過ぎる判断。
ボールの行き先には傑。駆は踏み込んだ右脚で身体を急停止。左へとステップし、左脚を深く曲げて踏み込み加速。
シュートブロックに入る為に滑り込んだゼッケンドルフがそれに追いつく術はない。完璧な体勢とタイミングでパスを受け取った駆は今度こそ左脚を最速で振り被る。
再び見える、空白の領域。神がかった集中力へ天啓が下される。ここへ通せ。最高潮のパフォーマンスで放たれたシュートは。
「───ッ!!」
「な……ッ!?」
ゼッケンドルフによって阻まれた。
ピッチ外へと逸れて行くボールを唖然と見つめながら、先の光景を振り返る駆は微かな思考と共に今の一連の流れを理解する。
要は駆が出し抜いたと思っていたバックパスはゼッケンドルフの範疇。わざと滑り込んで体勢が崩れたと思わせ、駆の視界から外れると同時に低姿勢で最終地点に合わせてきたのだ。
未来のプロとして戦った記憶にある、江ノ高から生まれた初のプロ選手でありフルの日本代表にも選ばれているCBの金森 拓馬から受けたDF技術を駆は思い出していた。
(……いや、それだけじゃない)
そう、それだけではない。それだけならば駆の振りに間に合う筈がないのだ。
先程のカウンター時。傑がゼッケンドルフに止められた瞬間の時の事も思い出しながら、駆は確信を持って今のゼッケンドルフの状態を言語化した。
(前半……と、通ったけど後半の時に行われた荒木さんのパスへの“反射”。待つのではなく迎えるDFでただ一つのルートに極限までに集中して全能力が集約する、僕の本能に近い直感だ。あの2回は多分無意識だった。けど今のと、兄ちゃんへのドリブルへの反応……)
ゼッケンドルフは無意識に行なっていた最速の判断を、今は意識的に行い始めている。傑のボールタッチから繰り出される緩急、駆の脚の振り。待てば追いつけず、迎えば駆け引きの
極限の集中力で駆の些細な動きから成る直感。また柔軟な思考を取り入れることで、今まで出し抜いていた駆の“発想”さえもが組み込まれている。
それにしても、だ。
(
やはり世代最強と呼ばれるに相応しい怪物。
ゼッケンドルフの
それを顧みて、駆はある一つの仮説を立てた。
(……ゼッケンドルフも、見た?)
駆とは別種。DFが故に、後出しだからこそ見れる領域。兄が完璧なパスを放つ様に、ゼッケンドルフまでもが
それが故のDFフェイント。汗を流しながら駆はラインを割ったボールから視線を外し、ゼッケンドルフへと移す。彼の視線は下に向いている。だがその目はまるで、全てを見通すかの様な怖さがあった。
(凄い選手だ、本当に)
頂点に立っている筈の【皇帝】が、死に物狂いで全能力を駆使して仕留めに掛かる。状況が五分五分である事に変わりはないが───しかし、こうなった世代最強を出し抜くのは困難を極める。
だがそれでこそ挑戦する意欲が芽生えると、駆は笑みを浮かべた。
後半残り4分。
日本のコーナーキックから再開。荒木が放ったボールはニアサイドへと急激に落ちる。そこに反応して飛び込んだ駆は足を伸ばす、が。相手DFにより塞がれている。このまま打っても弾かれてコーナーになる確率は高い。打ってもいい場面、だが。
(挑戦!)
駆は
浮き上がったボールはファーサイドまで流れていき。
「ぉおおおッ!!」
鷹匠がその場に。跳躍して高さを合わせ、キーパーがニアに釣られてフリーになったゴールへとヘディングを───だが。
「……!」
「っ!? チッ……」
やはりゴール前にはゼッケンドルフ。ゴールを越えない様に地面を叩く様に意識して放たれたボールは、腕を後ろに回したゼッケンドルフがまたも弾く。弾かれたボールは大きくエリアの外へ。
ペナルティエリアの外側。攻め入る側から見れば左側へとこぼれていくボールの先には傑が出現。
ゴール前は固められていてシュートコースはない。だが傑ならば曲げて打って決めてもおかしくないと、ゼッケンドルフが詰め寄るに様に指示。
そして事実、傑はダイレクトで曲げて落ちるボールをゴールへと放つ。キーパーがポジショニングを整える意識を見抜き、敢えてニアへ。
だがそれさえも、傑の目の前にいるDFが身体を張った顔面ブロックで弾かれた。一瞬でも躊躇すれば通った威力のボール。ラインを割れば主審からのストップが入っただろうが。
そのボールは、ドイツのFWへと渡る。
「戻れ!」
後半、残り3分。
試合終了がもう少しであると意識はしていても、息苦しく目まぐるしく走り回っていても、まだ終わってほしくない様な想いが芽生える中で、再びドイツのチャンス。
自分が放ったシュートが弾かれた。故にこそ誰よりも早くそれに反応して攻守を切り替え守備に走る傑の指示に反応して日本は守備意識を持つ。
ドイツも攻撃への切り替えは早い。
そして、その中でも特に、ゼッケンドルフが。このピッチ上で誰よりも優れた能力を持つ皇帝が、積極的に前線へと駆け上がる。
DFの事を捨てた訳じゃないだろう。だが何としてでも得点を取るにはこの場面でしかないと、味方FWに渡った時点で攻撃意識に移っているのだ。
拾ったボールをトラップと同時に素早く体を反転させて前に。ドイツFWはドリブルを開始する、と見せかけて即座に上がってきた中央のゼッケンドルフへと預ける。
ここから加速していくFWよりも最大速度で突っ込んでいくゼッケンドルフの方がスピードに乗れている。開始場所はハーフラインとゴールラインの丁度真ん中辺りから。
だがこの試合終盤で、どれだけ体力を残しているのかという疲れ知らずの全力疾走でゼッケンドルフは駆けて行く。逸早く追いかける傑でさえも近づく事が許されない速さ。幾ら後半は守備に徹する時間が多かったとはいえ、同時にリベロとして動き回る時間も相応に多かった筈だ。
にも関わらず追いつけない。傑は傑で攻守に駆ける時間が多く体力は限界だ。これでは突き放される一方。
無論、日本の守備陣は日本陣内へと残っている。だがこの【皇帝】とFWに加え、飛び出す選手が多い。DF枚数は足りていても、マンツーマンが出来る程度の数ではドイツの攻撃相手にはやや不利。
飛鳥は傑が追いつけない事を即座に把握して幸村にDFラインの統率を任せてゼッケンドルフに近寄る。サイドは上手くマークに付いている。ならば時間稼ぎを少しでも、と。
だが。
(───やばい、しまった)
時間稼ぎ。それが最優先事項となったから頭から消えたゼッケンドルフの
ゼッケンドルフの影から飛び出してきたドイツボランチへとパスが渡り飛鳥はボールから引き離される。そちらの方へと少しでも意識が向いた瞬間に今度はゼッケンドルフへと。
傑のシュートが弾かれてたった十数秒の刹那の時間。残り2分と少し。あっという間のカウンターでゼッケンドルフは日本陣内を颯爽と駆けて行く。
DFの要である飛鳥が躱されて枚数は少ない。幾ら運動量が豊富でもボランチ並みの守備とトップ下並みの攻撃参加を繰り返す傑も体力的に守備は難しく、戻りながらの指示が出せない。
やがてゼッケンドルフの脚はエリア付近。ここまで来たら完全にシュートレンジ。追いつけない傑と飛鳥ではそれを防ぐ術はなく、堪らず島が寄せて行く。自身がマークに付いていた選手のパスコースを切りつつ、ファール承知で無理やり手を触れさせた。
「は……っそだろ!?」
触れさせた、が。そんな事知らんと言わんばかりの強靭な肉体は島の掴みを振り切りエリアへ侵入。
合気道DFが失敗した訳じゃない。しかし前半後半共に守備に貢献したその技を幾度となく見たゼッケンドルフは、触れる瞬間に合わせて込めた力を別の部位へと移動。合気道による力の崩れはタイミングを合わせる事が出来ず、ゼッケンドルフは微かな失速はあったが、視覚情報ではそれが判断できない程の神業で島を振り切った。
人間の無意識を突く“技”を通じさせない。同じ人間であるとは到底信じられない能力に、島は驚愕を隠せない。
エリア内。もはや確実にゴールへと決まるシュートレンジ。ゼッケンドルフは脚を振るい───。
「お、らぁああッ!!」
何遍もテメェに崩されてたまるか、と。そう言わんばかりの気迫で、比較的前線で動く事が多く体力が余り気味だった鷹匠が追いつき、ゼッケンドルフのシュートを塞ぎに掛かる。その瞬間に鷹匠の頭に過ぎる前半の光景。
それをトレースするかの様に、ゼッケンドルフは振るう脚を緩くする。ふわりと浮き上がったボールはドイツ攻撃側から見て右サイドへ。ダイアゴナルに突っ込んできた右MFがダイレクトで振り被る。
角度的には厳しい。だがエリア内で、キーパーも強くゼッケンドルフを意識したタイミング。パスが優しく浮き上がったボールであり、回転も掛かってないから蹴りやすい。ドイツ選手の技術ならば当然狙える。
絶好のチャンス。
放たれたシュートは、だがしかし。
「……っ!」
今度こそ完全な最終地点を読み、ゼッケンドルフの
弾かれたボールはラインを割り、ドイツのコーナーキックとなった。
後半残り2分という所で流れは切れる。
ここまで来たなら時間を掛けて一点でもと、そう集中し始めるドイツだが。
「駆!?」
四つん這い。正確には重心が右に寄っており左脚を浮かせて手を当てる駆に傑が近寄った。
時間稼ぎか、と。そう思う者も多数。だが駆は下手に長く試合を止めるつもりはなく右脚に重心を傾けながら立ち上がり、呼吸を整えながら慌てる傑へと答える。
「大丈夫、軽く攣っただけ……!」
「……ゆっくり前線に歩いてけ。守備参加はしなくていい。時間遅延でイエローを貰うのも無茶して怪我するのも不本意だろ。……助かった。後は任せろ」
トーナメントを通して累積2枚のイエローカードを貰うと、次の試合の出場が停止となる。まだ今大会で一枚も貰っていないが、本当に攣ってるのにそのリスクを背負う必要も、無茶して怪我する必要もない。
悔しげな表情、だがこれ以上試合を止めてもイエローカードが出されるのは目に見えている。駆は左脚に負担を掛けないようにハーフライン付近まで歩いて行く。
ドイツもこの時間を利用して話し合っていた。審判の判断次第では駆は時間遅延でイエローカードを出されていた可能性が高かったが、攻撃側のドイツが時間を掛けて様子を見てそれは流す。
もう試合時間は1分と少し。これがラストの攻撃チャンス。ドイツはキーパーも含めて日本のゴール前へと集まる。ドイツ陣地には誰も残っておらず、ハーフライン付近に立つのは日本選手の駆一人のみ。他は全員日本のペナルティエリアに集まるという異質な光景。
キーパーさえもエリアに上がってきたから、余計に守備が難しくなっている。負担の掛かる走りを疲れの溜まった試合終盤に近づくに連れて使い始めたことと、慣れてないぶっつけ本番の蹴り方を急激に覚えた事が要因だろう。やらなければ良かったとは微塵も思わないが、何もこんな試合終了間際に攣らなくてもと、駆は表情を歪める。
しかし。傑が、尊敬する兄が、「任せろ」と告げたのだ。ならばそれを信じて見守るしかない。駆は強く表情を改め、その行く末を見守ることとした。
コーナーに立つ選手が助走を始める、と同時に近く側のエリア付近で待機していた選手がコーナーフラッグへと近づく。ショートコーナー。キーパーを含めた全員攻撃の中で初手競り合いの選択肢を敢えて取らずに攻めてきた。これは流石に日本にとって予想外。
慌てて付近にいた荒木が近寄るが、その前に素早いグラウンダーをニアへと放たれる。強力な回転が掛かったボールはストレートに飛ばず、途中で曲がりニアの選手が合わせやすい位置へ。
合わせられる、が。狭いシュートコースではドイツ選手と言えど難しく、その巨体ながらの広い守備範囲で
なるべく外へと弾こうとはしたが、ラインは割らず、当然そこにはショートコーナーだった為に二人のドイツ選手。セカンドボールはドイツが保持。
再びクロス体勢。多くの選手が競り合いを意識する中で、そのパスはマイナスへと出される。
そこには、ゼッケンドルフが居た。
───絶好の機会でパスを選択していた事実。ゼッケンドルフの圧巻の能力から繰り出される、強烈なミドルシュート。
それらの要素で日本には迷いが生じて身が竦む。まるで、【皇帝】の歩く先を示すかのように、その一瞬シュートコースが開かれた。
しかしその道を、ピッチの王様が阻む。
この男がこの場面でパスを選択する筈が無いと、微塵の迷いもなく、近寄った。
試合時間は残りもう無いも同然。だが再びセカンドボールになれば大きく弾かれるかサイドを割らない限りはもうワンプレーの余地はあるだろう。ゼッケンドルフのシュート威力を考えればコーナーへと押し出される可能性は非常に高く、試合は続行する可能性がある。
ゼッケンドルフは、そのまま脚を振り被る。傑はシュートコースへと脚を伸ばした。
視界に映る全てがスローモーションの様に遅くなる錯覚を覚える中で、傑は眼光を鋭くボールを見つめながら、イメージを強くする。
(この試合で、何回見てきたと思ってる───!)
それは、駆がシュートを放つ度に洗練されて行くゼッケンドルフの威力吸収。キーパーが確実に保持出来る場所へと転がす技能。
エリアの騎士のシュートが防がれているのをただ見ていただけとは思ってないよな、と。傑は自分に強く言い聞かせて、その行動を自分に置き換えた。
シュートブロックに差し出した脚の力を緩める。衝撃が伝わると同時に引き、その威力を吸収。そのボールをトラップするイメージで、だが吸収しきれない事は分かっているから、その方向性をキーパーのいる位置へ。
ドイツ選手が反応すればゴールは決められる。だが日本選手が躊躇う様に、ゼッケンドルフのシュートへ割り込む様なドイツ選手もまた居ない。
二度のバウンドを経て、ボールはキーパーがしっかりとキャッチ。
そして───
「大きく蹴り上げろ!」
「ぉおおお!!」
天高く、パントキック。そのボールがドイツ陣地へと入り込むと同時に、主審は手を掲げて笛を鳴らす。
ピッ、ピッ……ピィ─────と、長く、長く。試合終了を告げる合図が、会場内に鳴り響いた。
4-3。今大会、今までの中で一番の盛り上がりを見せただろう試合は、一点リードの日本勝利で幕を下ろす事になる。
この試合に於いて、駆は MOM*1に選ばれた。
二回戦終了時点
【挿絵表示】
今作品を執筆するに当たって一番書きたかった話が今回のドイツ戦でした。私事で大変申し訳ありませんが、一番書きたかった部分まで書けたという事で、以降の投稿は不定期となります。
前書きでああ述べた事もありモチベーションの低下を危惧される方もいらっしゃるかもしれませんが、それは全く関係なく、6月以降は仕事の方が忙しくなったり、いい加減100時間プレイ以上の末のラニ様との月へのハネムーン旅行に行きたかったりと、主には執筆以外の趣味に割く時間も欲しい為です。
定期更新にしたお陰でここまで書けましたが、同時に抑圧される感じが強くなってきましたので、誠に勝手ながら以降は余裕のある時に執筆し不定期に投稿させて頂く形となります。
ここまで読んで頂きありがとうございました。宜しければ今後もお願いいたします。