すみません、流石に返信しないままにしておくのも申し訳ないので、今話に合わせて一つ感想へのお答えをさせて頂きます。
「プロが1人入ったからと言ってそう簡単に成長しないと思われます」という感想を頂きましたので、一応見直しました。紛らわしい文であったのは確かですが、作中で書いた文は「そのプレイに理解が及ぶ選手たちがどんどん活性化していく」というのと、「この試合を経験した選手たちは、凄く成長すると思う」というセブンの台詞であり、「この試合の中で成長する」という主旨の文はありません。
あくまで振り返り理解する事で成長の種が開花する、といった感じです。それを示唆する部分を今回の話で入れてありますので、どうかご理解の程をお願い致します。
それと、一つご報告を。
同評価値で少しの間だけですが、日間ランキング一位に載ることが出来ました!
数多くのお気に入り登録と評価をありがとうございます!
「駆のベンチ入り……というか、試合結果的にレギュラー入りが決まった事に文句は無いと思う。けど、何か言いたげだな。西島」
「……いやまあ、昨日のアレ見て思わない奴なんていないですよ。明らかに動きが別格っすもん」
「俺の指示だ」
「え?」
「俺が敢えて外すように裏で伝えてた。納得したか?」
「いやいやいや。ますます疑問が浮かびますよ。な、なぁ?」
「……そうですね。どういう意図でそういった考えに?」
傑の発言に思わず西島が首を何度も振り、その意味を探ろうと問い掛ける。その同意を周りに求めると、代表して佐伯が改めて問いを口に出す。
その横で駆が同じく疑問……というよりも動揺の方が強いだろう。困惑した様子を見せているが、大抵の人物は傑の発言に意識を持っていかれて見られていない。
注目を集める傑は、一度目を閉じて、スッと睨みつけるように目を細めて言う。
「今日の紅白戦前の台詞を覚えている奴はいるか?」
「……『5分以内に駆が結果を残さない場合はその時点でベンチから外す。替えのメンバーはFWに限らない』、の事ですか?」
「ああ、それだ。でも問題はそれ以前に当たる。その発言を聞いてこう考えたやつはいるか?」
傑は佐伯の発言に頷き、紡ぐ。
「自分は、決定力のない奴にすら劣ってベンチから外されている」
「───!」
「居ないだろ? 居たら俺の所に直接抗議に来る筈だからな。昨日の紅白戦の後で速攻外すように頼む。そして能力に自信があれば自分を入れるように頼むだろう」
将来サッカーで生きていきたい人間ならば、サッカーで価値を示さなければ己の存在意義を見出せない。納得いかない事があれば聞き、自分の弱さを認識し、それに向き合う強さは必須条件。
行動力が欠けている時点で、自分に自信がないと妥協しているようなものだ。そう指摘する傑に、ベンチメンバー含め、スタメンに抜擢されている選手を除く全ての部活生が難しい顔となる。
「一応もう一つの疑念を晴らしておくが、駆がここまでストライカーとして強いのは秘密裏に鍛えていたからとかじゃ無い。元々だ」
(……俺にはああ言っといてその発言は無理あるだろ。けどまあ……この中で言う訳にもいかねぇか)
傑の言葉に国松が腕を組みながら内心指摘するが、それを表に出すことはない。この流れで部活生の意識改革が行われている。
もちろん中には本気でサッカーで食って行こうなんて思っている生徒が居ない訳ではあるまい。しかし先程の試合を見て、魅せられて。ただの紅白戦でアレだけ盛り上がる光景を目の当たりにして、年頃の学生が燃えない筈がない。
本気で取り組もうとしている奴の意識をより強くさせる。そんな演説の中で水を差すような言葉を出す訳にもいくまい。それが分かっているから国松だけには自分の内心を話したのだろう。
それはそれで駆の身に何が起こっているのかが気になる所ではあるが。
そんな国松に視線を向けられている駆は、それに気付くことなくボケーっとした顔で「なるほどなぁ」と納得していた。いやお前が納得する表情をしてたらダメだろうと言わんばかりにこめかみに手を当て、国松は手助けする形で傑に問い掛けた。
「あー……傑。それだと一年の時の決定力の無さは説明がつかないぞ。その頃からわざわざ仕込んでいた、なんて訳じゃないだろ?」
「ああ。一年前まではある出来事が原因でシュートを完璧に打つって状況にトラウマがあったんだ。トラウマが無ければ元々意外性のあるストライカーに違いはない。そういった意味での“元々”だ」
「分かった」
周りに疑念の余地が残る一年の頃の左脚の使えなさと、メンタルの弱さ。それは全てトラウマが原因だった。左脚は使えていたし、決定力だってしっかりある。そんなストライカーとしての元々の強さは小学生の頃からのもの。それを納得させる発言に国松は頷いた。
あの独特なテクニックやホイップキックの本質を発揮する点、戦術理解度の飛躍とも呼べる成長にまでは説明が付かないが、それは傑も同じく抱く疑問だ。駆本人以外は分かるまい。幸い駆は『逢沢 傑の弟』という肩書きがあるから才能が開花したのだと納得してもらえれば良い。
「さて、そんな訳で駆。次の試合はお前のスタメンでやってもらう。頼むぞ」
「……う───じゃなくて、はい」
苦笑気味に、間を空けて。家にいる時のような気の抜けた返事になりそうなところを言い直す。
側から見れば些細な変化でしかないから喜ばしい表情にしか見えないだろう。しかし親しい人物からすると、それに“寂しさ”が混じっているのが目に見えている。
この場で指摘する訳にもいかない傑は視線だけセブンに向けて、それを向けられたセブンはコクリと頷いた。
視線を切り、言葉を紡ぐ。
「駆についてはこれで終わりだ。じゃあ次は紅白戦のミーティングを行う。さっきまでの感覚を忘れないうちに振り返るぞ。じゃなきゃ成長に繋がらないからな」
あの試合内容を完全に理解できた人物は少ないだろう。期待値の高い国松や佐伯でも恐らく疑問の余地がある。駆に前に出てくるように指示してホワイトボードを取り出し、カラーマグネットを選手に見立てて付けていく。
「この試合の流れは───」
「……」
ポン、ポン、と。自分の目線までボールを蹴り、安定した形でリフティングを繰り返す。ボールの緩やかな回転と落ちてくる位置を正しく把握し、脚の甲で乱れぬように軽く叩くイメージ。決して乱れないリフティングを続けながら、駆は夜空を見上げる。
月明かりの近くで揺れ動く雲。その近くで爛々と輝く小さな星。ふとした瞬間に隠れていく星々を見渡し、やがて駆はリフティングをやめる。
ただ、ハッキリしない意識のまま呆然とボールを転がしていた。
そう過ごして何分経っただろう。ひょっとしたら数十分は経っていたかもしれない。はたまた数十秒程度の出来事だろうか。
公園の入り口から足音が聞こえて、ボーッとしてた意識はハッキリとなる。長い髪を揺らしてラフな服を着ている女性の姿。見慣れた髪色と姿形を認識すると、その声が耳を通り抜けていく。
「黄昏てるね、駆」
「セブン……」
「傑さんのパスから決めた今日の出来事、実感が湧かない?」
「……うん、そうだね。色々と、実感が湧かない」
駆は今度こそ隠さず寂しげに笑って、それでも気丈に振る舞おうと揶揄うような口調で告げた。
「今日は
「……気付いてたんだ?」
「あ」
正体がセブンだと知りつつも、厳しく当たらないからと覆面を着けて練習していた期間が長かったからすっかり忘れていた。この時の昨日、そして一昨日。一緒に練習した期間はたった二日。紅白戦の前後のこの時期はまだセブンだと気付いていなかった時期だ。
月日が経つと記憶がごちゃ混ぜになるもんだなぁと何とも言えない表情になっている駆を見て、セブンはクスリと笑い、それに釣られて駆も笑った。
暫くの間沈黙が続くと、セブンは近寄り腰を曲げて見上げるような形で駆の顔を覗き込む。記憶の中の身長差と違い、この時期はセブンと殆ど身長が変わらない。そんな事を頭の隅で浮かべながら疑問の表情を向けると、セブンは瞬きを二回。納得したように頷いて少し離れた。
「やっぱり違うね」
「え?」
「昨日までだったらこれくらいの距離で顔真っ赤になってたよ、駆は」
「……意図的だったの?」
「うん」
「
「……んー。
「えっ、あ。き、昨日帰ってから調べて……」
「アメリカの記事だから英語だらけだよ? 動画にしても元が分かってないと調べようがないと思うし」
あー、あー、と。必死に言い訳を考えて発しても、即座にセブンがジト目で指摘し言い訳は崩壊する。やがてガクリと肩を下げるとセブンはニッコリ笑って言い放った。
「でも駆らしい所は変わってないんだよね。だから安心する。別人みたいに変わってたら私も不安だから」
「……」
「駆は不安そうだね?」
「……うん。ふとした瞬間に、夢から覚めちゃいそうで。今見てる光景やセブンと話してる現状に、全然実感が湧かないんだ。目を覚ました時に、兄ちゃんのパスを受けたこの脚の感覚も消えるんじゃないかって」
「それはどうして?」
「……セブンは」
駆け巡る、多大な記憶。
尊敬する兄、傑が亡くなり心臓を託されて、江ノ島高校に入学し、同好会と正式な部活動で試合をして統合し、幾度の挫折を手助けされながら超えて選手権で優勝。オリンピック代表、高校生の間に国内二部からのプロ契約。昇格後直ぐの国内リーグ一部優勝。
そして、セブンとの。
「───セブンは、未来の記憶って信じる?」
「……」
未来の記憶。これから起こり得た話。
このまま進んだら、もう起こり得ない未来の話。
微かにヒビが入る思い出を頭の片隅に浮かべながら、駆は言葉を続けた。
「ただの夢だったら良かったんだ。でも明確な記憶が張り付いて、頭にこびりついた今までの感覚が今の僕に浮かんで、記憶の中と変わらないプレーが出来てしまう。……今のこの光景が夢だと突きつけられているようで、少し、震えちゃうんだ」
見上げた夜空に浮かぶ星が雲に隠れていくように。この刹那、この瞬間だけが、この場に居られる全てなんじゃないかと。
やがて記憶の通りの生活に、意識が戻るんじゃないかと。
そうやって苦悩する駆に、セブンは寂しそうに笑って問い掛けた。
「記憶の方こそが夢なら良かった?」
「違うっ! 違うんだ……。この記憶が夢だなんて思いたくない。でもそう思えば思うほど今の光景が消えてしまいそうで……っ」
涙目で、あの紅白戦の終わりを機に幾度となく頭を駆け巡った「これで終わり」という言葉を何度も繰り返す。弱気になってしまう。
我儘だ。弱虫だ。でも人間らしく、選択を怖がる。
「どっちも、どっちも夢だなんて思いたくない! セブンとの思い出もっ、兄ちゃんとまだサッカーが出来るこの今もっ!」
「……」
何も知らないのに、そんな言葉を受けてセブンはどう思ったのだろう。何を考えているのだろう。ただ困惑しているだけだろうか。普通はそうだ。
未来の記憶なんて宿るはずもない。でも事実、駆は別人と見紛う程のプレーを見せて───そんな風に埋め合わせる思考を、事実かどうかなんて
「どっちも現実じゃダメかな?」
「え……?」
「多分、駆がそう思うのは……未来の記憶が大切で、でも同時に悲しい何かがあったからだと思う。ただ大切なだけなら今の光景が夢で良いと思うんだ」
何も、記憶を共有できないまま。セブンは駆の感情に寄り添って語り続ける。
「未練があるから、今の光景に“現実”を求めてるんだと思う。私は駆の記憶がわからない。だからこうして無責任に言えるのかもしれないけど……」
笑って、一番欲しい言葉を。
「どっちも夢だと思いたくないなら、その気持ちに嘘はつかなくて良いんだよ。どっちも現実だと思いたいなら、どっちも現実だと思えば良い。夢だと思うのは、また覚めた時に考えよう」
「セブン……」
「と、まあここまでは駆の意識の調整。なのでここからはただの事実確認」
セブンは駆の後頭部に手を回し、自分に引き寄せる。胸に顔を埋める形で抱き寄せるセブンに数瞬硬直し、駆は顔を真っ赤にして機械的な動きで両手を宙に泳がせた。
「あ、あああのセブンッ!?」
「私の心臓の音、聞こえる?」
「へっ?」
「鼓動。生きてる証」
「へ、は……あ」
トク、トク、と。振り子の様に一定のリズムを刻みながら起こる微かな振動に、駆は脱力させて聞き入る。体勢的に耳が心臓の位置に当たる様になっていたから、よく聴こえる。
生きてる証。そうやってセブンに言葉を告げられて心臓の音に耳を委ねていると、上からセブンの声が降り落ちた。
「まだ、この光景が夢だと思う?」
「……ううん」
「記憶は、夢だと思いたい?」
「……思いたくない」
「悩みは解決した?」
「うん。……ありがとう、セブン」
「どういたしまして。じゃあ、聴かせて。記憶の中で起こった出来事。出会いや、成長。そんな未来のお話」
胸に埋もれながら小さく頷く駆は、暫くその鼓動に耳を寄せた後、ポツリと呟く。
「……セブン、心臓の音早くない?」
「…………傑さんに「駆に胸揉まれた」ってチクっちゃおうかな」
「えぇっ!? 抱き寄せたのはセブンじゃないか!?」
「私、返事した辺りから手を離してたんだけどなぁ」
「えっ、あ、あれ?」
「成長した駆は少しえっちなのかぁ、なるほど」
「いや待って、確かにあった! 後頭部に手の感触がさっきまであったって!」
「どうだろうなぁ?」
セブンは駆から少し距離を取り、「あったよ、手の感触あったよ!」と言い続ける駆に顔を背け、見えない様に舌を出した。
♢♦︎♢
静寂な夜に響き渡る男女の声。内容が聞こえずとも、そんなやりとりが駆とセブンの二人である事に確信を持ったのだろう。外で雲から出てきた星を見上げる傑は笑みを一つ溢し、心臓部分に手を当てる。
「あの時の───」
そして紡がれる言葉と共に思い浮かぶのは、紅白戦の時の胸の、心臓の高鳴り。自らの身体に大きな能力を要求させる、強い鼓動の事だ。
「自分のものとは思えない様な動き……いや、今日の駆みたいな、成長した時の自分の動きは……なんなんだろうな」
駆だけが逸脱し飛躍を遂げた様に見えた今日の試合の中で、傑自身だけが理解の及ぶ自分の明確な変化。
今までとは違う量の運動能力の要求を心臓が行い、判断の速さ、パスの強さ、ドリブルのキレ。どれをとっても一段階進化した様な感覚が紛れもなく存在していた。
違和感を覚えたのは駆くらいだろうか。それでも気付いた訳ではあるまい。今の自分では不可能と思える様な動きをあの時は体現していた。
その要求に耐えきれなかったのか、駆がボールを持っている時の一対一で、躱された後に自分は追いつけず転んでしまった。微かな脚の痙攣。それによる集中の途切れが、鳴っているタイマーの音を認識させた。
一時的に全能感を得られる様なゾーンとはまた違う。成長……言わば、あの状態が普通であるかの様な感覚だった。
一つ息を溢すと、傑は胸に当てていた手を握り、強く決意した顔で言葉を紡ぐ。
「至りたい。あの領域に。今置いて行かれているのは俺の方だ。最初の二点……アレは俺じゃなくても良かった。駆が単独で切り拓いたのと変わらない。アイツが全力で決定的な仕事を出来る様に、俺も───」
エリアの騎士は存在した。決定的な仕事をしてくれるストライカーは身近にいるのだ。
でもピッチの王様は、それを扱える程のカリスマが無かった。十全に発揮させてやるパス能力が無かった。
自分じゃなくても良いくらいの有力な選手じゃないか?
───否だ。自分が、100%を発揮させてやる強さを持たなきゃいけない。
自覚しよう。自分の方が遅れているのだと。そして至ろう。傑と、駆と、セブン。三人で誓ったあの夢を、W杯優勝を掲げるという子供の夢を叶える為に。
朝に見たあの夢を、実現する為に。