ピッチの王様とエリアの騎士   作:現魅 永純

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 風水的に、過度な執筆は周りの環境に目がいかずに悪い氣を身体の中に溜めてしまうので、書こう書こうとするよりも適度に掃除などで動いたりした方が良いらしい(適当)
 あ、ベッドは一つで大丈夫だよ!

 そんなこんなでまたも2ヶ月近くお待たせしました。
 夏休み中投稿出来なくてすみません、学生の方! 大人に夏休みなんて無いんですよね! ついで言うとウチはお盆休みも無かったんですよね!!!

 あまり長々と前書きを書いてもアレなので、ここで一旦終わります。
 前回の話で『DFのバロンドールはカンナヴァーロが取っている』と指摘して下さってありがとうございました。そちらは修正してあります。



-追記-
 投稿時に報告を忘れていました。今更になりますが、タグを少し変更しています。多分名前だけだと傑が主人公って感じが出てしまいそうなので。

 逢沢 傑→逢沢 傑生存



27話『波状攻撃』

 

 

 

 

 

 

『さあブラジルのボールで試合は開始! 一度DFまでボールが渡ります』

『これは───ブラジル、ポゼッションを取ってきましたね。個人の能力が高いブラジルは最初から速攻を仕掛ける事が多いですし、それで繋げられる実力があるので、大変珍しいかと』

 

 

 ポゼッションは、まず第一に『パスを確実に繋ぐ』が前提の安全な戦術。CBやGKも含め、幅広く回して時間を掛けて攻めるのが定石だ。

 しかしブラジルは時間を掛けずとも一人一人の能力が高い故に早いパス回しでも前線だけで攻める事が可能。何より日本には前衛守備(フォアチェック)に優れたFWが居る。そんな二つの要素があり、本来ならば取られる事をリスクにしても速攻を仕掛けるべきだ。ハーフラインを超えてない所で取られた方が遥かにリスクが増すため、リスク・リターンが釣り合わない選択を取ったように思える。

 

 が、このブラジルの選択は間違いじゃない。寧ろ日本を相手にするにあたって限りなく正解に近いとも言えるだろう。

 そもそも鷹匠と駆───主に駆の前衛守備は、取る事が目的じゃないからだ。奪取可能ならばそれが一番だが、広く回されるボールを完全に読んで奪う事は、相手がよほど油断していない限りは出来ない。

 ポゼッションによる思考の余裕。選択肢を視る時間。それらを短くし、相手に慌てさせるのが目的だ。幾ら傑の空間認識能力が桁外れに優れていると言っても、その全てを読んでシャットアウトするのは無理がある。【全景(ビジョン)】を待つゼッケンドルフですら“待つ”のだから。

 

 だからまずはポジショニングで選択肢を少なくする。そして一気に詰め寄り思考の余裕を無くす。実際に日本相手にポゼッションを仕掛けようとするチームは、このパターンで嵌められる事が多い。

 ただしそれは、詰め寄られた際に余裕を無くす選手である場合だ。

 

 

(……全然慌てない)

 

 

 駆のショートスプリント力は、その身軽さもあって左脚の異質な加速が無くともレベルは高い。そんな選手に急に詰め寄られれば選択肢は大幅に減るだろう。だがブラジル───他のチームでもそうだが、足下の優れたDFがいる場合、その限りじゃない。

 駆は特別DF能力は優れていない。取る事そのものが目的でない事もあり、読み切ってギリギリまで引きつければ選択肢は増える。何よりボールキープを優先されれば、中3の平凡なフィジカルだ。場合によっては高校三年の年代まで存在するU-17W杯では競り勝つ事は非常に難しい。

 

 ブラジルのフォーメーションは4-3-3の3トップウィング型。後ろで回してるだけならば停滞してるだけと取れるが、中盤やウィングの選手も下り目になりつつもポゼッションに参加している。流石に前衛守備をしない状態での余裕とは天と地の差があるだろうが、ちゃんと回せているという事実は揺るがない。

 こうしてポゼッションをされると前衛守備の負担が大きくなる。後半変える事を前提にするなら尽くすのみだが。

 

 

「…………」

 

 

 駆がポジション位置を修正しつつ後ろを見ると、傑は首を横に振り拒否を示す。ドイツ戦からの駆は絶好調を継続させている。ブラジルを相手に得点力を失うのは不利になるだろう。

 サブのFW組は4-1-2-3のスリートップで扱う為の攻撃力増強用だ。あくまでも日本の主力は変則型4-3-1-2の前線四人。温存出来る試合ならば兎も角、決勝の舞台で無為に体力を消耗させて途中交代は監督も望んでいない。

 

 ともすれば、全力の読み合い。

 パスコースは要所で防ぐが、前衛守備は下手に走らせずにポジショニング重視で時間を掛ける。これはリーグ方式じゃない。トーナメント方式の決勝の舞台では点を決めなきゃ勝てないのはお互い様だ。ブラジルも鳥籠ばかりをするつもりはないだろう。

 

 駆と鷹匠は力みを抜いて前衛守備の動きを遅くする。近くの選手のパスコースは塞ぎつつ、回るボールを追い掛ける事を止めた。

 開始2分で即座に日本はディフェンス戦術を変更し、動きを注視する。

 

 

「───ヘイ!」

 

 

 日本の前衛がプレスを止めたのを見ると、即座に左ウィングに位置するレオが中盤へと寄って下がり、ボールを要求した。

 駆や鷹匠が塞いでるのは、サイドバックと中盤のパスコース。それを荒木と傑が補助する位置に居て、ボランチ二人はサイドバックの上がりや下り目になっているウィング選手の縦突破を警戒する位置。

 

 そんな中で急に中央へとウィングの選手が入ってくるとなると、ボランチは下手に中盤へと寄る事が出来ない。下手に中央へと寄り過ぎればサイドバックのオーバーラップを許してしまう。そのまま突破されれば危険だ。

 故にボランチはそのまま。ともすれば、こうなるのは必然。

 

 傑は荒木に中盤の選手へのマークを指示しつつ、中央でボールを受け取ったレオと向かい合った。

 コアなファンならば盛り上がる展開。幼い頃から名を上げるそれぞれの国の天才が、1対1を演ずる。流動的に流れるピッチ上の選手たちの動きが、ほんの一瞬だけ完全に止まった。

 

 

「ふ……ッ」

「───!!」

 

 

 止まったのはほんの一瞬。地面に足を踏み締めたレオは、即座にドリブルを開始。

 傑は周囲の選手の位置を把握して、レオがしたいプレーを瞬時に理解して先読み。無理に奪いに───()()。普通ならばレオのテクニックを考えて、ドリブルが開始された以上は無理に奪いにはいかない。ボールに回転を掛けてレオの動きに呼応するように移動するドリブルの事を考えれば、下手な接近は味方の準備が間に合わない内に一瞬で抜かされる可能性が高い。

 

 が、味方の準備が間に合わないからこそ、無理をしてでも一瞬で勝負をつける必要がある。

 レオや傑がドリブラーとして動く時は『魅せるワンマンプレー』と周りに思われる事が非常に多いが、実際のところ二人はドリブルの時でも周りをどう使うかを考えている。考えた結果、自分でそのままドリブルした方が良いから続けているだけ。

 

 要するに、反応出来る選手が居れば二人は遠慮なく周りを使う。

 日本のディフェンスは形こそ整っているが、傑とレオの対決という場面に囚われて他選手の動きが見えていない。視界に捉えていても、集中力が二人に注がれているのが一目瞭然。

 対してブラジルのFW二人は傑とレオに意識は向きつつも、果たすべきはゴール。視線を後ろに向けるだけで、身体はしっかりと前へと向いている。

 

 ともすれば、レオは傑を抜き去る必要がない。パスさえ出せれば『1対1』と思い込んでいる日本のDFを簡単に出し抜ける。ディフェンス戦術が変更された上に開始してたった2分。それ故の心の隙を理解している。

 傑と同等の洞察力と判断能力を持つレオがそれに気付かない筈が無く、ともすれば駆け引きに於いてレオの方が圧倒的に有利になる。

 

 だからこその一瞬勝負。

 レオの足からボールが離れる瞬間を狙ってのスライディング気味なタックル。だがレオは回転を掛ける動作を行わず、足にピッタリと張り付かせたシンプルな逆エラシコでタックルに来た傑の股を抜き去り綺麗に躱す。

 一瞬の勝負はレオが制する───が。

 

 

「……っ!」

 

 

 傑を躱した直後に駆がボールの行く先に現れる。天才同士の1対1という演出の中に入っていく事を駆は躊躇わない。傑が一瞬勝負を仕掛けたのも駆の動きが見えていたからだ。

 だが、1対1に拘るつもりがないのはレオも同じこと。その上で魅力的なプレーをしてこそのレオナルド・シルバという選手のサッカー観。

 

 傑が見えていた様に、レオにも駆の動きは見えていた。前方を塞ぐ駆の脚にボールが届く、その瞬間。

 

 

(っ、これ浮いて───)

 

 

 逆エラシコで股抜きを行った際、ボールはほんの僅かに浮いていた。駆がそれに気付くと同時にボールはバウンドし、急激に失速して前方への推進力が無くなる。

 レオの様なドリブラーを相手にした場合、誰かがボールカットする事さえも前提にして奪われたボールを即座に奪い返す動きをする可能性がある。だから駆は足下にボールが到達すると同時に収めずクリアするつもりだった。故にその失速はタイミングのズレを生む。

 

 駆の脚は反射的に止まり、ボールを迎えに行く姿勢を取る。だがドリブルの勢いが残っているレオの動きは早く、駆が触れるよりも先にレオの足がボールを弾いた。

 アウトサイドリフトで飛んでいくボールは駆の頭上スレスレを超えていき、駆の横を抜けたレオの足下に収まる。

 

 ───その寸前。スライディング気味のタックルで体勢を崩していた傑が追いつく筈のなかったレオに並走し、脚を出す。

 レオは目を見張り、察した。あのタックルはフェイントだったのだと。

 

 今大会に於いて、日本が最も死力を尽くしたと言える相手はドイツ。その試合映像は非常に参考になる為、レオは何度も見返した。

 その内の一つにゼッケンドルフがディフェンスでフェイントを使ったシーンがある。駆の本能さえ欺いた天才の技。レオは下手な芝居なら見抜いた上での行動を取れるだろうが、傑の技術があればシチュエーションも相まって抜き去れたと錯覚してしまう。

 

 完璧な姿勢だ。細かいテクニックでは簡単に奪われる。かと言って足を止めれば駆との挟み撃ち。レオのボールを付き従わせる【Cachorro de casa(飼い犬)】は二人を相手にするには向かない。二人が同じように引っ掛かってくれれば話は別だが、駆と傑の連動を考えればそれは無理だろう。

 レオがボールキープするのは不可能。

 

 だが、再三告げるが───1対1にも、ドリブル突破にも、拘る理由は何処にもないのだ。それはレオも同じ事。

 不完全な体勢では完璧な体勢で奪いにくる傑を相手にすれば反射的な行動は全て読まれる。だがレオの独特なリズムとテクニックが織り成す“技”は。

 

 

「っ!?」

 

 

 瞬間的に、傑の想像を上回る。

 回転を掛けるのは不可能なタイミング。前と横へのパスは反応される。無理矢理にでも空いてる後ろに出せばパスに勢いが乗らず、レオの背後に控える駆が追いつくだろう。

 ボールキープは二人に挟まれるだけ。空中に浮いているボールに回転を掛ける余裕はない。

 

 レオの選択は足裏トラップ。地面との間で静止したボールに傑が反応した刹那、レオは足裏でボールを引き寄せる。同時に駆が近寄るが、ボールを引き寄せた勢いで軸足を浮かせ、引き寄せたボールを即座に叩く。

 タイミングをズラし、コースを変動させる、言わゆる軸足当てパス。傑のディフェンスを見て反射的に行われたそのパスは、今度こそ疑う余地なく傑の股の間を通り抜ける。

 

 ボールの行く先には、レオとは逆のウィング選手。転がるボールをダイレクトで叩いて前を向いている中盤選手に渡し、ブラジルは攻め上がる。

 

 

「島、CBの位置まで絞れ! 沖名はラインを上げてサイドバック警戒!」

 

 

 ポゼッションからの素早いパス回し。淀む事なく二列目から飛び出してきた中盤の上がりは速い。だが同時に飛鳥の指示も早く、言われるまでもなくプレスに向かう板東を視界に捉えながら両SBへと声を掛ける。

 

 

「轟と傑はシルバのマーク! 駆は前に! ディフェンス、ラインを上げろ!」

 

 

 至極、当然の事ではあるが。速い動きをしている中で思考出来る時間というのは非常に短い。ポゼッションをしている間に幾らか纏めてはいるだろうが、合わせて修正されればどう動くか悩みが生じる。

 飛鳥の指示は正しい。一度中に入り込んだレオは再びサイドを駆け上がる事はない。中で早い攻撃が出来るならばそれに乗って向かえばいいからだ。

 ならばサイドに必要以上の人数は置かずに轟にサイドへの展開を警戒させて中に押し込む形にし、中央に人数を掛ければいい。ゼッケンドルフは例外だったが、人が多くなれば島が自然と接触を仕掛けられるからシュートへと持ち込まれる可能性が低くなる。

 

 板東が詰めた以上はサイドバックの警戒に空きが生じるから沖名をそこに当て、選択肢を減らした上でディフェンスラインを上げる。急激な攻撃にも強気でラインを上げる事でオフサイドを誘い出す。

 だがこうなれば、ゴール前の中央は固められてもその前にスペースが出来る。マイナス方向へのパスならばオフサイドにはならないし、勢いに乗せて突破も可能だ。

 

 レオと同じく中央に寄った右ウィングの選手がパスを渡した位置から即座に上がっていく。サイドの選手に良くある特徴だが、やはり足が速い。抜け出すのではなくラン・ウィズ・ザ・ボールをすればオフサイドトラップは仕掛けられない。前がかりになったDFラインならばぶち抜ける可能性があるだろう。

 しかし。

 

 

「───ふ!」

 

 

 上げたDFラインから、更に前へ。ボランチの位置まで一気に上がった飛鳥がボールカット。

 ベッケンバウアー二世とまで称された世代最高峰のゼッケンドルフ(リベロ)の動きを間近に感じたからか、リベロとしての勘が格段に上昇している。視野の広さや予測能力こそ及ばないだろうが、周りを使っての守備能力は、傑の負担を大きく減らせるレベルにまでなっていた。

 

 飛鳥はボールを奪うと、前へと意識が向いていたブラジルボランチの裏を取っている板東へと渡す。正確なロングフィードが得意な選手だ。前へと走らせている駆に出して速攻カウンターが定石。

 

 

「リターン!」

 

 

 だが飛鳥は前を向こうとする板東に即座にボールを返すように指示。板東は従い返す。フィードパスが得意な選手である事は相手も承知であり、板東へとボールが向かった瞬間にボランチと右SBが挟みに来ていたことに気づいたからだ。というより、一度板東を使う事でブラジルの二人を引きつける目的だった。

 板東にタイミングを合わせていた駆に出せばオフサイドになる。だが相手DFは右寄りにいる駆をフリーにさせない為に左SBとCBで二人着いた。

 

 飛鳥はダイレクトでパスの体勢。視線の先には鷹匠。マークにいるDFはCBが一人。

 フィジカル強度が高い選手が選ばれやすいCB。ブラジルも例に漏れず、鷹匠のマークに着く選手は身長も体格も一回り大きい。下手に競り合いに行けば鷹匠でも潰される可能性があるだろう。ポストプレーは悪手と言える。

 

 が、オフェンス側故に『選択出来る』という利点がある事を忘れてはならない。わざわざ馬鹿正直に万全のぶつかり合いをさせる必要はないのだ。

 強めのフライパス。それほど高くは上げず、鷹匠の直線上からは少しズレた位置へと送る。一見はパスミスの様にも思えるが。

 

 

(───指定された方向だ、どうだ?)

(良い位置だ、飛べば届く)

 

 

 板東へと一度パスを送った際に、意図を理解した鷹匠が飛鳥へとアイコンタクトを送り、身体で隠しながら指で方向を示した。純粋なフィジカル勝負では勝てるか微妙なのは鷹匠も分かってる。

 だから強めのパス。飛鳥が蹴る瞬間に鷹匠は横へと走り出し、自分に到達するタイミングでは相手DFが競り合い出来ない様にした。

 

 鷹匠は跳躍しながら自陣方向へと身体を向け、迫るボールを胸でトラップ。遅れてきたDFは下手にぶつかりに行けばファールになると察してトラップの瞬間を狙ったが、完全に威力を吸収して身体に隠れているので前を向かせない事しか出来ない。

 DFの視点からではボールが見えないタイミング。ボールが身体に隠れながら落ちている状態で、鷹匠は前を向こうと顔を上げ動く。ブラジルのCBはそれに反応して前を向かせまいとプレスを掛けるが、地面に着く前にボールを逆方向へと叩いた。国内高校レベルならばこれだけでも突破出来るだろうが、ここは世代の最高舞台。釣る事は出来ても直ぐに反応されるだけだ。抜こうとすれば即座にブロックされる。

 

 だが鷹匠の1番の武器は、フィジカルでも跳躍力でもなく───

 

 

「ぉおおおッ!!」

「ッ!?」

 

 

 どんな体勢からでも狙いにいけるその身体の柔軟さだ。鍛え上げられたフィジカルと体幹から成るバランス。踏み込まれた軸足を無理矢理捻りながら勢いを付け、完全に開いたシュートコースに思いっきりボールを放つ。

 ドリブルは備えていた相手CBは壁にならず、ゴールの隅をしっかりと捉えた、が。30メートルを超える距離からのシュート。万全な状態で打てたとしても入る確率は低い。

 

 キーパーはしっかりと反応し、ゴールマウスの枠から弾き飛ばしてラインを割った。

 今試合のファーストシュートは日本。世代最高峰の一人でもあるレオの逢沢兄弟を躱す魅せるプレーの後の5タッチでシュートまで行く速攻カウンター。それを防ぐキーパーのスーパーセーブ。

 それまでの2分間がポゼッションでのゆったりとしていたギャップもあり、観客はこのプレーの間に関わった一人一人の名前を叫び盛り上がる。

 

 開催国であるアルゼンチンの国民が多く居座っている事、そして世代別の試合という事もあり、それぞれの国の応援団は居ない訳ではないが非常に少ない。その分試合の中で魅せる人物の名前で客席は沸き立つのだ。

 

 

「気を付けなきゃドンドン狙ってくるよ。他の試合だとジャンプ力による高さが目立ってたけど、あのキック力ならミドルレンジは入る可能性がある。崩れながらでも狙いに行けるだろう。鷹匠(カレ)もまたストライカーだ」

「分かってるさ、レオ。日本が格下なんて思っちゃいない。今のはキーパーに助けられたがな」

 

 

 キーパーのタッチでラインを割った以上、日本のボール。それも前半3分という段階でのコーナーキックだ。選手がゴール前に集まりキッカーが準備を整えている間に、レオは鷹匠と相対したCBに声を掛けていた。

 日本のコーナーキックはショートコーナーと放り込みのどちらも使用してくる。絞り込みが出来ない以上、選手の様子を見て判断するしかない。

 

 キッカーは荒木。傑が行う場合もあるが、スタミナ切れで荒木が交代しない限りは基本的に傑はコーナーは蹴らない。シャドーストライカー的役割を務める事もある傑の方がこぼれ球への反応速度が早いからだ。

 それぞれの選手の配置が終わり、荒木は片手を上げて蹴る合図。一息呼吸を置いて助走を開始。

 

 それと同時に、傑がニアへと走り出す。キーパーは中央へと寄っており、ニアサイドは1人のブラジル選手が守っている。コーナーキックの時によく見る光景だ。

 実際そこに居た選手がコーナーを弾き飛ばすという結果も幾度となくあるが、ニアへと寄っているのはあの逢沢 傑。キーパーと選手との間を上手くダイレクトで狙う技量がある。100%成功する技術とは言えないだろうが、決めてくるかもしれないという脅威があるのは事実だ。

 ニアにいたブラジル選手は傑のシュートコースを消そうと至近距離で壁を作る。キーパーもニアへと寄って空いたスペースを埋めるが───ボールは傑を飛び越えてファーサイドへと流れていく。

 

 

「キーパー!」

 

 

 だが誰に合わせるでもなく、ボールは斜めに落ちて曲がっていき、コーナーキック位置とは逆のサイドネットを揺らそうと突き進む。

 キーパーは釣られ、手を伸ばすも届かない。しかしそのボールは、コォンっ───と音を鳴らしてポストに弾かれた。

 

 

「チィッ」

「荒木、すぐ中寄れ! 人数!」

 

 

 荒木は舌打ち一つ、しかしボールはまだエリア内。攻撃の手を緩めるつもりのない傑はすぐに声を出して指示。

 転がるボールは、人数の少ない位置にボールが零れたときのことを想定して逆サイド寄りのエリア外で待機していた轟が所持。もちろんみすみすボールキープさせるつもりのないブラジル選手はボール奪取を図るが、長く保持することなくそのままシュート。

 今度はボール奪取に来た選手のその後ろにいたディフェンダーが壁となりブロックされる。弾かれたボールは、今度は中に入った傑へと。トラップに使った足を即座に踏み込んでシュート体勢。少しでも穴が開けば貫かれるプレッシャーの中で、ブラジルは完璧な壁を作って見せた。

 

 だが、それをあざ笑うかのように、傑はふわりと優しく蹴り上げる。

 作られた壁を越え、キーパーが飛び出すのを躊躇う位置。そこには鷹匠。助走に合わせて出されたパスは高く、慌てて防ごうとして飛んでも届かない位置。ヘディングで合わせられたボールは水平に飛んでいくが。

 

 

「マジか……っ!」

 

 

 コーナー前のミドルシュートの時に鷹匠のマークについていたCBがゴールラインのギリギリで跳躍してボールを横へと弾く。鷹匠は思わず主審に顔を向けるが、ノーリアクションのノーサイン。ゴールの判定はナシ。

 そのまま流れればサイドラインを割っていただろうクリアボール。ワンバウンドする前に、ペナルティエリアの横ライン上に、先ほどパスを出した筈の傑が出現してボールを保持。日本の攻撃は継続する。

 

 ブラジルのディフェンス陣は焦りの表情を隠せず、センタリングを警戒して一人寄る。日本のペースになっている現状、そのまま放り込んでも攻撃は続く可能性は高いが。

 

 

「───……ッ!」

 

 

 傑はそこからドリブルを開始。近寄った一人を股抜きで抜き去り、続いて寄った一人を前に一瞬の停止。思考に余裕を持たせる。対応に入ったブラジル選手は視界の端に日本のユニフォームが見えた。傑がボールキープするように右足をボールと相手選手の間に置き、体の向きがマイナス方向に。流れるように左足を小さくテイクバック。

 一瞬の停止で状況を把握したから、その方向に日本人選手がいるのはディフェンスは分かっている。とはいえ中の状況は分かっていないし、傑にはパス方向を変える術がある。露骨なパスブロックには入らずに股抜きを警戒。

 

 しかし、傑は更に外へ。つまり、ゴールラインの方へとボールを叩いた。

 元々ドリブルで抜くようなスペースがないような場所でわざわざラインのギリギリを選択。自分の視界の届かない裏と、一瞬見えた為に考慮してしまったマイナス方向へと気を取られ反射的な行動を封じられたブラジルのディフェンスは足が止まり、傑がダブルタッチで自分を抜き去るのを見送ることしかできない。

 

 傑の目の前にはディフェンスがおらず、ゴールは目の前。だがキーパーがいるから試合の流れで狙いにいくのは角度がなさすぎて無謀だ。

 もちろん傑もそのまま狙いにはいかない。パスの予備動作には入らず、ドリブルの勢いでボールを蹴りパステンポをズラした。

 

 

「こ、こっ!」

 

 

 ボールの行く先には荒木。キーパーがいるとはいえゴールの手前僅か数メートル。ただ当てれば入る様な絶好のゴールチャンス。

 そのチャンスを、レオが阻む。

 

 

「あぁ───ここだよネ!」

「くぅ……!?」

 

 

 傑の行動を見て最も警戒すべき最終地点を先読み。魅せるプレーが突出しているのは確かだが、試合の流れを読む能力も、やはり傑やゼッケンドルフに並んで世代最高峰と呼ばれるだけあって非常に高い。

 一歩早く、レオはボールに足を伸ばした。

 

 

(プレースピードはや───キープ余裕なく───クリア……)

 

 

 ボールが足に触れる刹那の思考。それを反射させた体がボールをクリアしようと動く。

 その一瞬。何としてでもこの流れを離してなるものかという、荒木の意地が。シュートに向かおうとした身体を止め、そのクリアをブロックしようと動く。

 

 軽く踏み込むつもりで動かしていた軸足を強く踏み込み、軽く当てるだけの筈だった右足を大きく振る。左足で勢いをつけ、体を滑り込ませ───

 

 

「お、らぁああッ!」

「っ!?」

 

 

 サイドへと蹴られようとしたボールは荒木の足に当たり、弾かれる。

 

 

(被せすぎ、これなら───)

 

 

 勢いをつけすぎたか、覆い被さる様な体勢。これでは逆サイドに弾かれるだけだ。寧ろラストタッチが荒木である以上はブラジルのボールになる。流れを切る訳にはいかないと焦りすぎたか。

 レオの考えは正しい。荒木は焦った。下手に相手ボールになる可能性を増やすくらいであれば、一度流れを切られてもマイボールを維持するべきだった。

 

 だが、レオに。いや、ブラジル選手に誤算やミスがあるとするならば。

 

 

「───ナイスです、荒木さん!」

 

 

 レオの読んだ『最終地点』でのクリアに、ほんの僅かでも安堵してしまった事だ。

 

 この流れに一切関与せず存在が消えていたことで、最も警戒すべき選手だったにも関わらず、逢沢 駆はシュートコースが完全に空いている場所で弾かれたボールをあっさりと拾った。

 一瞬。フィールドにいる殆どの選手の動きが凍ったように止まる。それが解け、駆のシュートを止めようと近くにいたブラジル選手が鬼の形相で横からブロックに入るが。

 ゴール前のフリーな状態。真空領域(エンプティ・ゾーン)が見えるまでもなく空いているシュートコース。冷静に放てるこの状況下で『怪物』とまで言われたストライカーが外すわけもなく。

 

 途轍もなく早く振るわれた左足がボールを放ち、ゴールネットに突き刺した。

 

 

『決まった、決めた決めてくれたッ! 開始五分、日本の若きストライカーが! 今大会最年少選手が、ブラジル相手に先制弾! そしてっ』

 

 

 大いに盛り上がる観客を見ながら、興奮抑えきれずに声を出す日本人の実況・解説。一度言葉を溜め、ネット映像では一本指を掲げてピッチを走る駆が映されているだろうタイミングを計らい、その言葉を絞り出した。

 

 

『逢沢 駆、これにて今大会全試合での得点獲得! 合計13得点で、レオナルド・シルバに得点王争いで並びました‼』

 

 

 

 

 

 






 それぞれの予選・本戦得点の簡単な概要(決勝除く)
レオ
・グループステージ……9点
・決勝トーナメント……4点


・グループステージ……3点
・決勝トーナメント……9点

 ちなみに鷹匠は予選本戦で10得点のため、得点王争いには一歩届いてません。


 傑の想像を超えたレオの軸足当てパスは、9月4日に行われたソシエダ対アトレティコ戦で行ったタケのプレーを観ると分かりやすいと思います。アレは本当に笑いが込み上げるレベル。YouTubeのDAZNチャンネルにハイライトで上がってますので、是非とも。
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