2ヶ月ぶりの更新、お久しぶりです!
エルデの王になったりトロコンしたり、VRやったりランニングマシンで走ったり推し活したりトレーナーになったり20歳になったので晩酌したり……etc.
まあそれはさておき、定期更新終了後初の投稿となります。少なくともU-17W杯に関しては試合内容を決めているのでちゃんと書きます。後は部分的に浮かんでる要素ばかりなので、どこまで書けるかは分かりませんが。
そんな訳で、気長に待って頂けると有り難いです。
『4-3! 4-3で日本はドイツを打ち破りました!』
通常のテレビでは放映権を得ていないので観ている者は限られるが、優勝候補筆頭のドイツを相手に日本の勝利。ネットを通じて世界に伝わるそれは、大きな騒めきを起こす。
人間業とは到底思えないようなゼッケンドルフの強さを見せつける前半は1-2で終え、開始後には更に突き放される得点で1-3。これでは勝つのは難しいと日本ファンに諦めが走った後、背中を掴む鷹匠の得点。
そして逢沢 駆という圧巻のストライカーの再誕。劇的なまでの同点ゴールを叩き込み、観ている者の理解が追いつかない程の早さで逆転ゴールを重ね、後半終了間際には4-3へ。
最終盤に疲労が出てしまったが、今試合に於いて全選手の中で駆は
「アイザワ……カケル」
「あ、は、はい!」
「─────」
「……えっと」
ネット中継には映らない。現地で観戦してる人達だけが見れる光景。
三度の長いホイッスルが鳴った後、悔しさでピッチ上に寝転がったり、選手同士で褒め称えたり、ベンチへと歩いていく時間の中で、ハーフライン付近に座り込む駆に近寄る人物が一人。カール・フォン・ゼッケンドルフ。
名前を呼ばれて差し伸ばされた手を取り起き上がるが、続く言葉に戸惑う。名前だけならばまだしも、当然ながら言語の壁があるからだ。
駆の“記憶”は高校卒業から少しの時まで。海外も視野に入れて勉強はしていたが、世界共通して覚えることの多い英語や、同じチーム所属の四季が下部組織の時に在籍していたスペイン。挨拶程度のものだし、時間が経てば記憶も薄れる。
ブンデスリーガ*1は佐伯の事もあって意識はしていたが、海外を意識して一年程度ではどの言語であれそう簡単には身につかない。
ゼッケンドルフが何を話しているかが分からない駆が困った表情を出していると、突如としてユニフォームを脱いで目の前に差し出した。
「……ナイスプレー」
「! えっと……センキューベストマッチ」
駆もユニフォームを脱ぎ、交換しながら言葉も交わす。拙い英語だが、それだけでもお互いの言いたいことは分かった。
素晴らしい動きだった。最高の試合でした。日本とドイツから一人ずつ、今回の試合で最も活躍しただろう二人のユニフォーム交換と握手に、観客席が湧いて拍手を送る。
二人の対話に気付いたスタッフが急遽通訳に現れるが、ゼッケンドルフは通訳の人と共に少し駆から離れる。駆が首を傾げると、ゼッケンドルフは少し言葉を交わした後に再び駆へと近寄った。
「敵か、味方か」
「……!」
「再び戦うだろう。どちらかは分からないが……その時を楽しみにしている」
国を背負って戦うのであれば間違いなく敵として相対するだろう。だがクラブチームであれば、もしかしたら同じチームになるかもしれない。
ブンデス、プレミア、ラ・リーガ、セリエA、リーグアン───世界最高峰の欧州五大リーグ。バロンドール*2を目指すならばほぼ前提条件とも言える海外リーグは、当然ながら駆も早いうちに在籍したいと考えている。ゼッケンドルフにとっては自国のブンデスは確定してると言っても良いが、そこから別のリーグへと移る可能性も否定できない。
或いは、もっと歳を重ねてからか。
いずれにせよ、
駆は掌をゼッケンドルフに見せてちょっと待ってくれとサイン。ゼッケンドルフに寄っていた通訳の人に話し掛け、ならば自分も相応に答えようと、自分の言葉をドイツ語へと訳して貰い、自らの声でそれを伝える。
───必ず、同じ舞台で。
ドイツ戦の後でも、現U-17日本代表に於ける駆の評価は定まっていない。
ゼッケンドルフを相手にハットトリックを重ねた事実は間違いなく激震を走らせる結果ではあるが、それまでの数試合での駆は全て1得点ずつ。結果を残してるという意味では間違いないが、“スーパープレイ”と呼べる得点を残してきた訳じゃない。
もちろんどんなパターンであれ得点は得点。ストライカーの至上命題とも言えるそれを毎試合叩き出している事実は、昨今の決め手にかける日本に必要な人材である事に間違いはない。
だが観客というのはやはり派手な演出を好む傾向にある。得点は得点。だが押し込みによる得点とスーパープレイからなる得点では盛り上がりに大きな違いが現れるものだ。
今までの───というより、今大会に於ける駆にはそれがなかった。複数人によるマークで遮られていたからだ。
だから例え世代最強の名に相当するゼッケンドルフを相手にハットトリックという結果を残しても、対一に拘らず徹底マークを続ければ封じられるのではないか。事実、今大会ではドイツ戦以外では、得点を量産している試合でさえも個人では1得点に留まっているからこそ、対策が容易と思われる。
もちろん観客がどう思っていようが、対戦チームにとって確実に1得点を奪いにくるFWが脅威である事に違いはない。故にこそ観客の思い通り、駆個人への徹底マークとカバーに集中を費やす。
それはU-17W杯の準決勝まで勝ち上がったスペインも例外ではない。寧ろ日本開催の交流カップ一位決定戦にて、駆がメンバーに入っている状態での日本との対戦が出来なかった事を考えれば意識は一入だろう。
だからこそ、その試合結果に誰もが目を剥く。間違いなく徹底マークがされていた。複数人が意識を向けて防ごうと行動していた。
にも関わらず、この準決勝に於いて駆は、個人で5得点という驚異の結果を残していた。
試合は6-0でのクリーンシート。世代別代表では得点差が大きくなる試合がそれなりにあるとはいえ、どの国もその世代の最高峰を揃えているだろうU-17W杯の準決勝という舞台で出ていい結果ではない。
───だが、得点量産のカラクリは簡単だ。ゼッケンドルフに勝つ為に編み出した最適最速の“振り”。つまりキックフォームの種類だ。
一度でも振り切れば確実にDFを潜り抜けて枠内に入れてくる脚の振りの速さ。だが最適な蹴り方が生み出されたとはいえ、決してホイップキックを忘れた訳じゃない。シュートの伸びやコース変動の事を考えれば、二つは別種のキックフォームとして扱う事が出来る。
脚の振りが速いフォームの何よりの利点は、ゼッケンドルフでさえ先出しでなければ追いつけないと思わせる所。駆の得点感覚と合わさり、「打たれたらヤバい」となる部分。
こうなれば駆の駆け引きにハマる。焦って先にDFに行けばホイップキックで万全のシュート威力とコース選択を以て放たれる。とは言え甘く見過ごせばキーパーの反応が微かに遅れる程の素早い“振り”でシュートが放たれる。
二種のキックセンスを持つストライカー。しっかりと使い分けが出来る以上、高確率で枠内へと打たれるのだ。どちらも目的がゴールだからこそ、周りの動きからどちらを選択するかという『確実な絞り』というのが出来ない。
とは言え『最速の振り』を読まれると、唐突なストップが出来なくなるので唯一止められるとすればそこ。ホイップキックでも変動したコースが必ずしもゴールに直結するコースになるとは限らないし、何より二種類のキックフォームという選択が取れる状態での熟練度が足らない。特に『最速の振り』はコースが甘くなる事が多々あり、エリア外からのミドルでは殆ど防がれている。だがエリア内でのシュートは確実に決め、何よりシュートチャンスが非常に多かった。
スペイン戦に於ける日本のシュート数は23。その中での駆の個人シュート数はチーム内最多の12。傑も前日のドイツ戦があって駆のシュートを引き出してみたい気持ちで一杯だっただろう。
それがこの試合に於ける駆の大量得点のカラクリ。エリア内で渡れば
───さて、スペイン戦の終わった後。同じく準決勝で勝ち上がったブラジル戦を控えた午前10時過ぎ頃に、駆の携帯に着信音が届く。
日本にいるセブンからだ。アルゼンチンとは12時間の時差がある為、日本時間では午後の10時。翌日に学校がある事と、試合前ではウォームアップや集中する時間帯が必要な事を考えると、お互いにとって恐らく一番合うタイミング。
『疲れが溜まってるだろうに、ごめんね』
「大丈夫。セブンもあまり遅くまで起きない様にね? 学校もあるんだし」
『うん、それは大丈夫。明日は試合開始から観たいからね。すぐに寝るよ』
今夜のブラジル戦の開始時刻は開催現地時間で18時30分から。他の試合では19時〜20時スタートが多いが、今回は決勝戦。表彰の事も考えてこの時間帯。
そうなると日本では朝の6時30分辺りが試合開始時間となる。ネット放映の利点で、これならば通学時間帯でも学校に着いてからでも問題なく観れる。
ロスタイムが長引いたり延長戦やPK戦にまで突入しない限りは、学校があってもフルで観れる時間帯だ。
よく聞くとセブンの声音も少し眠たげである。
『今日はニュース見てびっくりしたよ。帰ってから試合映像を観て納得はしたけどね』
「あはは、昨日のスペイン戦は一段と兄ちゃんが厳しかったからなぁ」
昨年の日本開催U-17交流カップの時のスペイン戦で、駆が居なかった事もあって傑は急遽戦術を変えた。駆の必要性を何よりも誇示する様な0トップ。
その時の事もあってか、前日───日本では本日のスペイン戦で、傑は駆へとチャンスメイクする事が多かった。ドイツ戦でのキックフォームの更新も理由の一つではあるが、何よりも交流カップの際に披露できなかった『駆がいる状態でのスペイン戦』というのを見せたかったのが最大の理由だ。
『私も負けてられないなぁ』
「国内の合流練習の結果、来年からはフル代表は確実って話だったでしょ。置いてかれているのは僕の方だよ」
『……それはどうかな』
「?」
『駆はニュース見てる?』
「いや、基本的に次の対戦チームの研究に充ててるから、ニュースはあまり見ないかな。どうかしたの?」
『んー……あまり変にプレッシャーは与えたくないんだけど、まあ駆なら大丈夫か』
セブンは一息吐くと、携帯を置いてキーボードを叩く音を響かせる。携帯越しに届く音を黙って聞いていると、セブンはマウスをクリックすると同時に話し始めた。
『日本のニュースだとフェイクも多いから、一応スペインの方で調べてみたんだけどね。駆、海外リーグから注目を集めてるみたい。「こいつは怪物だ」って』
「へ?」
『元々のネームバリューもあってゼッケンドルフやレオが目的だったみたいなんだけど……うん。2部になるけど、ラ・リーガやブンデスとか。流石にいきなり契約する様な素振りはどこも見せてないよ。練習参加とか、興味を持つ様な発言をしてる監督が多いかな』
「へ、へー……。……僕まだ中学生なんだけど」
『本当なら下部組織とか育成チームに引き入れたいんだろうね。でも育成年代の子を海外から引き入れるのって色々と面倒な所があるから、練習参加で興味を惹こうって名目みたい』
元々今回の日本代表メンバーは、アジア圏内のプロチームから注目を集めてる選手は多い。世代別に何度も呼ばれてる選手ばかりだから近い国での国際試合をそれなりに重ねており、幾度となく見られているから。
だが今回は世代別とは言え、日本からしたら稀な例であれ、世界的に見れば既にプロ入りしてもおかしくはないU-17代表。若い世代の確認と、ゼッケンドルフやレオナルド・シルバの様に将来を約束されている選手のスカウト目的で来ているチームも少なくはない。
2部とはいえ欧州五大リーグのプロチームのお眼鏡に適っている訳だ。得点という分かりやすい結果を残しているとは言え、まだ中学生の駆にとっては目が回る様な話。
『高校卒業と同時に海外へと渡る選手も過去に居るからね。練習参加で経験を積んで、在学中に自国のプロで結果を残してから勧誘する目的じゃないかな?』
「……海外かぁ」
視野に入れていたとは言え、駆の“記憶”にあるのはあくまでも自国のトップリーグ。元より世代別代表に名を連ねてる時点で本来の道とは乖離していたが、『記憶以上の未来』を目の当たりにする事で、異なる未来を強く意識した。
『次のブラジル戦の結果次第だと、ひょっとしたら1部のトップからも目を掛けられるかもしれないよ』
「……」
『えっと……』
流石にプレッシャーを与えすぎたか。だが客観的に見てこれだけの結果を叩き出せる選手を、己のチームに置いて育て上げバンディエラ*3にしたいチームオーナーが多いのは当然だ。
育成ユースや下部組織に所属してる訳ではない駆の場合は、「子供の頃からの特別な思い入れ」というのがないので、色々なチームを飛び回る可能性は高いが。
何を話せば良いか。そう沈黙を続けて考えるセブンに、駆は漸く言葉を紡いだ。
「キングカズは、高校生の当時ブラジルに単身で飛び立った」
『!』
「高校卒業と同時にアーセナルと契約した選手もいる。子供の頃から環境の違う海外でサッカーと向き合ってた人がいる。バンディエラとして日本のJリーグを急速に成長させた偉大な人達がいる」
そんな偉人達の“挑戦”を振り返り、己のサッカー理念───目指すべきサッカー像からして、今更臆するはずがない。
「これだけ恵まれた環境にいて、ただびびるだけなんて出来る筈がない。セブン、僕は必ず残すよ。“記憶”にある祐介が在学中にドイツへと飛び立った様に、僕も。バロンドールを目指すなら、立ち止まってなんていられない壁だ」
『そっか───そっか! ふふっ』
「? どうしたの、急に笑って」
『いや、駆も世界一の称号を目指してるんだって思ってね、ふふ』
「……?」
『傑さんの後ろを歩いていた駆は、ひょっとしたら「傑さんならバロンドールを」って考えてるんじゃないかと思ってた。駆の“記憶”の事を聞くと尚更……でもそっか。傑さんに譲る気はないんだね』
「兄ちゃんだけじゃないよ」
『うん、もちろん』
レオにも、ここ十数年生まれていないDFでのバロンドールを獲得する可能性のあるゼッケンドルフにも、負けるつもりはない。それに打ち勝ってこその世界一。
『挑戦者』として辿る道には相応しい。電話越しには見えないが、強く笑みを浮かべているだろう駆に、セブンは同意する。
『私も負けてられない』
「出来るよ、セブンなら」
『簡単に言ってくれるなぁ……。……あ、そうだ』
「どうかした?」
『言葉だけの
「あ、うん」
『得点パフォーマンス、私だけに向けた“何か”をやってくれると嬉しいな』
「……簡単に言ってくれるなぁ」
スペイン戦で存分に見せた以上、ブラジルはそれなりに対策を立てているだろう。幾ら決定力が爆発的に上がってると言っても、容易に得点出来るような相手ではない。
だが、まあ。確かに。
『私に出来るっていう自信、魅せて。駆』
「───決めるよ、絶対に」
U-17W杯準決勝のブラジル対フランスは、フランスの方が支配率は優勢だった。だがそれが必ずしも良い結果を招くわけではない。
結果としてこの試合は、4-1でブラジルの勝利となった。
これにより決勝は日本対ブラジルの構図となり、数年前から逢沢 傑を知る者は盛り上がる。何せ世代別とは言えW杯という舞台で、ライバルとも言えるレオナルド・シルバとの対峙だ。
そしてコアなファンならば知っているだろうかのレオへのインタビュー。彼が答えた『日本の課題』として、決定的な仕事が出来るFWの存在を説いていた。そして一年が経ち現れた、エリア内で絶大な決定力を誇るストライカー───因縁めいた事に、それは逢沢 傑の弟だった。
そんな運命じみた、だが事実である説明がネット掲示板に投稿され、この試合を観る日本人達は大いに盛り上がる訳だ。
そしてもう一つの盛り上がる点。今大会で決勝まで残ったこの2チームだが、予選を通しての得失点差は実はブラジルが1点だけリードしている形になる。ブラジルは得点34の失点10で得失点差は24。対して日本は得点30の失点7で得失点差は23。
つまり日本が得失点差で追いついた時は、即ち日本が優勢とイコール。今大会を通しての成績が同等と張り合った上で、ブラジルを打倒する事ができる訳だ。盛り上がるのは必然。
「───ゼッケンドルフを相手にあそこまで鮮やかに決めるのは、流石に恐れいったヨ。駆」
「ありがとうございます、レオ。……でももっと怖がらせますよ、今日は」
「ほう?」
「ドイツ戦以上に、今は熱意が強いので」
「はは、そりゃ怖いナ。お手柔らかに頼むヨ」
「こっちのセリフですよ」
まるで日本が王者であるかの様な言葉に、駆は苦笑する。サッカー大国として頂点に君臨するのはブラジルだ。日本はあくまで挑戦する側。
「へい傑ー!」
「レオ、一応試合前なんだから───」
駆とのやり取りが終われば、今度は傑へと近寄るレオ。集中している様子だった傑はそんな事を気にする素振りもしないレオに思わず駆と同じような苦笑を残しつつ、レオの言葉に応えていた。
そんなピッチに入る前のやり取り。
数分後にピッチに現れる彼らは、そんな気の抜ける様な雰囲気を微塵も見せる事なく。表情はそれぞれだが、高い集中力で会場の芝生を見つめている。
開催国であるアルゼンチンは既に敗退しているが、一回戦で自国に打ち勝ったブラジルを応援しようとする人達も多いのだろう。或いはその逆も多いか。いずれにせよ、決勝という舞台もあって会場はそれなりに埋まっている。
選手同士や審判との握手を交わし、スタートを決めて全員がピッチ上の己のポジションへと移動する。芝生の感覚を確かめる者、前傾姿勢で試合開始を待つ者、そしてルーティンを行い調子を整える者。審判は各自の様子を見渡し数秒。
笛を口元へと持っていき───強く吹く。
『笛がなりました、キックオフです!』