感想返信
>>題名みた瞬間にワンオクのやつが頭に流れ出した
→実際それを意識したタイトルです。振ってませんが、夢想のルビはDreamerで考えていただけると。歌詞の『〜〜が僕の名さ』の部分は今作のレオにピッタリだと思います。
2日遅れのクリスマスプレゼント投稿です!
遅くなりましたが、2022年カタールW杯全試合終了お疲れ様でした! アルゼンチンの優勝おめでとうございます!
個人的にメッシにはW杯のタイトルを取って欲しかったので嬉しい所存です。それはそれとして決勝でハットトリックするエムバペは化け物すぎる。
残念ながら日本はまたもベスト8を逃す結果となりましたが、日本に勝利したクロアチアが3位という事でPK戦までもつれ込んだ日本の強さはよくわかりました。前回のロシアW杯の時もベルギーが3位でしたけど。
兎に角! 日本選手やサポーターの皆様方、大変お疲れ様でした!
少しでも現実のサッカーにも興味を持っていただける方が増えてくださればと期待しながら投稿させて頂きます!
会場を揺らす大歓声に片腕を挙げて答えるブラジルの至宝、レオナルド・シルバ。
自陣からのドリブル開始で六人抜きを披露し、最後にしっかりゴールを奪い取る圧巻のパフォーマンスには、日本サッカーファンの人達すらも魅了される。インターネットで飛び交う称賛の嵐と拡散される一連のプレイ映像。
まさしくサッカーの夢そのものだ───今はまだ本人に届かないその言葉で、多くのサッカーファンが彼を褒め称えていた。
(凄い───スゴい、すごいッッ)
苦笑とも取れる様な、或いは純粋にテレビ越しで憧れを向ける様な眼差しとも取れる様な表情を晒すのは、そのサッカーコートのハーフラインに立つ日本のFW、逢沢 駆。
駆は高鳴る鼓動を押さえる様に左胸に手を当て、その天性の集中力で先程までのプレイの一連を事細かに思い出していた。
(僕の“記憶”にないレオのスタイル───ジンガのリズムとは明らかに違う、
基本は自分が持っていくつもりしか無かったエゴ丸出しのドリブル。しかし瞬間的にジンガを取り込む事で、障害物でしかなかった味方に動きを与える。
瞬間的に“共存”という選択肢を増やす事で、「レオナルド・シルバを止めればいいだけ」という意識が薄れるのだ。それが結果的にレオ単独の動きを加速させ、6人抜きという圧巻のパフォーマンスを生み出した。
少なくとも駆の“記憶”にあるレオナルド・シルバという選手からは逸脱したプレイスタイル。
これによるメリットは、膨大な情報処理を相手に押し付ける事が出来る点。自ら入り乱れる場所へと飛び込んでいくから、連携によるDFがあまり大きな意味を持たなくなる。連携相手の邪魔になる様にレオが誘導するからだ。
問題は、その情報処理はレオにも要求されるという事。しかし高精度の空間認識能力とトッププレイヤーに迫るサッカーIQを持つ傑ですら抜かされた───試合序盤の時のギリギリのパスとは違い、完全にレオがボールを保持した状態での突破が行われた時点で、レオにとって問題とはならないのだろう。
(多分、あの全部を障害物と見立てるドリブルはレオからしたら感覚で出来るんだ。日本じゃ滅多に見れないフリースタイルを熟知してるって考えた方が良い。けどそれ単発なら対応出来るとレオは考えて……その結果が、高度なスタイルの切り替え)
カラクリは理解した。だが止める手立てが思いつかない。
選択を迷わせる理由の一つは、ブラジル側の反応だ。普通なら突発的な暴走としか捉えられないレオのドリブルに対し、ブラジルは特にアクションを起こす事はなかった。動揺する事はもちろん、レオのドリブルをアシストする様な動きを見せる事がない。
ただただ普段通りのブラジルの動きをしていた。それがレオのジンガへの切り替えに即座に応えられる。
ブラジルに動揺は見られず、逆に日本はどう対応したものかと深く悩む。通常の“形”による守備の連動では上手く利用されるから個人の考えで動かざるを得ない。それが各々の思考のズレを生む。
レオを止める術があるとしたら、駆と傑による連動だろう。結果的に1対1の状況になったからとはいえ、6人抜きの際に駆を即座に躱しに行って傑と引き離したのは2人の連動を警戒していたからと解釈していい。
しかしレオが完全にドリブル突破を図っている状況なら兎も角、パスを選択に入れている今、レオ自身が囮の役割を務める可能性が非常に高い。
(───いや、そもそも思考を間違えてる)
スコアは2-2。それも日本が追いつかれた形での同点だ。負けない為にも点を取られない様にするのは確かにそうだが、それ以上に勝つ為に点を取らなければならない。
現状、駆と鷹匠は抑えられてると言っていい。ゴール前で受け取ればシュートまで持っていく自信が二人にはあるが、後半に入ってからのシュート本数4本の内の3本は駆と鷹匠以外のシュートだ。残りの一回もまともに打てたとは言い難い、コーナーキックによるセットプレーからの競り合いによる鷹匠のヘディング。駆に関してはまず警戒が強くてゴール前で受け取ることすら出来ていない。
そのおかげで打てたのが他の三回とも言えるが。やはり決定力は最前線の2人ほど高くはなく、少々甘めのコースに飛んでキーパーに取られていた。
ならばどうするか。
(警戒されてる僕と鷹匠さんを囮に、キック技術に長けてる兄ちゃんか荒木さんにミドルから狙ってもらう……でも僕たちがゴール前で受けれない以上、ミドルレンジはキーパーが一番警戒してる筈。そうなるとコースを絞られるだけでも確率は低くなるか)
0ではない。だが一度のチャンスで決まらなかった場合、次からはもっと決まり難くなる。
何よりブラジルは後半10分までの日本と同じ様に“流れ”に乗るだろう。まだ同点ではあるが、追いつかれた日本とでは心境に明らかに差がある。新スタイルのレオもいるのだ。それは当然だろう。
結局FWである人物がゴールの匂いをチラつかせなければ、それ以外のポジションの選手も上手く起用出来ない。
(僕がゴールを決める為に、どうする。今僕の武器は封じられている。φトリックは元々抜け出した後にDFとの1対1になった時用の技だ。シチュエーションを整えないと発揮出来ない。けど抜け出しはハイラインで警戒されてる。完璧に対応してくるマンマークがいる今、高速でパス回しをしても最終地点を読まれたら意味がない。ラン・ウィズ・ザ・ボールも効果的じゃない……)
駆についてるマンマークは、駆がラインを押し下げようとすると即座にハイラインに適応しオフサイド・トラップを仕掛けてくる。パス回しの際も無理に奪取には来ないで着実に詰め寄り選択肢を減らすし、駆がボールを待てば即座にフォローが1人入ってφトリックの対策をしてくる。
その時の為にiトリックやBトリックという発想を技に仕上げたのだが、相手にその技があると知られている上に冷静に対処してくる場合はほぼ確実に取られる。
何せこの二つの軸となる股抜きバックスピンはボールを直線上に戻す技だ。φトリックの円を描く様な軌道とは違う。相手の股を通す以上は距離的にDFの方がボールに近い。反射ですぐに対応されれば、駆の瞬発力でも流石に抜く事は出来ない。
そもそもDF2人の距離が近ければフォロー側が奪えば良いだけだ。
ラン・ウィズ・ザ・ボールで引き離そうにも選択肢が限定されている。相手が上手く詰め寄るからトラップする方向が限られており、結局ゴールへと向かうことが出来ない。
(ホイップキック、超速の振り、嗅覚……僕の武器は『ゴール前だから発揮出来る』タイプが多い。それを今まで兄ちゃんが発揮させてくれてたけど、兄ちゃんに対応するDFと僕にマンマークでついてるDFの連動で上手く嵌まらない)
抜け出すタイミング自体は作り出す事が出来る。そういう細かな駆け引きや判断能力は駆の天性のもの。どれだけ駆の動きに注視しようとも、1人で全ての穴を埋める事はできない。
だがその穴を傑のDFにいく選手が埋めている。簡単に言えば、駆のマンマークは可能な限り選択を潰している。残った可能性でのタイミング───つまりパスの瞬間を傑のDFにいく選手が感じ取り、パスを出させない事で抜け出しを封じている。
仮にドリブルで抜こうにも、傑には基本2人のDF。そこを抜けたとしても、すぐにレオのフォローが入る。
明らかに守備人数を掛けすぎだが、日本の攻撃力の源は前線の4人。とりあえずハイラインを敷いてゴール前で渡さない事を徹底すれば、他に渡る分にはその時の判断での対処で良いと、ブラジルは割り切っている。その結果が後半10分までのシュート4本で、2-2という現状。
(……あ、ダメだ。落ち着いて考える時間がもうない。取り敢えずリスタート───)
現状把握と打開策の模索。得点後で途切れた状態とは言え、試合中に違いはない。ボールに向けていた視線を上げると選手のポジションが全員整っており、始められる状態にあった。
集中を霧散させて審判のホイッスル聞く。リスタートと同時にオフサイドラインギリギリまで脚を走らせ、振り返ってボールを回す日本選手を見渡しながら再び考えを巡らせ始めた。
(僕の武器を使う為に、ゴール前まで持っていく方法……普通にドリブルでチャレンジする? ……あまり得策とは言えない。仮に抜けてゴールを決めたとしても、多分今のブラジルは割り切ってくる。ワンチャンスに賭けたゴールはそこまで脅威じゃないからだ。賭けるしかない残り時間なら兎も角、まだ30分はある)
レオの一連のプレーの怖さは、『再現性』だ。今駆が思考したように、単純にワンチャンスのカウンターで決められただけならば日本も割り切って後半10分までと同じように得点を積極的に狙いに行けただろう。
しかし今回のゴールまでの過程は、レオにとって当然の様に出来る事を組み合わせたに過ぎない。リズムのスイッチを即座に切り替えるという発想を組み込んだだけで、後はレオ自身の武器でしかないのだ。
(この時間帯で決めるなら、相手が僕を意識せざるを得ないシチュエーションでのゴールを決める必要がある。レオと同じ様に)
耐えて耐えて残り3分と無い状況にまでなれば、ワンチャンスに賭けてのゴールもアリだろう。だが再現性のある新スタイルに目覚めたレオを相手に30分以上ゴールを守り続けるのは現実的では無い。
サッカーに於いて、90分とある時間の中で得点が何回も重なる試合というのはそう多く無い。1-0だったり0-0で殆ど得点が動かない試合も珍しく無いだろう。だが時によっては『得点の奪い合い』になるのもまたサッカーではあり得る。それが今回のブラジル戦だ。
今のレオは“覚醒”した状態とも言える。新スタイルの設立と、それを繰り返し実行出来る確信と高揚による集中状態。下手すれば数分の間にもう1点が決まってもおかしく無いのが現状。
ともすれば、可能な限り早く日本が決める必要がある。それもブラジルがかなりの警戒を抱く過程でのゴールを。
「───へい!」
駆は移動を繰り返しつつパスを要求。迫ったボールに反応して身体をゴールへ向けようとするが、プレスを掛けられてボールキープは困難。ドリブル方向も限られており、パスを選択せざるを得ない。
真横にいる傑にパス体勢。DFはそれに反応。開いた脚の間へと集中し、テイクバックの軌道を変化させて股を通すホイップパス。ボールの行き先は変化し、動く荒木に渡る。
『上手い、股の間を通すパス!』
(いや、ダメだ。兄ちゃんへのルートが完全に消されてた。多分出されても問題ない方に───ああやっぱり、ドリブルに乗る前に脚が止められた)
ワンタッチで出せる相手がいれば荒木の選択は変わっただろうが、傑にも駆にもマークが密着状態。ともすれば荒木の選択肢はドリブルのみ。
相手もそれを分かっているから、まず身体を当てに行く。強度の高くない荒木ではそれを避ける為にボールを離すテクニックを使う、という所まで読んだ上で荒木の足から離れたボールに反応して完全シャットアウト。ボールはブラジルが保持。
とは言え、ブラジルが今のレオを使いたい意識が強いのは日本側もわかっている。レオの方向へと置いたボールに、荒木は直ぐにスライディングをしてピッチ外へと追い出した。
「すみません、荒木さん」
「……いや、お前もあの状況で、よく出したよ。……悪ぃな、俺が躱せりゃ……チャンスが作れたんだが……」
息が絶え絶え。ハーフタイムがあったとはいえ、前後半合計で60分も過ぎれば、どんな選手であれ疲れが見えてくるのは仕方ない。荒木に関して言えば元々スタミナが豊富という訳でもないからだ。
世代別は過密なスケジュールになるし、今回の試合に関して言えばポゼッションに対する前衛守備や飛び出す動きも多い。FWが躍動すればワンタッチで繋いでいけるだろうが、封じられてる今では運動量が増えるのも当然の話。
(スタミナの問題もある。そういう意味でも早めに選択肢を作っておきたい。レオみたいに流れの変える様なプレーで……)
ぁ、と。息を溢すかのように小さく漏れ出た声。近くにいる荒木ですら気付かない微量の声と、変化する表情。
(選択肢……流れを変える……再現性のあるプレー。そういえば相手は詰め寄る時に選択肢を減らしてた。減らしてた、だけだ。本気でボールを奪いにかかるのは僕がボールを持ったと判断してから。いや、守備としてはワンタッチで躱される事を警戒しての当然の反応なんだけど、こう───)
「駆、プレス頼む!」
そこに付け入る隙があるような、そんなある発想を思い浮かべた瞬間にスローインで試合が再開され、指示が掛けられる。一度思考を途切れさせ、指示通りにプレス。
ブラジルは一度キーパーまでボールを下げ、前半の様なポゼッション体勢を取っていた。じっくりと時間を掛けてレオに渡す魂胆だろう。だが冷静な判断をさせるつもりはないと、即座に鷹匠がキーパーまでプレスを掛けにいく。
持つ余裕はないとキーパーはクリア。ハーフラインでの空中戦は拮抗しボールが溢れる。それは日本が保持。
(……多分、出来る。というか似た様な事はやった事がある。その時とは違う点が幾つかあるけど、もしこの想像が思い通りにいったのなら───)
ボールは傑には預けられる。中盤の囲まれた状態ながら、ボールを絶妙にコントロールしてキープ。
兄に渡ったのを見て、駆は下がる動きを見せた。
(っ、駆?)
抜け出しの動きじゃない。ポストプレーでもするかの様な下がり方に、傑は一度大きく目を開く。
だが駆の集中する表情を見て、笑みを浮かべ呟いた。
「分かった、やってみろ」
何を思いついたかは分からない。傑は万人の考えを読み解ける様な神様ではないから。
でも『挑戦』の意欲を見せる弟のその望みを叶えてやるのは、兄の役目だ。
今までは直線上ではなく、回転を掛けて曲げるパスを出す事で抜け出した駆が受け取りやすいボールを放ってきた。
だが駆がポストプレーをするかの様に下がって受け取りに来たのは、足下にピッタリのパスが欲しいからだと理解し、傑は真っ直ぐ鋭いパスを蹴る。
───その瞬間。いや、僅かに蹴った後。
駆は身体を反転。顔も身体も前に向け、バックステップを一歩。
ボールを全く見ずに行われるその行動に、DFは思わず脚が止まってしまった。しかし思考は止めず、駆のその行動に考えを巡らせていた。
今まで駆は、ボールが足下に来る瞬間まで身体を前に向けていなかった。もちろん抜け出した時は別として、プレッシャーに押されて足下に止めるトラップばかりをしていた。それが結果的にラン・ウィズ・ザ・ボールの選択肢を狭め、また他の行動にも制限を掛けている。
だが今の駆の行動により、一気に選択肢が広がった。それ即ちDFが対処すべき行動が増えるということでもある、のだが。
(流石に大胆過ぎる!)
時速数十キロの速度で迫るボールを全く見ないでトラップするのは現実的じゃない。出し手との距離感、ボールスピード、ピッチの芝による影響。ボールをトラップしてからならば足下の感覚で見ずにドリブルというのも可能だが、トラップの時は少なくとも直前までのボールの位置を把握している必要がある。
だが直線上のボールだ。トラップの感覚を反射に任せ、ボールの進行方向上に脚を置く事で当てる事は確かに可能。それだけのトラップ技術を持った選手はそう多くないが、出来ないわけではない。
ならば『出来る』と仮定した上での対応だ。
一見DFとの距離が空く事で選択肢が増えているかの様に見えるが、落ち着いて対応すればそれは違う事が分かる。寧ろ普通にドリブルをするよりも選択肢は狭められていた。
受け手───つまり駆は、ボールが来る前に身体を準備させる必要がある。直線上に置いた脚はどの角度か。真っ直ぐ迫るボールに対してアウトサイドで受け取ろうとしていれば駆から見て右か足下。インサイドで受け取ろうとしていれば左か足下。
足下に置くのならば一瞬ボールに気が削がれる。そこから奪うのは容易。なので脚の開き方で方向を判断すればいい。
ボールを見ないでトラップなど、上手くいっても魅せプの一つでしかない。この舞台でそれを披露し躱すのを企む今大会最年少のFWにお灸を据えてやろうとブラジルのDFは駆の脚に集中。
左脚を軸に右脚を微かに浮かせ、重心は右。アウトサイドで受け取ろうとする駆の脚を見て、ブラジルのDFはその方向へと重心を移動させる。
───
ボールが駆の脚に届く瞬間、駆は左方向へと押し出す様に右脚を優しく振るう。ブラジルキーパーのクリア後の速攻だ。ハイラインは整っておらず、僅かに下がり気味の最終ラインから前のスペースへと、ボールは蹴り出された。ラン・ウィズ・ザ・ボールだ。
「───ッ!!?」
完全に重心の逆を突かれたブラジルDFは引っ張られる様に身体を後ろへと逸らす。
(挑戦とは何も、闇雲に武器を増やす事じゃない)
駆は極めて冷静な表情で情報を整理する。
なぜ『見ないでボールをトラップ』に対して完璧とまで言える対処をしていたブラジルDFを躱す事が出来たのか、振り返りと言語化。
出来ないことを出来るように。武器を増やすのもまた『挑戦』の一つだが、『逆転の発想』もまた挑戦の一つ。Cトリックというアイデアを魅せてくれた“記憶”の兄の言葉は忘れない。
(ラン・ウィズ・ザ・ボールは空間認識能力による相手選手の把握と集中力による瞬時の判断とダイレクトキックで躱す技術。けどマンマークで寄せられたらトラップ技術が優れてない限りは選択肢が減る)
前を向いて受け取れる状況ならば別だろうが、ハイラインが敷かれてる状況で前を受け取れる状況なんて殆どない。もし出来るとしたも、守備人数は相当に多いだろう。フォローが容易く入れるような状況でボールを離すラン・ウィズ・ザ・ボールは死に武器だ。
ブラジルは戦術による副次効果で駆の武器を一つ意図せずして潰していたと言える。
(だから使い方を変えた)
一歩、二歩。高速回転する思考に合わせて時間がゆっくり流れるような感覚の中で、着実に時間は進む。
(空間認識能力をボールの把握に。集中力を相手の動きに。この状況でボールを意図的に弾けるのなら、相手の細かな対応を理解した上でそれを上回る選択を取れる。高いボールの落下地点を最低限の確認で予測して動くのは“記憶”のインパルスの時にロペさんが経験させてくれた。だから何となく出来る確信があった。そして───)
三歩目。右脚を着く。体幹を整えて真っ直ぐゴールへと向かう姿勢。
四歩目の左脚を踏み込む、その前に。視界の端から迫り来る影。
(躱されたDFはイエロー覚悟で止めにくるのも、)
駆のマークについていたブラジルDFは倒れ込みながら右手を伸ばし、駆の肩を掴んで引き倒そうとする。ハイラインが崩れた現状、駆の独走を許せば確実に決定機だ。ファールで止めるしかない。
そうするしかない、と。
(───分かってる!)
普通に走れば掴まれて引き倒されてイエローカード。悪質ならばレッドもあり得るというシチュエーションで、試合の中では稀に見る光景。
だが四歩目。左脚を踏み込んだ駆の身体は、深く沈む。
ブラジルも分かってた。駆の左脚の急加速。左脚のその柔らかさが身体を深く沈めるというのは、ちゃんと試合前に把握していた。しかし今回の試合に於いて一度も使っていなかった事と、ボールを見ないトラップで躱された現状に頭が追いつかない。
あまりにも完璧なシチュエーションへと仕上げ、ファールすら許さない独走。DFの伸ばした手は空を掴み、駆の脚は───加速する。
『抜けた、抜けた! 逢沢 駆がブラジルDFを振り切った! キーパーとの1対1だ!!』
独走した駆はペナルティ・エリアの僅か外。対してキーパーは絶妙なタイミングで飛び出し、エリアギリギリの手で触れられる位置に止まりながらも確実にシュート範囲を狭めている。
駆はテイクバックでシュート体勢。キーパーは微かに脚を浮かせてスプリットステップ*1を行う。恐らく『超速の振り』に反応するための判断。しかし駆はテイクバックをしっかり取っている。ホイップキックの体勢だ。
駆とキーパーの距離はかなり近い。この距離感ならば逆を取られても手を伸ばせば届く可能性がある。
大きく腕を開いて
(一年前の交流会カップの時の方が強いのは感覚的に分かるけど、成長期にちゃんと形にしたからかな)
振るう脚は、ゆっくりで。駆のホイップキックの独特な伸びを体現する為の大きな振りはせず、ボールを繊細に弾く。
右か、左か。相手の動きを見て逆を突くホイップキックだから取れるその選択を強く
(ホイップキックの技術に関しては、“今”の方が上手いと思う)
全盛期の身体能力をそのまま扱えていた一年前の方が強かったのは当然だ。それは駆も自覚している。
だがかつて先の“記憶”のチームメイトが行っていた「凄い」と思えるプレーを自分が出来るようになって、技術的な乖離点を実感する。
優しく蹴り出されたボールは、右か左かを考えていたから動けなかったキーパーの股の間を抜けていき、静かにゴールネットを揺らす。
レオの得点から僅か3分後。後半15分。日本は再びブラジルを突き放し、駆は再び得点王タイでレオに並んだ。
駆は二本指を掲げてゴールパフォーマンスをしながらも、得点した高揚とはまた別の高鳴りを感じていた。そんなワクワクを抑える事が出来ないまま、ブラジルのボールで試合はリスタートする。
(分かる。ブラジルの選手が強く僕を意識してるのが分かる。レオの得点後の日本と同じだ。プレー自体は今までを通しながら、どこかで攻撃じゃなく守備の事を考えてる。この状態が一方的に続いていたら本当にすぐに得点が決まってたかもしれない)
流れを変えられて良かったと、高揚する気持ちと同時にそう思う。とは言えお互いが「こいつに渡したらマズい」となっているだけで、止められるようになった訳じゃない。
各個人の選手の思考に余計な
ブラジルはすぐにでもレオを使いたいだろうが、キックオフ後にすぐに渡しても敵味方が入り乱れる状況にはなっていないのでストリートなドリブルを最大限発揮する事が出来ない。だからある程度ブラジルはキープを選択。どれだけ再現性があろうとも、それを発揮するためのシチュエーションというのがある。
傑は逸早くそれを察知し、レオにマンマーク。今回の試合の中で随一の運動量だが、その疲れを無視してでもレオを自由にさせてはいけないと体に鞭を打って走る。
「休暇届出して休んでもいいんだゼ、傑!」
「労災がおりるなら考えてやるよっ!」
息荒く、だがしつこくレオのマークに走る傑。しっかりと視野を確保し予測を繰り返す事でレオに決して気持ちの良い行動はさせない。
本来ならば試合をコントロール出来るほどの能力を持つ選手が一人に集中して対応する。それは非常に効果的。シチュエーションを整えてからレオに渡す必要があるブラジルからしたら焦ったい事この上ないだろう。
轟がパスをインターセプトし、左サイドに居る荒木へとパス。
(さっきの傑くらいのスピードで……っ)
「もう一回だ、駆!」
ボールは持たず、ワンタッチで駆へと送る。回転、スピード。先程の傑のパスとほとんど変わらない感覚で蹴り出される。傑ですら舌を巻くそのキックセンスは、習得したばかりの技を発揮させるのに最適。
駆は同じようにパス直後に反転しバックステップ。ブラジルDFは同じ様に抜かれてたまるかと、バックステップで空けられたスペースを埋める。これならばラン・ウィズ・ザ・ボールでコントロールされてもユニフォームを掴める位置取りだ───が。
ボールの直線上に置いた脚を動かし、ボールをスルー。流れるボールに反応出来ずにブラジルDFは見送ることになる。スルーされたボールは鷹匠の足下に収まった。
(このプレーでDFはさっきのはマグレなのかスルーが意図的なのかを考える。余計な情報を増やす事で迷いを生んで、次のプレーも決まりやすい。そうなれば迷いはネガティブな考えに変動して選択肢が増える。……ああ)
サッカーは常に考える競技。自分の武器が『嗅覚』という言語化の難しい本能的なプレーであっても、可能な限り考える様にしてきた。
新しい武器の言語化と、全てが思い通りになった高揚感。それは駆の集中を更に深めていく。
自分のサッカーへの姿勢。『挑戦』の原点を思い出しながら、駆はポツリと呟いた。
「───楽しい」